夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#4 ローマの決戦

 

【side:オルガマリー】

 

 連合を追い詰めた私たちとネロの軍は決着を付けるべく、最後の都市への進撃を開始した。この特異点も終わりが近づいているのだけれど、フジマルは疲れを感じさせないどころか持ち前の明るさを取り戻しているようにすら見えた。

 

「それにしても追加召喚とは。フジマルだけずるくない?」

 

「その代わり俺は夢幻召喚しても恰好が変わらないんだ。俺もカッコいい甲冑や鎧、マントとか付けたいよ」

 

「私も出来ればそういったのがよかった。あの格好も嫌じゃないけど露出度がちょっと、ね」

 

「うむ、余も奏者にはもっと似合う装いがあると常々思っていた! 具体的は余と同じ紅いドレスをだな!」

 

「ネロ、やぶさかではないけれどまた今度ね?」

 

 あの夜から、随分と雰囲気が和らいでいる気がする。ずっと気を張っているのもよくないのでいい傾向だと思う。今更オンオフの切り替えが出来ない二人でもないので何も問題はないだろう。

 

『どうかしましたか所長、何か懸念でも?』

 

『……何でもないわよ』

 

 二人の会話は続く。マスター同士で積もる話もあるのか、年代が近いからか。フジマルは誰とも話せる人物だが、ハクノも系統が近い気がする。異国の皇帝が妙に気に入っている、というより懐いているのもそれが理由だったりするのだろうか。

 

「しかし、インストールだったか。姿を変えて強くなるとは面白い。やはり余には出来ないのか……?」

 

「どうなんですか、所長?」

 

『うーん、魔術回路が活かせるかどうかとカードの相性じゃないかしら。黒化英霊と戦える時点で魔力の扱いは出来ているとしても、相性だけは仕方ないわね』

 

『正確には英霊と使用者の波長が一致するかですね。それもどれだけ英霊の力が引き出せるかに関わってきます。ある程度の魔術師であれば大抵のカードは使えるはずですが』

 

「つまり、フジマルのカードを私が使うことも出来るし、私のカードをフジマルが使うことも出来るということか」

 

『そうなりますね』

 

 興味深そうにうなずくアンジェリカ。彼女としてもハクノが持っているカードには興味がつきないようだ。それと同じように、ハクノもフジマルが持っているカードに視線を向けていた。

 

「ねぇフジマル、ちょっと貸してみてくれない?」

 

「余にも貸すがよい!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 手を伸ばしたハクノ、ついでにネロ皇帝にもカードを奪われるフジマル。カルデアのマスターとしては情けない限りだった。帰ったらこの件でも説教しようかしら。

 

「「夢幻召喚!」」

 

 カードを持った二人が唱えると、光と共に二人の輪郭が一瞬ぼやける。ネロ皇帝も夢幻召喚に成功しているようで、姿が変わっていた。

 

「おお! この装束も見たことはないが悪くない! 欲を言えば、もう少し明るい色の方がよいのだが……」

 

「ちょっと、何なのこの恰好」

 

 赤いドレスから淡い紫の袴姿へと変わったネロが袖先をつまみながらぼやいた。確か日本、フジマルの故郷で見られる恰好だったと思うが、確かに戦闘向きとは思えない。英霊である以上そこはあまり関係ないのだが。

 その隣で頬を赤くするのは、腹部と胸元を大きく露出させたハクノだ。つまりネロがアサシン・佐々木小次郎のカードを、ハクノがライダー・ブーディカを夢幻召喚した結果、露出度が入れ替わった形になったようだ。

 

『夢幻召喚時の装いは使用者の魔力、英霊との相性や練度など色々な要素によって決まります。鍛錬の日が浅いフジマルと違ってハクノやネロはある程度の魔力を誇っているはず』

 

『つまり何よ?』

 

『それでもなお露出が多いのなら、練度が足りないか、或いはその英霊の趣味ということになります』

 

「どういうことなの勝利の女王。サーヴァントとして会えたのなら文句の一つでも言ってやる……!」

 

 珍しくハクノが声を荒げる。その拍子に魔力が昂ったのか、もう一度ハクノに光が集まって姿をもう一段階変化させた。彼女の意向に沿ったのか腹部が隠され、白いマントと王冠が追加されたことでまさしく女王といった様子だ。

 

「むっ、奏者は姿が変わるのか!?」

 

「はぁ、はぁ、えっと、なんだっけこれ。再臨だったっけ」

 

『違いますね。ですがカードの力をより深く引き出せたのでしょう。流石はハクノと言ったところでしょうか』

 

『いや、英霊の方が合わせてくれたんじゃないかしら』

 

「俺もそう思います……」

 

 こんなことでクレームを入れられてはたまらないのかもしれない。現にむむむむと気張っているネロの姿は一向に変化する気配がなかった。しばらくして諦めたのか、召喚を解いてカードをフジマルの方に投げた。ハクノもそれに合わせるように召喚を解いた。

 

「多分ね。装備が増えただけで力が増した気はしなかったし。話の分かる英霊だった……」

 

「英霊、か……」

 

「どうしたのネロ、何か気になるの?」

 

 英霊という単語に反応したネロ皇帝が、僅かに視線を下げた。

 

「奏者たちの話では、様々な時代の英雄が人類史に名を連ねている。そうだったな?」

 

『そうね。その時代の英雄が死後に人々によって祀り上げられることで英霊となり、座に刻まれる。連合の黒化英霊も元はそこから。かつてのローマ皇帝もこの時代、そして先の時代の人間によって英霊となったのね』

 

「うむ、やはりそうなのだな。なら、余は……」

 

 そう言って口を閉じたネロを、不思議そうに見つめるフジマル。彼とは対照的に、ハクノは少し考え込むような、何かを思い出したような顔になった。

 

「さて、そろそろ到着だ。行くぞ奏者、フジマル!」

 

「はい!」

 

「分かった」

 

 目的地が見えた次の瞬間に、軍を率いる皇帝の顔に戻っていた。それにつられるように、フジマルとハクノの二人も気を引き締めなおしていた。

 

 

 

 

 そうしてたどり着いたのは突如とした出現した最初の都市であり、ローマの首都に酷似した場所。そして今や連合に残る最後の城である。敵側の集めた魔獣が蔓延っているようだが、もちろんそんなものはフジマルたちの障害ではない。

 

「来たか、愛し子」

 

「やはり建国王ロムルス、あなたなのだな」

 

 偽りの王宮の最深部で待ち構えていたのはローマの始祖たる男、神祖ロムルス。今まで対峙してきたどの歴代ローマ皇帝にも動じなかったネロが、顔色を変えた。

 

「然り。私が、私こそが、ローマだ」

 

「そう、なのだな。うむ、一目見ただけで分かってしまった。その在り方はまさしくローマそのものだ」

 

 ローマそのものと言われるだけはあるのか、今まで戦ったどのローマ皇帝の黒化英霊よりも威圧感を放っていた。意思の強さからも聖杯の力が分けられていると見て間違いないだろう。

 

「私の元へ来るがいい。帰ってくるがいい、愛し子よ。私はお前を許そう、連合として受け入れよう。お前のすべてを、私は愛してみせよう」

 

「そうか。ローマたるあなたから言われるのなら、それも悪くないのかもしれぬ」

 

 一歩、ネロが踏み出した。

 

「余のローマが間違いであるとあなたが言うのなら、理解も出来よう」

 

 また一歩、惹かれるように先頭に出るネロ。いわば後輩であるネロにとって神祖ロムルスの存在はあまりに眩しいものなのだろう。見かねたフジマルが手を伸ばそうとして――

 

「ネロ」

 

 それより早くハクノが口を開いた。焦りでもなく、心配でもなく、ただ信頼の目をネロの背中に向けていた。彼女にもそれが分かっているのか、振り返らずにネロは答える。

 

「しかし、しかしだ神祖ロムルスよ! 余は既に知っている。余の生きる道を、余として貫き通すことは醜いものではないのだと!」

 

「……そうか、もう成っているのか。いい出会いがあったのだな」

 

 ロムルスの視線がハクノ、そしてフジマルを貫く。敵対していながらも、慈愛に満ちたその瞳で。

 

「建国王を前にしては余であっても恐れがあると、そう思っていた。だが、不思議と落ち着いているのはそんな確信があるからだ、神祖ロムルスよ!」

 

 そう言い放つネロの顔は自信に満ちていた。覚悟を済ませた迷いなき瞳で、共に立つ者たちに覇気を与える声で、連合を断罪する。

 

「民の笑顔なき連合なぞ紛い物であり、余の国こそが、余のローマこそが至高であると! 余と我が元に集った強者たちを剣として、そなたに対峙する!」

 

 ネロの愛剣である原初の火、深紅の剣をロムルスへまっすぐに突きつけた。続くようにハクノとフジマルがネロに並ぶ。この戦いは特異点を修復する為のものであるのと同時に、彼女の為の戦いでもあると、彼女自身に証明させるために。

 

「よかろう、ならば来るがいい。ネロ・クラウディウス! ネロが認めし剣たちよ!」

 

 ネロの宣誓を受けてロムルスの手に巨大な槍が握られる。槍と言ったのは示されたクラスがランサーだったからであり、そうでなければおおよそ槍とは呼ばなかっただろう。持ち手を中心に太い木の幹が広がるようにくっついていた。

 

「マグナ・ウォルイッセ・マグヌム! あれも宝具だから注意して!」

 

「了解!」

 

「任せよ!」

 

 駆け出したネロを追う形でフジマルも剣を構える。アサシンとライダーの二枚を追加召喚した状態であれば、ネロとロムルス、剣と槍が激しい火花を散らす戦場にも斬り込める――!

 

「はぁあああ!」

 

「せぇい!」

 

 紅い剣戟が舞い、隙間を補うように風が刺す。ある時は気配を抑えた斬撃として、ある時は呪符によるつむじ風として、さらに熱が上がっていく。対する神祖も熱を感じていると言わんばかりに笑みを深めていた。

 

「よい。それがお前の輝きか。それがお前のローマか」

 

「そうだ、余の情熱が伝わっているか建国王よ!」

 

「いかにも。だが、まだまだ。灯火足るには届かぬ! すべては我が槍に通じる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)!」

 

 ロムルスが槍を床に突き刺すと同時に空気が揺れる。震えの中心はまさにロムルスの槍であり、槍から木へ、大樹を超えて森というべき奔流が三人を飲み込まんと現れた。その場での防御を選択した二人と違って回避行動を取ったフジマルが、その勢いに押されるように後方に下げられる。

 

〈真名解放よ! 凌ぎなさい!〉

 

「言われなくても! 送還(アンインストール)!」

 

 床から跳躍するのと同時にカードを絞って魔力を高めるフジマル。縦横無尽に追尾してくる木の幹に対抗するための手段として、宝具の使用かつ真名解放をするために。単なる力の上乗せとは違い、必要な存在を魔力を以てして出現させるためでもある。

 

「真名解放、この道の先に勝利を! 約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブティカ)!」

 

 突如として現れた戦車に足をつけて手綱を握った瞬間に、フジマルが空を滑りだした。そのまま呪符の火で勢いを止めていたハクノと、引き離されまいと剣を振るうネロの元へと向かう。

 

「ネロ! 白野!」

 

「フジマル、その戦車は――」

 

「それに乗って逃げる、って感じじゃないね」

 

「ごめん、これはそういう宝具じゃないんだ」

 

 二人の元に何とか戻ったのと同時に戦車が消える。その代わりに三人を囲うように魔力障壁が出現した。宝具の実体よりも効果だけを抽出して残したようで、少し勢いが和らいでいた。

 

「奏者、フジマル、この大樹を斬って解った。これはローマなのだ。あらゆる時代のローマが込められているのだ。余は、これと相対せねばならん」

 

「気づいたか、我が子よ。これもお前にむける愛の一つ。どうする、ネロ」

 

「決まっている、余の情熱(ほのお)でもって凌駕してくれる! 奏者、フジマル、力を貸すがよい!」

 

 無言で頷いたフジマルが剣に力を込める。そのまま魔力障壁の外へと飛び出し、ローマたる大木の中を切り開き、進んでいく。その刃は砦の時同様に光り輝いていた。

 

「アンドラスタに誓って、道を拓く!」

 

「よもやその輝きは、勝利の女王が、ローマに刃を向けんとするか!」

 

 宝具の連続使用はフジマルの残存魔力が足りず行えない。しかしローマの始祖相手であればこのスキルは猛威を振るうと分かっていた。それでも、ローマのすべてを振り切るにはあまりに小さい。

 

「多分違うよ。あなたを倒すのは俺じゃないから。これは、ネロの戦いなんだ」

 

 フジマルの剣がまとう金の光の残滓に、紅い花弁がふいに混ざる。燃える炎よりも紅く、熱い情熱が戦場に満ちていく。

 

「我が才を見よ!」

 

 フジマルの後方で薔薇が舞う。皇帝がうたう。己のローマを愛し統べる者として、己がローマを示す為に。

 

「させん。すべてはわが愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)!」

 

『第二宝具!? まだ手を隠していたの!?』

 

 ネロを狙うように床が隆起し、打ち上げ押しつぶさんとする凶器として迫る。無防備になった瞬間に放たれた攻撃が――

 

上書き(オーバーライト)

 

 ――皇帝を守る白い斬撃によってねじ伏せられる。無論フジマルのものではない。低い体勢のままに薙ぎ払った少女は、皇帝に付き従うナイトのように剣を床に突き刺して構えた。

 ところどころにジッパーが走ってはいるが、それでも形容するのなら花嫁姿(ブライド)だった。ハクノが使ったもう一つのカードはセイバー。纏う剣は白い原初の火(アエストゥス・エストゥス)であることからおそらくその真名は。

 

「万雷の喝采を聞け!」

 

「インぺリウムの誉れをここに」

 

 舞い散る紅白の花びらが渦を巻く。もはや邪魔は入らず、観客も揃い踏み。熱狂も高まり、舞台はここに整った。二人の声がその始まりを告げる。

 

「咲き誇る花のごとく……」

 

「「開け! 黄金の劇場よ!」」

 

 四人の立つ壇上がその装いを一変させる。ネロ・クラウディウスが誇る絢爛華麗な劇場が出現し、主役はただ一人の少女に絞られた。それ故に大樹は消え、すべての要素が彼女の剣として集中する。

 

「おぉ、おぉ、これが。ネロ、お前の劇場か――!」

 

 元に戻った槍を携え、神祖は大きく賞賛の意を示した。それほどまでに華々しく、輝ける空間だった。そのすべては、この戦いのピリオドを打つために。

 

「しかして讃えよ! 童女舞う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!」

「謳え! 星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)!」

 

 紅白の輝きが炎のように、星のように劇場を走る。敵役が槍を振るうも炎を貫いた所で鎮めることは出来ず、星の輝きもまた然り。

 

「輝ける愛、見事だネロ。帝国のすべてをお前と、後の者に託す」

 

「……任せておくがいい、神祖ロムルスよ。余のローマを見ているがよい」

 

「忘れるな、ローマは、永遠なのだ……」

 

 ロムルスの身体が崩れ落ち、一枚のカードがその場に残る。

 今ここに、天幕は落ちたのだ。

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