夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。



#3 砦にて

 

【side:???】

 

 目の前でまた、紅い花が散る。物語ではよく花に例えられているけれど、実際に見るそれはもっと凄惨で、刺々しいものだ。周囲に刻まれる血潮が、崩れ落ちる誰かが、惨劇の完了を告げようとしている。それだけは見たくないから立ち上がって、ここまで来たはずなのに。

 

『先、輩――』

 

 燃え続ける町での傷が再び響く。まだ届かないのか、また届かないのかと、手を伸ばした先に無力感を見た。どうして、どうして――

 

 

 

 

【side:オルガマリー】

 

「まずい、もう攻め込まれてる!」

 

 籠城戦を強いられているとの情報から半日。夢幻召喚によって人間離れした速度の出せるフジマルとハクノが砦まで先行して目にしたのは、今まさに扉が破られようとしているギリギリの光景だった。黒く巨大な影がバリケードを破壊せんとその大斧を叩きつけた瞬間、地響きと爆音が同時に二人を襲った。

 

「この威力、間違いなく黒化英霊だ。急がないと大変なことになる!」

 

『待ちなさいフジマル!』

 

「何ですか所長、まさか見逃せだなんて言うんですか!?」

 

『違うわよ! クラスカードの回収は任務だからこの戦闘は避けられない。だからこそ注意しなさい。敵も味方も入り乱れる混戦でどうするのが最善か。よく考えて頂戴!』

 

「了解――!」

 

 私の忠告が終わるや否や砦の中へと駆け出すフジマル。それを追うようにハクノも続いた。

 道中の敵兵を剣で蹴散らし、あるいは呪符で吹き飛ばす。ハクノの戦闘能力と持ち前の判断力、冷静さを失わない精神力のおかげで二人のタッグは安定さを増している。偶然ではあるが前衛のフジマルと後衛のハクノで役割もはっきりしているのも大きいだろう。

 

「立花、ちょっと前に出すぎ! 少し落ち着いて!」

 

「でも……!」

 

 しかし、どうしてもフジマルの経験不足が否めない。仕方ない話ではあるが、ハクノのリードが二人の生命線となりつつある。それでも夢幻召喚したマスターの戦力はこの時代の一般兵とは比べ物にならない。それに対抗しうるのはやはり、同じクラスカードの持ち主、すなわち黒化英霊だけだろう。

 

『いたわ、そのフロアよ!』

 

「間に合え……!」

 

 砦の最上階の部屋。中から怒号や轟音が響いてくる辺り、門を破壊したあの英霊がいるとみていいだろう。

 

『そこにクラスカードと行方不明だったカルデアのマスターがいるはずよ。敵の撃退と要救助員の保護を優先して――』

 

 部屋に突入して直後、息を吞んだ。

 砦の入り口でも見た黒い影。それは黒化の影響だけでなく、持ち前の身体の黒さであることを理解した。それでいて3mを優に超える巨体が私の背にも届かんばかりの大斧を両手に、いや右手に握りしめていた。もう1つの大斧の代わりに左手で掴んでいるのは、比べるには小さくみえてしまうが、確かに人の頭で――

 

「やめろぉぉぉ!」

 

 まっすぐ矢のように距離を詰めたフジマルが怪物の背中に切りかかる。すでに追加召喚していたのか、その斬撃は一振りで2つの切り傷を付けていた。しかしその巨体は動じず、侵入者の報を知らせるに過ぎなかった。

 

「■■■■■■――――――!」

 

「こいつ強いよ、注意して立花!」

 

 新たな敵と認識したのか、雄たけびをあげて威嚇する怪物。その手から人の身体がこぼれた。血に塗れたその身体は床に新たな色彩を染め上げていく。紅い花と呼ぶには、あまりにも無残なものだった。

 

「どうして、間に合わないんだ……!」

 

 フジマルの顔が苦渋に満ちていく。ハクノにも疲れの色が増したように感じる。それでも状況は変わらず、怪物の突進によって始まった戦闘が極まっていく。

 

『この出力、今までで最も大きいわ。オルレアンの魔女に並ぶ勢いじゃない!』

 

「しかもこいつ、見たままのパワータイプだ。私たちと相性がよくないかもっ……」

 

 攻撃が重く、一発一発で砦全体が揺れている。力加減など知らぬと言わんばかりに斧を振るう怪物に、二人でも防戦一方だった。

 

「くそぉ、決定打が足りない! 白野は作戦ある!?」

 

「なくはない、けど――」

 

 怪物の斧の狙いがハクノに絞られる。横なぎに迫る斧を回避する余裕はもはやなく、それを理解したハクノは鏡を斧と自分の間に挟み込むようにして防御を展開した。

 

「呪層・黒天洞、ぐっ!」

 

 鏡を基にシールドを展開したようだが、勢いを殺しきれなかったのか軽く吹き飛ばされる。スキルとしての防御手段を持つハクノでもパワー負けする以上、フジマルが攻撃を受けることは悪手だろう。このままじゃジリ貧になってしまう。逆境を覆す一手が必要だった。

 

『フジマル、そのマスターの近くに例のクラスカードがあるわ! それにまだ息がある、助けられるわ!』

 

「! 白野、時間を稼いでくれ!」

 

「分かった、急いで!」

 

 勝負所とみたハクノが更なる呪符を使い、氷炎と暴風が部屋中に吹き荒れる。その隙に先ほど掴まれていた人物、すなわち行方不明だったマスターに近づいたフジマルが、回復礼装の使用と同時に、一枚のカードを抜き取った。

 

「すみません、間に合わなくて。力が足りなくて。でも、もう少し待っててください」

 

「…………」

 

 返事はない。そのことに一瞬曇りを見せたフジマルが、されど立ち上がった。

 

「――追加召喚(チェイン)

 

 一瞬光に包まれたフジマルの左腕に、丸い盾が出現した。やはり限定召喚に近い形になったが、これでフジマルには合計三人の英霊の力が上乗せされたことになる。

 

『上乗せですか。やはり、上書き(オーバーライト)にはならないのですね』

 

『それはどう違うの? アンジェリカ』

 

 引き続き管制室に残って様子を見守っていたアンジェリカが口を開く。その口調は彼女にしては珍しく驚きの色が乗っていた。

 

『通常、カードを夢幻召喚した状態で別のカードを使うとその英霊に切り替わるだけの上書きになります。しかし、フジマルはどういうわけかそうならない。不完全だからこそなのかはまだ不明ですが』

 

 フジマルが再び駆け出す。ハクノが呪符を使って一進一退を凌いでいた怪物へと向かっていく。それに気づいた怪物が再び斧を振り下ろすが、新しく追加した盾で受け止めるのではなく受け流すことで更に距離を詰めた。

 

『つまり所長が言った通りです。フジマルはクラスカードを使うほど英霊の力が上乗せされる。それだけ強くなる。いや、それどころかいいとこどりになるでしょう』

 

 フジマルの持つ剣が眩い光を放ち始める。それは魔力を放つ女王の剣。聖剣ならざる願いの剣だが、今のフジマルに宿っているのは勝利の女王だけではない――!

 

「宝具連結、この勝利を必中に!

 燕返し×約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブティカ)ァ!」

 

 同時に振り下ろされた複数の斬撃が光となって怪物を打ち抜く。単体では怪物を削りきるに足りないのであれば、それを組み合わせて放つ。おそらくフジマルにしか出来ない芸当であり、その威力は怪物に膝をつかせることに成功していた。

 

『まだよ!』

 

「■■■■■■ーーーー!」

 

 霊核を打ち抜かれたはずの怪物が再び雄たけびを上げる。最後の抵抗だと言わんばかりに両手に握った斧を床に叩きつけた。

 

「戦闘続行のスキルね! フジマル、あと少しで――」

 

「これは!?」

 

 爆音が響くのと同時に、建物全体が揺れる。もちろん地震ではなく、耐久度に限界が来たという叫びだ。床の亀裂が広がり崩壊が始まる。それでも、怪物が発動したスキルの通りまだ戦闘は終わっていなかった。

 

『こいつ、最後に宝具を発動して死ぬつもりだわ! なんとしても阻止よ!』

 

 私の叫びと同時に床が失われ、その場の全員が宙に舞う。それでも怪物が最下層に墜落しきる前に何としても倒しきらなければならない。しかしフジマルは宝具を使った直後で魔力が減っている。もう一度攻撃に転ずることは出来るのか。

 

「立花、もう一発いくよ! 魔力は私が補うから!」

 

「っ分かった!」

 

 私の懸念に答えるようにハクノが叫んだ。崩れる部屋の破片、浮遊感すら気に返さず、彼女は告げた。

 

「借りるよキャスター、水天日光天照八野鎮石!」

 

 一緒に落下する瓦礫の中に混ざっていた呪符が光を放つ。現れた幾つもの鳥居で囲むようにして、場に水面が出現する。その恩恵はフジマルに集中し、再び剣に光が宿りだした。

 

「■■■■■■!」

 

「うおおおおおおおお!」

 

 三人が落下する中での一瞬。ハクノは唱え、怪物は敵を見据えて斧を構える。そしてフジマルは盾を構えながら怪物へと突撃する形をとった。投げられた斧に盾を弾かれ、その凶刃がフジマルを切り裂く。

 

「まだだぁ!」

 

「■■■!?」

 

 心眼(偽)と戦闘続行の合わせ技でダメージを最小限に抑える。己すらも紅く染めながらも、自身を剣として怪物の身体に届かせた。突き刺さった剣が光を放ち、最後のとどめを放つ。

 

「俺たちの、勝ちだ!」

 

 再び放たれた魔力の塊が今度こそ怪物の身体を霧散させる。墜落しながらの激闘、されど決着はここについた。残されたカードと力絶え絶えのまま落下したフジマルの元に、救助対象のマスターを背負ったハクノが降りてきた。

 

「やったね立花。だけどもうここは崩れる。いける?」

 

「他の、人たちは……」

 

『無理よ、フジマル。今の崩落に巻き込まれた人間も少なからずいる。そもそもが敵味方入り混じっている時点で全員は助けられないの。それでも、カルデアの人間を一人守れた。その事実だけ覚えていなさい』

 

「…………」

 

 無言でフジマルは立ち上がった。私の言葉をちゃんと受け止めたのかどうかは分からないが、まずは脱出が先決だ。この話は、その後でいいだろう。

 

『ルートはこちらで先導するわ。行くわよ』

 

 

 

 

「そう、か。だがよくぞ戻った。奏者、フジマル、大儀である。まずは休むがよい」

 

 再びネロ皇帝率いる本陣まで戻って来る頃には、皆疲労困憊だった。

 先行した二人の後に戦闘を始めた友軍の別動隊の彼らも強行軍であり、加えて砦の崩壊に巻き込まれて負傷した者も何人かいた。目的を果たしてはいるが、成果は半々といったところだろう。特にフジマルとハクノ、もう一人のマスターの三人の疲労が顕著だった。

 

『あなたが助けたマスター、かろうじて一命は取り留めているけどやはり再起不能ね。それでもよくやったわフジマル』

 

「はい……」

 

 力のない返答。特異点Xからの帰還直後を思い出すようだった。砦の最上階に突入した時の動揺も、あれを思い出してしまったからだろう。壁にもたれかかって座るフジマルは分かりやすく沈んでいた。

 

「ねぇ立花。前に何があったの?」

 

「…………」

 

 やってきたハクノが隣に座ってそう問いかけた。私はその内容を知っている。知っているからこそ、語る言葉が見つからない。告げ方が分からない。彼女なら或いはと、期待する自分が少し嫌になったが、それでもと耳を傾けた。

 

「初めてカルデアに来た時、ある女の子に出会ったんだ。右も左も分からなかった俺を助けてくれて、とても短かったけど、信用出来る子だった」

 

「いい子なんだね、その子」

 

「あぁ。俺のことを先輩って言ってくれて、可愛い女の子だったんだ。そんな子を、俺は、助けられなかった」

 

「…………」

 

「あの場にいたのは俺だけで、助けなきゃいけなかったのも俺なのに、助けられなかったんだ。それが忘れられない。そんなのもう見たくなかったから、強くなりたいって思ったんだ」

 

 その言葉は悲痛で、弱気で、消え入りそうな音だった。それを聞くハクノは、何も言わずに続きを待っていた。

 

「オルレアンでは町の人を助けられた。それでちょっとは自信がついたつもりだったのに。結局今度は間に合わなくて、どうすればよかったんだろうなって」

 

 それでいて、後悔に満ちていた。ずっと悔やんでいた。前を向いたまま、ずっと唇を噛んでいたのだ。忘れることなんて出来なくて、立ち止まることも許されなくて。その途中で少しでも取りこぼさないようにしてきて、出来なかった。そんな力のない一人の弱音。今にも折れてしまいそうな、その弱さを私は見た。他人を気にかけるのは、ある種の贖罪だったのだろうか。

 

「立花、あなたは正義の味方じゃない。悲しめる自分を、悩み続ける自分をちゃんと持った人なんだ」

 

「自分を、持った……」

 

「私にはあなたの悩みを理解することは出来ないし、きっと私の役目でもない。それに助けようとも思わない。支えるのもきっと違う。だから、私は別のことをする」

 

 突き離すのではなく、慰めるのではなく、冷たい熱をもった言葉を、彼女は突きつけた。

 

「頑張れ藤丸立花。どうすればいいか分からなくても、あなたはいつかきっとそれをみつけられる。あなたならそれが出来る。他に道はなくても、投げ出さずにいられる人だと思うから」

 

「頑張れって、そんな……」

 

 無茶苦茶だった。よく言えば信じているからこその、悪く言えばそうあれという呪いだ。けれど最初にそう呪った私には、それが正解に近いように思えた。私が語るべきものだったようにも見えた。

 

「俺にそんな力はないのに?」

 

「そんなの私も同じだ。諦めの悪さじゃ負けないけど」

 

「誰かを助けられるかも分からないのに?」

 

「それを決めるのは立花じゃないよ。助けられた側が決めることだ。そしてそれを立花がどう受け取るかだとも思う。だから、もっと頑張ろう」

 

 立ち上がったハクノが、フジマルに手を差し出す。一瞬手を伸ばしたフジマルが動きを止めて、そのまま無言で立ち上がった。伸ばした手を引っ込めつつ、二人は小さく笑った。そんな二人を、私はモニターごしに見ていた。

 

『……頑張る、ね』

 

 

 

 翌日、ネロ皇帝からの知らせが届いた。決戦の時がすぐそこまで来ていることを告げていた。

 

 

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