夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。



#27 手に入れたもの、手放したもの

 

【side:オルガマリー】

 

「所長……?」

 

「ようやく目覚めたと聞いたから様子を見に来たのだけど。何よその眼は」

 

 第四特異点の修復から二週間足らず、ついにきた朗報に疾く足を進めて医務室の扉を開ける。そこにはようやくベッドから上半身を起こした少年が、小さく目を見開いて驚く姿があった。

 

「……なんかちょっと変わりました?」

 

「あら分かる? あなたが負傷したことのストレスで日々やつれていって、毎日化粧を少しずつ厚くして誤魔化してるところなんだけど」

 

「すみませんそこまでは見抜いてないです」

 

「なら、これからはそう意識した上で接しなさい。つまりはもっと気を遣う事、いいわね?」

 

「……アンジェリカさん。所長もしかして凄いピリピリしてます?」

 

「目覚めるまで時間がかかりましたから。それまでに何度か見舞いにも来ていましたよ」

 

「え、そうなんですか? うーん心配かけちゃったなぁ」

 

 ベッドの横の椅子に座っていたアンジェリカとこそこそ話すフジマル。

 ここに来るまでにどう接するべきか思案していたのが馬鹿らしくなるほどに平常運転のようだった。

 

「そりゃ心配くらいします。右手を失ってるのよ? あなた」

 

「あー……そうなんだよね……。もしかして、あの地下で右手を拾えてれば魔術でこう、ピタッとくっついたりした?」

 

「……出来ないとは言わないけど、流石に自分の身体の扱いが軽すぎるのよ」

 

 ここ数日の分はホントに杞憂だったらしい。から元気なのかもしれないが、ひとまず場を和ますくらいには回復しているとみた。

 

「残念ですが右手を探す余裕はありませんでした。その代わりというわけではありませんが、あの二人から預かったものが――」

 

「待ちなさいアンジェリカ。その前にまず確認をするから」

 

「確認? 一体何の?」

 

「決まってるでしょ、あなたのことよ」

 

 言の葉を遮った私に怪訝そうな顔をするフジマル。これまでの心配がたとえ杞憂だったとしても、これだけは率いる者として聞いておきたいことだった。

 

「あなたはまだ、カルデアのマスターとして戦えるのよね?」

 

 右手を失うほどの怪我をしても戦意が、旅を続ける覚悟があるのかどうか。

 期待する答えは一つだけだが、それ以外を考えると居ても立っても居られなかったが故の問い。そんな私の怯えを知ってか知らずか、僅かな間を置いてから彼は口を開く。

 

「――はい、もちろん。右手がなくても、自分に出来ることはまだあるはずだから」

 

「……本当に、ブレないのね」

 

 キッパリと言い切ったフジマルに、私は最早呆れることしか出来なかった。

 彼の右手が失われたのはあの無茶が原因だ。けれどその無茶を許してしまったことの責任は上司である私にも存在する。

 だからここでフジマルが折れてしまう未来も想像せざるを得なかったのだ。そんな不安は入室してからの数秒でそれなりに和らいだが、これで確かな言質を取れたと思うとホッとする。甘えなのかもしれないが、この瞬間だけは許してほしい。

 

「それなら結構、けど代わりに約束しなさい。もう二度とあんな無茶はしないって。次は右手だけじゃ済まないかもしれないんだから」

 

「それは……まぁはい」

 

「確約しなさいよそこは」

 

 なんでそこで目を逸らすのよ。右手一本で懲りておきなさいよ。

 そんな言葉を今回だけ飲み込んでおく。先ほどまでの後ろめたさが残っているからとかではなく、他にも確認おきたいことがあったからだ。

 

「ついでに聞くけど、あの時あの地下で魔術王と戦おうとしたのはどうして? 倒せないわけじゃないとか言ってた気がするのだけど」

 

「それは……」

 

 言い淀むフジマルが目を再び逸らす。何故そこで理由が出てこないのかが分からないけれど、それはいい。

 

――問題は、()()()()()()()()()()()()()()場合だ。

 

「聞き方を変えるわ。あの時勝てると言った根拠は、どこから来たの?」

 

 まっすぐ彼の目を捉えて問い詰める。そんな真剣さが彼にも伝わったのか、砕けた雰囲気もしまって考えた上で。

 

「……なんで、だろう? 上手く言えないけどそんな確信があるというか」

 

「そう、言葉に出来ないのね。なら嫌な予感が当たったってことかしら」

 

 軽く頭を押さえながら見ると、アンジェリカも似たような顔をしていた。ロンドンから帰還して以来ずっと二人で考え導き出した推察、その中身に思い当たることが出来ないであろうフジマルだけが困惑を強めていく。

 

「フジマル、このカードに見覚えはありますか?」

 

「何ですかそのカード、――ってこれも絵柄がないじゃないですか」

 

「なんで普段使ってるやつとは違うって分かるのかも気になる所だけども……。そのカードはあなたが右手を失った時に排出されたものよ。真名は『カルデアのマスター』」

 

「カルデアの、マスター?」

 

「一応聞くけど、あなたこのカードを隠してたりはしてないわよね?」

 

 じろりと睨みを利かせるが、フジマルはぶんぶんと首を横に振るだけだった。ここまできて怪しい反応をされてもそれはそれで困るが、少なくとも彼が裏切っていた線はなさそうだ。

 

「そのカードを使った記憶すらそもそもないんだけど……。アンジェリカさん、これはどういう?」

 

「私にも詳しいことはまだ解っていません。しかし少なくともロンドンにレイシフトする前から既に、あなたはあのカードを夢幻召喚していたのではないかと見ています」

 

「そんな前から!?」

 

「カードを排出するまで、あなたの反応に一切の揺らぎはなかったの。つまりそのカードを夢幻召喚した状態がずっとデフォルトだったのよ。だから最低でもロンドンより前にあのカードを夢幻召喚していないと辻褄が合わない」

 

 未だ仮説を出ない話ではあるけれど、前提が覆る仮定だった。だが確かめなければ前に進むことは出来ない。だから目覚めた『カルデアのマスター』とこうして向き合うことにしたのだ。

 

「つまりあなたは私たちが想像するよりもずっと長く、そのカードを夢幻召喚していた可能性がある。その所為で、あなたはカードに呑まれつつあるのかもしれない。既に一度人理修復を成し遂げた、別の『カルデアのマスター』その人に」

 

 

「それが、魔術王を倒せると思った理由……?」

 

「かもしれないって話よ。それで、この話を聞いて何か腑に落ちる所はあった?」

 

「いや、急に言われても何が何だか……」

 

 ひたすらに困惑するフジマルの目がぐるぐると回っているように見える。寝耳に水とは彼の国の言葉だったか。

 

 『カルデアのマスター』。恐らくは少し先の未来、人理修復を果たすことによって生まれた英霊だ。ここではない別世界のカルデア、そこでフジマルと同じように戦っていた誰か。

 

 私だけが見たあの夢では『藤丸立花』と名乗っていたが、あくまで真名は『カルデアのマスター』となっているらしい。どっちにしても、今この場にいるフジマルと何か関係があるのは間違いない。いつどこでこのカードを手に入れたのか、或いは繋げたのか。そして何故あの瞬間までずっと夢幻召喚していたのか。

 そんな感じで謎は未だに多いのだが、それはそれとして。

 

「あなた自身、何が起こってるのかは分かってないんでしょうね。なら、それはそれでいいと私は思ってる」

 

「え、いいの? 勝手に知らないカードを夢幻召喚していたとか、どう考えてもお説教だと思ってたんだけど」

 

「説教はするわよ。けれどそれであなたがどうなっていくか、そして何が出来るかはまた別の話でしょう?」

 

 もしかするとここにいる人物のパーソナリティが大きく覆るかもしれない。けれど私は目の前のコイツからちゃんと聞き出したはずだ。

 

「さっき言ったわよね。まだ戦える、出来ることはあるって。なら私はカルデアの所長として、その言葉を信じます」

 

 あの返答を聞いて胸をなでおろしたのはその為だ。中身がどう染まっていようと、私たちを奮い立たせるあの目の光はまだそのままだった。それでこの先を照らし続けてくれるのなら、それ以上を望む必要はない。

 

「けど何か分かったらすぐに言う事。右手がない上に謎のカードの影響も受けてますとか、不安定にも程がある。だから今まで以上に厳しくいくと思いなさい」

 

「わ、分かりました。もし何かを忘れているのなら、どうにかして思い出してみます」

 

「それは結構。けど自分に何が起こっているのかを知る為に無茶しすぎるのも厳禁だから。その約束もさっきしたわよね?」

 

「うーんとそれは」

 

「だからなんでそこで確約しないのよ。更にレポート増やしてほしいの?」

 

「まるで既に大量の反省文(レポート)があるみたいな言い方だ!」

 

 ロンドンでの実質的な命令違反に怪我、更にはカード隠ぺいの疑いまであるのだからその類のペナルティは当然だと思うのだけれど。どうせまだしばらくはベッドの上だろうし。

 

「話は一旦これまでよ。もう数日は身体を休めてなさい、いいわね?」

 

「(色々腑に落ちないけど)はーい……」

 

「では所長、あの話をしてもよろしいですか?」

 

 先ほどからやり取りを見守っていたアンジェリカがおずおずと手を挙げる。そういえば細かい調整は彼女に任せる手筈だったなと思って、その先を話すように促す。

 

「もしかして、カードの話ですか?」

 

「いえ、それもいずれ調べますが、先にあなたの右手の話です。あの二人から預かったものがありますので」

 

「あーそう言えばそんなことを言いかけてたっけ。……アンジェリカさん、あの二人ってもしかして」

 

「はい、ロンドンで出会ったフォルヴェッジ姉弟のことです」

 

 そういってアンジェリカが自身の膝にのせて見せたのは、あの二人が扱っていたスーツケースを思い出させるアタッシュケースだった。




アンジェリカさん、この手の案件によく遭遇するなぁ……。
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