夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

41 / 47
#32 開戦の狼煙

 

【side:オルガマリー】

 

 人理が焼却されてから、異常事態にはある程度の耐性がついているつもりだった。

 レフの裏切り、マスターたちの消失、特異点の惨状にフジマルのあれやこれやとあり得ないことずくしだったのだ。そろそろ何が起こっても最低限の反応だけで乗り切れると思っていた。

 

「なんで、あなたがここにいるのよ!?」

 

 けれど現れた人物に対して、私は声を荒げずにはいられなかった。答えが返ってくるとは思ってないが、こうでもしないと到底受け入れられない事態だったからだ。

 

「さて、それはあなたに対する私の言葉でもあるのだが。レイシフト出来なかったはずのオルガマリー所長がこうして特異点にいるのだから、行方不明だった私がここにいても不思議ではない、そういうことで納得はしてもらえないだろうか?」

 

「私の方も色々あったから頷いてもいいけど、行方不明だったあなたが敵に回る理由までは別よ。冗談でそういうことを言うタイプでもないでしょうし」

 

 仮面の奥でどんな表情をしているかは知らないが、そこにいるのはまごうことなきキリシュタリアその人だ。刺々しい金の鎧に巨大な金の槍と夢幻召喚した姿ではあるが、カルデアで嫌でも感じていたあの存在感は何も変わっていない。

 例の爆発で他のマスターと同じように行方不明になっていたAチームのリーダー。生きていたことは喜ばしいが、敵対するというのなら話は別だった。

 

「……確かに先の発言を撤回する気はない。私は既に手を上げた側だからね。既に衝突は避けられない段階にあるということだ」

 

「あなたもマシュと同じように、あの魔術王の手先になったのですか?」

 

「話が早くて助かるよ、アンジェリカ顧問。だから人理焼却を棄却せんとするあなた達カルデアを攻撃したのさ。無論本番はこれからだけどね」

 

 丁寧な物腰のままきっぱりと告げるキリシュタリアには一切の淀みが見られない。操られて無理やりといったわけではなく、確かな本人の意思で動いているとしか思えなかった。そんな彼が目を向けているのは、半壊した砦でしっかりと立っている私たち三人だ。

 

「オルガマリー所長、アンジェリカ顧問、それにBチームのリーダー。そちら側の最大戦力である君たちさえ押さえたら後はどうとでもなる。――では、いくとしようか」

 

「くそ、一人で三人相手にする気かよ!」

 

 巨大な金の槍を両手で構えたキリシュタリアの臨戦態勢に、同様の緊張が私たちの間を駆け巡る。相手が問答を切り上げた以上、後は己の持つ力で火花を散らし戦う時間の始まりだ。

 

「所長、彼をどうするつもりですか?」

 

「キリシュタリアはお互いの立場を明確にしただけよ。まだあいつは何も言っていない。なら、無力化した上で情報を聞き出すしかない!」

 

「戦う以上はそれを目指すしかないよなそりゃ。だが――!」

 

 やれるのか、と問うBチームリーダーの言葉には返答しない。こちらの戦力や心境など戦意に満ちたキリシュタリアには関係がない。やらなければやられる、それだけのシンプルな状況だった。

 

「まずはあのキリシュタリアを撃ち落とす。話とやらはそれからよ」

 

 

「そもそもあれ槍だよな。なんでランサーにアーチャーの真似事が出来るんだ?」

 

「武装だけでクラスの特定はしない方がいいかと。ただ距離を選ばない攻撃手段がある。それが分かっているだけで今は十分でしょう」

 

 Bチームリーダーの素朴な疑問はアンジェリカによって流される。私たちの戦いにおいてクラスは判明した所で戦況を左右するものにはなり得ない。見るべきはその攻撃を可能とするカードの英霊の真名の方だ。

 

「太陽、それに金の鎧と槍……。最悪の想定もしておくべきかしらね」

 

 キリシュタリアの風貌と先ほどの攻撃から、彼のカードの真名に大雑把な当たりをつける。

 大前提として、Aチームのメンバーとして与えられているカードではない。そちらも同じランサーだったはずだが、私の知っている真名とは能力が合致しないのだ。同じ神霊級ではあるような気はするのだけども。

 

「ふむ、真名が分からないから無闇に仕掛けては来ないと。先手は私が貰ったから次は譲るつもりでいたが、そういうことなら」

 

 慎重策に寄った私たちを見て隙だと思ったのか、動き始めようとするキリシュタリア。彼の魔力が炎となって周囲を満たし始めるより早く、アンジェリカと視線を交錯させる。

 

「アンジェリカ、分かるわね?!」

 

「はい、まずはここから引き離します――!」

 

 私は『アタランテ』の一矢を、アンジェリカは『メドゥーサ』での突進という、それぞれが出せる最速の技を選択する。

 ここはまだ砦近くで動けない者が何人もいる。夢幻召喚した者同士の戦いに巻き込むわけにはいかなかった。

 

「――早いな。流石は技術顧問と称える所かな?」

 

「平然と受け止めたあなたが一体何を――!」

 

 宝具並とはいかずとも、ゼロから急激に速度を上げて突貫したアンジェリカにキリシュタリアは軽口を叩く。突進の勢いに乗って吹っ飛んだように見えるが、難なく着地する姿に一切のダメージは見られない。

 

上書き(オーバーライト)、アーチャー!」

 

 続けてアンジェリカが取り出したのは『織田信長』の火縄銃だ。ただし今までのように遠距離からの狙撃ではなく、キリシュタリアの槍が当たる間合いでの接近戦を挑んでいた。槍を避けては引き金を引き、光線を避けてはまた槍を突き出す。互いに長物で長物を逸らし弾きの繰り返し。どちらかに当たるまで続くそれは、見る者を魅了する舞踊とも言えたのかもしれない。

 

「驚いた。アーチャーのままでここまでの接近戦をして見せるとはね!」

 

「やあっ!」

 

 けれど戦いが続くということは、それだけの実力を共に有しているということに他ならない。幾つもの火縄銃を扱うアンジェリカと違い、たった一本の槍で凌ぐキリシュタリアはまさに脅威だった。

 

「行くわよ、ランサー!」

 

 『アタランテ』の俊足を活かして二人に追い付いた私は、そのまま武装を槍へと変える。

 夢幻召喚した者同士の戦いに割り込めるのは同じ夢幻召喚をした者だけ。同等以上の英霊の力を得ている今の私なら、槍と火縄銃が無尽に駆ける戦場にだって居場所を作ることが出来るのだ。

 

「そういえば、貴女がマスターとして戦う姿を見るのは初めてか。ならお手並みを拝見させていただくとしよう」

 

「……その余裕、すぐになくしてあげるわ!」

 

 互いの槍から放たれる刺突を互いの槍で逸らし、受け止め、弾く。おおよそ人間には届かない領域での速度で切っ先同士がぶつかり、僅かな拮抗と火花が生まれる。カードの力がなければ実現することのない光景であり、私とキリシュタリアが鎬を削るということ自体が異例。なのだが、しかし。

 

「マスター候補だった以上、決して見くびっていたつもりはなかったが……。想像以上だ、オルガマリー所長」

 

「あらそう、たった一人で私たちと互角以上な癖に随分な評価をくれるじゃない!」

 

「これがAチームのリーダーですか。確かに手強い……!」

 

 私が加わってもなお底知れない強さを見せるキリシュタリアに、アンジェリカが厄介そうにつぶやく。

 ランサーとして槍を扱う彼の技量の高さもそうだが、槍と共に振るわれる炎もその脅威度を上げている。今はただ突きに付随させているだけのようだが、それを攻撃手段の一つとして使っていないのは油断か或いは手加減か。

 

「まさか、私だってそこまでの余裕があるわけでないよ。オルガマリー所長の槍、アンジェリカ技術顧問の銃撃、そして彼の援護射撃。それら全てをいつまでも凌ぎ切れるわけでない、さ!」

 

 言葉の途中で槍を斜めに構えることで、眼前に迫った光線を逸らす。その先にあるアンジェリカの火縄銃の牽制も兼ねている辺りがイヤらしい。いや、敵ながら上手いと称えるべきか。

 

「俺の魔本にまで対応しきるとか、いよいよ人間離れしてないかヴォ―ダイム?」

 

 呆れながらも魔本での援護を続けるのは、黒い衣装と帽子を身に纏ったBチームリーダーだ。夢幻召喚しているのは『エレナ・ブラヴァツキー』。自由に飛び回る魔本での援護射撃と『魔力同調』といった支援を行っているが、それでもキリシュタリアの牙城を崩すにはまだ足りない。

 

「さて、小競り合いはこの辺りで十分ではないかな? このカードの真名もそろそろ割れた頃だろう」

 

「……先ほどの宝具。それにこの炎は、インド神話に名高い『カルナ』ですか?」

 

「流石はカードの専門家だ。それならば、もう出し惜しみは不要かな。――真名解放」

 

「おいおい、まさか――」

 

 真名を看破されたことを当然のことだと受け入れながら、同時に明らかになったその名を高らかに紡ぐキリシュタリア。

 その瞬間から高まる魔力。沸き立つ熱と震える大地。

 彼が後ろに引いた槍へと集っていく熱量は、まさしく太陽の出現を思わせる。あの力が『カルナ』の全力だというのなら、その威力は必殺の一撃となるに違いない。現にそれを警戒したアンジェリカは距離を取ろうとしていた。

 

「――誘ってるわけね。いいわ、援護なさいアンジェリカ!」

 

「所長!?」

 

「マジかよおい?!」

 

 けれど私はそれを見てすぐに、距離を詰めることを選択していた。

 二人の驚く声を背後に聞きつつ、震える槍を抑えながらに死地へと赴く。

 

 私のランサーのカードの真名は『ブラド三世』だ。けれどその宝具は未だこの特異点では使っておらず、彼としても確証までは得られていないのだろう。

 だからこその真名解放。抗いたいのならそちらも切り札を使えと、暗に彼は言っているのだ。安い挑発だとは思うが、いい加減私としても我慢の限界だったから、自然と槍を握る手にも力が入っていた。

 

「いい度胸してるじゃない。なら、己が血でその喉を潤しなさい――!」

 

「神々の王の慈悲を知れ――!」

 

 私のカードの宝具は射程が短く、殆ど槍を突き刺さなければ狙った効果が得られない。そう思って接近した私の目前にあったのは、ビックバンを思わせる太陽の如き煌めきだ。そんな火に近づいていく私は、フジマルの地元でいう夏の虫なのか?

 

 全く持って否である。真正面からの撃ち合いでは勝ちの目が薄いのは百も承知、だからこそ狙うべきはこの刹那――!

 

「『血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)』!」

 

「『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!」

 

 下げた槍を振り上げながらに叫ぶのと同時に、槍から無数の黒い杭が出現する。

 その直後。諸共を焼き尽くす日輪の熱線が、その全てを呑み込んだ。

 

 

 衝撃。爆発。轟音。灼熱。二つの宝具が衝突したことで撒き散らされるもののどれもが確かに神話級。

 少し距離を置いていただけではその影響からは逃れられず、爆風と熱と黒い破片とにBチームリーダーは翻弄されていた。

 

「……これが夢幻召喚した者同士の戦い。どんなスケールしてるんだ……」

 

 渦中にいた人物はどうなったのか、まだ確かめる術のない彼にはそう呟くだけで精一杯だった。

 

「……ここに来てから驚くことばかりだが、まさか貴女がここまでの戦いぶりを見せるとはね」

 

「……ふん、お気に召さなかったかしら? まだ痛い目を見足りてはいないようだけど?」

 

 そんなBチームリーダーが焦土と化した北米の大地で見つけたのは、不敵に笑う二人のマスター。

 片膝をついて笑う私と、右腕から鮮血を垂らすキリシュタリアだった。

 

「どうやら、そちらも大丈夫みたいですね」

 

「アンジェリカ顧問も無事だったか」

 

 距離を取るべく後ろに下がったアンジェリカがBチームリーダーの位置にたどり着く。安否を確認し合った後に、恐る恐るといった様子でBチームリーダーが語り掛ける。

 

「確認なんだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「はい、その認識で正しいかと」

 

「とんでもないな、どっちも……」

 

 然りと頷くアンジェリカに、離れていたBチームリーダーが絶句する。

 彼からはきっと、キリシュタリアの放った熱線が斜め上の空へと昇っていくように見えたのだろう。その背後では着弾場所を逃した熱線が雲を割き、行き場をなくした光熱が次第に失せて風に消えていく最中だった。

 

「黒い杭を射出する英霊……。ルーマニアに名高い『ヴラド三世』か。吸血鬼としての側面は出ていないようだが」

 

「あなたの使う『カルナ』に並ぶかは分からないけどね。カルデアで渡したカードから乗り換えたのは、あの火力に惚れたからかしら?」

 

「……あちらはまだ使う必要がない。そう判断したまでさ」

 

 彼が僅かに目を逸らしたのは図星だったからか、或いはその右腕の負傷具合を確かめる為か。

 私が接近して狙ったのは、その強大な力を制御していたその右腕だ。真名開放をしながら振るおうとしていた槍とその腕を下から叩き、砲撃の射線を上にずらす。けれどそれだけでは宝具の熱量を動かすことは出来ない。だから私も宝具を切ったのだ。

 

「屋根みたいに一瞬広がったのも、所長の出した杭ってことか。あの速度であの規模ってどんな魔力量しているんだ」

 

「恐らく威力よりもそちらの方に力を割いたからでしょう。おかげで私たちと後ろの砦は被害を免れましたし」

 

「それに合わせてアンジェリカ技術顧問も火縄銃で押し上げてなかったか? くそ、俺も早く気づいていれば……」

 

血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)』は特定の空間に大量の杭を出現させて対象を串刺しにする宝具だ。今回は私の槍を起点として一気に増殖させ、空へと上がるレールを引いたようなイメージである。自分への防御の割合を見誤ったせいで多少ダメージを負ったが、そもそもだ。

 

「解せないわね。どうして手を抜くの? 今の宝具、本来の精々半分程度ってところよね」

 

「おいおい、今ので半分ってマジかよ……!」

 

「ふふ、流石に分かるか」

 

 Bチームリーダーは驚いているようだが、そもそも宝具の撃ち合ってこの程度で済んでいる時点でおかしい。『カルナ』程の大英雄の宝具ならより甚大な被害が出るはずなのに、私の宝具だけで凌げてしまう威力に抑えている。そう思ったから挑発に乗ったのもあるが、彼がそんな風に振る舞うのが不可解だった。

 

「貴女のカードの真名を確かめる為だったからね。三枚のカードの真名が分かったから、これで勝負を仕掛ける準備はできたというわけさ。まだ隠している奥の手もあるだろうけどね」

 

「……そう、情報が揃ってから本腰を入れるってわけね」

 

 その為だけにわざわざ宝具を使ったというのは、慎重というか大胆と言うべきか迷うところだ。

 それに結局今までは本気ではなかったことの否定にはなっていないし、ここから更なる激戦が始まると宣言されたも同義だった。それを認識して険しくなった私の顔を見て、彼はこうも付け足した。

 

「それにだ。私と貴女がこうしてやり合うのに、探りの一手で終わってしまっては勿体ないだろう?」

 

「っ! だから、あなたのそういう態度が私は――!」

 

 仮面越しだとしても、キリシュタリアの口元に笑みがあることを見逃すことはない。

 それは強者故の、認められる者特有の驕りだと思った。以前のカルデアでは見せなかっただけで、影では私のことをそうして嘲っていたと思うと、腹立つ気持ちを抑えられなくなりそうだった。

 

「――そう思うなら、さっきの一撃で仕留めておくべきだったな」

 

「…………え?」

 

 そうして気が荒だった一瞬。私の気が戦いから逸れた僅かな隙。

 

「所長!?」

 

 ザクリとした感触が、身体の中心を叩くように現れて。

 気が付けば、私の胸を見知らぬ黒い槍が貫いていた。

 




・Tips
『ブラド三世』ランサー

 ワラキア公国の王であり、吸血鬼ドラキュラのモデルとなった人物。
 EXTRA,Apocryphaと同じランサーだが、性能としてはGrand Orderのバーサーカーと近くなっている。理由としては夢幻召喚なので英霊本人の意思がなく、吸血鬼としてのスキルを使うことに制限がない為。ただしバーサーカー程の自由度はなく、その中間辺りの位置づけ。
 要は扱いやすいように狂化スキルを取り除いた形というのが一番近い。加えて夢幻召喚によって吸血鬼化することも基本的にはない。

[宝具]
血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ):C
 自身から杭を射出し、対象を串刺しにする宝具。
 本来であればバーサーカークラスでの宝具だが、前述の通り吸血鬼としての性能を有している為にこちらの銘となっている。対人宝具であり、射出するにも槍を媒介にする必要があるなど制限はそれなりに多い。

[スキル]
戦闘続行:A
 決定的な致命傷を受けない限りは生き延び、或いは瀕死の傷を負ってなお戦闘を可能とするスキル。
 夢幻召喚では一定以上のダメージでカードの強制排出判定が発生するため、それまでの猶予を僅かに伸ばす、或いは排出したカードの再使用までのラグを減らすなどの効果に繋がる。



 遅れながらプリヤ原作第73話後編に目を通したのですが、「展開が熱い! うおおおお!」と興奮する自分と、「待って、それでいいのそれ!?」と頭を抱える自分がいました。
 とりあえず今後の展開が変わったりはしませんが、出来る限り準拠はしていくつもりです。収穫もあるにはあったので。14巻は五月に出るので読もう!

閲覧、評価、感想をいただけるとモチベが上がるのでこっそりお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。