夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。



#6.5 月の上、月の下

 

【side:白野】

 

  私、岸波白野は王の間で白い女と対峙していた。褐色の肌に銀の髪、無表情を貫くフンヌの王アルテラ。まさか女性とは思わなかったが(相変わらずだが)、今更見た目で警戒を緩めるようなことはしない。なぜなら彼女はサーヴァントであり、ローマを破壊せんとする私たちの敵だ。既に一発もらってしまっているので嫌でも慎重にならざるを得ない。

 

「いけるか、奏者よ」

 

「もちろんだよ。まずは援護射撃で動きを抑えるから、前衛は任せてもいい?」

 

「うむ! 奏者の指揮で戦うこの感じ、悪くないぞ!」

 

 上書き(オーバーライト)していたセイバーのカードを送還(アンインストール)し、再びキャスターが得意とする呪符を取り出す。アルテラのクラスはセイバーであり、近接戦闘は相手の土俵である。二人がかりで打ち合ってもいいが、攻撃手段を増やすことで翻弄すべきだという判断からだった。本人の力を本人の前でこれ以上振るうというのも気が引けるし。

 

「来るか」

 

「うむ、貴様アルテラといったな? 何のためにその剣を振るう。答えるがよい!」

 

「なぜ、か」

 

 アルテラが小さく首を傾げたような気がした。質問の内容ではなく質問されたこと自体に疑問を持った顔だ。

 

「私は破壊、ただ殺戮だけをこなす機械だ。この時代にある文明は、全て」

 

「あなたは……」

 

「むぅ、余のローマであろうとなかろうと粉砕すると、そう言うかアルテラよ!」

 

「そうだ。それが、この私だ」

 

「よくぞ言ったな! ならばこの時代のローマたる余が相手だ!」

 

 一閃、ネロが瞬時に切り込む。

 サーヴァントというのは英霊の一側面であり、生前よりは弱体化しているのが常であると聞く。だがしかし。

 

「はぁっ!」

 

「これしき!」

 

 ネロの振るう炎を纏った剣撃を受け止め、反撃を放つアルテラ。二人の実力は拮抗、いや剣士のクラスが活きているのかアルテラの方に分がある様にも思われた。元々ネロは皇帝で戦う人間ではない。魔術による肉体強化や私のクラスカードによる若干の能力継承によってネロはセイバーに近い戦闘能力を得ている。これ以上を求めるのは酷であり、その差を埋めることこそが私の役割だ。

 

「炎天よ、はしれ!」

 

「その隙、余のものだっ!」

 

「くっ」

 

 湧きたつ火柱を避けるために生まれた余分をネロが突く。この時代に来てからの付き合いだけれど、もはや息が合わないことこそ違和感が出るくらいだ。例えそんなものがなくてもネロの動きに私が合わせることくらい造作もない。

 

「悪くない。いい組み合わせだ」

 

「当然! 余と奏者が負けるわけがない!」

 

 二人であれば、例えサーヴァントであっても勝ち目はある。立花のこともあるし、一気呵成にケリを付けようと更なる呪法を展開するべく動く。回り込むように走った私がネロを挟んで一直線に並んだその瞬間を、彼女は好機と捉えた。

 

「であれば。同時に仕留めてくれよう――!」

 

「ネ――」

 

「! 集え蛇の――」

 

 アルテラの剣に魔力が瞬時に集まったことを目視する。ネロへの警告、黒天洞の展開、ネロの防御姿勢。どれも半端なままに破壊の剣が完成する。出現した虹が唸りを上げ、その猛威を叩きつけんと突進を開始した。

 

軍神の剣(フォトン・レイ)!」

 

 瞬間。視界が光に覆われた。

 

 

 

 

 光が収まっていく。視界がはっきりしていくのと同時に、意識が一瞬飛んでいたことに気づいた。

 

「なんて、威力……!」

 

 飛んでいたのは意識だけではなかった。力の本流を真正面から受けた為に大きく飛ばされ、王の間の壁を突き破って外へと弾き出されてしまっていた。夢幻召喚していたから五体満足で済み、黒天洞がギリギリで間に合っていなければどうなっていたか。しかしそれを考える時間は与えられていなかった。

 

「くっ!」

 

 受け身も不十分なままに私は大地を転がった。体のあちこちが悲鳴を上げるが、視界の縁に見えた影を目視した瞬間に全てを置き去りにした。否、しなければならなかった。

 

「ネロ――!」

 

 同じく宙を舞う紅い花が地に堕ちるよりも早く、空中で彼女を受け止める。私よりも至近距離であの突進を食らってしまったのだ。間一髪アルテラとネロの間に黒天洞を挟みこんだものの、やはりダメージが私よりも大きかった。

 

「ネロ、しっかりして! 目を覚まして!」

 

 すぐさま回復魔術を使用して治療を始めるが、私の腕が悪いのか表立った効果が見られない。ネロの背中を支える手から熱が伝わってくる。こんな時になって、彼女が今を生きる一人の人間であることを知らされる。

 そうだ。この彼女はサーヴァントではない。その戦闘能力が匹敵しているだけで、血の通った一人の少女に変わりはない。もしその命が失われてしまえば、確かな亡骸が残ることもまた事実。

 そんな考えたくないことに、思考が飛躍してしまって。

 

「そんなの、絶対に……!」

 

「…………そう、しゃ?」

 

「ネロ!」

 

 目蓋が開き、ライトグリーンの瞳がこちらを向いた。途端に安堵が胸を包んでいく。

 

「よかったネロ。身体の調子はどう?」

 

「……む、所々が痛む。もう少し待つが良い」

 

 絢爛な装束のあちこちに傷がついてしまったが、段々と表情に、瞳に活気が戻っていく。手痛い一撃をまたもらってしまったが、まだ終わっていない。応急処置を終えてから、すぐさま戻らなければ――

 

「奏者よ、先に行くが良い。余はきっと、間に合わぬ」

 

「何を、言って」

 

「あの場に残ったのはフジマルただ一人。どう考えても劣勢だ。余の炎は少しばかり燻ってしまったが、奏者であれば、まだ届くであろう」

 

 燃えるような瞳で、そう訴えた。いつだって情熱が収まるところを知らないのに、今ですら冷静さを失っていなかった。その判断が間違っていなかったからこそ、私も何も言えなくなってしまう。それでも、ネロだけを置いていくことの抵抗感は消えなかった。

 

「馬鹿者が、余はまだ落ちん! その証拠に、そなたはまだ駆けることが出来るであろう?」

 

「それでも、私は」

 

「まだ気づかぬか、岸波白野よ。これはローマを救う戦いだが、奏者にとっては違うものだ。そなたは、あの者を知っているのであろう?」

 

「――――」

 

 違う(そうだ)。私はアルテラのことをまだ知らない(知っている)それでも(だから)、彼女と戦わなければならないと、そう思ったんだ。

 

「第一、なんの為に余が奏者を庇ったと思っておるのだ。その為の力を、剣を、守るために決まっておろう」

 

「……ネロ」

 

 その通りだ。きっと彼女であればギリギリだが回避も不可能ではなかった。それでも防御を選んだのは何故か。先に私が意識を取り戻したのは何故か。その答えは、そのまま彼女が示した道筋へと繋がっている。

 

「ありがとう、いってくる」

 

「うむ。余もすぐに駆けつける。先にあの分からず屋へ一撃食らわせてやるがよい!」

 

 近くの壁にもたれかけさせてから、背を向けて走り出した。地上まで落ちてしまったが、今の身体なら王の間まですぐ戻れる。地を、柱を、壁を蹴って王の間に舞い戻る。

 黄金の剣を振るうフジマルと、鞭を持って討ち落とさんとするアルテラの姿を捉える。フジマルの身体が浮かび、必殺の一撃が繰り出される瞬間。私の全ての魔力でもって奇襲を敢行した。

 

「させるか――!」

 

 

 

 

 星が散る。夕暮れも残りわすかというところで、カルデアの少年は姿を消した。

 アルテラは消滅し、戦いはここに幕を閉じた。特異点とやらも解決したらしく、時代の修正力とやらが動き始めたらしい。その始まりとして、時代の異物たる少年は一足先に舞台から降りたのだ。

 

「行ってしまったか。奏者よ、このことはいつまで覚えていられるのだ?」

 

「ごめんネロ。その辺りはよく分からない」

 

「むぅ、いつの間にか忘れてしまうとしたら、それこそ気分の悪い話だ。文として残してもダメなのか?」

 

「ひょっとしたら残るのかもしれないけど、きっと実感は薄れていくんじゃないかな。そうしたらきっとそれは記憶じゃなくて記録に、或いは物語になってしまうのかも」

 

 全てはあり得ない世界での話。この戦いはきっと、外側の観測者の記憶にしか残らないあやふやなものなのだろう。我ながら詩的な表現をしてしまったがなんとなく、そんな気がした。

 

「ねぇ、ネロ。もうちょっと話さない?」

 

「うむ! 余はいくらでも構わぬぞ!」

 

 私の提案にネロは快く乗ってくれた。言葉にしなくても、夢の終わりが近いことをお互い感じ取っているのだろう。

 

 他愛のない話をした。すぐに忘れてしまうような話を刻みつけるように。中身のない話題で、充実した時間を作っていく。いつの間にか日が落ちて月が昇るまで、好きなもの、嫌いなもの、戦いの話、遊びの話、友達の話。主従関係ではなく、それ以上の大切で等距離な、不思議な感覚。

 

 いつの間にか、空にあった光輪が薄れてきていた。その中心に月が浮かび、瞳のように、針の外れた時計のように。修正の完了と、別れの時が近づいていた。

 

「奏者よ、そなたは結局どこから来たのだ? 余ではない余と、どこで会ったのだ?」

 

「あの月で、かな。多分この世界の月とは違うんだけど、私たちはそこで出会ったんだ」

 

「なんと! あの月に人はいつか届くというのか! そんな未来があるのなら、是非とも見てみたい!」

 

 二人で月を見上げる。壁の穴からちょうど綺麗な月が見えたからだ。私の隣でネロの笑顔がキラキラと輝く。私が見たかったものが、確かにそこにあった。

 何故私がここにいるのか。結局細かい話は分からない。フジマルと協力し、この時代を守った。それが正しいことというよりも、ネロと共に戦えたことこそが私にとっての正義だった。そう言った方がしっくりくる結果に終わった。だからそれでいい。

 記憶に関しても、結局曖昧だ。月の聖杯戦争で戦ったことは事実として残っている。しかし途切れ途切れの一枚絵をむりやりフィルムとして繋げているような感覚で、その細部が不鮮明だった。

 

「私の、■■■■」

 

 私と一緒に戦ってくれたサーヴァント。それは■■■■で間違いない。聖杯戦争で勝って、■■■■と■■■■■で■■■■■■■■。ダメだ、分からない。今必要な情報以外は引き出せないような感覚がそこにあった。岸波白野は、まだしばらくは自分のことを探し続けなければならないようだ。それでも、岸波白野にとってネロが特別な存在であることには変わらない。今はその事実だけで十分だ。

 

「奏者よ、聞きそびれたことがあるのだが良いか?」

 

「いいけど、何?」

 

「余のローマはどうであった? 奏者から見て、余の支配するローマは美しかったか?」

 

 真剣な眼差しで、ネロはそう言った。……全く、何を心配しているのやら。

 

「もちろん。貴女が君臨するローマは、これ以上なく。破壊されそうものなら、全力で止めるくらいに。ここにいるあなたと同じで、美しいよ」

 

「そうか…………そうか! そうであろう!」

 

 ずっと、ここに来てみたかったような気がする。皇帝として在るネロの姿を、彼女の収める国を、この目で見ることが出来た。報酬はとうにもらっていたのだ、それ以上の薔薇をまた咲かせているネロの姿で、何とか踏ん切りがついた。この記憶があれば、きっと私は大丈夫だ。

 

「もう行くのか、奏者よ」

 

「うん、そうみたい。もう少しいたかったけど、残念だな」

 

 いつかの夢を思い出す。マスターとサーヴァントにとして、私は見送る側だった。それがたまたま逆転しただけの話。後は彼女が、彼女の力で時代を築いていくのだろう。

 

「そう言うな、奏者よ。そなたの話なら、余たちはまた月で会えるのであろう? ならこの別れは一時のもの。何も悲しくはない。ないからな!」

 

 目尻を光らせて、ネロが微笑む。そうだ、きっと私たちはまた出会う。だから、悲しくなんてない。私もそう強がることにした。

 

「うん、うん、そうだね。じゃあまたね、ネロ!」

 

「あぁ、さらばだ。我が奏者よ――!」

 

 

 

 

 月明りだけが頼りの夜。薔薇の皇帝は一人、王の間にて佇んでいた。破壊の跡は元よりなく、かつての静寂と暗がりばかりが広がっている。開いていたはずの穴はなく、月光は僅かに上から差し込むばかりだった。月の輝きもなく、床を濡らした一粒の水も既に乾いて何もない。

 やがて静かに歩みだした皇帝は首都へと足を向ける。皇帝として再び君臨するために。その先の激動を駆け抜けるために。――いつの日か、月の海に辿り着くまで。

 

 夜道を進む皇帝の道を、月が静かに見つめている――。

 

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