ゆっくりし過ぎました。
気持ちは未だお正月……。
今年はもっと頑張りたいなぁ。
鮫型呪霊が爆発四散。
その中から出てきたのは、腰の入った突きの構えから残心をとる雪菜であった。
「ふん、中々タフだな。まだ楽しめそうだ」
「それは完全に悪役のセリフだよ。もう頭に羂索入ってんじゃない?」
「けん……今なんて?」
「あっいや、なんでもない! なんでもないです……」
「そうか、なら君に勝った後でゆっくり聞かせてもらうとしようか」
やっちまったの顔をする雪菜とは対照的に、ニヤリと口角を上げた傑は、オニイトマキエイ通称マンタの姿をした呪霊に搭乗し飛翔した。
高度をぐんと上げて、雲間に見える太陽と重なる位置で停止し、雲の一部をイカ呪霊のレーザーでかき消した。
雪菜が傑の姿を捉えようと見上げるが、はっきりと見えるようになった太陽光が、彼女の目を差してそれをさせない。
「くっ、目潰しとは卑怯な!」
「ふふっ、勝てばよかろうなのだ。だったかな」
「お、おのれディオッ!!」
傑は再びイカ型呪霊を両翼に展開した。
上空から無数のレーザーが、目眩しを受けた雪菜に降り注ぐ。
しかし雪菜は、迫り来るレーザーの豪雨を、まるでワルツを踊っているかの様なステップで、軽やかに避けてゆく。
「これは……移動可能型の簡易領域か? ……まさかこんなことまでできるとは」
傑は雪菜の術式に戦慄を覚えた。
雪菜が行ったのは、原作で漏瑚と花御が行った『領域展延』。
もちろん、この時点で傑は領域展延の存在を知らない。
呪力のレーザー砲を、雪菜は身に纏った術式が付与されていない領域で中和し、その領域内の中和反応を感じ取り、残った衝撃を体術で回避していた。
「目が見えないなら、自身の生得領域で感じれば良いじゃない」
レーザーの雨を無傷で凌ぎ切った雪菜に、マンタ呪霊の上で舌を巻く傑。
「言っていることはごもっともだか、やっていることが理解の範疇を超えている」
「さて、ひとまず捌ききったし、今度はこっちの番!」
雪菜の周りの呪力の流れが変わった。
荒波のように激しく渦巻いてゆく。
『呪力操術、拡張術式、【千変万化・弾】』
雪菜は莫大な呪力を、左の手のひらに集めて、ぎゅっと固く握った。
出来上がったのは、ビー玉サイズの『属性・弾丸』が付与された呪力。
右の手のひらを上に向けて、親指と中指で輪を作る。
雪菜にとってはお馴染みの『虚式茈型、裏デコピンの構え』である。
親指の先と中指の先の間に呪力(属性・弾丸)を装填。
「まずはその空中戦をやめさせなきゃ。 ここまで降りてきて来なよ。……【黒閃砲】ッ!!」
弾かれた中指。
その瞬間、黒雷が、地から空へ翔る。
耳をつんざくような爆発音。
今のは彼女が放った黒閃砲の発射音である。
まるで目の前で落雷があったかのような爆音と衝撃。
中指の爪が呪力に衝突、その際に寸分違わず完璧にコントロールされた呪力操作により、雪菜は意図的に黒閃を放った。
黒閃により強化を受けた呪力は、千変万化により弾丸の性質を持つため、指向性を獲得して標的へ直進した。
イカ型呪霊のレーザー砲を50門束ねても届かない、圧倒的な呪力の奔流。
傑はその破壊をもたらす黒い極光を、マンタ型呪霊とムカデ型呪霊の全てを目の前に集結させて対抗した。
対抗と呼べる程抗えた訳では無いが、威力をほんの少し削ぎ落とし、その隙になんとか斜線上から逃れることができた。
彼は地上に降り立つと、雪菜への警戒度を数段上げて、数百体の呪霊を自身を守るように配置し、それと同じ位の数を雪菜を取り囲むように召喚した。
「今のは私が取り込んだ呪霊の中で、最高硬度を誇る『虹龍』でも受けきれなかっただろう。意図的な黒閃、いつ見ても馬鹿げた術式と威力だ……」
表情が強ばる傑に対して、雪菜は表情をくしゃっと崩して笑った。
「よし、やっと余裕の表情が無くなったね。
「君はそうやって誰にでも……ん? 今、少し変な間があったような……まあいい。どうやら君相手に手加減は不要だったみたいだ。次は出し惜しみ無しで行くッ!!」
傑の周りをかつてないほどの呪力が囲む。
「いいよ、こっちも全力で迎え撃つ!」
雪菜も左自然体から腰を少し落とし、迎撃の構えをとる。
傑は片手で印を結んだ。
それと同時に雪菜を囲む大量の呪霊が、360°全方位から襲いかかった。
さて突然だが、この『呪術廻戦』の原作設定において、特級を冠する呪術師はたった4名である。
これは呪術師界を純粋な個々の強さでランク付けした際に、トップクラスの一級術師の中でも更に常軌を逸する強さを有した人数が、たった4人のみであることを指す。
『現代最強の呪術師』五条悟。
『最悪の呪詛師』夏油傑。
『五条悟に次ぐ現代の異能』乙骨憂太。
『元星漿体』九十九由基。
この4人はまさに規格外。
同じ呪術師という枠から飛び出た、異端の者。
特級にランク付けされる要因は、幾つかあるが、一番分かりやすい条件は、
『単独での国家転覆が可能である事』
特級呪術師夏油傑の術式【呪霊操術】によって使役された呪霊たちは、3~4級といった所謂低級と呼ばれるものでも、彼の呪力によって大幅な強化がされているので、単純な攻撃力は1級と同等もしくはそれ以上である。
呪霊の等級の指標として、『通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合』という例え文句がよく挙げられる。
それによれば、1級は『戦車でも心細い』というもの。
現在雪菜の周りには、傑によって強化された数百体の呪霊が一斉に襲いかかろうとする瞬間である。
その全てが戦車以上の火力の持ち主。
夏油傑にとってみれば、国家転覆など造作もないことなのがよく分かる。
「流石にこの数はやり過ぎか……雪菜生きてるかな──ん?」
自身の使役する呪霊の合間から見えた雪菜の瞳。
その眼は真っ直ぐと傑を見ていて、そしてどこまでも青く、蒼く澄んでいて。
「雪菜、その眼は、悟の……!?」
「呪力操術、術式順転、【
この旅は、夏油傑の戦力アップを図るだけの旅では無い。
特級呪術師の実力を見極めて、最強の2人に置いて行かれないために。
更にその2人に互角以上の戦いを見せた伏黒甚爾を倒すために。
雪菜が自身の実力を正しく理解し、効率的に鍛錬を積むための旅でもある。
ならば、やはり全力で。
出し惜しみなど、する必要は無い。
それが彼女の答えだった。
「やり過ぎ? 大丈夫、
「正しくは最強になるのだから、かな? 」
『呪力操術、拡張術式、【千変万化・斬】』
雪菜の青い瞳とは正反対に、彼女の右腕の手刀には赤黒い禍々しい呪力が宿る。
『龍鱗』
『反発』
『番いの流星』
「宿儺様、貴方の
」
呪霊の騒ぎ声、吹雪の風音、全ての
『───
右足を軸に体を一回転させて、右腕を真横に振り抜く。
ただそれだけ。
まるでそれは、
一連の動作が終わると、彼女を取り囲んでいた数百体の呪霊は、全て同時に、真一文字に斬り祓われていた。
「マジかよ……」
「マジもマジ、大マジです」
アクセルを決めたアイススケーターの如く、綺麗な残心をとってニコリと微笑む雪菜。
原作には居ない転生者。
この世界で、彼女の強さの基準を表すならば。
「そう言えば、君も特級だったな……よし、見せるよ。雪菜に、私の極ノ番を」
彼の頭上で、渦が巻いた。
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