五条悟を救いたい!   作:Tsutsutsuki

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内容が重くて書いてて辛くなってきた……こんな予定にするつもりなかったのに……ホントだよ……硝子、ごめんな。


第18話 私を構成するものは【中編】

「じゃーねー」

「……うん」

 

 解散。

 外に出ると日が落ちていて、どころか真っ暗だった。

 ケータイを開くと既に22時。

 そして恐ろしい程の不在着信が親から来ていた。

 

 しかし、何故か気分は晴れやかだった。

 初めて親に逆らったからか、それとも……いやそれを考えるのは止めよう。

 

 私は捨てるに捨てられない()()を、ポケットの中で握りつぶした。

 

 ケータイには不在着信の他に、メールが1件来ていた。

 

『塾が終わった後は、私の病院に来なさい。母さんも私も今日は夜勤だから、家に誰も居ない』

 

 一人娘とは言え、相変わらずの過保護ぶりだ。

 もう中学3年生なのに、まだ家で1人留守番も出来ないと思われているのか。

 

 ひとまず父に電話だ。

 塾の終わる時間は、両親に把握されている。

 塾内の最終授業終了時刻、いわゆる8限の終わりは21時。

 既に1時間過ぎていた。

 

 過去に無いほど怒られるだろうが、今まで完璧を演じていたんだ。

 たまには本心で自分の事を伝えるのもいいだろう。

 別に医学の道に進む事に関しては、特段他にやりたい事も無いし、そこまで否定的に考えていない。

 自室に勝手に侵入するのは止めて欲しいが。

 

 そんな思いを胸に、私は意を決して父の携帯番号に電話をかけた。

 

 …………。

 

「あれ? でない」

 

 母にもかけてみる。

 

 …………。

 

「こっちもか」

 

 仕事中は携帯が手元に無い場合もあるか。

 病院の受付に電話をかけた。

 

 …………。

 

「ケータイ壊れたのかな」

 

 直接会って謝れば良いか、と考え直して電話を諦める。

 本当はそれが嫌だったから、ケータイに頼ったのに。

 ……いや、自分の気持ちを正直に伝えると先程決めたばかりではないか。

 この気持ちが大きくなっている時、今しか出来ない気がする。

 

 また明日からはいつもの私、今日だけなんだ。

 

 そうして私は、病院に向けて歩きだした。

 

 キッカケは最低な()()だったが、今ではほんの少しだけ、頼れるモノであると思ってしまっている自分が嫌になる。

 

「でもこの格好じゃ、この時間は補導対象か……」

 

 制服は自分の身分を証明出来る良いシステムだが、これを着てやってはいけない事が多すぎるのが問題だ。

 

 黙々と歩いて20分。

 

 幸いにも、カラオケから親の病院までは近かったので、警官に見つからずに到着することができた。

 両親はどちらも外来棟に居るはずだ。

 先を急ぐ。

 

 夜の不気味な静けさと薄暗さが、私に小さな不安と恐怖を与え続ける。

 

 過保護にされてきた弊害か、はたまた元からか。

 どうやら自分で思っていたより、私は孤独に弱いらしい。

 

 病院の敷地を進んで、外来棟総合案内の入口に到着した。

 妙に寒気を感じたので、足早に屋内へ入ろうとすると、自動ドアが人1人が通れるくらいの隙間を空けて停止していた。

 

「……点検中かな?」

 

 隙間から中に入る。

 瞬間に嗅覚を刺激して来るのは、病院特有のアルコール臭。

 例の()()のせいで鼻がダメになっていたが、これぐらい強ければ嫌でも鼻が通る。

 

「あのー、こんばんはー……?」

 

 受付に人は居ない。

 

 というか、外来棟の電灯が機能していない。

 月の光すら差さない屋内は、誘導灯の小さな緑色の光を頼りにするしかない。

 

「下手なお化け屋敷より怖いじゃん……」

 

 おかしい。

 

 ここは救急病院でもあるので、夜間でも常に職員がいたはず。

 何故か、深夜巡回の警備員もいない。

 なんなら患者の姿すら……人が1人も居ない。

 

 おかしいと感じながらも進んでいく。

 私が廊下を歩く音だけが、耳に響く。

 他には何も聞こえない。

 

 夜勤の職員が在中している救急外来は、なるべく入口に近くに配置される。

 緊急を要するのだから当たり前である。

 それはこの病院でも同じ。

 

 廊下を歩いて、最初に見える右側の扉を開ける。

 たったそれだけのはず。

 以前にも来たことがあるので、案内を見ずとも迷わずに行ける。

 

 だから、これは、私がおかしいだけだ。

 

 私が来た時が、たまたま夜勤職員が少ない日でたまたま外来棟が停電になってしまった。

 変に感覚が研ぎ澄まされて、時間を正確に観測できていないだけだ。

 

 

 幾ら廊下を歩こうが、左右どちらにも扉が無い。

 

 

 初めてだった。

 こんなに家族に会いたいと思ったことは。

 思い出せる記憶を漁ってみても、甘やかして貰った事など一度たりとも存在しない。

 しかし、何不自由なく中学生まで健康的に生きてこれたのは、あの2人のおかげなのだ。

 

 だから今は、一目見たい。

 その思いだけを胸に、私はただひたすらに歩くのだった。

 

 すると、ようやく自分の足音以外に何か聞こえた。

 

「─────」

 

 2つの音。

 

 1つ目は、泣き声。

 喉の奥から引き絞るような、声を枯らすまで酷使した後から出る残滓、声にならない声。

 

 2つ目は、咀嚼音。

 くちゃくちゃとわざと音を立てて食べているかのような、聞いている相手を不快にさせるような。

 音の出し方からして食べているものは……肉? いや時々破砕音も聞こえるので、固いものか。

 

 私は走った。

 

 

 ぴちゃぴちゃぴちゃ。

 

 

 間もなくして、扉が見える。

 

 こんな時間に食事なんて、何を考えているのだ。

 泣いているのは一体誰なのか。

 何故この病棟は停電しているのか? 節電期間とか何かか? 

 というか今日は夜勤職員が少な過ぎではないか。

 

 頭の中で色んな思いや考えがぐるぐると渦巻いていた。

 しかし実際に声に出たのは、どれとも違っていて。

 

 

「お父さん、お母さん、ごめんなさい! 遅れてしまっ…………え?」

 

 次に目にした光景に、私は世界を呪ったのだった。

 




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