「あれ……私は何処? ここは誰?」
目が覚めるとそこは知らない天井。
ぼやけた視界とぼやけた言動。
ツッコんでくれる人は誰も居ない……悲しい。
眠い目をこすって、まずは状況の把握から。
上体を起こすと、ツンとした消毒液の匂いが私の鼻を刺した。
この匂い、前世の高校の保健室を思い出す。
よく夜更かしして原稿(推しカプ二次創作)を仕上げた次の日の体育は、ズル休みして保健室のベッドにお世話になった。
懐かしい記憶が蘇るが、今は置いといて。
どうやら私は医療施設らしきところのベッドに寝かされていたらしい。
私が起きた音で気付いたのか、仕切られたカーテンを開けて1人の少女が入ってきた。
「あー、やっと起きた。急にぶっ飛んで倒れるんだもん。心配したよ」
タバコを片手に、高専の制服の上から白衣を羽織った天使様がご降臨なされました。
「しょ、家入さん……」
「硝子で良いよ、みんなそう呼んでるし」
嘘でしょ。
あの家入硝子様をファーストネーム呼びして良いんですか!? 前世で私徳積み過ぎたか……いや、前世バッチリ覚えてるけれど、あんまり積んでない気がする。
硝子さんは、少しニヤニヤした顔でこちらに顔を近づけてくる。
えっと……か、顔が近いかなぁ。
顔の良さでオタクは尊死ぬ生き物なんだよ?
あなた将来医療従事者でしたよ?
流石に人を殺すのは良くないと思うなぁ。
「てゆーかさ、目覚めて最初に『私は何処? ここは誰?』はちょっとボケに気合い入り過ぎてない?」
「……!! あっええと、お恥ずかしい限りで。えへへ、ちょっと言ってみたかっただけといいますか……」
き、聞かれてたー!
恥ずか死ぬ。
絶対私今顔真っ赤。
でも硝子さんにツッコまれて嬉しい気持ちもある。
「ふふ、林檎みたい。体の具合は大丈夫そう? 一応外傷は反転術式で治したけど」
小さな笑みを浮かべた後、彼女は表情を真剣に変えて体調に関してや痛みが無いか等、軽い診察のようなものをしてくれた。
医者モードになった硝子さんはかっこいいな。
私は林檎みたいに真っ赤になっているらしい自分の顔については一切触れずに、体のあちこちを確認して彼女に伝える。
特に痛いところも目に見える怪我も無さそうだった。
流石、硝子さんの安心安全反転術式。
「はい、硝子さんのおかげで体調万全です。ありがとうございます」
「どういたしまして」
そう言うと彼女は肩の力を抜いて、心配の種が無くなったかのように、表情をふにゃっと崩した。
は? 可愛いかよ。
なんでこの一仕事終わった硝子さんの少し崩れた表情を見れるのが私だけなんだよ。
全国の家入硝子ファンの方におすそ分けして、感想会をするまでが呪術廻戦ファンとしての正しい行いだろ。
そんな変なことを永遠と考えていると、硝子さんは頭に? マークを浮かべながらも、それ以上追求してくることは無かった。
「変な顔してるけど、問題は無いんだよね? 今日の……ていうか私の任務の大半は、ケガした術師をここで治療する事なんだ。大体ここにいるから、私に用があったら保険室へおいで」
硝子さんはその後、夜蛾先生が後でここに来るからまだ寝てて良いよ、と私に教えてくれた。
そして手をひらひらさせつつ立ち去ろうとする。
ヤバイ。
このままじゃ、あの伝説の家入硝子(学生&ショートカットver)さんとのファーストコンタクトが終わってしまう。
あなた1度気絶してるでしょうって?
私が自分で会話を止めるまでがファーストコンタクトだよ!
ファーストコンタクトとは、人間関係を築く上で凄く大事な要素なのだ。
確か人間は初頭効果っていうので、初めましての時の印象が強く意識に残るようになっている、と前世のテレビで観た気がする。
それが本当ならば、さしす組にとって私は『血反吐撒き散らして飛行する変態且つ、夕霧雪菜って名前の同じクラスになった初心者呪術師』というヤバすぎるイメージが着いてしまうんだよ!!
これは非常に大変な事だ。
こんなんじゃ、呪術師として強くなるどころか、人間として恥ずかしくて死んでしまうが。
今からこの最悪なイメージをなんとしても払拭しなければ。
何か話題になることを……そうだ、自己紹介は名前しか言ってなかったから、自分の出来る事でも話そう。
そうしよう!
私は上体を起こした状態で、なんとか硝子さんを引き留めようと、声を少し大きめに張り上げた。
「あ、ああ硝子さん! 反転術式本当にありがとうございました。呪力の巡りも凄く良くて……きっと硝子さんは正のエネルギーの使い方がとてもお上手な人なんだなって思いました」
そう私が言うと、こちらに背を向けて歩きだそうとしていた硝子さんは突然ビクリと固まった。
私の声に気付いてくれたのだろうか、私の方にゆっくりと振り返ってくれる。
あれ、でも少し表情が怖いような……。
いや、気のせいかな、続けよう。
「でもでも、私も反転術式は使えるので! 次からは硝子さんのお手を煩わせないよう、意識を失う前にちゃんと治せるように頑張ります!」
硝子さんは私の頑張る宣言を聞くと、驚愕した表情で再び数秒間固まった後、こちらに早歩きで戻ってきてベッドの上にまで上がってきた。
え、なんですか。
急に硝子さんのご尊顔がドアップなんですけど?? また吐血きりもみスピンフライをご所望ですか。
目の前まで来た硝子さんは、その細めな両腕で、私の両肩をガシッと押さえつけた。
「夕霧、もしかして、反転術式のアウトプット……できる?」
「え、出来ますけど……それがどうかしました?」
「アンタこれから
「ええと…………え?」
その日から私の生活は一変した。
もちろん1ヶ月しか通えなかった高校と、この呪術高専とでは明らかに活動内容が違うので、変わるのは分かる。
しかしだ。
私は心の奥底で期待していたのだ。
推しと、さしす組とキャッキャウフフな高校生活が送れるのではないかと。
いや別にね、キャッキャウフフとまでは行かないながらも、さしす組がつよつよ呪霊と戦っていて。
「私が数で隙を作る、そこを悟お前が叩け」
「いいねぇ、美味しいとこ貰っちゃうか」
「五条、怪我は治した。行ってこーい」
「頑張れー! 悟くぅーん!! 傑くぅーん!! 硝子ちゃーん!!」
「術式順転、【蒼】ッ!!!」
ちゅどーん!
呪霊お祓い完了、みたいな。
あ、今の妄想の真ん中ら辺に入ってるの私ね。
そんな少年ジャンプにありがちな、仲間と協力して強敵と倒す展開を期待してたのに。
現実は非情なり。
あれから私は高専の術師ほぼ全員に反転術式アウトプットができることがバレて、硝子さんとひたすら保健室で治療の日々を過ごした。
それも朝早くから夜遅くまで。
これは流石の硝子さんでも、タバコに寄り掛かりたいと思ってしまうのもうなずける。
現在、高専内の呪術師で反転術式アウトプットができるのは私と硝子さんのみらしい。
よく今まで一人で回せていたな。
五条くんと夏油くんに会うのは、任務の合間にあるちょっとした授業・座学や、あまり危険度の少ないところでの出張版保健室の警護に着いてくれた時ぐらい。
ちがう……。
私が思ってた呪術高専での青春の日々と、全然ちがーう!!!
まあ任務のおかけで、一介の高校生が持ってていいお金の額じゃないレベルの金額を稼げているけど、使う時間がない。
ダメだ。
拘束時間が長すぎる。
このままでは私が強くなって世界の宝である五条悟を救うなんて夢のまた夢だ。
なにか行動を起こさなければ。
「何をすれば……」
そんな独り言を呟いて、家族の安全を条件に私が引っ越してきた寄宿舎まで帰ってきた。
時間は23時半……。
これはかなりブラックですぜ。
私は倒れ込むようにベッドにダイブして、すやすやと寝息を立てるのだった。
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雪菜、2年生になったら天内理子事件起きちゃうよ! 早く何とかしないとっ!