ゾフィスです…もう嫌です……   作:悲しいなぁ@silvie

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ファウード編
あなたに命が戻るなら、届くなら…わたしはどうなろうと構わないのに


 

 

 

デュフォーの朝は、小一時間程の入念なストレッチから始まる。

国から国へと渡る旅では、当然ながら入浴もベッドでの満足な睡眠も出来ないことの方が多い。

人とは案外繊細に出来ている…積み重なったストレスは如実にパフォーマンスを低下させ、いざという時に痛い目を見る。

だからこそ、まるで機械のメンテナンスのように自分の身体の調子を確認する為にデュフォーは毎朝このストレッチを続けていた。

北極でゼオンと出会ってから、まだ3ヶ月弱…それでもデュフォーは明らかに自分の身体が疲弊していると感じていた。

それもそのはずだ…この旅の目的を考えれば。

千年前の戦いの激しさを物語るが如く石版達は世界中に点在している…それこそデュフォーの持つアンサートーカーの力とゼオンが託された石のゴーレン本人が書いたという戦いの軌跡無しでは全てを発見することなど不可能だと言い切れる程には。

そんな石版達を、二人で集めようと言うのだ…初めて聞かされて、戦いの軌跡とやらを見せられた時にはついお前の父親は頭が悪いなと素直な感想が出てしまったぐらいには馬鹿げたプランだと言わざるを得ない。

デュフォーはゆっくりと首を回しながら、小型の金属ポット…マキネッタを焚き火から取り出す。

アメリカで防弾チョッキを買うとはしゃいでいたゼオンを無理矢理黙らせて買ったマキネッタで淹れるイタリアン・コーヒーはこんな旅において格別の楽しみだ。

コールタールのように真っ黒でドロドロで、同じ量の砂糖を入れて飲む。

これをダブルで飲むと今までの疲れが全部吹っ飛んで驚くほどの元気が身体の芯からわいてくる。

信じられないくらいいい香りで、さらに新しい旅に出向いて行こうという気持ちになる…まさに大地の恵みだ。

 

…………まぁ、実際にはカフェインと砂糖だからエナジードリンク等と同じ原理な訳だが。

 

「デュフォー、前々からいつ言おうかと迷っていたんだが…

実は、オレはT+Gウイルスの適合者でな…電撃もウイルスによるものだ、そしてウイルスの影響で…オレは大きくなれば女の身体になってしまうのだ」

 

だから、朝からゼオンに意味不明な告白を大真面目にされても冷静に返してやれるくらいには元気が出るのである。

 

「ゼオン」

 

「ああ、別にお前に感染する訳では無いぞ?

ただ…お前がオレの変化に驚かないようにと」

 

「ウソだ」

「………ッ!!!」

 

ガーン、と書き文字の効果音が背後に見える程にショックを受けた様子のゼオン。

……そもそも、電撃がそのウイルス由来ならばゼオンの父親もそうだろうしその父親が女体化していない時点でおかしいと気付けないのだろうか?

 

「ば、馬鹿な…なら、ガッシュはカドゥを埋め込まれて電撃に目覚めたから磁力を操れるというのも嘘だと言うのか…っ!」

 

震えるゼオンを無視し、デュフォーは適当な本屋で買った世界地図と千年前の戦いの軌跡を見比べる。

 

「とりあえず、回収出来そうな石版は此処ので最後だな

後はおそらく『誰か』が既に持っている筈だ」

 

「待てデュフォー!そもそも何処から嘘なんだ!?

オレがウイルスに感染したという所か…?」

 

何処からも何も全てゲームか漫画の話(ウソ)なのだが…

デュフォーはゼオンの誤解を解くべきかとほんの少しだけ考え、その方が面白そう説明するのが面倒になったので無視する事にした。

 

「デュフォー…?なぜだ、なぜ笑っている…!

デュフォー、デュフォー!!!」

 

 

 

デュフォーの昼は、名もしれぬ巨大魚の解体から始まる。

内陸国だろうと海洋国*1だろうが関係無しに魚しか獲って来ないパートナーのおかげで、デュフォーは熟練の板前も恐れおののく程の手際で巨大魚を捌いていく。

 

(フライは一昨日に作ったし、今日はミンチにしてハンバーグ風に焼いてみるか)

 

ペスカタリアン*2同然の食生活を送るデュフォーにとって、毎日の献立を考えるのは非常に重要なことだ。

ビタミン欠乏による各種疾病を回避する為に、必ず毎食一品は生食しなければならない…だからこそ、食事への『飽き』に対する答えを用意するのはデュフォーにとって急務だったのだ。

 

(ゼオンが電撃の微細なコントロールを身に着けていたのはラッキーだったな)

 

近年、魚の生食に近隣諸国が軽くひく程の情熱を燃やす国…日本にてとある技術が実用段階に至った。

それが、魚へ高電圧を流し体内に居る寄生虫を感電死させる事で生食のリスクを著しく低減させる技術だ。

それまでは極低温での冷凍や細かく包丁で切るなどの処理が必要で、どうしても鮮度の良い状態での生食にリスクがあった魚種を美味しく安全にいただける夢のような技術である。

ゼオンにはそれを再現してもらい、デュフォーは今日に至るまで一度も腹を壊すことなく魚の生食を続けていた。

 

…………まぁ、実際にはバルギルド・ザケルガで魚に火が入らない程度に感電させているだけなのだが。

 

モッチャモッチャモッチャモッチャ、デュフォーの手の中でミンチにされた魚が一塊となり成形されていく。

 

(なめろうとハンバーグ…後はつみれ汁にするか)

 

ようやく石版探しの旅も終わった事だ、魚尽くしはこれで最後にしたいが…そう切に願うデュフォーを尻目にゼオンは獲って来た魚を手早く丸かじりにすると何処かへと飛んで行ってしまった。

別に珍しい事でもないのでデュフォーは何も思わずに気をつけてな、と一声掛けハンバーグの空気抜きを続けていた。

どうせ、いつもの悪い癖(発作)だろう。

 

(悪くない味だが…流石に食傷気味だな)

 

ずず、とつみれ汁を啜りながらデュフォーはぼんやりと空を眺める。

研究所に居た頃は、味の付いた飯を喰う事すら無かったというのに…随分と贅沢な人間になったものだ。

そう自嘲気味に笑うと、ハンバーグを囓る。

大量に買い込んだ砂糖と海水を煮て作った塩ぐらいしかマトモな調味料が無い中で作ったにしては中々の出来だったが…食べ飽きた事も加味すればギリギリ及第点未満といったところだった。

 

(………ケチャップかソースでも有ればな)

 

無敵のアンサートーカーでも、流石に無からケチャップやソースを用意することは出来ない。

一度そこら辺の草や虫から味だけでも似たモノを作ろうと試みたが…そもそもケチャップやソースの味をあまり知らないので失敗した事は記憶にも新しい。

だが、それでも適当に入った本屋で見た…あの真っ赤で実に食欲を唆る見た目のソースがデュフォーはたまらなく口にしてみたかった。

 

…………まぁ、じゃあなんでマキネッタを買ったんだと言われると困るのだが。

 

「デュフォー!大変だ…!!」

 

「どうしたゼオン、何度も言ってるがザケルガの次はザケルジャじゃないぞ」

 

「何故だ!?ガ系の上はジャ系ではないのか!??

イヤ、違う!!そうではない!!見ろデュフォー、アレを…あの巨大な建造物を!」

 

一通り食べ終わり、食休み中だったデュフォーのもとへ慌ただしく帰ってきたゼオンは山脈の方を指差して喚いていた。

 

「……イヤ、山しか見えん」

 

「……ああ、そうか…人間界で見つかれば厄介な事になるから隠しているのか……」

 

いつもの発作かと思ったが、どうにも様子がおかしいのでデュフォーも寝そべっていた体勢から身体を起こし座って話を聞く事にした。

 

「彼処に『何か』があるのか?」

 

「ああ…間違いない、アレは──ファウードだ」

 

…………やっぱりいつもの発作かもしれない。

重力に逆らわずゆっくりと横になっていくデュフォーの肩をゼオンは驚いたように掴む。

 

「な、何故だ!何故横になろうとするデュフォー!!」

 

「………オレには何も見えん」

 

「だから!人間界で見つからぬように隠してあると言ったろうが!!」

 

「……今日はそういう設定か…」

 

「何か言ったかデュフォー!!」

 

「イヤ、何でもない」

 

仕方ないなと再び座り直したデュフォーにゼオンは一先ず胸を撫で下ろしながら話を続ける。

 

「アレの名は、魔導巨兵ファウード…本来人間界に在る筈もない、魔界の極地に封印されている魔物だ」

 

「魔物…?なら、そのファウードとやらも百人の王候補の一人だということか?」

 

「イヤ、それはあり得んだろうな…王候補は全員が魔物の子供の中から選ばれている

ファウードがいつ生まれたのかなど知らんが、オレが生まれるずっと前から封印されている以上…アレが王候補の条件を満たしているとは思えん」

 

「なら、王候補の誰かが戦力にしようと送り込んだ訳か」

 

本人は人間界に来ている以上、王候補の誰かというよりは王候補の親族と言った方がより正確か…

 

「だろうな…だが、厄介な事をしやがる

あんなものが人間界で暴れれば相当な被害が出るぞ」

 

「……さっきも魔導巨兵と言っていたが、そんなに大きいのか?ファウードとやらは」

 

「ああ…ゴエモンインパクトよりも更にデカい、と言えばわかり易いか?」

 

「イヤ、更にわからなくなった」

 

「何故だ!?がんばれゴエモンは義務教育では無かったのか!??」

 

また変な事を教えられているな…と思いながらもデュフォーはそれとなく話を合わせる。

 

「オレは受けてないからな、義務教育」

 

「クソ、そういえばそうだったな…!!」

 

その後、ゼオンから記憶の共有を受け…ついでに脳へ流し込まれた大量のゲームプレイ動画に軽く舌打ちをしつつデュフォーはようやくファウードの正確な危険性を理解した。

 

「本当にデカいな…あんなモノ、操れるのか?」

 

「そうでなければ送ってこんだろう」

 

あれほど巨大な力、それが操れる。

デュフォーの心の奥底から、ふつふつと言葉に出来ない何かが湧き上がる。

手に持つ魔本と、隣に居るゼオンとを交互に見て…確信する。

ファウード(アレ)を操ろうとしている魔物がどれだけ強かろうと、ゼオンは負けない。

ファウードを手に入れる事は───おそらくそう難しい事じゃない。

 

「そうか、なら───」

 

アレだけの力を意のままに操れたら?

少なくとも、今まで味わったことのない感覚の筈だ。

 

「ゼオン」

 

だからきっと、その力で…今までとは違う景色が見れる。

デュフォーはゆっくりと目を閉じ…横にいるゼオンへ声を掛ける。

 

「ファウードはオレ達で片付けるぞ

とっとと魔界へ送り返して、レストランでハンバーグが喰いたい」

 

別に、味わったことのないモノなんて掃いて捨てる程ある。

さしあたり、ケチャップをたっぷり使ったハンバーグとか。

旅行者用のガイドブックにも書いてあった名店のハンバーグ…食べていない奴は人生の半分は損しているらしいからな。

人生の半分も得をすれば、今とは随分違う景色も見れるだろう。

だから───厄介事にはとっとと退場願おう。

鋭く言い放つデュフォーに、ゼオンは少し意外そうに…そして、とても嬉しそうに頷いた。

 

「ああ、任せておけデュフォー!」

 

 

*1
内陸国の逆、要は海に面している国のこと

*2
正式名称はペスコ・ベジタリアン、肉は食べないけど代わりに魚を食べるよって人達




今回から新章ファウード編の開幕です

この作品に曇らせ要素は……

  • あっても良いんじゃないかな
  • 無い方が嬉しいかな
  • 少年漫画の範囲ならまぁ…
  • 原作で辛いのに二次創作で必要無くない?
  • 度合いによる
  • こんなもんあればあるだけええですからね
  • 最終的にハッピーエンドになるなら良いよ
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