【side:オルガマリー】
「
「まとめるとまぁ、そういうことかな」
砦から拠点へと戻る道すがら、合流した白フードのキャスターの話を端的に纏めると、当事者であるはずのキャスターがハハハと笑う。笑うしかないといった様子だが、私たちからすればそれどころの話ではなかった。
「ヴォーダイムに続いて、ペペロンチーノまで……。まさかAチーム全員が敵に回ってる、なんてことはないだろうな?」
「まだ所在が分かっていないメンバーもいますが、あまり考えたくはないですね」
Bチームリーダーとアンジェリカも揃って苦い顔だ。たった今キリシュタリアと狂王の二人に蹂躙されかけた所なのだ。それが三人になると言われれば私だって同じ顔をするだろう。というか多分今してる。
「ペペロンチーノって人はホントにフジマルだけがお目当てだったみたいで、その後は目立った戦闘もなく立ち去っていったよ。殿に残していった黒化英霊の対処に追われて追うことは出来なかったんだけど」
「彼は何故フジマルを? ずっと待っていたの意味もよく分かりませんが」
「結局何も言わなかったから何とも……。だからこそ余計に心配というか、助けるなら早く行った方がいいと思って急いで馳せ参じたというわけ。まぁこちらも思ったより大変なことになってたけど」
キャスターが合流した経緯はそういうことらしい。有り難くはあるが、更なる厄介事と共に来たせいで絶妙に感謝しづらくなってしまった。けど話は進めなければならない。
「なら拠点に戻ってからそちらの対策も練らなくちゃならないわけね。キリシュタリアにぺぺ、狂王にフジマルの救助……とんだフルコースじゃない」
「メインディッシュまでが遠すぎるだろ……」
「因みにどれがメインになるのですか?」
「全部よ全部。コースの作法くらい守って欲しかったわ」
頭が痛むのはきっと戦闘の疲労だけではないだろう。それでもやるしかないと思い直し、拠点までの道を足早に進んでいく。とりあえずその辺りを詰める前に休息を取ろうと、ひとまずそんなことを考えながら拠点へと近づいていく。
そんな折、最初に気づいたのはアンジェリカだった。
「ふぅ、やっと拠点についたわね。これで一息――」
「待ってください、何か様子が変です。これは……戦闘音?」
全員で足を進めて、ずっと遠くにあった拠点がどんどんと大きくなっていく中、真っ先にその音を拾った彼女が正解を引く。遅れて見えてきた黒い影が、私たちの顔色を悪化させた。
「まさか黒化英霊に襲撃されてるのか?!」
「マジかよ、こっちもバレたってこと!?」
「っ……ホント、休ませる気がないわね!」
悪態をつきながらも、各々がカードを取り出して急行するべく速度を上げる。本拠地といっていいこの町を抑えられるとただでさえ少ない勝ちの目が本当に見えなくなってしまうかもしれない。それを回避する為に残った力を全て使い切る、そんな覚悟を固めながら町の入口へと飛び込んだ。
「おい無事か! みん、な……」
大声を出して確認を取ったBチームリーダーが、その光景を見て、言葉を失った。
それはまさしく一騎当千。幾つもの黒い影を簡単に吹き飛ばす鮮烈な朱がそこにいた。
暗紅色の長い髪を靡かせながらに振るっているのは見覚えのある朱い槍。ボディラインがはっきりと分かる黒の戦装束に身を包んだ
「ふむ、やっとの到着か。思ったより待ったな」
「たった一人であれだけいた黒化英霊を全員倒したのか……」
「この程度の連中、大したことはあるまいよ。それで、お前たちがカルデアの本隊か?」
黒化英霊の全てをねじ伏せた彼女に目を向けられて、私たち全員に緊張が走る。
まず間違いなくサーヴァント。下手したらあの狂王に並ぶか、それを上回る力を持つであろう彼女はこう名乗った。
「私はスカサハ。この特異点に呼ばれたしがないサーヴァントの一人であり、あのバカ弟子たちと戦うお前たちの助太刀に来た者だ」
☆
拠点に戻って早々に、私たちは話し合いの場を開くことになった。無論相手は来訪者ことスカサハだ。元々私たちと合流する為にやってきた所であの黒化英霊の群れと遭遇したので、ついでに蹴散らしたとのこと。その言葉を信用するのなら敵対する必要はないということでの話し合いだった。まぁ正面から戦っても勝てるか分からなかったからなのも否定はしないが。
「アルスター伝説の英雄、クー・フーリン。それが私たちの倒すべき王ってわけね」
「その通りだ。まさかこんな形で私よりも強くなるとは思わなんだ。それもあのメイヴめの悪巧みであろうがな」
そこで彼女が語ったのは、この特異点の概要。この北米で何が起こっているのか、誰が敵なのか。Bチームリーダーたちが集めていた情報とも照らし合わせることで全貌が見えようとしていた。
「私でも今の馬鹿弟子に勝てるかは分からんし、よしんば勝ててもその時は聖杯ごと我が槍で貫いているだろう。それはお主たちも望む所ではなかろう?」
「ええ、論外ね。そんなことされたらこの特異点に手がつけられなくなる。だから指南役として私たちを鍛えることに注力すると?」
「そういうことだな。大方、あやつらに対抗できる戦力がいなくて困っていたのだろう? なら今ある軍勢を引き上げることでもこの状況は打破出来るだろうさ」
サーヴァントでありながら、自身で戦うのではなく私たちの戦力増強が目的だと告げた。まるで軍師のような物言いだが、彼女の真名を思えば分からなくもない。
影の国の女王スカサハ。それは今の北米を喰らわんとする狂王、クー・フーリンの師として知られる人物だ。そんな彼女に教えを請えるというのは確かに幸運と言えるのかもしれない。
因みにそんな人物が何故この特異点にいるのか、そこを問うと含みをもった口調で語ってくれた。
「私もあの二人と同じように聖杯によって呼び出されたサーヴァントの一人だよ。最もあの馬鹿弟子のせいで気が削がれたから、こうしてお主たちの方に来たわけだが」
「……そこだけはあの狂王に感謝するべきかもしれないな」
Bチームリーダーが後ろでボソっと呟いたのが聞こえて、つい頷きそうになるのを慌てて抑える。正直これ以上戦力差が開くと本当にどうしようもない。こうして一人味方が増えただけでも良しとしなければ。
「狂王クー・フーリン、女王メイヴ。そして元クリプターであるキリシュタリアとスカンジナビアの二人。要警戒対象はこの四人以外にはいないのですか?」
「私の知る限りではな。恐らくこの特異点に呼ばれたサーヴァントは私を含めて
「一部ただ黒いだけでほぼサーヴァントと言っていい個体もいたような……?」
微妙に認識の違いはあるようだが、ひとまずの方針は決まりそうだった。そんな空気を感じ取ったのか、スカサハがこちらに視線と話を向けてくる。
「それで、星見の長殿は納得して頂けたかな?」
「……ええ、あなたの話に乗ってあげる。精々その教鞭を振るってもらおうじゃない」
いわばこれは契約だ。サーヴァントとマスターではあっても、その主従が成立する類のものではない。けれどこちらが下につくのは何か違うと思うと、自然にそんな口調になっていた。
「あ、自分は遠慮させてもらおうかな。ちょっと別行動したいし」
そんな中、手を挙げてしれっと差し込んできたのは白フードのキャスターだ。一人一抜け発言をした彼(?)にスカサハが唸りながら尋ねる。
「そちらも中々やれそうだと睨んでいたのだが……他にやるべきことがあると?」
「そうそう、先にフジマルがどこに捕まったのかを明らかにしてこようと思ってね。それと敵がいつ攻め込んでくるかの調査もしたかったし」
「確か、私たちが来てから頻度が下がっているのよね?」
「ああ。妙だと思っていたが、そこの白フードが出会ったぺぺが言ってたんだろう? 待っていたカルデアの面々が揃った以上、いずれ大攻勢が始まるはずだ。それまでにあと何日残っているかが分かるのは大きいだろうな」
キャスターの提案にBチームリーダーが納得とばかりに頷く。
それは白フードが聞いたというペペの言葉だ。圧倒的な戦力差がありながらもギリギリの所で均衡を保っていた理由は知らないが、私たちの到着によってその必要もなくなったらしい。そのタイミングを計りながらも、鍛錬によってその戦力差を詰めていく。今打てる手としてはまぁ悪くはないだろう。
「ならアンジェリカも鍛錬よりカードの調整の方に集中してもらおうかしら。カルデア勢、現地民問わず一人でもカードを使えるようにしてちょうだい。夢幻召喚も出来るようにすればなお良しね」
「承知しました」
異論はないと首を縦に振ったアンジェリカも正直あまり戦力的には心配していない。フジマルの次に実戦経験を積んでいるし、そもそもカードの扱いがこの場の誰よりも優れている。それなら訓練よりは全体の底上げに貢献してもらった方がいい。
「では話はここまででいいだろう。動けるものは私と共に来い。早速指導を始めるとしよう」
「よし、よろしく頼む!」
「うむ。……ああ、先にこれだけは伝えておこう」
元気のいい返事をしたBチームリーダーに機嫌をよくしたのか、スカサハが振り返って言う。その表情を見て、何だかぞくりと一瞬鳥肌が立った。何故かしら。
「正直今回は時間がない。更に教える人数もそこそこ多い。よって多少厳しめにいくが、死ぬなよ?」
妖艶、なんて形容では生ぬるい。あれは獲物を前にした肉食獣の目だったと、後の私は知ることになる。
☆
「戻ったよー。みんな元気してるー?」
数日後、拠点に響いたのはキャスターの呑気な声。諸々の調査を終えたのだろうキャスターが、したり顔のままベースキャンプへと戻ってきて、その光景を見た。
思い出すのはキリシュタリアにやられた直後の砦の光景だ。誰も彼もが倒れ伏し、うめき声をあげる惨状が、再びその場に出現していた。
「うーん凄い
「なんだ、戻っていたのか『キャスター』。その様子では、決戦も近いということか」
「そういうことなんだけど、これもう決戦があった後の景色じゃない? どうしてこうなったの?」
一人悠々としているのは朱槍を携えた長髪の女性、スカサハだ。どう見ても犯人な彼女にキャスターが尋ねると、やれやれとばかりに首を横に振った。
「どうしたも何も、修行の途中で小休憩を挟んでいるだけだが。流石の私も素人相手に休みなしで付き合わせるほど鬼ではないのでな」
「……永遠のお休みに突入してはいないよね?」
「その方がマシだったかもしれないわね……」
キャスターの帰還を受けてよろよろと立ち上がる私。連日のしごきによってそう簡単には気絶出来なくなったことの賜物である。意識がなくても追撃してくるとかケルト式はどうなっているのか。鍛錬を抜け出して敵の本拠地へ殴り込みに行った方が楽なんじゃないかと思ったくらいだ。
「じゃあとりあえず無事だったということで報告するよ。まずは敵の大軍が動き出したって情報。こちらの前線とぶつかるまでは後二日ってところかな。なので大急ぎで戻ってきたんだけどこちらの準備は間に合いそう?」
「二日か……。今から伝達してギリギリってところだな。休息を挟んですぐ戦うことになりそうだが、情報があるだけでも有難い」
その辺りの統括を行っているBチームリーダーもどうにか立ち上がっていた。判明したリミットにあまり余裕はない。それが分かっているから疲れた体に鞭を打っているのだろう。
「あとフジマルがどこで捕まってるかも分かった。戦いが始まるまでに救出が間に合うかは、ちょっと分からないんだけど」
「そんなに厄介な所にいるわけ? 出来ればあいつも頭数に入れたいから先に回収したかったのに」
「厄介と言うか、方角が違うんだ。だから助けに行くなら今すぐにでも行かないと厳しそうなんだよね」
そういってキャスターが指差したのは、狂王の拠点があるとされたワシントンとは真逆の方向。遥か遠くの西を向いて、その牢獄の名を口にした。
「監獄島アルカトラズ。本来ならこの時代には存在しないはずの牢の中に、フジマルはいる」
こっちに参戦できそうなのが色んな意味でこの人しかいなかったんです。
少しテンポは早めですが、決戦はもうすぐ。
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