・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:オルガマリー】
「
爆音が轟く。虹が弾けるのと同時に走った亀裂から壁が崩れ、大きく空いた穴から刺す光が王の間を照らす。その光を浴びて立っている影が一人、ゆっくりとフジマルの方向を向いた。
それは美しい女の形をしていた。ほのかな小麦色の肌を覗かせ、長髪と見紛う長いヴェールを背中に流す、巫女のようにも見えるその姿。たった今猛威を振るった剣、三原色が形を持って剣の形を為しているソレを持つ、この時代において今最も力のある存在。
『フジマル! しっかりしなさい! 死にたいの!?』
「――――!」
「…………」
強大なものに意識を向けられてようやく、フジマルの本能が逃げろと警鐘を鳴らした。心はここにあらずとも、その場に留まってはいけないことだけは自覚した。必死に立ち上がろうとするフジマルを、マシュはじっと見つめていた。
「全く、とんだ茶番じゃないか。既に手遅れであることにすら気づかず、力があるとばかりに過信してこの始末だ! 無様にもほどがあるぞ、カルデア」
崩壊した戦線を見渡したレフが嘲笑を上げる。アルテラへと立ち向かっていった二人の姿はなく、カルデアのマスターは足を震わせて立っているのがやっとであり、戦意も既に失われている。現状勝ちの目はなく、孤立無援のこの状況では撤退しかあり得ない。未だかつてない危機的状況に手が震えた。
「所詮この時代の皇帝も、どこの馬の骨とも知れないマスターも、たかがサーヴァントごときになす術がないときた! いやはや、見せ物として悪くは――おっと」
レフの言葉を遮る形で飛んできた光線が、ひらりと回避されたことで壁に新しい穴を穿った。放った張本人であるアルテラの表情は依然として読めないが、険しい雰囲気が漂っているのが見て取れる。
「ちっ、使い魔の分際で……! まぁいい、特異点の破壊要因としては十分だろう。マシュ、この時代にもう用はない。我々にはまだやるべきことがあるだろう?」
「…………」
『待ちなさいレフ! 貴方は何のために人類を滅ぼしたの!?』
マシュに近づいたレフが魔術を使ったのか、二人の姿が段々と薄れていく。四面楚歌であるこの状況が変わるのはうれしい誤算だが、その前に聞き出さなければならないことがあった。人理焼却の理由、それは結果なのか過程なのか。素直に答えるとは思えないが、それでも何か手がかりを得なくてはならない。
「この程度の劇に投げるおひねりがあるとでも? この時代で貴様たちは終わるのだ、残された少ない猶予での宿題には、悪くないだろう?」
「――――、」
返事なく彼らが消え去る寸前、僅かに少女の声が響いた気がした。けれど、画面越しの私に届くことはなかった。その時フジマルに迫っている脅威は、依然として残ったままだったからだ。
『フジマル、レフとマシュがいなくなった以上、これが最後の戦いよ。いけるわね?』
「……はい」
形だけの返事で中身がない。ゆっくりと歩いてくるアルテラに対して構えてはいるが、やはり形だけで非常に頼りないものだった。これでは嵐の前の案山子と大した違いはない。こんなところで、私たちは負けるわけにはいかないのに。
『よく聞きなさいフジマル。今あなたが何を思おうと、何がしたくても、ここを乗り越えなきゃ先はないわ』
「…………」
『まさかあなた、こんなところで終わってもいいわけ? マシュはあんなこと言っていたけど、本当にそれでいいの?』
この辺りは口から出まかせだった。フジマルがもう一度戦意を取り戻しさえすればいい。最悪の結末の回避。それだけが、この言葉の唯一の目的だ。今のフジマルならマシュをだしにすればいいだなんていう浅はかな言葉で、けれど彼の目に光が戻った。
「…………いいわけが、ない。まだ、終われない」
決して状況自体が好転したわけではない。けれどフジマルが僅かでも持ち直したことに、密かに胸をなでおろした。
『敵はサーヴァント、アルテラ一騎よ。さっきまでの三対一ならともかく、一対一なら勝ちの目がないわけじゃない。そうよね?』
「はい、負けるわけには、いかないから」
フジマルとアルテラ、戦力差は大きいが一人で一人の敵と相対するのは私たちにとって絶好の形だ。元々選択肢のないフジマルが戦闘を潜り抜け、あまつさえ特異点を1つ修復せしめた所以がここにある。
『一撃に集中させて、そのタイミングを逃さないこと。いいわね?』
「…………」
絞りだした気力で研ぎ澄ます集中が、フジマルの意識を鋭くする。魔力も多くないフジマルの戦法として選択したもの。単純で当たり前の戦法。すなわち、一撃必殺。
「お前は、なんだ」
目標である女が敵対者に問うた。一歩一歩距離を詰めながら、けれど背を向けることなく剣を構える少年に対しての、純粋な疑問。この時代の異物同士の戦いであり、されど時代の行く末を左右する戦い。だからこその問い。
「藤丸立花。カルデアのマスターだ」
「なぜ、私に剣を向ける」
「あなたは、この世界を破壊するんだろう?」
「そうだ。その為に、その為だけに、私は呼ばれた」
「なら俺は、それを止めなくちゃいけない」
「そうか。なら、お前を破壊する理由には十分だ」
その会話は、ただの確認作業に等しい。事情を知ったところで振り下ろす剣にはなんら関係がない。けれどフジマルは、このやり取りを好ましく思うそうだ。自分が誰と、どうして戦ったのか。その在り方を、忘れたくないからと、そう言っていた。全くもって強欲だと思う。だってそれは、勝って初めて意味のある行為なんだから。
「夢幻召喚!」
それはアルテラの剣が振るわれたとしてギリギリ当たらない間合い。女の足が侵入を許した瞬間にフジマルは床を蹴った。たった一度のチャンスを逃さんとして、カードを使用した。
「来るか――!」
無論ただの人より反応が遅れるなぞサーヴァントとしてあり得ない。フジマルの落ち度があったとしたら、タイミングではなかった。その剣が、見た目通りの射程を持っていなかったという一点だろう。
「はぁっ!」
振るわれた剣身が伸びて鞭のごとくしなっている。普通の剣ではあり得ないはずの挙動だが、元より常軌を逸した三色の剣であれば違和感が和らいでいた。だからこそ、フジマルも対応する。
「真名解放、俺が来た!」
素早く振るわれる攻撃を一段上の速度で切り払う。しかしてフジマルの視線がブレないことに気づいたアルテラが僅かに動揺の色を見せる。ただの人間であれば全霊をもって応じなければならない攻防に向けている意識が、確かに足りていない。ただ、決定打を叩き込む為に突進しているようにしか見えなかっただろう。
「そして見た! だから後は、勝つだけ!」
そしてそれは正しい。彼女が知る由はないが、この剣は運の続く限り自動で命中する宝具である。強力ではあるが同じローマであるため神祖にはついぞ振るわれなかった黄金の剣。いつの間にか剣を変えていたフジマルが、ついに己の射程距離に到達した。
「
フジマル自身の幸運値が剣撃となってアルテアを襲う。範囲攻撃を得意とするアルテアの
「くぅっ!」
「これ、で――!?」
アルテアが苦悶の表情を浮かべ、あと一歩でフジマルの剣が届くその瞬間。フジマルの幸運が尽きたことによる失敗判定によって、黄金の剣の軌道が止まる。
「、終わりだぁ!」
けれどもはや関係がないとばかりに剣を動かす。止まったとはいえ、道筋は出来ている。後はそれに沿うように走らせるだけだった。けれどその刹那を人間が埋めるよりも速く、その英霊は敗北を覆した。
「見事だった、人間」
瞬時に逆手で持ち替えて鞭を振り上げる。しなることで先端に蓄積された力によってフジマルの体が宙を舞った。打ち上げられたことでフジマルの取れる行動の殆どは奪われ、更に無防備な姿をさらすことになった。すなわち、フジマルによる必殺のチャンスを奪われたことを意味する。
「これが、お前の終わりだ。今ここに、破壊する――!」
「させるか――!」
鞭を振り下ろさんとするアルテラの、その背後。大きく空いた穴から飛び込んできた和服姿のハクノが、光の灯った両手を前方に突き出した。
「いざや散れ!
「なん!?」
突如アルテラの背中に集まった魔力、呪力という毒が弾けた。突然の奇襲に流石のアルテラも動きが止まり、フジマルが僅かな生を得る。再び生まれた猶予を先に生かすのは、今度はフジマルの番だった。
「今度こそゲームセットだ、アルテラ!」
自分の体重と共に、黄金の剣を再度振り落ろす。
王の間にて繰り広げられた戦いは、今ここに最後の幕を下ろしたのだ。
☆
「そうか、負けたのか、私は」
霊核を斬られたアルテラの体が、光の粒子となって散り始める。美しい女のそれは、どこか宝石の砕け散るそれを連想させた。それでも、砕いた側の私たちに感傷は許されない。
「そうだよ、アルテラ。貴女は、彼に負けたんだ」
「そこは余たちといって良いのだぞ奏者よ! まぁ確かにトドメはフジマルに譲ったがな」
宝具を正面から受け止めたことで宮殿外に飛ばされていたハクノとネロも戻ってきていた。二人ともフジマルと同様に、アルテラに対して思うところがあるようだ。
「この私でも、この時代を破壊することはできない。そういうことか」
「当たり前だ! ここは余のローマである! 余の愛で、美しいもので満たされたこの世界。滅ぼすには惜しいものだ。本当にそうは思わないか? アルテラよ」
その言葉は、ネロにとって願いの言葉だった。この最後の敵対者に送る、そうであってほしいという願い。同じ感傷に至ったのか、ハクノも同じ眼をしていた。
「美しい、もの。それをこの私は、知らないから。その言葉には答えられない」
もうアルテラの輪郭すらぼやけている。瞼を閉じて、眠る様に消える。彼女がこの時代に存在した証である壁の大きな穴へと、光の塵が舞っていく。その最後に、言の葉が響く。
「けれど、私でも破壊できないほどのものであったのなら。それは、少し、嬉しい、な――」
いつしか空が赤く染まっていた。時間が経てば穴から刺す光は、月光のそれに変わるのだろう。今ではないその時を想い、ハクノが口を開いた。
「おやすみアルテラ。大丈夫、貴女もきっと、美しい出会いをするはずだから」
「あぁ、そうだといいな」
夕暮れの中、落陽を待たずして戦いは終わったのだ。
残された聖杯を回収したことで、特異点の異変は解決された。それにより、修正が始まっていくのだろう。その証拠に、フジマルの体もアルテラ同様に透け始めていた。
「フジマル、どうしたのだ!? 貴様も消えるというのか!?」
「ごめんネロ。もうすぐさよならみたいです」
フジマルが照れくさそうに頬をかく。以前はたった一人での作戦で、今回は仲間がいた。申し訳ないような、悔やんでいるような、何かを必死に抑えるような顔で、彼は別れを告げた。
『この時代は修正される。本来ならこの戦い自体があり得なかったこと。だから、この記憶もいずれなかったことになるわ』
「なんと……。信じられないが、そなたたちが言うのだ。嘘ではないのだろう。でも凄く、寂しい話だな……」
「俺もです。だから絶対に、俺は忘れません。この時代であったこと、その全部を」
「そうか。そう言ってくれるのなら、心配はいらぬな! この先もローマは続くもの。ならば別れは不要だな!」
そういって、ネロは確かな笑みを浮かべた。共に戦った者への報酬として、確かに記憶に残る薔薇のような笑顔だった。
「む、待て、奏者はどうなのだ!? 奏者も一緒に……ぬ?」
釣られて視線がハクノに向く。向けられたハクノは申し訳なさそうにそっぽを向いた。
「私もいつかはこの時代を離れるんだろうとは思う。私にも、きっとやるべきことがまだあるから。けどそれは今じゃないみたい」
「そっか。白野もありがとう。マスターの先輩として色んなことを学んだよ」
「私もこんな形で後輩が出来るなんて思わなかった。……今なんか寒気がしたけどなんでだろ」
急に身を抱いたハクノが後ろを振り返った。あるのは夕暮れの空だけで、月はまだ出ていない。見かねたネロがハクノに抱きついていた。見るとフジマルもどこか落ち着かない様子になっていた。マスター同士感じる何かでもあるんだろうか。
「なんか、白野とはまたどこかで会える気がする」
「奇遇だね、私もなんだ。だったら私たちにも別れの言葉はいらないね」
彼女が浮かべたのは穏やかな笑み。見送る側が旅路の幸運を祈る時にする顔だった。
「ではカルデアのマスター、フジマルよ! そなたの働きに全霊の感謝を捧げよう!」
「あなたの戦いを、私も応援してるから」
――レイシフトが、始まった。
☆
「任務完了。よくやったわ、フジマル」
カルデア管制室にて、コフィンに入っていたフジマルが起き上がる。ここにある肉体がケガを負ったわけではないが、流石に疲れた顔をしていた。
「ありがとうございます、所長。先に保護したマスターは?」
「大丈夫よ、既に保護してある。ちょっと治療には間に合わないから、コフィンで存在がある程度確認出来たら冷凍しちゃってるけどね」
とっさに爆発事故の際にしてしまった冷凍処置。本人の確認なしに行うことはそれなりに問題があるのだがもはや庇えない数に処置してしまったあとなので、いっそのこと開き直って使用している。いずれどうするかを考えるとまた頭痛を抑える薬が必要になるのでそれ以上は考えない。
「よかった、皆生きてるんですね?」
「そうね。今回もマスターとカード、そして聖杯の回収と見事だったわ。報酬には期待しておきなさい。私もちょっと息抜きがしたいもの」
「そうですね。自分も――」
「失礼フジマル。先にカードを回収してもよろしいですか?」
「あぁごめんアンジェリカさん。じゃあこれを」
いつの間にか現れたアンジェリカがフジマルからカードを受け取り、また去っていく。きっと暫くは工房に籠るのだろう。
カード、英霊。その繋がりで聞くべきことを1つ思い出した。彼自身の言葉で聞かなければならないことがまだ残っていた。そのことを本当に聞くべきなのかは分からなかったけれど。
「ねぇ、フジマル。マシュのことだけど」
「…………」
立ち去ろうとしていたフジマルの足が止まる。ゆっくりと振り返って、ゆっくりと口を開いた。
「分からないです。なんであんなことを言ったのか。マシュを助けたいと思っているのはダメなことなのか。何も分からなくなりました」
その言葉は、彼が絞りだした精一杯の現状だった。あの時から時間が長く経ったわけではない。まだ纏められていないことは分かっていた。
「それでも、まだ諦めたくはないです。あれは確かにマシュだった。カルデアで最初に会ったマシュだった。だったら俺は――」
「ねぇ、フジマル。あなたはカルデアのマスター。それは絶対よ」
遮る形でフジマルに告げる。それ以上は言わせない。まだ決心の固まっていないこのタイミングで、私は言わなければならなかった。
「マシュは今やカルデアの敵対者。それは人類を滅ぼそうとする者と同義よ。そんな奴とあなたはこれから戦わなければならない時がきっとくる。きっとそれは避けて通れないでしょうね」
「何、を――」
「その時に甘えはあってはならない。覚悟はその瞬間には出来てなければならない。全ては人理を修復するために、私はあなたに命令するわ。だから心を決めなさい。その時が来たら、マシュと戦い、これを倒すと。
――場合によっては、その命を奪うと」