夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・こちらは#F1の続きです。
・今後も#Fシリーズはまちまちなタイミングで差し込むのでご容赦くださいませ。


#F2 白のキャスター

 

【side:フジマル】

 

「よかった、間に合った!」

 

 炎と煙に支配された特異点、冬木市。そんな街中で遭遇した黒化英霊との戦闘中にその声は響いた。

 男女どちらとも取れる声の持ち主がいつの間にか自分の目の前にいて、戦っていた黒化英霊の攻撃を木の杖で受け止めていた。

 

「ど、どなたでしょうか?! どうみてもこの街の人間とは思えませんが!」

 

「説明は後! まずはこの黒いのを何とかしよう。私も協力するから!」

 

 困惑するマシュを諫めるように言い放つ闖入者へこの場にいる全員の意識が向く。

 火災による赤や瓦礫と暗黒の空から来る黒と対照的な純白のフードを全身に纏った謎の人物。黒化英霊の攻撃を受け止めたことからもただの人間ではないだろう。けれど顔も見えず全く素性が分からない人物の言葉に自分とマシュは従っていた。

 

「あの方が持っているのが杖なら、キャスターでしょうか?」

 

「キャスターって魔術師みたいなクラスでしょ? あの人普通に杖で殴り合ってるけど」

 

「私のことはいいから! これで2対3だしさくっと決める!」

 

 そう言いながら黒化英霊・ライダーの攻撃をいなし続ける白いキャスター(推定)。クラス特有の機動力を持つライダーを抑えてくれるおかげで残るアサシンの動きも捉えやすくなっていた。

 

「マシュ、やろう!」

 

「分かりました、行きましょう先輩!」

 

 そう言って音頭は取ったけど、まだまだ戦いではマシュに引っ張ってもらっている。それこそあの白いキャスター位に強ければと後ろ髪を引かれながら、目前の敵へと意識を戻していった。

 

 

 

 

「じゃあ改めて自己紹介だけど、私はキャスター。この聖杯を巡る戦いの参加者の一人だよ」

 

 戦闘終了後、軽くフードの汚れを払いながらその人物はそう告げた。

 どうやらマシュよりも戦いに慣れているようで、二人がかりでどうにかアサシンを倒した自分たちと違って傷らしい傷もついていなかった。というかそれよりもだ。

 

「ホントにキャスター? 最後その杖で相手ぶっ刺してなかった?」

 

「はっはっは、まぁバスターで殴った方が呪文よりも早――こほん。それであなた達はどちら様?」

 

「誤魔化しましたね、思いっきり」

 

 見た目やクラス名とは裏腹に脳筋なキャスターは気になるけど、助けてもらったのは事実なので正直に自己紹介をする。ついでに自分たちの目的も開示すると、うんうんと頷くリアクションがキャスターから返ってきた。

 

「……カルデアね、なるほど。まぁここの聖杯戦争の参加者には見えないから異邦者だとは思ってたけど、目的は同じみたいだね」

 

「てことは、キャスターも聖杯を?」

 

「聖杯というよりは、この戦いを終わらせたいって方が強いかな。きっかけがなんだとしても、この有様じゃ聖杯を求めても仕方ないだろうし、あなた達と力を合わせることは出来ると思うよ」

 

 軽く周囲を見渡したキャスターが悼むように言う。崩れた街に残された者として本心を告げているような、少なくとも自分にはそう見えた。

 

『そう言っておいて、最後に聖杯を手に入れようとしてるんじゃないの?』

 

「ちょっと、所長!」

 

『悪いけど、真名も素顔も出さないあなたをまだ信用なんて出来ないわ。フジマルたちを助けたことは事実だとしても、まだ恩を売ったようにしか見えないもの』

 

 しかし通信機から聞こえてくる所長の声は険しい。

 何か反論しようとしたが、一歩離れて見ている所長の方が冷静なのだとも思うと何も言えなかった。

 

「それはそうだね。悪いけど私にも事情があるからこのフードは取れない。声だけのあなたに信じてもらうのは厳しいかな」

 

『なら――』

 

「だから私は、勝手にあなた達を手伝うことにするよ」

 

『あなたとは距離を……え?』

 

 言い切ろうとした所長の動きが驚きのあまり止まってしまっていた。見えてないけど多分口も開けてる気がする。

 

「だってあなた達は聖杯を回収しなきゃいけないんでしょう? 私はそれがどこにあって、誰が聖杯を守っているのかも知ってる。聖杯戦争を終わらせるにはそいつを倒さないといけないし、別れた所で行き着くところは同じなんだよね」

 

『……だからマシュたちを助けたってこと? この街で唯一利害が一致しそうだったから』

 

「あなた達を見つけたのは偶然だよ。こうして協力できそうなのはラッキーだと思うけどね」

 

 そう言いながらチラッとこっちに顔を向けるキャスター。

 ぐぬぬと言い淀む所長を見ると、人が良さそうに見えたキャスターも案外と口が回るのかもしれない。そう認識を改めていると、先に所長の方が口を開いた。

 

『……もういいわ、あなた達に任せる。ただし警戒はすること、いいわね?』

 

「あ、所長が折れた」

 

『いつ背中を刺してくるか分からない味方より、監視出来る位置にいる不審者の方がマシでしょ』

 

「それマシになってる?」

 

 呆れた様子で首を振る所長が見えるかのようだった。一方で説得が成功したキャスターはにんまりとしており、それを見た所長が再び溜息をついた。

 

『それでも正体を明かしたりはしないのね、あなた』

 

「ごめんね、所長。それだけはちょっと無理なんだ」

 

『ふーん、まぁその分見張っててあげるけど、あなたが私を所長と呼ぶのは止めて』

 

 手で払うような動作をしてそうな拒絶を告げた後、仕切り直すように改めて所長がキャスターへと質問を投げた。

 

『なら聖杯のところまで案内してくれる? その道すがら私たちの邪魔をするのが誰かってことも教えてもらうわよ』

 

「そう来なくっちゃね。じゃあ二人とも、ついてきて」

 

「あ、はい!」

 

 軽い足取りで山の方へと歩き出したキャスターをマシュと二人で追いかける。その背中は決して大きいとは言えなかったけど、頼りにしていいと思わせる位には眩いものに見えた。

 

 一切正体は明かさないのに、敵だとは思えない謎のキャスター。

 ふらりと現れて夢を見せる魔法使いのような、特異点Fで出会ったのはそんな人物だった。

 

 

 その後何度かの戦闘を交えてたどり着いた山の洞窟にて、小休憩中にその話題は始まった。

 

「え、なんで私が聖杯戦争に参加したのかって?」

 

 驚いたように声を大きくしたキャスターが、自分とマシュの視線を受けてうーんと口元に指を当てる仕草を取った。

 

『そりゃ気になるわよ。あなたを見て魔術師だと思う同業者はいないもの。根源を目指す人種には見えないし、精々魔術使いってところでしょ』

 

 呆れたように言う所長によるとその二つは在り方が違うらしい。魔術の道の為に生きるか、魔術を使って生きるかで分かれるとのことだが、所長からは前者に見えなかったらしい。

 だからこそ何故聖杯を求めたのか、それを聞いて人物像を明らかにしたかったのかもしれない。

 

「魔術師っぽくないのは認めるよ。だってこの戦いには巻き込まれたって印象のが強いからね。だから聖杯自体を求める理由はあんまりないかな」

 

「……驚きました。なにか強い願いがあるからこの戦いに身を投じているとばかり」

 

「ふふ、そう見えちゃった? でも万能の願望器って言われても、そうまでして叶えたい願いってよっぽど凄くないと駄目じゃん。私にはそんなの大きすぎるんだよ」

 

「あー、ちょっと分かる気がする」

 

 庶民の感覚とでも言うのか、大金を渡されても結局使いきれなくて途方にくれる感じに近いような。キャスターの言いたいことが何となく自分には伝わってきた。

 

『……ある意味幸せね。あなたたち』

 

「聖杯ならどんな願いでも叶えてくれると思っていましたが、願いの大きさによってはそうじゃない場合もあるんですね。勉強になりました」

 

 溜息が聞こえてきそうなトーンの所長と、ちょっと感心した様子のマシュ。多分所長の中でこのキャスターの人物像はより難解なものに変わったのだろう。逆に自分はちょっと親しみが湧いたのだけど。

 

『あなた、この時代の人間なのよね? この後聖杯を手に入れて特異点が修復されたらどうするつもりなの? きっとこの聖杯戦争はなかったことになるでしょうけど』

 

「え、そうなんですか?」

 

「そうなるんです先輩。特異点を修復するということは、特異点で起こった異変をなかったことにするのと同義ですから」

 

 マシュが認識違いの穴を埋めてくれるが、それよりも先に疑問が浮かんだ。

 この特異点を修復すれば、今ここにいるキャスターはどうなってしまうのか。どうにも想像が出来ないが、もしかしての予想が脳裏をよぎってしまってついキャスターに視線を投げてしまった。

 

「特異点が修復されれば全てがあるべきところに戻るんでしょ? それが聖杯戦争前なのか、はたまた別のタイミングなのかは分からないけど、その時にまた何とかしてみせるよ。だからまずは聖杯の所まで行かないとね」

 

『そう、なら全力で協力してもらおうじゃない』

 

 軽い調子でそう答えたキャスターに所長もそれ以上は尋ねなかった。

 聖杯戦争を終わらせたいという思いに偽りはなく、その為の意気込みも十分のようだ。

 

「……ねぇ、キャスター」

 

 けど、何とかすると言った時のキャスターは一瞬強張ったような、そもそもなんでこの戦いに巻き込まれたのかの話題も避けていたような気がして。

 

『――マシュ、フジマル! 何か来るわ!』

 

「え?」

 

「先輩!」

 

 突如マシュに抱きかかえられてのローリングによってその思考は吹き飛んでしまった。

 マシュと一緒に倒れ込んだまま、何が起こったかを急いで確認しようと目を動かして。

 

「……怪物?」

 

 さっきまで自分たち三人が座っていた場所が、ひび割れた窪みに変わっている。それを成しただろう剣のような石の塊を振り下ろした体勢で止まった人影、いやその黒く巨大なナニカと視線が交差した。

 

「まさか、バーサーカー!?」

 

「どういうことですか、キャスターさん!」

 

 自分やマシュとは別の方向に転がっていたキャスターが焦ったようにその影に問いかけた。混乱するマシュや自分を置いてけぼりにしてキャスターと黒い影、いやバーサーカーが戦闘を始めた。

 

「ごめん、あなた達は先に行って! ここをまっすぐ行けば大空洞だから!」

 

「ええ!? ごめんって、キャスターはどうするんだ!?」

 

「私はこいつを何とかするから、この場は任せて! きっと一番強い私を狙ってるっぽいから!」

 

 バーサーカーの重く速い一撃を紙一重で躱しながらキャスターが叫ぶ。

 確かにこっちを狙ってくる様子はないが、ここまで来てキャスターだけに任せるつもりはない。無言でうなずいたマシュと一緒に加勢しようと剣を握って、

 

『キャスターの言う通りよ。先に進むことを優先しなさい』

 

「ちょっと所長! 何言ってるんですか!」

 

 冷たい制止の声につい頭に血が上りかけてしまった。けれど続けて聞こえた所長の命令は冷淡と評すべきものではなかった。

 

『あなた達を狙ってない今がチャンスなの。あのバーサーカーは三人がかりでも勝てるかどうか分からない、それだけ強力な黒化英霊よ。あのキャスターもそれが分かってるからああ言ってるの』

 

「そうは、言っても……!」

 

 それだけの相手ならなおさら共闘すべきではないのか。

 狭いはずの洞窟がどんどん広くなっていくような破壊の渦。その全てを避けているキャスターが上手なのではなく、一発でも食らえば致命的なのだと素人の自分でも伝わってくる。遅れてきた足の震えが決心を鈍らせるけど、見捨てるなんて思考は浮かんでいなかった。

 

「大丈夫、二人とも!」

 

「いや全然そうは見えないけど!」

 

 これだけ動いても羽織ったままのフードから一瞬見えた口元は、どう見ても余裕のあるそれではない。なのにキャスターはあまりに堂々とその虚勢を張った。

 

「二人が先に行ったら、その時こそ私の真の力をコイツに見せてあげるんだから! ほら、助けると思って走った走った!」

 

「真の力って逆に気になるんだけど! ……あぁもう、行こうマシュ!」

 

「っ、はい!」

 

 どっちがキャスターの為になるのか迷いに迷って、最後は背中を向けることを選択してしまった。マシュも一瞬目をぎゅっと瞑ってすぐに自分のあとを追ってくれた。

 

「キャスター、先に行って待ってるから! 絶対に来てよ!」

 

「……もちろん、必ず後で追いつく!」

 

 少し間を置いてからの返事。それだけバーサーカーの猛攻が厳しくなってきていることが見えなくても分かった。だけどフラグにしか聞こえない約束をとりつけるしかなかった。

 

「! 道が……」

 

 何度目かの衝撃と音の後、自分たちが通ってきた道が崩れた岩で塞がれてしまったことにマシュが気づいた。急いで振り返っても、もうあの場所で戦うあの二人の姿は見えなかった。

 

『聖杯を手に入れれば聖杯戦争が終わる。そうすればあのバーサーカーも消えるはずよ。分かったら急ぎなさい!』

 

「……はい!」

 

 所長の言葉にただ返事をするしかないくらい頭はぐちゃぐちゃだった。

 ついさっきまで楽しく話した相手ともう会えないかもしれない。そんな可能性がよぎって仕方がなくて、振り切れないまま暗い洞窟を奥へ奥へ走った。

 

 

 

 そうして辿り着いた大空洞で始まる最後の戦い。

 その戦いの最中にも、そして戦いが終わった後も、あのキャスターと再会することはなかった。

 

 




この話は入れるタイミングに迷ったのですが、ひとまず先にお出しすることにしました。
次こそは第五特異点、のはずです。
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