夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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#34 道半ばにて

【side:フジマル】

 

「おーい、フジマル?」

 

「……え? あぁごめん、ぼーっとしてた」

 

 キャスターに呼びかけられて、ふわふわしていた意識が明確なものになる。特異点に来てもこうなるとは、思ったより油断しているのかもしれない。両手で頬を軽く叩き、今一度気を引き締める。

 

「戦いの時は頼りになるかと思ったが、それ以外だとホントに気の抜ける奴だ。そんな調子で大丈夫か?」

 

「そうだね、フジマル。早いところ合流しないといけないんだろう?」

 

「そうだね、気合い入れるよ」

 

 二人から心配されてしまっては立つ瀬がない。軽く手を握ったり開いたりして、今度こそ疲れが残っていないことを確認することにした。

 

 襲撃を退けた後、集落の人から話を聞いたり復興を手伝ったりして過ごす事一日。軽く休息も取れたという事でそろそろ旅立つことを伝えると、第一村人であるおじさんが見送りに来てくれたのだ。相変わらずおじさん呼びすると叱られるが、最初よりも柔らかい態度に見えるのは気の所為じゃないと思いたい。

 

「それじゃ、お世話になりました」

 

「おう、こちらもな。次に行く集落に余裕がありそうなら、こっちに融通利かせてくれるように頼むのを忘れるなよ?」

 

「ご期待に添えるかどうかは解らないけど約束は守るよ。身元不明の自分たちを信じてくれた分の恩は返すとも」

 

「期待しててね、おじさん!」

 

「だからやめろと言っただろうが坊主……!」

 

 ひらひらと手を振るおじさんに背を向け、キャスターと共に歩き出す。次はどの方角に向かおうか、そんなことを話し合おうとして横を向く。

 

 そんな折に、鐘の音が周囲に響き渡った。

 

「この、鐘の音って」

 

「ちっ、またアイツらか。日を置かずに攻めてきやがって、面倒ったらありゃしねぇ」

 

 聞いた話では、それは敵襲を集落全体へ伝える為に設置されていたもののはずだ。大きな動揺こそないが、あちらこちらから慌ただしく人の動き出す音がし始めている。つまりまた、この前のような戦いが始まるのだろう。そこまで考えて、足が止まっていることにようやく気付く。

 

「……ねぇ、キャスター」

 

「そうだよね、キミはそう言うと思ってたよ」

 

 やれやれと首を振るが、キャスターもどうやら付き合ってくれるらしい。そんな話の分かるキャスターとのやり取りに意外そうな目を向けるのは、集落に戻りかけていたおじさんだ。

 

「……おい、お前らは早く行け。今ならまだ離脱できるはずだ。巻き込まれないうちにだな――」

 

「いやおじさん、あと一度くらいなら付き合わせてほしい。そこまで急ぎってわけでもないし」

 

「言ってることがさっきと違うじゃねえか」

 

 おじさんは呆れた様子だが、このまま立ち去ってしまう方が自分的にはよっぽど辛い。それこそ通信越しに所長から怒られてしまうだろうが、幸か不幸かあの人の目は今届かない。そんないたずらをする時のような心持で参戦を決めた。

 

「わざわざ戦いに首を突っ込むとは、余程のモノ好きらしいな。お前みたいなのもカルデアにいるんだな」

 

「え。おじさんは他にもカルデアの人に会ったの?」

 

「この集落に時折来てたぞ。最も、そっちは疲れた顔をどうにか隠してる程度の奴らしかいなかったがな。そこまで余裕がないのに屈託なく人助けに精を出せるなんざ、いっそ不気味ですらある」

 

「どうしようキャスター、おじさんから凄い変な人だって言われたんだけど」

 

「多分頑なにおじさんと呼び続けているからだとも思うよ」

 

 なんだかおじさんと呼ぶのがしっくりくるのでそこは勘弁してほしい。そんなおじさんも助太刀されることを受け入れたのか、音がする方を見ながら戦略を練り始めたようだった。

 

「ならお二人には遊撃役を担ってもらおうか。正直戦力としてはここでもトップクラスだろうし、適当に押されている所を助けに回ってやってくれ。それで今回の襲撃も何とか凌げるだろう」

 

「おっけ、ちゃっちゃとやっちゃおうかキャスター!」

 

 敵が黒化英霊であるのなら問題なく迎撃できるはずと、おじさんの提案に二つ返事を返す。キャスターと連れ立って動こうと呼び掛けて、それの返事が返ってくると予想して数秒。

 

 

「いいえ、その必要はないわ」

 

 

 キャスターではない、別の男性の声がした。

 

「ようやく会えたわね。あなたが件のマスターかしら?」

 

 集落の少し外れにいた自分たちを見つけて接近してきたのだろう男は、長身で引き締まった身体をしていた。目元に黒い仮面を付け、立ち姿だけでただ者ではないと思わせるその彼は。

 

「え、オネェ?」

 

「あら、今時ストレートね。素直な子はまぁ嫌いじゃないけども」

 

 丁寧なメイクが施されてる顔も、そこから出てくる口調も特徴的でそういう意味でもただ者ではない。確かにこちらを敵視するような距離感なのに、それでいてどこか楽しそうなので掴みどころがない。なのでどう接しようか迷って、つい素で返してしまった。

 

「……もしかして、ここのマスターに用があるのかな? この襲撃はその為だと?」

 

「ええ。その通りよ、白フードさん。どこの誰かは存じ上げないけど、そこの彼を譲ってくれると有難いわね」

 

「なんで自分を、というかあなたは一体誰なんだ」

 

 身がすくみそうになるのを抑えながら、男へと逆に問いかける。その反応が意外だったのか、男は顎に手を添えて考えるような仕草を取った。

 

「あら、そういえば初対面だったわね。同じ組織の人間だったんだから私の方は知られていると思っていたけど、自惚れがすぎたかしら」

 

「同じ組織って、まさか」

 

 悪い予感ほど的中するものだと告げるように、彼は己の名を明かす。それは確かに予想通りでもあり、それでいて驚愕を禁じ得ない事実だった。

 

「私はスカンジナビア・ペペロンチーノ。カルデアのAチームに所属するマスターの一人、そう言えば分かりやすいかしら?」

 

「Aチームって、芥先輩と同じ?!」

 

 思い出すのはオケアノスで邂逅した自分以外のカルデアのマスターの顔だ。あの人と同じチームに所属しているのなら、比肩する実力があると思っていいだろう。既に忍ばせていたカードを握る手に、更なる力が入っていくのを感じた。

 

「あら、芥ちゃんのことは知ってるのね。あの子も来てるって話は聞いてないけど、元気にしてる?」

 

「……あの人はカルデアで休んでる。この特異点には来てない」

 

「……そう。色々あったんでしょうね。それも気になるけど、まずはこの場を何とかしましょうか」

 

 一瞬慮るような表情になったものの、すぐに敵対の仮面を被り直すペペロンチーノ。威圧するような態度もはのままだが、だからこそ気になって仕方のない事が1つ。

 

「ペペロンチーノさん、なんで自分を狙うのかをまだ聞いてません。元々カルデアのマスターであるあなたが、どうして世界を滅ぼす側に……?」

 

「ぺぺでいいわよ。それと流石に誤魔化しきれないわよね。いいわ、芥ちゃんのことを正直に話してくれたお礼に教えてあげる」

 

 温かい目を向けてくるぺぺに、調子の狂わされる感覚が続く。敵とは思えない程のフレンドリーさを併せてくるのも厄介だ。なんというか、どこまでもやりづらい。

 

「この特異点は、いえ私たちはあなた達カルデアが来るのを待っていたのよ。ずっとね」

 

「それはどういうこと? 特異点を修正する存在を待つだなんて、まるでその気になればいつでもこの北米を滅ぼせたと言ってるようなものだと思うけど」

 

「まるでも何もその通りよ、白フードさん。後ろ盾のないカルデアの仲間たちも、カード以外に対抗手段のない現地の民たちも、私たちの敵じゃないってわけ」

 

「なんだと……」

 

 眼中にないと言われておじさんが憤怒を露わにするが、ぺぺにとっては些細なことらしい。それを証明するように彼はカードを手に唱える。

 

「夢幻召喚と限定展開では引き出せる力の質と量に大きな差がある。あなたには言うまでもないことよね?」

 

「アーチャー……来る!」

 

 そして白い学ランのような装束と共に顕れたのは長身のぺぺと同じだけの大きさを誇る弓。クラスは暫定だが、遠距離攻撃が始まるのはまず間違いないと見て即座に剣を握る。

 

「うおおっ?!」

 

「キャスター、援護!」

 

「いいよ、任せて!」

 

 その直後に放たれた光の矢がおじさんのいた位置を通り抜けていく。咄嗟に自分が足払いをして倒していなければ声を上げることすら出来なかっただろうから、荒療治は見逃していただきたい。

 

「コード:モータル、セット」

 

 飛んでくる矢を避けながら剣に人間特攻のコマンドコードを叩きつける。ぺぺのカードの真名はまだ分からないが、同じ人間(マスター)であるのならというチョイスである。

 胸の位置に飛んできた矢を剣で弾き、更に距離を詰めていく。速さと熱は恐るべきものがあるが対処は出来ると思い、更に前進に意識を向ける。

 

「なら、これはどうかしら?」

 

「曲がりすぎじゃない――?!」

 

 そんな自分を見てぺぺが放った複数の矢は、その全てがカーブを描いて自分を迫るもの。チラと自身の背後を見るとそこには背負うように光の輪がくっついており、これをホーミングする矢だと瞬時に理解した。

 

「でも行くしかないなコレは!」

 

 横や後ろに避けても追尾されると見て、選んだのは更に前に進むこと。檻となって迫る光の矢たちの間を通り過ぎるように、通り抜けるように前転する。しかし光の矢も瞬時に反応し、その角度を変えた。

 

「追いつかれる前に、一撃入れてみせる!」

 

「もしかして、その矢を私にもぶつける算段? それなら徒労に終わるんじゃないかしら」

 

 何度も放った矢の弾幕を突破せんと突貫してくる自分を見て、ぺぺは1つの予想を立てたらしい。それも狙ってないと言えば嘘になるが、本命はもっと別にある。

 

「コード:グリッター、フォーカス、からのバースト!」

 

 急所への狙いを鮮明に、そしてその一撃を苛烈にするコマンドコードを剣に刻み込む。他に刺さる特攻がまだ分からない現状ではこれが限界。あとはこの一撃を叩き込むだけだ。

 

「ここまで接近されるのが早いなんて、随分と射撃に慣れてるみたいね。これまでどれだけ撃たれてきたのかしら?」

 

「沢山かな!!」

 

 そんなことを叫びながら、あと数歩でこちらの剣が届く間合いに到達する。後は反射神経だけで数回避ければそこが相手の懐だ。

 

「――なら、あなたの土俵で戦ってあげる」

 

「――!」

 

 一歩、放たれた矢を掠めながらも避けた先で見たのは振り下ろされる弓本体。人の丈に匹敵するそれを如意棒のように、かつ英霊の力と速度を加えて振るうことでまた別の脅威が生まれていた。

 

「アーチャーってこういうことじゃないと思うんだけど、なっ!」

 

 狙い通りの接近戦へと移り変わったが、今のところ優勢劣勢は動いてない気がする。取り回しに苦労するはずの大弓を容易く扱ってみせるのはよほど武勇のある英霊なのか、はたまたマスターの自力か。

 

「じゃあ、ちゃんと射撃もしてあげるわ!」

 

「あぶなっ――いや痛い!」

 

 目と鼻の先、ゼロ距離から不意に放たれた光の矢を殆ど気合だけで避ける。しかし先ほどからホーミングしてくる別の矢への対処をし忘れて一発被弾してしまった。

 振るわれる弓と周囲を舞いながらも時折刺してくるホーミング矢。もう少し集中が切れればその両方に挟まれてお陀仏だろう。

 

「ここしか、ない――!」

 

 その前にケリをつける。そう決心して狙うのは零距離射撃をしたばかりの大弓だ。これまでと同じく打ち合うように弓へ剣をぶつけ、ガギンと鈍い音を響かせる。

 

「! あら――」

 

 そのまま体重を乗せて振り抜くことで無理やりながら、ぺぺの手から大弓を弾き飛ばす。コードで上乗せされた威力は全てそこに注ぎ込んだが故の成果に、初めてぺぺの眉が上がった。

 

 英霊の力である以上、その気になればすぐ手元に弓は呼び出せるだろう。しかしその刹那があれば、次の一撃にはじゅうぶ

 

「――――がはっ?!」

 

「言ったでしょ、あなたの土俵でって」

 

 腹部への衝撃が思考と動きを中断させる。

 無手での殴打。アーチャーだからと無意識に予測から外していた一撃が、自分の鳩尾にめり込んでいた。

 

「『神足通』。これは夢幻召喚で得た力じゃなくて、私が元々使えるもの。奥の手はこうやって使うのよ、カルデアのマスターさん?」

 

「……なん、で、そんな、ことを」

 

「だってあなた、夢幻召喚を出し惜しんでいるんだもの。ここぞという時に使いたいっていうのが丸わかり。だからこうして逆に誘われる」

 

 たたらを踏みながら数歩下がっている間に、ぺぺの手には弓が戻っている。遠近どちらでも隙はないという事実が、次を考える頭に焦燥をもたらしていく。しかしそれ以上に、彼の言葉が胸に刺さった。

 

「あなたはもっと大局を見るべきね。何を得る為に何を選択するべきか。少なくとも私相手なら、もっと早く切り札を切るべきだった」

 

「っ……」

 

「だから次はよく考えなさい。本当の意味で、守りたいのならね」

 

「夢幻召――」

 

 もう間に合わないと分かっていても、その言葉の棘を振り払おうと三枚のカードを取り出す。

 けれどそれらを使うよりも早く、頭上から飛来した矢が着弾する。その威力は、揺らぎかけていた意識を刈り取るには十分なものだった。

 

(迷ってちゃ、駄目だったのか……?)

 

 倒れ込みながら最後に浮かんだのは、何故夢幻召喚を躊躇ったのか。けれどその答え合わせをすることは叶わないまま、自分の視界は暗くフェードアウトしていった。

 

 

「さて、オーダーはこんな所ね。ちょっと私情も挟んじゃったけど、良しとしましょう」

 

「おい、あいつやられたのか……?!」

 

 ぺぺの前でうつ伏せになって動かないフジマルに、おじさんと呼ばれた男が驚愕する。

 白いフードを被ったその人物も、沈黙したまま動かない。手をこまねいているのか、様子を見ているのか。

 そんな二人を見て、口を開いたのはぺぺだった。

 

「それで、次はあなたの番かしら?」




実力差的にはまだまだです。基本ギリギリで勝ちの目が拾えるか否かのイメージ。

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