夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。



#5 衝撃

 

【side:オルガマリー】

 

『ムーンセル、ね。そんな馬鹿げたものが月にあるなんて、そちらも大概な世界のようね』

 

「人類が滅んで特異点が生まれて、光輪なんてものが出現してるそちらの世界も大概では。こっちはまだ人類踏ん張ってたから」

 

『私たちだって別に滅んでないわよ踏ん張ってるわよ!? だからこうして話を聞いてるんじゃない』

 

 時は少し遡って砦突入前夜。私、オルガマリーと岸波白野は語らいを続けていた。或いは事情聴取とも言うかもしれないが。題目は今の私たちの本懐、英霊召喚についてだ。

 

「そうは言っても、私もあまり詳しいとは言えない。又聞きになるけどそれでいいのなら」

 

『構わないわ。少しでも情報が欲しいもの。やはり、聖杯戦争で召喚したのね?』

 

「そう、その後■■■■から聞いた話になるけど、私たちの聖杯戦争ではムーンセルそのものが聖杯だった。その操縦権を誰の手に委ねるかを聖杯自身が決めようとした。その時にムーンセルがサーヴァントをマスターに割り当てた、って感じかな」

 

『つまり英霊召喚自体を司っていたのはムーンセル、聖杯だったのね』

 

 結局は聖杯在りきなのか。そう思ったが微妙に違うらしい。ムーンセルは地球の観測器らしく、その中で記録した英霊を自らの電脳世界に再現しているとのこと。まさしく境界記録帯(ゴーストライナー)だ。いわば自前の書庫から特定の本を出している、というイメージだろうか。

 

「私が知ってるのはこれくらいかな。参考になりそう?」

 

『悪いけど、システムが違いすぎて参考にならなかったかも。そんなものがあるのなら、システムの構築に苦汁を飲まされることだってないだろうから』

 

 カルデアが構築しようとしたのはクラスカードを発展させ、英霊そのものを召喚し使い魔にするシステムである。元々聖杯なしでカードの術式を成り立たせていること、魔力は電力を変換したもので十二分にある、そういった理由から十分に到達可能であるとされ、私もそう思っていた。

 

『けど、何かが足りない。召喚術式でもなく魔力リソースでもなく、別の何かが』

 

「うーん。何となく思い違いがある気がする」

 

『思い違い? 思い当たる要因があるの?』

 

「呼ばれる英霊のことを考えてないんじゃない? 彼らにも召喚に応じるかを選ぶ権利があるんじゃなかった?」

 

『何よそれ……。英霊に召喚自体を拒まれているっていうの!?』

 

 存外だとつい口調が荒くなるが、どこか腑に落ちるような感覚もあった。私たちはクラスカードを使って英霊の力を行使しているが、本来の持ち主はそれをどう感じているのか。そういった人格や意識を潰した上での疑似召喚を不快に思い、当人が応じることを否としたというのか。

 

「それでも物好きの一人ですら召喚に応じてくれないとは思えないから、やっぱり足りない何かがあるんだと思う。そっちの専門家は何か言ってないの?」

 

『専門家、ね……』

 

 脳裏に浮かんだあの男のことを思い出し、口元が歪む。普段からこういったことを相談できるのは彼くらいのものだった。しかし降霊術の専門家ではない為、いたとしても妙案が出てくることはきっと、多分ない。

 アンジェリカもクラスカードの専門家であって畑違いである。彼女自身の言葉でこれ以上はお手上げだと半ば匙を投げている。それでも研究に協力してくれるだけ助かっているが、やはりそれだけでは届かないだろう。

 正しい意味での専門家は先代であり、もうここにはいない人間だ。結局、成す術なしということなのか。

 

「戦う理由としては申し分なさそうなものだけど。世界を救う旅、それでもまだ足りないんだとしたら、もっと別のアプローチで考えるべきなのかも」

 

『そうね。特異点のどこかにあったりしないかしら、英雄が集う意味のあるモノが』

 

 なんとなしに現実味のない願望が零れる。そんなものがあるのなら、その時は。

 

『その時は、何としてでも手に入れなきゃね』

 

 

 

 

 だからこそ、気づくことが出来た。

 

「この程度で調子に乗るとは、いやはや全くもって度し難い!」

 

 ロムルスを倒したところでまだこの特異点にはレフ・ライノールがいること、ではない。私たちカルデアの目的は特異点の原因たる聖杯の回収。ロムルスの手にないのなら当然別の誰かが持っていることは明確だったからだ。

 

「たかがクラスカードにしか頼れないカス共め。いい加減、身の程を知るがいい」

 

 たった一人残されたこの男が無策でいるはずはないとも分かっていた。主の去った王の間に、我が物顔で現れたレフの顔は、冬木で見たあの凄惨な笑みが貼り付けられたままだった。あいつはこの状況を楽しんでいる。あり得るはずのないジャイアントキリングを、それを為せると愚かにも信じる私たちの足掻きを。

 

「来たれ、来たれ――! 生贄はこのローマ! この時代の文明だ! その力の使い時だぞ大英雄!」

 

 疲弊したフジマルたち三人の前で、歪な声が響く。それでも術式は発動し、その域に未だ辿り着かない私たち人類を嘲笑う。いち早く気づいたハクノが駆け出し、やや遅れて私がその現象に思い当たる。

 

「――させません」

 

 鈍い金属音。ハクノの振り上げた剣がレフに届くことなく止まる。より愉快そうに目を見開くレフの前に出現した仮面の少女が、その手で構えた巨大な黒い盾で受け止めたのだと認識する。それと同時に、青い光が部屋中に散った。

 

「これが英霊召喚だカルデア! 破壊を始めろアルテラ!」

 

「しまっ――」

 

 剣の止まったハクノの隙を見逃す英霊ではなかった。無防備だった腹部に放たれた魔力の渦に為すすべなく揉まれたハクノが吹き飛ばされる。

 

「奏者! しっかりせよ!」

 

 ハクノの体を受け止めたネロが声をかけるも、その負傷は小さいものではないのは明白だ。しかしもはや棒立ち状態のフジマルや画面越しの私ですら、それを気にかける余裕もないままに目が離せないでいた。

 

「なんで、どうして」

 

 フジマルが私の心境を代弁するように呟く。きっと私とフジマルが見ているものは微妙に違う。けれどこの時においては大した違いはない。結局同じ対象だからだ。

 

「…………」

 

「ご苦労。助かったよ、マシュ」

 

「なんで、そっちにいるんだよ……」

 

 マシュと呼ばれた少女が盾を持ち上げる。暗い紫で統一された鎧に仮面姿で私には確証が持てないが、そんなものはフジマルの反応を見れば一発だと分かる。あれは、冬木で失われたはずの少女そのものだと。

 

「理由が気になるのか? そんなもの、私に力があったからに決まっているだろう? そしてお前にはなかった、ただそれだけのことだ」

 

「…………」

 

 つまらなさそうに言うレフに、彼女は何も反応を示さない。ただフジマルと同じように視線を交錯させ続けている。両者互いに目を離すことなく、運命の逢瀬であるとでも言うように。

 

『……レフ・ライノール。貴方は今、英霊召喚をしたのね』

 

「あぁそうだとも、オルガ。未だ未熟者の分際でカルデアの頭に座る愚か者。私のいないカルデアを満喫しているかな? いるだろうとも、君には所詮何も出来やしないのだから」

 

『……私のことになると饒舌になるのね、レフ。私の言いたいことはそこじゃない。なんで貴方が――』

 

「英霊召喚を為せたか、だろう。くだらん。あぁくだらんとも! その程度のことにいつまでも拘っているから何も見えていないのだよ!」

 

 フジマルの反応がないのをいいことに、嘲笑の対象を私に切り替えたらしい。いつまでたっても慣れることのない敵意に、自然と拳に力が入る。だがそんなことを気にしている場合じゃない。

 

『貴方、システム・フェイトを完成させなかったわね?』

 

「何だ、そこまでは分かっていたのか。何とも興覚めだことだ。だが、当然の話だろう? いずれ滅ぼす組織の武装に手を貸してやる道理はない」

 

 先ほどから召喚した英霊、アルテラは動いていない。一度剣を振るった相手、ハクノとそれを庇うネロ以外見えていないように。あたかも事態が膠着しているかのような時間、レフと私の声だけが響く。

 

「術式はほぼ完成していた。魔力も足りていた。しかし舞台は整っていなかった。英霊どもの意思など関係がない。ただカルデアが英霊の集まる場ではなかっただけの話だよ」

 

『……それが今のカルデアに足りないもの。フェイト起動の最後のピースが欠けている。それが何かが分からなかった。ずっと、貴方の起こした爆破による不備の所為だと思っていたけど、違ったのね』

 

 レフがマシュに手を伸ばす。正確には彼女の持つ盾に。太い十字の交差点に円盤が埋まっているようなデザインのそれをなぞる様に。

 

「あぁそうだとも! お前たちカルデアは英霊を呼ぶことは出来ない。最後のピースは今ここに、私の手にあるのだから!」

 

『やっぱりそうなのね……!』

 

 マシュがAチームだった由縁。彼女に与えられた役割。その全ては先代による決定で、その詳細は私ですら知ることは出来なかった。そんな彼女に埋め込まれた英霊の力が込められているあの盾。同じ術式と膨大な魔力を持つ今の私たちにはなく、レフだけが現在持っているカード。魔術師でありながら、私の直感がそうだと告げていた。アレを、手に入れなければならないと。

 

『フジマル、聞こえているわね!? あいつは聖杯を、マシュを、何もかもを持ってる。絶対にここで打倒しなさい!』

 

「……所長、でも、それは」

 

『どっちにしろ、私たちに敗北は許されていないわ。なら倒すしかないのよ』

 

 勝利の際に得るものが増えただけのこと。確かに状況がいいとは言えない。それでも、突破しなければ私たちに活路はない。例え万全の力を振るえる英霊や、かつての同胞が相手だったとしても。既に魔力切れが見えてきたこの段階においてもだ。

 

「そう、だよ、立花。よく分からないけど、これって、もう一度助けるチャンスなんじゃないの?」

 

「白野……」

 

 何とか立て直したらしいハクノが声をかける。連戦に次ぐダメージと先ほどの一撃が響いているようだが、依然として眼の光は一切の衰えが見られない。ネロもハクノに負けじと気を高ぶらせていた。

 

「生憎、私たちはアルテラとやらなきゃいけないから、そっちは任せるよ」

 

「うむ。すぐに駆けつけるが、そちらを手早くすませても良いぞ!」

 

 既に戦う相手が決まっていたようで、迷いなく二人はアルテラへと向かっていた。ローマを救い、アルテラと戦うのは自分たちであると言外に告げ、同時に後押しも兼ねていた。マシュの相手ができるのは、しなければならないのは、藤丸立花だけであると。

 

『フジマル、覚悟は出来たかしら?』

 

「すみません所長、ちょっとそれは難しいです」

 

 フジマルらしくない弱音、ではなかった。紛れもない本心で、それでも剣を強く握って答えていた。

 

「マシュと戦うなんて、俺には出来ません。だから俺は、マシュを、助けるんです」

 

 再びめぐってきたチャンスだと、彼はそう受け取ったのだと分かった。そんなフジマルの決心に一抹の不安と危うさを感じながら、けれど止めることはなかった。もう歯車は止まらない。画面越しの私には、そんな手段は存在しなかったから。

 

「つまらんな、カルデアのマスター。マシュ、遊んでやるといい」

 

「…………」

 

 返事の代わりにただ、彼女は跳躍した。フジマルとの距離を一気に詰め、自分と同じサイズの盾を軽々と振り回す。

 

「なんの――!」

 

 すれすれで躱したフジマルが盾を落そうと彼女の手元を狙うが、素早く切り返したことで防がれる。細い剣と太い盾という差がありながら、フジマルの倍以上の速度で攻撃が繰り出される。躊躇なぞどこにもない、機械のように無駄のない戦闘。場の支配者は間違いなく彼女だった。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 フジマルの息が次第に上がっていく。この戦いにおいて無力化を狙っているフジマルは更に厳しい状況に自ら飛び込んでいる。マシュを殺してしまうような攻撃はとれない。それ以前に戦う選択肢を彼自身取る事はできない。猛攻をやり過ごし、無傷のままに無力化しようとしているのに等しい。それを可能にするだけの実力が伴っているのかどうかもまた、怪しいものだった。それでも唯一決心したゴールのために、せめて武器を取り上げる為に隙を生み出さんとしていた。

 

「…………!」

 

「嘘だろっ!?」

 

 距離をとろうと大きく下がったフジマルを逃がすまいと、盾を斜めに回転させて投擲したのだ。速度の乗ったソレと打ち合うのは不可能とみたフジマルが横に大きく転がってそれを避ける。床に突き刺さる程の威力で放たれた盾を必死に回避する、そんな咄嗟の行動で生まれた隙を、彼女は見逃さない。

 

「ハアッ!」

 

「ぐあっ!」

 

 投擲と同時に床を蹴ったマシュが距離を詰め、転がってきたフジマルに蹴りを命中させる。先ほどのハクノ程ではないにしろ、吹っ飛ばされた藤丸が倒れこむ。その間に彼女の手元には既に盾が回収されている。

 圧倒的だった。連戦による魔力消費と縛りによって追加召喚を行っていないことを抜きにしても、ステージが違った。立ち上がったフジマルの剣は消えてさえいないが、勝ち目がどこにあるのか、私には分からなくなった。

 

『何とか凌ぎなさいフジマル! ハクノとネロが来るまで、何とか――』

 

「もうやめてください、先輩」

 

「え――?」

 

 不意に、声がした。あまりに温度のない声に、まさしく機械のようだった。

 

「あなたに人類は救えません」

 

 鉛の弾丸のように、突き刺さるような声だった。そのまま、一歩一歩フジマルに近づいていく。

 現場にいる彼にとって、この言葉は、どれほどなのか。

 

「私は、私の意志で、戦うことを決めました」

 

 ズズズと盾を引きずりながら、接近する。持ち上がるギロチンの刃のようだった。

 その先を言わせてはダメだ。聞かせてはダメだ。私たちの生命線が、未来が、折れてしまう。この暗雲を、今すぐ払わなければ。

 

「だから、私を助けないでください。先輩」

 

 けれど私に出来ることは何もなく。

 

 ――何かが、砕け散る音がした。

 




仮面はセイバーオルタさんのバイザー的なアレのイメージ。
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