ゾフィスです…もう嫌です……   作:悲しいなぁ@silvie

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オレ…未来から来たって言ったら、笑う?

 

黒髪の青年が一人、細く長く息を吐きながらしゃがみ込む。

 

「………疲れた、なんて…言ってる場合じゃないな」

 

青年の名は、高嶺清麿。

かつて行われた魔界の王を決める戦いにて数多の魔物の子達と戦い抜き、パートナーを王へと導いた男。

友の呼び声に応え、魔界の危機を救わんと立ち上がった男である。

壁にもたれかかるようにして、清麿は天を仰ぐ。

最近の戦闘は本当にギリギリだ。

もし同じ状況になっても…同じように生き残れるかすら怪しい状況の連続。

恐怖が無いと言えば嘘になるが…問題はそっちじゃない。

 

「戦力不足だ…徐々に仲間は集まっているが、向こうの戦力の底すら見えていない現状ではいずれジリ貧になる」

 

だが───希望はある。

思い返すのは、つい先日…ナゾナゾ博士の所で起こった戦闘。

 

「魔力ー!!!ワンパツー!!!」

 

「ローリン・ウィッチ!!!」

 

「……………イヤ、そっちじゃない」

 

ブンブンと頭を振りながら必死にウィッチを追い出す清麿。

ため息をつきながらふらふらと立ち上がり、ベッドに腰掛けると常人とはかけ離れた速度にて思考を回していく。

決して、インパクト絶大だった魔女の事を忘れる為にではない。

 

「ウィビラル・ザケル、呪文の大半を失った今の状況では有り難いが……」

 

言葉に詰まるように、口元を覆う。

………確かに有り難い、有り難いんだが……

ザグルゼムの時もそうだが、またこのまま新呪文が増えなそうなんだよなぁ……

イヤ、今はあの時と違ってガッシュの成長が本に反映される訳では無いんだが…

最初、ヘムとの戦いで発現したウィビラル・ザケルと先程の戦いで発動したウィビラル・ザケルとでは明らかに性能が変わっていた。

良く言えば応用性が高く小回りの利くように。

悪く言えば瞬間火力に乏しいトリッキーな術に変化していた。

ヘムと戦った時にはウィビラル・ザケル自体に火力があったように見えたが…まさか、バオウのように未覚醒状態なのか?

 

「……ダメだな、情報が少な過ぎる…これではアンサートーカーでも答えが出せない」

 

雷の竜の卵から生まれたと思われる呪文…バオウと同じ背景を持つこの呪文はしかし今のところはバオウのような威力も、術者すら危険に晒す危険性も感じない。

使い続ける事で…いわゆる『術を鍛える』事でバオウのように特別な呪文になっていくのか…?それとも───何かが足りないのか?

 

「どちらにせよ、術のビンを取り返さない限りは呪文が増えることは無い…しばらくは手持ちの呪文で戦わざるをえないな」

 

ウィビラル・ザケル…バオウ・ザケルガと同じ背景を持つ術。

………ガッシュはバオウも奪われたと言っていた。

つまり、いつかは戦わなければならないんだ…バオウ・ザケルガと。

 

「フッ、懐かしいな…あの頃もこうやって色々考えてたっけな」

 

清麿は沈み気味な気持ちを切り替えるようにパシリと頬を叩くと、優しい笑みを浮かべて思い返す。

自身にとって最も大事な記憶…金色に輝く財産を。

十三年前、ガッシュと初めて出逢ったあの日の事を。

 

 

 


 

 

「ん……」

 

微睡んだ意識が、陽の光を受けて徐々に覚醒する。

どうやら昨日はあのまま眠ってしまったようだ。

清麿はベッドの上でバキバキと身体を鳴らしながらゆっくりと起き上がる。

 

「ん……?」

 

だが、なんとなく違和感がある。

慣れ親しんだ自分の身体が、やけに重く感じるのだ。

それも、疲労の蓄積や筋肉痛などではなく…まるで、ケガなどで寝たきりになり急激に筋肉が落ちたような……そんな感覚だ。

 

「どういう事……っ!?」

 

不審に思い漏らした声が…高い。

ヘリウムを吸ったような、ではなく…変声期前のような。

有り体に言ってしまえば、幼くなったような感じだ。

自分の声は自分では正しく聴こえないと言うが…その自分ですら違和感があるのだから相当に変わっているに違いない。

 

「ど、どうなって…」

 

急いで身体を起こし、周囲を見渡して……清麿は、固まってしまった。

 

「オレの……部屋………?」

 

イヤ、違う……確かにオレの部屋ではあるが…違う。

此処は………昔のオレの部屋だ。

まるで理解できない現状でも、清麿の優秀な頭脳が無数の問いに一つずつ『答え』を出していく。

 

「この図鑑、確か高校に行く前に新しく買い替えたはず…

そうだ、辞書を見れば…」

 

清麿は現状が全くの未知であると断じながらも、差し迫った脅威が無いのならばと未知を未知のままに受け入れ思考する。

部屋の本棚を漁りながら、いつの自分の部屋かを特定…これで自分の知る本がバラバラに入っていればこれは特定の時代ではなく自身の脳内にあるイメージという線が強くなるが……

果たして、本棚の本も自身が覚えている範囲の小物や家具の配置すらも昔の自分の部屋そのものだった。

 

「……そうだ、ノートを見れば板書からいつ頃かわかるんじゃ──」

 

言いながら、固まってしまう。

既に大体の『あたり』はついている…恐らくは自身が13歳〜15歳程の、もっと言えば…中学生ぐらいの頃の部屋だ。

そして、もし14歳の時だったとすれば……

 

「ノートには……なにも、書いてない……な」

 

数学、現代文、古文、地理、公文…次々とノートを見るもその全てがほとんど白紙のままに本棚へ入れられている。

上に薄く積もったほこりを見るに、中学に入りたてで授業をまだ受けていないとも考え難い。

 

「……そうか、此処は───あの頃のオレの部屋か」

 

他者と関わる事を…傷付けられる事を恐れ、殻に閉じ籠もっていた頃の部屋。

世界から疎外されていると思い込み、逃げ込んで…立て込んでいた殻。

ちっぽけな世界で完結し、一丁前に厭世家を決め込んでいた世間知らずなガキの部屋だ。

 

「く…くっくっ……!あっはっはっはっ…!!

懐かしいな…!そうだ、確かガッシュに会ったのもこの頃だよな?

そう…丁度、MITの首席卒業生の論文を読んでた時に……」

 

昔の…それこそこの頃の自分ならいざ知らず、今の自分にとっては思春期の失敗など笑い話の種程度でしかない。

周りに掛けた迷惑を思えば自分から笑い話と言うのは憚られるが…それでも、ことこんな状況になれば笑いの一つも出てしまうぐらいには。

そう思いながら、ふと机の上に目を落とすと……何冊かのノートが広がっていた。

やけに真新しい筆致で、英和辞典と共に広げられているそのノートには……

 

「……これ、は─────」

 

「コラー!そろそろ起きなさい!!」

 

「えっ!?あ、わ、わかった!!」

 

停止した脳が、母である高嶺華の言葉で動き出す。

ぐちゃぐちゃだったベッドを整え、机の上をざっくりと片付けて扉を開ける。

 

「清麿!早く起きてごは…ん……」

 

「おはようお袋!スマン、考え事をしてて遅くなった!」

 

ぺこりと頭を下げる清麿。

思えば本当にお袋には迷惑を掛け通しだったよな…不登校になったり、ガッシュと一緒になってからはしょっちゅう大怪我したり……

思い返せば思い返す程に申し訳なさが込み上げてくる…一応人並み以上に親孝行というものはしているつもりではあるが、それでも掛けた心労以上に返せているとはお世辞にも言えないだろう。

 

「清麿……あんたが、そんな事言うなんて……」

 

はらはらと、お袋の目から涙が溢れる。

 

「あっ…、そ、その…!!今まで本当に心配掛けて…悪かった!!

オレ、今日からまた学校行くよ!お袋にも心配掛けないようにするし…それに……!!」

 

自慢の脳も母の涙の前では上手く回ってくれないらしい。

清麿はしどろもどろになりながらも必死に涙を流す母親に声を掛ける。

そしてその十数分後、ようやく涙が枯れたのか落ち着きを取り戻した母に腹が減ったと言い用意されていた朝食に手を付けた時もまた大粒の涙を流されるのだった。

 

ガツガツガツ!ムシャムシャ!!モリモリモリ!!!

 

静かな食卓だった。

時折、食器同士が当たりカチャカチャと鳴る程度。

咀嚼音と嚥下の音…そして、零れ出る涙と鼻水を啜り上げる音だけが食卓に響いていた。

 

「美味い……本当に、美味い…」

 

ホームシックになる程、家を離れていた訳じゃない。

だが…魔界を襲った連中との戦いでずっと張り詰められていた緊張の糸が、ゆっくりと緩んでいく。

今、確信した。

この正体不明の現状は、決して術や幻覚なんかじゃない。

理由はわからないが…オレは確かに過去へと戻ったんだ。

でなけりゃ、説明つくかよ。

こんなにもあったかい飯が、お袋の飯が…術や幻覚な訳がねぇ。

清麿はたっぷり3杯もおかわりをすると、名残惜しそうに食卓を後にする。

 

「もし、もし今が本当に過去だってんなら……今日のハズなんだ」

 

机の上にあったノート、そこには真新しい筆致で論文の日本語訳が書かれていた。

忘れもしない、あの日の前日に読んだ論文の訳が。

 

「ガッシュ…!」

 

自分でも言葉に出来ない感情が胸の中をうねるように埋め尽くす。

嬉しくない訳が無い…だが、同時に───悲しみもある。

これから出逢うガッシュは、確かにガッシュ・ベルだが…清麿が苦楽を共にしてきた相棒、ガッシュ・ベルではない。

清麿はガッシュを知っていても、ガッシュは清麿の事など知りもしない。

それが、たまらなく悲しいのだ。

 

「ガッシュ………!!」

 

ピンポーン、と玄関のインターホンが鳴る。

現在時刻は朝の7時40分…来客にしては非常識な時間帯だ。

清麿は訝しみながら玄関の扉を開けようとする母を止め、自らが代わりに開ける。

 

「わ、我が名はガッシュ・ベル!

久しぶ…ではなくて!!おぬしが高嶺清麿だな!」

 

扉の先には、少し恥ずかしそうに声を張り上げる金髪の子供が居た。

というかガッシュが居た。

 

「…………………」

 

「ヌ…な、なぜ何も言わんのだ…??

あっ、そうか…この頃の清麿は情けなくて引き篭もりのイヤミな奴だったのだ…

ウヌウ……昔の私は一体どうやって清麿を更生させていたのだ…」

 

何かを思い出すように首を傾げるガッシュ。

……………コイツ、確実にガッシュだ。

イヤ、ガッシュはガッシュなんだが…オレの知ってるガッシュだ。

 

「……………おいガッシュ、誰が情けなくて引き篭もりのイヤミな奴だって?」

 

「ウヌ?それは勿論、清ま……ろ……」

 

ガッシュが視線を上げると、其処には恐ろしい牙に何本もの角を生やした鬼がいた。

というか清麿が居た。

 

「ヌオォォァ!?」

 

「ガーーッシュ!!てめぇオレの事をそんなふうに思ってやがったのか!!!」

 

「ち、違う!!あくまでも出逢った頃の昔の清麿の事で!!」

 

「じゃかましい!!一緒だ!んなもん!!!!」

 

「ヌオォォオ!!?ま、待て清麿!!まさか清麿も記憶を……!?」

 

出逢ったばかりだというのにまるで旧知の仲のように駆け回る二人を見て、華は呆気にとられ立ち尽くす。

 

「まずい!?もう時間が無い…と、とにかくガッシュ!お前は留守番しておけ!!

オレは学校に行ってくる!」

 

「だが清麿、現状の確認が必要ではないのかのぅ…?」

 

「ぐ……仕方ない、オレのカバンに入れ!!

だが、()()()()学校では暴れるんじゃねぇぞ!」

 

「ウヌゥ…まさか19にもなってカバンに詰められるハメになるとは……」

 

昔と違い若干の気恥しさを感じながらもカバンに詰められるガッシュ。

 

こうして、魔界の王とそのパートナーは再び王を決める戦いにその身を投じる事になるのであった。

 

 

 

 


 

 

邂逅編時点でのガッシュ・ベル&高嶺清麿ペア

 

習得呪文数:14

最大術:ジオウ・レンズ・ザケルガ(超ディオガ級)

 

バオウ・ザケルガの覚醒を経ていない為、現状ではちょっと強めのギガノ級だったあの頃のクソ雑魚バオウ状態なので最大術はジオウとなっている。

また、精神や記憶は引き継いでいても肉体は無印1話時点のものなので二人ともかなりモヤシである。

術の修行やツボ押しを経ていない現状では術の威力も全体的に低いが、精神性はガッシュ2時点のものなので術は全開放済み。

 








謝罪

本作のタグの一つにパートナー変更がありましたが、多分そんな事は起こらないのでタグを削除いたしました
本作はかなり昔に書き始めていたので私自身どの魔物のパートナーを変更する予定だったか分からなくなったからです。
パートナー変更を楽しみに読んでくださっていた読者の方には誠に申し訳ないと思っています。

一応、プロットを読む限りではクリアのパートナーをデュフォーに変える予定だったようですがデュフォーはゼオンのパートナーである事に意味がありますし…やっぱりタグを削除しておきます、本当に申し訳ありません
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