夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#4.5 奏者の役目

 

【side:白野】

 

「…………ん?」

 

 気がつくと私は、荒原にポツリと突っ立っているのに気づいた。というかなんでここにいるのかも分からない。

 見下ろした自分の恰好はショートパンツにポケットが多く付けられた大きめの上着を羽織ったもので、イメージとしてはライトな探検家と言ったものだった。けどこんな所まで探検に来た記憶はない。そもそも私は誰だったっけ。自分の名前もなんだかぼんやりとしている気がする。

 

「フランシスコ・ザビ――いや違う、私は岸波白野。大丈夫、覚えてる」

 

 気のせいだった。気の迷いで別の名前を言いかけたが何とか思い出せたようだ。しかしそれ以上が出てこない。ここに来るまで何をしていたのか。その行動が何のためなのか。すっぽりと抜け落ちてしまっている。そのことに不安はあれど、不思議と焦燥感はなかった。

 自分が何者か分からない状態に慣れている、或いは麻痺しているような感覚。それよりも強く感じるのは使命感だ。為すべきことの為に、足に力を入れ、拳を握りしめているような。

 

「ん、なんだろうこれ」

 

 握りしめているのは拳ではない別の何かであることに気づき、持ち上げてみる。固いカードのようなそれは私の掌と変わらない大きさで、古びた黄金色と共にどこか見覚えのある絵が刻まれていた。しかも複数枚で細部が異なり、それぞれ剣や杖、弓を携えている。

 

「セイバー、アーチャー、キャスター……。その名前、どこかで――」

 

 ふいに自分の口から零れた言葉が頭の中で反響する。この名称を私は知っている。けど、どこで聞いたものだろうか。必死に思い出そうとして首を持ち上げて、視界に入ったもので思考が一旦止まってしまった。

 

「光の、輪?」

 

 見上げた青空に蓋をするかの如く、巨大な光の線が輪を描いていた。間違いなく異端の出来事なのだと、現状の把握が出来ていない私でも理解できた。ここはきっと、私が知っている世界ではない。ならば、まずは情報を集めなくてはならない。

 

「声が聞こえる?」

 

 近くに町ないし人がいないかと見渡していると、風に乗ってどこからか喧騒が聞こえてきた。いつまでも同じ場所にいるわけにもいかないのでその方角に向かって歩を進める。次第に怒号や何かがぶつかり合う音も次第に聞こえ始め、争いの音であることの確信がだんだんと強くなった。

 

「――り込め! 余は――」

 

 近づいていくに連れ、声がより鮮明になっていく。兵士たちが槍や剣で戦っていることから時代背景、産業革命も起こっていない遥か昔であることを認識しつつ、声の在りかを知るために更に近づいていく。

 途中から一人の声に自然と狙いを絞っていた。男たちの野太い声が飛び交う中でも凛とした響きを持つあの声が、私の耳にすっと入ってくるようだった。ずっと近くで聞いていたいような、元気の湧くあの声を。

 

「あなたは――」

 

 その姿を捉えた途端、意識が向くよりも先に足が動いていた。それは戦場に咲いた紅い薔薇であり、その輝きが損なわれようとしているその間際。助けよう、ではなくその場に自分がいないことに強い違和感があったから。戦場という舞台に立つための資格を持っている今の私が、行かない理由はない――!

 

夢幻召喚(インストール)!」

 

「何っ!?」

 

「なんだと!?」

 

 赤い巨体の男と紅い少女の打ち合いに割り込む形で突貫した。彼女の邪魔にならないタイミングを、知らない私が熟知していた。自分の姿が白い装束に変わると共に現れた初めて見る/久しぶりに見た白い剣を、男に向かって連続で振るう。

 

「はぁあああ!」

 

「なんだ、なんなのだお前は! 何故その剣を!」

 

 見た目とは裏腹に、巨体の男は鋭いステップで私の剣撃を躱していく。彼が時折振るう剣も私の速度とあまり違いがなく、どうも重量感とのミスマッチを感じる。簡単に言ってしまえば人間離れしている存在であり、研ぎ澄まされていく感覚と共に解放されていく記憶の中であるものと合致した。

 

「この感じ、サーヴァント!」

 

「ほう、珍しい単語を口にするものだな? やはりお前は、ここの人間ではないな?」

 

「そなたは、一体……」

 

 謎の闖入者に目を丸くする少女に目を向ける。まとめられた金髪に宝石のような緑の瞳。小柄で可愛らしい顔。細くて白い足がよく見える紅いドレスに、燃えるような熱を感じる紅い剣を携えた少女。私のよく知る、剣でありパートナーである■■■■その人だ。ただ、あの時との最大の違いは――

 

「久しぶりだね、ネロ。今度は私も貴方の剣として、一緒に戦うよ」

 

 舞台を盛り上げる奏者として、貴方と並びたてることだ。

 

 

 

 

「つまり、そなたは先の世から来たと?」

 

「まぁ、そうなるね」

 

「むむむむ……」

 

 どうにか二人で巨体の男セイバーを倒した後、私は王宮まで連れてこられることになった。再会できたテンションで割り込んでしまったが、私の知る彼女とここにいる彼女は同一人物ではあるが別物であることは明白だった。自分のよく知る人物が自分のことを知らないというのは、やはり辛いのだが初めてではなかったので、何とか表情を崩さずにいられた。

 

「ならば、この先に何が起こるのか知っているのか? この戦いがどうなるのか」

 

「それはちょっと分からない。私もこの時代、このローマに最近来たばかりなんだ」

 

「おかしな言いぐさをするな? 他の場所から渡ってきた、そう言いたいのか?」

 

 カードを夢幻召喚した際に蘇った記憶。それは私がいくつもの世界を転々としてきているという事実だった。しかしながら記憶が完全に戻ったわけではなく、以前いたのが鬼ヶ島だったことやもっと昔、聖杯戦争に参加していた時の記憶が一部戻ってきただけである。それでも今の自分の状況を把握するには大きな助けとなっていた。

 

「うん。そのあちこちでさっき戦ったような相手と出くわすことがあった。彼らは英霊、死後人々によって祀り上げられた人物なんだよ」

 

「ではやはり、さっきのカエサル殿は偽物なぞではなく本人なのだな? それでは、侵攻を目論む連合、皇帝とは……!」

 

 敵の正体を知ったネロが表情を曇らせる。この時代に存在しないはずの者が英霊となって牙を向いている。その者たちは連合を名乗り、ネロが支配する帝国に攻撃を仕掛けているとのことだった。サーヴァント相手ではこの時代の人間では相手にならないだろう。ネロ自身はかつていた宮廷魔術師のおかげでその剣に神秘を纏っており、故に攻撃が届いているとのこと。しかしネロ一人で連合全てを相手に出来るはずもなく、徐々に追い込まれているようだった。

 

「一国の主としては不甲斐ないが頼みがある。岸波白野よ、ぜひ力を貸してほしい」

 

「もちろんだよネロ。きっと私は、その為にここへ来たんだ」

 

 私が快諾すると、ようやくネロが顔を綻ばせた。人の上に立つ皇帝として、決して弱みは見せられない。あの天真爛漫な笑顔に慣れている私から見れば、引き締めた表情は仮面のようで、それが少し嫌だった。私の行動次第で彼女に笑顔が戻るのなら、いくらでもやってやる。だからこそある提案をした。

 

「私からの提案なんだけど、このカードを使ってみてくれない?」

 

「カードというのは、そなたやカエサル殿が持っていたそのカードのことか? 余でも使えるモノなのか?」

 

「多分大丈夫だと思う。宮廷魔術師からの教えで魔術回路は活きてるみたいだし、夢幻召喚できれば連合との戦いも楽になると思う」

 

「おぉ! ならば貸すがよい! 戦場で姿が変わるというのは心が踊ったのでな!」

 

 乗り気になったネロにセイバーのカードを渡す。渡してしまう。

 今語った通り、ネロの戦力アップを狙ったもので他意はなかった。或いは、焦りだったのかもしれない。自分でも戦えるだけの力をくれるカードのことを過信していたのかもしれない。それ故に、本人が自分のカードを使うことの意味を考えなかったことが、失敗だった。

 

「夢幻召喚っ…………これ、は?」

 

「ネロ!?」

 

 カードを使ったネロの様子がおかしい。紅い装束のところどころが不自然に黒く歪んでいる。それ以上にネロの顔が真っ青になり、瞳から光が消える。口から漏れた声が大きくなり、次第に叫びとなって部屋中に響き渡る。

 

「ああああああああああああああああ!?!?」

 

「ネロっ!」

 

 無我夢中で排出術式を組み上げた手でネロに触れる。胸元からカードを引き抜くように夢幻召喚を解くと、ネロの身体が力なく崩れ落ちた。慌てて支えると、虚ろな目でつぶやく声を拾った。

 

「……あり得ぬ……あり得ぬ……余が、あんな、最期を……」

 

「最期って、まさ、か……」

 

 急に倒れこんだ皇帝に付き人や護衛たちが慌てて近寄ってきて、誰もが混乱する中で私もネロから引き離されてしまった。ネロの浮かべた苦悶の表情が、目に焼き付いたままに。

 

 

 

 

「…………」

 

 あの後私は皇帝を害したとみなされて、鎖に繋がれていた。抵抗は出来たはずだが、今まで見たことのない顔をしたネロに私自身も放心してしまいそれどころではなかったのだ。そのまま部屋と廊下を隔てる鉄格子の内側に入れられ、薄暗い牢屋の壁に自分の体重を預けていた。ひんやりした石の感触で気持ちを落ちつけつつ、思考をまとめようとする。

 

「ネロの、あの表情はきっと」

 

 今も頭から離れない、ショックを隠しきれないネロの様子を思い出す。もちろん原因は夢幻召喚してしまったことにあるはずだ。クラスカードのことは直感的な理解しかしていないが、座から英霊の力、すなわち情報のみを自分の身体に降ろしている。座の情報とはつまり、その英霊が人類史に刻んだ記録。今を生きるネロからすれば、そこにはまだ自分の知らない未来の情報も含まれている。

 

「あの最期を、視てしまった……」

 

 第五代皇帝ネロ・クラウディウスが辿る末路。愛を知らず、失意の中に沈む自分の姿を、その瞳で捉えてしまった。勝てるかも分からない強大な敵との戦いで疲弊し、出会った助っ人からもたらされた悲惨な未来。それを知って、彼女が受けた衝撃は如何ほどのものか。

 

「私のサーヴァントじゃない、■■■■じゃないネロ」

 

 全ては私が犯したミスだ。カードを不用意に使わせてしまったことも、意気消沈したネロのそばにいられていない、この現状もきっとそうだ。段々と自分の不甲斐なさに腹が立ってきた。こんなところで自分は何をしているというのか。落ち込む権利なぞ自分にはないはずだ。

 

「行こう、ネロのところに」

 

 私の動揺はもう十分だろう。自分の所為で足を止めてしまった少女の手を、自分が引かねばならない。責任や償いではなく、自分の望みとして。

 けれど立ち上がろうとするよりも早く、コツリと足音が私の元に到達していた。

 

「その必要はない」

 

「ネロ……」

 

 いつの間に現れたのか、ネロ・クラウディウスその人が目の前にいた。先ほどまでの動揺などどこ吹く風と言わんばかりの、揺るぎない瞳で私を射貫く。

 

「見苦しい姿を見せたな、客人よ。余ともあろう者があのような醜態を晒すなど恥である。よって、すぐに忘れるがよい。よいな?」

 

「え? いや、それは」

 

 異論は許さないという威圧感と共に放たれた言葉。そこに気恥ずかしさなど微塵もなく、忌々しさの念しか――いや違う。それが強がりのものであると、私には分かってしまった。

 

「別にそなたに罪はない、そうであろう? この時代にないものを使ったから混乱が生じた。それで余の調子が僅かに狂った。この度の一件はそれで終わりなのだ」

 

「…………」

 

「だから、あの光景は余には関係のないものだ。そうだな?」

 

 一度そうだと気付けば、何もかもが見せかけであることにもすぐに行きついた。蒼白な顔も、震えの止まらぬ足も、全てを皇帝に足る姿というベールで隠したまま、彼女は私の元に来た。ソレを否定出来る唯一の存在に。それほどまでに、彼女は追い詰められているのだろうか。

 

「…………」

 

 知らせた者の責任として、正しいはどちらかと思案する。すぐにそれ自体が馬鹿げたものだと切り上げる。ネロを知る者として思う所はただ一つ、今のネロはらしくない。だから、紡ぐ言葉に迷いはなくなった。

 

「違う、何も間違ってない。私の知るネロは――」

 

 一閃。斬り捨てられた鉄格子が音を立てて床に転がる。私の言葉を遮るようにネロが剣を振るったのだと遅れて気づく。ここにいるのは私の知るネロではなく、暴君であると突きつけられる。

 

「よく聞こえぬ。もう一度だけ口を開くことを許そう。あのカードがもたらしたものは、余には全く関係のないものだと、それだけを告げるがよい」

 

 敵意、憤慨。命令の中に込められているのはそういった冷たいものばかりだった。それでも私に怯えなんて微塵も生まれない。ただ取り繕っているだけのものには今更動じない。むしろ懐かしさすら感じていた。月の■側でこんなネロに出会った時のことがフラッシュバックする。そうだ、今のネロは全くもってらしくない。

 

「何度だって言うよ、何も間違ってないって。どんなものが見えたかなんて予想しかしてないけれど、それが史実のネロ・クラウディウスだ!」

 

「言いおったな貴様! そんなわけがないであろう! この余があのような最期を迎えるわけがない、余の帝政が間違いだとでもいうのか!? かつての皇帝が敵に回っているのは余を否定する為か!?」

 

「そんなわけない。あれはこの時代のイレギュラー。ネロはよくやってた方だよ」

 

「そんなわけなかろう! 余の軍勢もいずれは押されてしまう、今そなたの助けがなければどうなっていたかなど不明瞭だ! いっそ連合に下るべきかとも思ったほどだ! そんな時に何故あんなモノを見せたのだ、自信の一つもなくすというものだぞ……」

 

 冷徹なんかではなく、怯えの色を見せるネロについ勢いで言い放ってしまった。その結果としてネロも口調を荒げて胸の内を吐露してくれた。皇帝として、決して人前に出さないはずの弱音。一人の少女としての、当たり前の叫び。

 

「それでも貴方は、皇帝なんだ。いつでも自信満々で、ワガママで、自分の道を違えない。それがあなたじゃなかったの?」

 

 結局これは私のワガママでもある。サーヴァントのネロと今を生きるネロは別人で、自分の生き方にまだ結論をつけられていない。そんなネロに生き方を押し付ける形になってしまったが、別に嫌われても構わなかった。だって、弱気になっているネロを見る方が辛くて嫌だから。

 

「何故だ、何故そこまで言い切れる! そなたは余の何なのだ! 何を知っている!」

 

 ――そんなの決まっている。

 

「私はセイバーのマスターだ。あなたのことは月よりも知っている。剣を預けた者として、共に戦った者として、だからこそここにいるんだ!」

 

「セイ、バー……」

 

「あなたは連合なんかに負けない。何も間違ってなんかいない。ああそうだ、最期なんて関係ない。二千年経っても貴方の輝きは損なわれない。月の彼方にまで、ちゃんと届いたんだから」

 

 その煌めきに救われた一人として、こんな所で膝を折ってほしくない。思いの丈をぶつけて溜飲が下がったのか、少しだけ視界が広くなる。

 

「月の彼方から、そなたは来たのか? いや、知っている? 余も、そこにいた……?」

 

 呆然としたネロの目が揺れる。何かを思い出しているのか、いや思い知っているのか。いつか■■■■が言っていた座のことを思い出す。聖杯戦争に参加した英霊はその時のことを記録として座に持ち帰ることがあり、当人に強い影響を与えた出来事を引き継ぐこともあるそうだ。本人がカードを介して座と繋がった時に、或いは。そんなもしかしたらの可能性に、つい顔が綻んだ。

 

「……いや、分からぬ。分からぬが、余はそなたを知っている気がする。奏者の声が耳に心地よいのもそのせいか?」

 

「今、奏者って」

 

「む? そういえば口にしたな。奏者、奏者か。うむ! しっくりくるな!」

 

 そう言うネロが発見とばかりに微笑む。私の言葉なのか、夢幻召喚した思わぬ効果なのかは分からない。それでも、見せかけの仮面は既に消失していた。

 

「奏者よ、あの光景は余には関係ないのだな?」

 

「……それは私の知る過去の話であって、今のネロの話じゃない。この先どうなるかは分からないよ」

 

 これだけは少し嘘だ。今起きてるコトが異常であり、解決すればきっと本来の歴史に戻る。何故だかそんな確信がある。だからきっとネロの最期も同様なのかもしれない。でも、それを変えようという気は起こらない。だって重要なのはそこじゃないから。

 

「けれどその先で私と出会った時、貴方は笑っていたから。きっと大丈夫」

 

「……うむ、そうか。それはいい出会いをしたのだな」

 

「うん、間違いなく。それは私が保証するよ」

 

「よし、ならば話は済んだ。こんな所とはおさらばだな!」

 

 そう言われて自分が牢屋にいたことを思い出す。いつかのことを思い出せば別に辛くもなんともなかったが、いつまでもいる場所じゃない。出口も既にネロが開いてくれている。

 

「行くぞ奏者よ! 共に連合とやらも蹴散らしてくれようぞ!」

 

 もう暗い影はどこにもない。あるのはただ力強く在る一輪の薔薇。そんな笑顔を咲かせたネロが、手を伸ばす。

 

「うん、行こう」

 

 

 

 

 皇帝はここに君臨する。異境のマスターの二人を連れて、連合と相対する。

 

 その在り方は、建国の祖にも負けることはなく。

 

 今ここに、劇場へ万雷の喝采が贈られる。

 




少し時系列が前後してカルデアが来る前のお話です。
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