強化人間C4-621、独立傭兵レイヴンは希薄な感情を持ってしてなお途方に暮れていた。
グリッド086にある大陸間輸送用カーゴランチャーを使い、中央氷原に到達したところまでは良かった。道中での
しかし、ここで問題が発生した。自分の主人と言える人物、ハンドラー・ウォルターとの通信が一切通じないのである。グリッド086に侵入した際にすぐさま連絡をしてくれたことからこちらをモニターしているはずだと思っていたのだが、連絡はない。なんなら此方から通信を入れても一切通じない始末。
『こちらからアクセスしても反応がありません。どうやら通信機器自体が破壊されているようです』
さて。621は考える。あのハンドラー・ウォルターがこんな中途半端な、コーラルの大まかな地点が分かった程度の段階でいなくだろうか?あのまま眠りについているはずだった自分を呼び覚ました彼。常にこちらを気にかけつつ、何かを果たさんと強い意志を持ってミッションに送り出してきてくれた彼。彼の猟犬として活動してきた時間は短ければ、彼が何を背負っているかも知らない自分ではあるが、彼がコーラルを手に入れる目的を果たすまで決して朽ちないことは分かる。短い付き合いながらもそう信頼させてくれたのは紛れもないウォルターであり、だから自分は彼の目的を果たす猟犬として行動してきたのだ。
つまり、ウォルターは現在何かしらのアクシデントに巻き込まれているのだろう。通信ができない状況に追い込まれ、しかしどこかで体制を整えている、またはその手はずをしているに違いない。であるならば、自分は自分で何かしらの行動に移らなければならない。しかし何から手をつければ良いか。今まで依頼を管理してきたのはウォルターであり、自分はそれを遂行してきただけである。企業の有象無象の依頼をこれまで道理に遂行したところで、企業からの信頼は稼げてもコーラルを手に入れることなどは決して不可能だろう。ただの独立傭兵にコーラルを分ける道理など、企業にはないのだから。
「『エア、自分はウォルターを待つばかりでなく、自分で動いてコーラルに近づきたい。でもただ依頼をこなすままの蚊帳の外ではいたくない。どうしたらいいと思う?』」
『……できるかはともかく、企業に属することができれば、少なくとも蚊帳の外にはならないと思います。受けるミッション1つ1つがコーラルへの道に繋がりますし、企業間抗争の決着も早まります。もしも企業がコーラルを手に入れたときには、ウォルターに横流しできる機会も生まれるかもしれません』
合成音声での問いかけに、少し間を置きながら考えを述べてくれたエア。なるほど確かに、独立傭兵に立場で限界があるならば企業に属すればいいというのはその通りだろう。そうと決まれば話は早い。ACの通信機能を開き、つい最近追加された回線に接続する。一定以上の実力を示し、かつ仲介役がとっつきそうな企業は一つしかない。なにより、あのとき彼は『上も覚える気になるだろう』と話していた。つまりやりようによっては企業の猟犬として鎖をつなげる可能性があるということだ。
『こちら
「『合成音声で失礼する、ラスティ。単刀直入にいうが、自分をヴェスパー部隊に紹介してもらえないだろうか?』」
V.IIスネイルは苛立っていた。口ばかりの上層部、癖の強いヴェスパー隊員、無駄な抵抗を続ける解放戦線の猿など上げればきりがない。このルビコン3に降り立ってからというもの、彼の心労は積み重なっていくばかりである。そんな彼が現在最も苛立っているのが、フロイトにかわり『壁』を落とした独立傭兵レイヴン、すなわち駄犬である。どうもきな臭いV.Ⅳが唐突に「レイヴンをヴェスパー隊員として受け入れるのはどうだろうか?上も彼には一目置いたそうだし、囲えるのは悪い話ではないと思うよ」言い出したときは卒倒するかと思ったが、どうやら飼い主が行方不明になったらしく、これからのために自分を売り込んだらしい。飼い主に似た浅ましい営業努力だ、実に腹立たしい。
「しかし、上層部とフロイトが連日駄犬に関して五月蠅いのは事実……。あの無能共め、壁越え直前までは駄犬を使い捨てることに賛同していただろうに……!」
そう、ラスティの言うとおりアーキバス上層部は壁越え達成後にV.Ⅰの代わりにミッションをこなしたレイヴンに興味を持ったらしく、ヴェスパー部隊と同じ強化人間なのだしどうにかして取り籠めと連日催促しているのだ。最新手術を受け直した
「だが、実際に手駒が足りないことも事実。ほかの隊員はあまり当てにならんし、それぞれの業務もある。フロイトは最高戦力だ。必ず目標を達成する以上、些事ばかりに当てているとアクシデントに対応できなくなる……」
「ひとまず再教育センターに入れるか?しかし再教育にはそれなりに時間がかかる。すぐにでも使える手駒が欲しい以上、少なくともコーラルにたどり着くまではそのままで運用するしかない、か……。無能共やあの第4隊長の言うとおりにするのは非常に癪だが、これも全て私がアーキバスのトップになるためならば仕方ないでしょう。こんなところで足踏みしている暇などないのですから。念のため、機体か肉体どちらかに干渉できるものでも用意させましょうか……」
向こうから売り込んできている以上、そうそう簡単に裏切ることはないだろう。五月蠅い上が大人しくなり、手駒が手に入る。その手駒が薄汚い旧世代型でなければ、手放しで喜んでいただろうに。
「駄犬め、せいぜい私のために涎を垂らしながら駆け回ることです。そう、
『V.Ⅷペイターです。これよりミッションを説明します。
依頼主はアーキバス系列、シュナイダー。目的は、中央氷原に存在するヒアルマー採掘場に設置されたコーラル観測ドローン、その調査データの防衛です。
我々アーキバスはベイラムに先んじて中央氷原での活動を開始しましたが、ベイラムはその遅れを取り戻そうとするべく、観測データの奪取を計ろうとしていることが分かりました。ヒアルマー採掘場は巨大な穴を中心部とした場所であり、ベイラムが得意とする物量戦に適さない環境であること、観測ドローンの一つが穴の中心に作られたタワーに配置してあることから、敵がACも導入してくることは明らかでしょう。それが独立傭兵か、またはレッドガンかは分かりませんが、駐留しているMT部隊だけでは不安があると考え、今回のミッションを用意しました。
このミッションは、改めてあなたの試金石になります。壁越えは偶然ではなかったと、我々アーキバスグループに証明してください。良い戦果を期待しています、V.Ⅸレイヴン』