夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

46 / 47
予約投稿間違えたので再度投稿し直しています。
すみませんでした。


#37 率いる者の務め

【side:オルガマリー】

 

「私がまずあのバカ弟子を抑えよう」

 

 白のキャスターの帰還後、すぐに今後の動きを確認するべく主要人物の集まりが開かれた。時間が惜しいということで開口一番に宣言したのはスカサハだ。

 

「アイツ一人でこちらの軍が壊滅しかねないからな。ある程度前線を押し進めるまでの時間稼ぎは必要だろう」

 

「それは有難いのだけど、あなた一人でってことよね。任せていいの?」

 

「なんだ、私だけでは不足か?」

 

 こちらを軽く睨んでくるスカサハと視線を交わす。

 別に心配しているわけではない。あれだけのスパルタをした彼女の実力を疑うなどナンセンスだ。ただその提案が示す先を思うと、確認せざるを得なかった。

 最初会った時に彼女は「勝てるかは分からない」と言っている。そんな相手に足止めなど決して楽な道ではないし、そもそも生存できるかも不明瞭。要するに片道切符になる可能性が高いのだ。けれど、作戦を考えるとどうしても彼女にやってもらわなければならない。

 

「いいえ、聞いただけよ。むしろ聖杯ごと破壊しないようにしてちょうだい」

 

「ふふ、気に留めておくとも」

 

 そんな私の軽い葛藤を知ってか知らずか、彼女は薄く笑って受け止めるだけだった。何となく子供扱いされている気もするが、何もかも敵わないのは身に染みているのでこちらもそれに甘んじておくことにする。

 

「じゃあスカサハが狂王を抑えている間に、俺たちは前線を押し上げるってわけですね」

 

「ええ、その後はあくまでも突破ではなく戦線の維持に集中して。スカサハの訓練を思い出せばそれも不可能ではないでしょう?」

 

 私の言葉でBチームリーダーを含む何人かが苦笑するが、言った内容に関しては本気だ。現地の協力者たちにも全力を尽くしてもらうが、残念ながら殲滅はおろか撃退すら厳しい戦力差が私たちと相手方の間には存在する。たとえスカサハの教示があったとしても長くは持たないだろうが、その猶予を私たちは求めていた。

 

「彼らが前線を維持している間に私たちはワシントンへ向かい、集中させた戦力で一気に有力者を仕留める。この特異点が完全に侵攻される前にね」

 

 数も質も差は歴然だが、カードを完全に扱える人数に限ってはこちらの方が恐らく上だ。そのアドバンテージを活かさなければ、この特異点は攻略できないだろう。

 

「各個撃破が理想ですが、狂王とヴォーダイム、スカンジナビアの3人と同時に戦うことも想定しなければなりませんね」

 

「そこの分断はスカサハが頼みの綱ではあるけど……アンジェリカ、あなたはそこのキャスターと一緒にフジマルの救助に行きなさい」

 

「……いいのですか?」

 

 先ほど私がスカサハに投げたのと同種の問いをするアンジェリカ。戦力の分散など愚の骨頂だが、そこに考えが及んでいないわけではない。それでも貴重な戦力であるアンジェリカを割くのは決定事項だった。

 

「こうなった以上はフジマルの力も必要になるけど、あのぺぺが出張ってまで回収したのよ? そう易々と返してくれるかは分からないじゃない。だからあなたを使うのよ」

 

「あれ、こっちには期待してくれない感じ? 居場所を突き止めてきたのは自分なんだけど」

 

「私があなたのことを完全に信用してるわけないじゃない。それがなくても一人じゃ厳しいから戻ってきたんでしょうに」

 

 冷たく返されてはいるが、白のキャスターもその方針自体に異論はないようだった。よってフジマル救出チームのメンツはこの二人に決定する。狂王を抑えに行くスカサハを除いた残りのメンバーが私の率いる本陣となるだろう。

 

「今回はスピード勝負。これから私たちは現状持っているものを全て使い切る。躊躇う暇は不要よ、命まで即座にベットする覚悟を持ちなさい」

 

 カルデアの人間はもちろん、この時代を生きる人間であってもそれは同じだと激励する。生きたいのなら死ねというあまりにも矛盾した話だが、今回もやはり相手が悪い。そんな背景を知らない者がここにはいないことが唯一の幸運だった。

 

「――勝つわよ。立ち塞がるのがキリシュタリアだろうがケルトの王だろうが、負けるわけにはいかないの。こんな所で終わるわけにはいかないの。それは私だけじゃないでしょう?」

 

 自分に言い聞かせるような前半とは対照的に、後半は周囲へと問うように言葉を投げる。

 これが任務であれば使命感という鎖しかない以上、彼らが従うかどうかは分からなかっただろう。けれど生き残る為という大義名分を掲げたことで、私の望む戦力(どうぐ)は無事に手に入った。

 だからこの瞬間だけは所長というより司令官のように、己の手足となる彼らに告げる。

 

 それはいつかの管制室で見たような、それでいてどこか違う光景で――

 

「だから私の指示は絶対よ。意見も反論も後にして、ただその命を預けなさい。これもまた冠位指定(グランドオーダー)、未来を取り戻す戦いなのだから――!」

 

 

【side:???】

 

 白のキャスターの帰還から二日後、敵こと黒化英霊軍の全軍突撃が確認された。それを目の当たりにした最前線の戦士たちは気圧されながらも、事前に知らされていた為に動揺は小さかった。

 

 けれどその攻勢は圧倒的だ。真名や宝具が黒く塗りつぶされていても、その力が英霊由来であることに変わりはない。少しでも気を抜けば突破されてしまうようなギリギリの戦線。だからこそ攻め込んできた黒化英霊たちは、そこで予定外とぶつかることになったのだ。

 

「多少戦力が増えたようだが、そこは大した問題じゃねえ。すぐに轢き潰されるはずの奴らがしぶとく食い下がってやがる。アンタの仕業だな? ()()

 

「ご明察と言ってやりたいが、それは彼らの奮迅の賜物だろうさ。確かに()()()()()()だの教示はしたが、それだけでこうはなるまいよ」

 

 そんな現状を向かい合って言い合うのはかつての師弟。片やたった一人で敵の本拠地であるワシントン、その玉座まで到達したスカサハ。そんな突然の来訪をまさしく王の態度で出迎えたクー・フーリン、そのオルタ。そのどちらの手にも既に朱槍が握られている。

 瞬きの直後には血が舞っていそうな雰囲気の中、二人の間に割って入る声があった。

 

「馬鹿言わないでよスカサハ。烏合の衆でしかなかったあいつらをこの短期間で纏めるなんて、あなた以外に出来るわけないじゃない」

 

 玉座に腰を下ろしたままに言う女王メイヴは、スカサハへの敵意を隠そうともしていない。その実、ここに来たのは時間稼ぎの為でしかないスカサハはその話題を広げることを選ぶ。

 

「案外そうでもないぞ? 星見の長とやらもまぁ悪くはなかったしな。案外、痛い目を見るのはお主かもしれん」

 

「あなたにしては面白くない冗談ね。そんなにあの連中が気に入ったの?」

 

「ふふ、そうかもしれんな。らしくもなく若人に感化されて――いや、私もまだいけるとも。全然」

 

「あら、今度は面白いわね」

 

 ようやくメイヴは笑みを見せるが、それが最初で最後。時間切れだとばかりに赤黒い男が一歩を踏み出した。その顔には楽しもうとする色も、恩師を手にかけることへの躊躇いも一切ない。

 

「まさかアンタがそんな遺言でいいとはな。それ以上焼きが回る前に終わらせてやるのがせめてもの情けだ。ただただここで意味なく散っていけ」

 

「情けか、今のお前からそんな言葉が出てくるとはな。それは私がお前に手向けるものだとばかり思っていたよ」

 

 そして女もまた一歩距離を詰める。いつの間にかその両手に握られていた槍が、場の高まりと同調するように蠢動しはじめる。彼女にもまた、一切を躊躇する思考が存在していなかった。

 

「――折角の機会だ。影の国でまた、戯れるとしようか?」

 

 そうして始まった戦いの熱は、あらゆるモノを撫でていく。それは死を忘れた女でも、座したままの女王も、ただ定義された王として動く男も例外ではない。その白熱の先の末路を世界が知るのは、もう少し後のことである。

 

 ☆

 

【side:アンジェリカ】

 

「……到着しましたか」

 

 僅かに上がった息を整えながら呟く私は、白のキャスターの先導によって件のアルカトラズ島の土を踏むことに成功した。

 とにかく時間勝負な今回はボートを漕いでいる時間すら惜しいので、いつかと同じ要領で『織田信長(アーチャー)』の火縄銃による海上移動。多少の魔力は消費したが、速度と隠密を両立した悪くない移動手段だ。

 

「火縄銃をアスレチックの足場代わりにするなんて、案外アンジェリカもフジマル張りに突拍子がないというか……いや確かに全力疾走並みに早く着いたけど」

 

「妨害もあった前回と比べて、今回は真っ直ぐ道を伸ばすだけで十分でしたから。それよりもキャスター、フジマルは……」

 

「うん、この監獄の地下に恐らく幽閉されてる。中の構造までは分からないけど、それは確認済み」

 

 私たちの視線の先にあるのは島の中でも最大サイズの建造物だ。少しばかり時代を先取りして刑務所となったその要塞の周りには、見張りをしているらしい黒い影がいた。多少であれば蹴散らしてもいいのだが、さてどう突入するか。

 

「彼の救出で終わりではなく、所長たち本隊との合流及び聖杯の確保までと考えるとあまり消耗したくはないですね」

 

「出し切るにはまだまだ早いってことだね。じゃあ潜入任務としゃれ込もうか」

 

 方針が決まったと見るや、予め見つけておいたのだろう侵入ポイントへと向かおうとするキャスター。白フードで全身を隠したままなのでどう考えても目立つと思うのだが、私も特に隠密に向いた格好はしていないのでまず目視されないことを意識するしかないだろう。アサシンのカードでもあればまた別だったかもしれないが。

 

「! アンジェリカ、あれは……」

 

「まさかとは思いましたが、本当に配置していましたか」

 

 けれどそんな思考を中断せざるを得ない事態が起こる。

 監獄へと入ろうと動き出した私たちを牽制するように表の入り口から姿を見せたのは、黒い仮面を目元に着けた長身の男。実際に目にするのは初めてだが、あのキリシュタリアと同じレベルの警戒をするように言われている一人。

 

「スカンジナビア・ペペロンチーノ……。どうやらよっぽどフジマルが大事なようですね」

 

「……モテモテ、ってことなのかな」

 

 キャスターが何を呟いたのかは分からなかったが、茂みに隠れたままの私たちは一度止まるべきなのは明白だった。このタイミングで姿を見せたという事は、高確率でこちらの存在に気が付いている。このまま易々と中に入れてはもらえまい。

 

「奇襲します。キャスター、あなたは援護を」

 

「早いね判断。いいけど、これ成功する?」

 

「後手に回るよりはマシかと。恐らくこのまま戦闘に入りますが、私が彼を抑えますのでその隙に潜入してください。10分は保たせますので」

 

「うん、任された。だから任せたよ?」

 

 トントン拍子で作戦が切り替わったが、キャスターもそれなりに場馴れしているらしい。私がカードを取り出して手順を組み立てている間に、キャスターも一人で潜入する腹づもりを終えたようだった。

 

夢幻召喚(インストール)、ライダー」

 

 選んだのはここまでの移動にも使った金のカード。キャスターから聞いた情報では、スカンジナビアは強力なアーチャーのカードを用いるらしい。それでいて接近戦に持ち込んだフジマルを返り討ちにするだけの格闘術も素で有してるとなると、先程まで考えていた出し惜しみは愚策だと判断する。

 

 拳に意識を集中させ、その迸りを確かめてから狙いを定める。生半可な速度では成功するかは分からない。確実に叩き込む為に私の持ちうる手を確認すれば、選択すべきは一つだ。

 

「――――あら?」

 

「ふっ――!」

 

 空間置換。この特異点で私だけが行使できる魔術によって背後に飛んだ私の振り下ろしは――されど。

 

「やはり、気づいていたか……!」

 

「そんなことは――っ?!」

 

 そこは流石というべきか、咄嗟に交差させた両腕での防御を行うスカンジナビア。しかし私の攻撃を受け止めた直後、その表情が驚きから若干の苦悶へと変わった。

 

「電撃……二段構えってわけね。初めてからなかなかなご挨拶じゃないの、アンジェリカちゃん?」

 

「こちらとしても、あのタイミングからの奇襲に対応してみせるとは驚きです、スカンジナビア。……ちゃん?」

 

 接近戦の間合いで言葉を交わすが、既にスカンジナビアに電撃のダメージは残っていなさそうだ。お互いにすぐにでも追撃が出来るような距離感で、けれど私も彼も相手の手の内が明らかでない為に動かない。動けない。

 

「それに、カルデアで見た時よりもずっといい顔してるわね、あなた。仕事以外に興味ないと思ったら、こんなに仲間思いだったなんてね」

 

「これも仕事の一環にすぎませんが? あなたを封じ、彼を助ける。それ以上の意味は――」

 

「そうかしら? さっきの一撃、思った以上にビリビリ来ちゃったわよ?」

 

「…………」

 

 込めた電撃以上の刺激があったように言うスカンジナビア。絶対にそんなことはないのだが、妙に怪しく笑うせいで否定の言葉が出てこなかった。なんだか調子の狂う相手というか、初めて遭遇するタイプだった。

 

「まぁでも、これ以上悠長にはしていられないわね。お互いにそんな暇はないようだし」

 

「……あなたも話が早いのですね」

 

 スカンジナビアはその背後、監獄の方をチラリと見て言った。その先に進んでいった人物、白のキャスターの存在にも気づいているということだろう。追うにしても待つにしても、この場を制しなければ始まらない。

 

「本当はね、あなたのこともお茶に誘おうと思っていたのよ。こうなってしまうと分かっていたら、もっと早くそうしてたのに」

 

 残念そうに言うスカンジナビアは、やはり嘘を言っているようには見えない。カードを取り出しながらであっても、そのことは彼にとって本当のことなのだろう。

 

「けどそれは、過ぎたことです」

 

「それはそうね。だから代わりにここで――熱い話をするとしましょうか?」

 

 スカンジナビアの姿が変わり、その手に大弓が現れ始める瞬間に思考と四肢が加速する。その直後に響いた私のナックルとスカンジナビアの弓の鈍い激突が、戦いの始まりを告げる鐘の音となった。

 

 

【side:オルガマリー】

 

 そして。私もまた、その場に立っていた。

 

「――待っていました、所長」

 

「随分と早かったわね、キリシュタリア」

 

 ――あらゆるものを巻き込んだ戦の渦が、各地で廻り始めようとしていた。

 




☆Tips
 『織田信長』アーチャー
 所持者:アンジェリカ
 ステータス:原作同様

 十六世紀の日本で活躍した戦国武将。もちろんぐだぐだ時空のノッブ。なので火縄銃から出るのは謎のビームである。是非もないよね!
 クラスカードとしては逸話の通りに火縄銃を展開して戦うことが出来る。数で物を言う宝具な為か、数十丁位ならとてもコスパが良く扱いやすい(アンジェリカ談)。今作品ではもっぱら足場にされたりブースターとなったりと便利に使われている。ただし知名度補正が日本以外だとやや低めなので高威力とまではいかず、場の組み立て用として用いられる事が多い。
 アンジェリカが夢幻召喚するとツインテールはそのままに、軍帽付きの黒い軍服を纏った姿になる。マントは自分で外した模様。

[宝具]
 波旬変生(はじゅんへんじょう)三千大千天魔王(さんぜんだいせんてんまおう):A--

 バーサーカーへの上書きによるクラス継承で引き出した、『織田信長』の別側面による宝具。無数に展開した火縄銃からあらゆる神仏、己自身すら滅却する程の炎熱を放つ。アンジェリカでも一度の戦闘で撃てるのは一度きり。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。