私は死んでしまった。
駅のホームで、電車に轢かれたのだ。
落としてしまった雑誌を拾う際に、謎の頭痛に襲われて、そのまま足がもつれて、線路へと飛び出してしまったんだ。
ここは真っ暗闇。
人は死んだらどうなるのだろうと、私はよく考えていた。
というか皆も高校生の時に、一度は考える特大テーマだと思うのだけれど。
……多分、電車の音? が先程からとてもうるさい。
私はぺしゃんこになって死んだはずなのに、何故まだうるさく聞こえるのだろう。
聴覚だけ生きているとはこれ如何に?
気になってその音をよくよく聞いてみると……いや、これは電車の音ではなく声? なのかもしれない。
叫び声にも似た、必死に何かを訴える声が近づいて来る。
それと共に、徐々に視界が白く開けていく。
その声で
え? 目を覚ました? 私が?
意識を覚醒させた私の脳には、沢山の情報が濁流の如く流れ込んできた。
先程の泣き叫び声云々は、私自身の口から出ていたようだ。
意思に反して、勝手に泣き声が溢れ出てしまう。
止めることが出来ない。
目覚めたのに関わらず、視界が悪い。
どこか霞みがかったボヤけ方をしている。
長時間睡眠した後の、寝過ぎて目が開かない時に似ている。
とりあえず起き上がろうと、お腹に力を入れようとするが、全く入らない。
それどころか、身動ぎくらいしか体を動かせない。
いや、今はそんな事を気にしている場合ではないはず。
まず一番最初の問題は、私は死んだはずなのに、どうして生きているのかだ。
電車に全身を轢かれて一命を取り留めたなんてありえるの?
それにここはどこだろう。
あまり動かない体を無理やり動かして辺りを見回す。
知らない天井……と不思議なオブジェ? 曇る視界の中、頑張って目を凝らすとようやく分かった。
これってもしかして。
「あうあううああううあー!? (赤ちゃんベッドに吊るすガラガラだこれー!?)」
ん? 私の声こんなに高かったっけ。
ていうか、私、喋れなくなってるだとォーッ!?
新手のスタンド攻撃かな。
色んなありえないが混在している……。
しかし、しかしだ。
冷静になるのよ、雪菜。
あなたは出来る子よ。
何故かベビーベッドに寝かされているけれど。
何故か自分の手を見てみると、ちっちゃくてぷにぷにしているけれど。
うーん…………これってもしかしてだけど。
「あううああううあううあうあうあー!? (私赤ちゃんになってるー!?)」
ということで私は見事、転生を果たしたのです。
私が覚醒した時に聞いた叫び声は、私自身の泣き声でした。
高校生にもなって恥ずかしいね。
あ、今は生後間もない赤ちゃんでした。
そんなこんなで状況をあまり飲み込めずとも、時間はどんどん過ぎていって……。
あれから3年もの月日が経った。
時の流れは早いね。
視界はハッキリとして、言葉をちゃんと話せるようになり、あんよだって上手にできるようになりました。
えっへん。
コミュケーション手段を獲得し、行動範囲の拡張に成功した私は、ひとまず現在の状況を確認するために、私が住んでいるこの一軒家をひたすらに歩き回って情報を集めることにした。
家の至る所を徘徊し、私が元いた世界と違うところはあるか徹底的に調べ上げた。
又、新聞やテレビ等のメディア情報もチェックし、現在の時代やどんな事件が起きているかも確認した。
そんなこんなで時間は過ぎて、自室に戻り、情報の精査タイムだ。
この世界での私の名前は、
こっちの世界でも雪菜なんだね、私。
16年間共に生きてきた名前なので嬉しい。
誕生日は1990年1月1日生まれで、現在は1993年の3月1日。
でも前世の時よりも、過去を生きているなんて不思議な気分。
どっちが前世か分からなくなるね。
前世では、2006年生まれだったのに。
あれ、もしかして私、2006年に死ぬとかあるのか。
それともこの時代に転生した意味でもあるのだろうか。
まあ、そもそも転生自体、意味不明な事だから考えても仕方のないことだけれど。
生まれはごく普通の一般的なご家庭で、めちゃくちゃお金持ちでもなければ、貧乏って程でもない。
両親は共に健在で、兄弟姉妹は無し。
この人生でも一人っ子か、夢は夢のままってことね。
弟か妹にお姉ちゃんって呼ばれたい人生だった。
いや待て。
まだ私が3歳だし、今世の両親めっちゃ若いし可能性あるか……!
お父さん、お母さん。
何をとは言わないが、是非とも頑張って頂きたい。
閑話休題。
自分ではどうにもならないことを考えても仕方がない。
今は自分で対処可能な、目前の問題に取り掛かるのが賢い転生者なはず。
貴重な幼少期をダラダラ過ごすなんて、転生者に有るまじき行為だと私は思うのだよ。
「さてさて、まずはお菓子で食べながら、前世の記憶チートで幼小中高で大人気作戦を……っと?」
そんな煩悩丸出しな作戦を考えつつ、私は1階のリビングへ向かった。
そこで恐ろしいものを見てしまった。
「あら、雪菜。降りてきたの? 夕飯はもう少し後だけど……お菓子でも食べに来たのかしら?」
『へへへ、だっこ、して……ね。へへ……ああああああああ゛』
お母さんと……お母さんの身体に背後から抱きつく変態おじさんがそこには居た。
変態おじさんの手足は異様に長く、逆に胴は赤子のように細く短い。
後、なんか汚い。
そのようなアンバランス過ぎる体躯が、余計におじさんの変態度を加速させていた。
こ、これは、浮気現場を目撃してしまったのか……?
お父さんは会社へお仕事中。
こんな真昼間のタイミングで……謀ったな! お母さん!
いや、さすがに無いな。
あんな化け物おじさんがお母さんのタイプなのかと言われたら、そんなはずないと声を大にして言うよ。
だって、お父さんめっさイケメンだし。
美人お母さんとイケメンお父さんのDNAのおかけで、3歳でも分かるほど私は超絶美少女だし。
……って今はそれどころじゃない!
「え、えーと、ママその人は誰?」
「その人? えー、雪菜、急に怖いこと言うわね。なになに? 私を怖がらせようとしてるのかしら。ふふ、このお部屋にはママと雪菜の2人だけよ。お昼寝の後だから、まだお寝ぼけさんなのね」
お母さんはまるで変態おじさんを見えていないような反応をする。
これは異常事態だ。
そもそも変態おじさんが自宅に居る時点で、既に異常事態ではあるのだけれど。
「そういえば、お母さん最近肩こりが酷くてね。寝てる間もたまに息苦しくなったり……雪菜の言う通り、お化けさんにでも取り憑かれているのかしら」
お母さんは、変態おじさんに抱きつかれている自身の体の不調を訴え始めた。
この状況どこかで見覚えがあるような気がする。
すると、急に変態おじさんの周りに黒いオーラが現れ、そのオーラが勢いを増していった。
『あははははは、もっともっとだっこいい? ねぇねぇ。あわああぁ』
一体何が起こっているの? ただひとつ分かることは、この状況がとんでもなくヤバいことだけだ。
「せ、雪菜。ごめん、なさい。急に身体の調子が……」
そういうとお母さんはバタリと倒れてしまった。
ひゅう、ひゅう、と苦しそうな呼吸を繰り返すお母さん。
恐ろしく早いスピードで衰弱していっている。
これは病気とかじゃない。
私は知っているはずだ。
あの変態おじさんの正体も、あの黒いオーラが何なのかも。
「これは……呪霊だ!」
これが私の、前世を含め初めての、呪霊との遭遇だった。
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