戦える魔法少女このかちゃんと戦えない樹くんの共依存スパイラル   作:maricaみかん

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失意の中で

 俺は失意の中にいた。本当の強敵相手には、俺の策なんて何も通じない。それを思い知らされて。

 このかを守りたかったのに、ただ泣かせてしまっただけだった。

 それどころか、足を引っ張ったと言っても良いだろう。そんな俺に、何の価値があるのだろうか。

 

 ゲドーイエローとの戦いが終わって、病院へ向かった後。暁先生に見舞いに来てもらった。

 先生はとても悲しそうで、この人まで傷つけてしまったのだと、心から理解できた。

 本当に、俺には何も残せなかった。ただ周りを傷つけただけで、得たものは何もない。

 

「東条、無理はするなと言ったじゃないか……!」

 

 切実そうな声が聞こえる。本気で悲しんでいるのだと、強く伝わるような。

 瞳が涙でうるんでいるようにすら見えて、とても大切にされていたのだと感じられた。

 ただの教師と生徒なのに、骨折程度で涙を流すなんて。そう言う人もいるかもしれない。

 だが、俺にとっては真剣に案じてくれている証なんだ。

 

「すみません、暁先生。忠告してくださっていたのに、無視してしまって。俺がバカだったんです」

 

「本当だぞ、この大バカ者……! 一歩間違えていれば、お前は死んでいたんだぞ!」

 

 全くだ。このかにも言われたことだが、俺は自惚れていた。ゲドーユニオン相手でも、何かができるんじゃないかと。

 完全に、勘違いでしかなかったな。もはや、笑えてきそうだ。

 

 その結果が、このかも先生も泣かせるという事態。愚か極まりない。

 俺は、周りの人よりも自分のプライドを優先していただけなのだろうな。

 このかだって、結局は自力で敵を倒していた。それなのに、わざわざ手伝いに向かうのだからな。

 

 俺が死んでいたのなら、きっとこのかも先生も、もっと傷ついていたんだ。

 それを思えば、俺の罪を理解できるだろう。そもそも、このかの足を引っ張っているのだから。このかを危険にさらしたようなものだ。

 俺の無謀に付き合わせて、それで巻き込んだわけだ。バカげているよな。

 

「返す言葉もありません。もう、同じ過ちを繰り返したりはしません」

 

「今度こそ、頼むぞ。生徒が死んでしまうなんて、私は嫌だからな」

 

「もちろんです。暁先生を、悲しませたりはしません」

 

「棗のこともだぞ。お前に懐いているのは、よく分かるんだからな」

 

 このかが俺に親しみを感じてくれているのは、流石に分かる。心配してくれているのも。

 だからこそ、俺に傷ついてほしくなかったんだろう。今更気づいても、遅くはあるが。

 

「はい。しっかりやります。もう、無理はしません」

 

 したところで、何の意味もない事はよく分かったからな。

 拳を握りそうになるが、痛みで手が止まる。今の俺は、悔しがる事すらできないんだな。

 何か策が思い浮かんだところで、この体では無理がある。腕が折れているんだからな。

 消火器を使うこともできない。ハッタリも難しい。ゲドーレッドやゲドーブルーであったとしても、同じ対応はできないんだ。

 

 だから、今の俺は完全に無力。ただ、このかの動きを見ていることしかできない。あるいは、見ることすらできない。

 どちらにせよ、何もできないに等しい。本当は、初めからそうだったのだろうが。

 

「じゃあ、私は帰るぞ。東条、しっかり休むことだ」

 

 そのまま暁先生は帰っていく。ひとりになると、急に力が抜けてしまった。そして、涙がこぼれてくる。

 先生の前では、我慢していたのだろうか。それとも、緊張の糸が切れたのだろうか。

 よく分からないが、とにかく涙は止まらなかった。不自由な腕では、拭うことすらままならない。その事実が、余計に涙を増やしたような気がした。

 

 結局、一日中無気力に過ごして、次の日。

 このかが家にやってきていた。俺は、大事を取って休んでいたのだが。

 それで、このかの成績が落ちたりしたら、俺の責任だな。もともと、俺が余計なことをしたせいなのだから。

 

「樹くん、大丈夫? いや、聞くまでもないよね。ごめんね。わたしが弱かったせいで」

 

 このかに、自分を責めさせている。なんと情けないことか。俺の勝手な行動で、傷つけて、余計な責任を負わせて。

 俺のことを、このかがどれほど大事にしているかなんて、分かり切っていたはずだ。

 にもかかわらず、自分の納得を優先した結果がこれだ。俺よ、満足したか?

 

「お前のせいじゃない。俺が無謀なことをしたからだ。自業自得だよ」

 

「もっとわたしが強かったら、心配しなくて済んだよね。だから、わたしのせいなんだ」

 

「自分を責めないでくれ。お前を泣かせたくなかっただけなのにな。俺は間違えてばかりだ」

 

「そんなことないよ。樹くんは、何度もわたしを助けてくれた。それだけは、本当のことだから」

 

 だから、今回だって助けられると誤解した。罪深いことだ。

 このかを助けるのは当たり前で、俺の方が上だと勘違いしていたのだろうな。

 ハッキリ言ってしまえば、傲慢がすぎる。失敗してから、気づくなんてな。

 生きていたのは、単なる幸運だった。現実が見えていなかった。

 

「だからこそ、余計な世話を焼いてしまったんだ。反省すべきだよな」

 

「わたしは、樹くんが元気でいてくれれば、それだけでいいんだ。一緒に居てくれれば、それが幸せなんだ」

 

 このかの思いを、ずっと無視し続けて。それで傷つけるのならば、俺の行動は何だったんだ。

 いや、分かり切っている。ただのつまらない自己満足。それだけだよな。

 悔しくはあるが、この感情を表に出すことはできない。このかの方が、苦しんでいるだろうから。

 俺の感じている苦痛なんて、小さなものだろう。このかは、俺に信用されていない感情だって、受け取ってきたのだろうから。

 

「ありがとう。お前の幸せを尊重しなかった俺は、バカなことだ」

 

「気にしなくて良いよ。これまで、ずっと幸せにしてくれたから」

 

 気にしなくて良い。つまり、同感ではあるのだろうな。

 自分で言っておいて、反応を気にする。バカバカしいことではあるが。

 どうしても、苦しさを感じてしまう。情けない限りだよな。でも、感情を抑えられない。

 

「だからといって、いま苦しめていたら何の意味もない。よく分かっているんだ」

 

「でも、これからは安全なところに居てくれるでしょ? それだけで十分だよ」

 

 まったく、ままならないものだ。俺はこのかを助けたいが、その思いは迷惑なのだろう。

 すべては、俺が弱いから。戦えないから。どうして力がないんだろうな。

 魔法少女の力が俺にあれば、それだけでこのかを守れるのに。

 だが、夢見ているだけでは何にもならない。結局、ただ見ているだけか。

 

「分かった。お前に全部任せるよ。情けないけどな」

 

「そんなことないよ。樹くんがそばに居てくれるから、わたしは頑張れるんだ」

 

 なら、良いのだろうか。このかに戦いを押し付けているだけではないのだろうか。

 だからといって、俺にできることはなにもない。考えたって、仕方のないことではあるのだが。

 魔法少女として戦うこのかを支えることすらできない。応援だけなんて、何もしていないのと同じ。

 それでも、言葉だけでもかけるべきなのだろうか。頑張ってくれって。

 

 俺としては、できれば避けたい。

 だが、今の感情だって、つまらないプライドなのだろうな。自分がよく分かってしまう。

 このかに任せて、ただ待っているだけでは無いという言い訳がほしいだけ。

 悲しいことだ。ゲドーユニオンさえ居なければ、以前のままでいられたのに。

 

 なんて、醜いのだろうか。自分の弱さを思い知らされることを、強く嫌う。

 結局のところ、俺は小さい男なのだろう。このかには、ふさわしくないのかもしれない。

 俺がこのかを引っ張っていたのは、過去の話。今では、ただ守られるだけなのだから。

 

「ありがとう。絶対に、ケガなんかしないでくれよ。多分、今のお前と同じような気持ちになるから」

 

「うん、分かっているよ。絶対に、負けたりなんかしない。どんな敵が相手でもね」

 

 このかは自信満々だ。俺という重荷が無くなったせいだろうか。そんな考えが浮かんでしまった。

 女々しいことだ。このかを助けることが、俺の存在価値だった。それを奪われたと感じているのだろう。

 だから、ちょっとしたことすら疑ってしまう。俺を信じていないのではないかと。

 

 分かっているはずなんだ。このかは俺を大事に思ってくれているはずなんだって。

 だけど、心の奥底では納得できない。足手まといにしかなれないという思いが、俺の足まで引っ張っている。

 このかのためを思うのなら、素直に応援しているべきなんだ。だって、力になれないんだから。

 

 それでも、声が震えそうになる。本音が言葉に出そうになる。

 もう、戦うのをやめてくれないかと。無理難題だと分かっていても。

 このかは、ただ笑顔でいるだけなのが似合っているんだ。戦場なんて似合わない。

 理解している。俺のほうが弱いのだから。考えるだけ無駄なのだと。

 

 俺は、このかとただ平和に過ごしていられたら、それで良かったのにな。

 ゲドーユニオンさえ居なければ、叶っていたはずの願いなのだが。

 

「このかなら、勝てるのだろうな。俺と違って」

 

「当たり前だよ。樹くんを思うだけで、力が湧いてくるんだ」

 

 このかは嬉しそうに笑う。俺にも、同じだけの力があったのなら。このかへの思いが、力になったのならば。

 荒唐無稽な考えだと分かっていても、どうしても追い求めてしまう。

 

「そういえば、リーベはどうしているんだ?」

 

「一応、呼べば来るとは思うけど。なんで?」

 

「いや、気になったからな。仮にも、魔法少女の力については中心だろう?」

 

「分かった。じゃあ、呼んでみるよ」

 

 このかは目をつぶって、念じている様子に見える。

 なんというか、テレパシーみたいな能力があるのだろうか。

 俺にも使えるのなら、とっくに使っているだろうし。リーベにしか使えないんだろうな。

 

 あまり時間はかからずに、すぐにリーベはやってきた。

 ふよふよと猫のぬいぐるみが浮かぶ姿は、とても面白い。

 まあ、このかを巻き込んだ張本人だと思うと、あまり好きにはなれないのだが。

 以前はそこまで気にしていなかったのにな。状況が悪くなっただけでこれか。

 

「樹、何の用だい?」

 

「いや、特に用と言うほどではないのだがな。このかが危険そうなら、どうにか逃がしてもらえないか」

 

「ダメだよ! わたしが負けるような状況なら、この街にいる樹くんも危ないんだから!」

 

「実際のところ、特別な力で逃がすことはできないよ。このか自身の力でどうにかするしかない」

 

 なら、結局このかは危険な戦いを続けるわけか。どうにか、最低限の安全を確保できればと思ったのだが。難しいな。

 だが、ないものねだりをしても仕方がない。何か、このかの力になれるような。そうだ、魔法少女の力は、何かで増やせないのか?

 

「例えば、魔法少女の力が増える条件があったりしないのか?」

 

「命を捧げるのは、絶対にダメだからね! 樹くんが生きてくれなきゃ、何のために戦っているのか分からないよ!」

 

 もちろん、俺だって命を捨てる気はない。このかと一緒に生きていきたいからな。

 それに、ただ腕を折っただけで、とても悲しんでいたのだから。俺が死んだら、もっと嘆くだろう。容易に想像がつく。

 

「当たり前だ。俺だって死にたいわけじゃない。ゲドーユニオンと戦ったのだって、死ぬと思ってなかったからだからな。バカなことだが」

 

「樹くんが無事なのは、奇跡なんだからね。絶対、もう危ないことはしないでね」

 

「同感だね。ゲドーユニオンの脅威は、思い知っただろう? 無茶な真似はしないことだよ」

 

「ああ、分かっている。自分の限界は、もうわきまえたつもりだ」

 

 実際のところ、ゲドーイエローより強い相手ならば、俺は何もできないだろう。

 それなのに協力しようとすれば、ただ邪魔をしているだけなのだから。

 このかの安全が、最も大切なことなのだから。それを優先するべきだよな。

 そもそも、このか以外がブロッサムドロップだったのなら、気にもしていなかっただろうが。

 

 どうして、このかだったのだろうな。そうじゃなければ、お互い傷つくこともなかっただろうに。

 今さらではあるが、改めて考えてしまう。過去に戻れない以上、どうにもならないのだが。

 

「本当に、樹くんが無事で良かった。ゲドーイエローに攻撃された時は、頭が真っ白になったから」

 

 それほど、このかを傷つけていたということ。今の段階でも、しっかりと理解できていなかったのだな。

 何度でも何度でも、俺の愚かさを思い知らされる。このかを守っているつもりで、傷つける。それが愚かでないはず無いのだが。

 

「話を戻すけれど、魔法少女の力を増すために必要なのは、感情だ。樹。キミは、どうやってこのかの感情に触れる?」

 

 感情。それは、怒りでもなのだろうな。ゲドーイエローの時の、黒いリボンも。

 あの攻撃によって、敵はボロボロになっていた。それほどに、強い怒りだったのだろう。

 つまり、このかは俺をよほど大事に考えてくれていた。今の状況で不謹慎ではあるが、嬉しさもあるな。

 

 とはいえ、どうすれば良いのだろう。このかの感情に触れる言葉や行動。

 このかは俺に好意を持ってくれているだろう。だからといって、良いものが思い浮かばない。

 流石に、キスは論外だろうからな。いくら好かれていても、いきなりだとおかしい。

 

 単純な言葉だと、効果が薄そうな気がするからな。大きな感情がほしいのだから。

 そうなると、本当に難しい。告白でもすれば、意味はあるか?

 いくらなんでも、打算で告白するのは問題な気がする。このかにも、きっと気付かれるだろう。

 

 それでも、何か言いたい。行動でも良い。せめて、ほんの少しでも力になれたのなら。

 俺の心の中に、どんなものがある? このかが好きなのは間違いない。それだけで、足りるだろうか。恋かも愛かも分からない、今の感情を伝えるだけで。

 そもそも、どんな行動をすれば良いのだろうか。何を言えば良いのだろうか。思い浮かばない。

 

 俺のこのかへの感情は、とにかく好きだというだけ。守りたいというのもあったが、今では無理だ。

 そうなると、好きと伝える? でも、どんな好きかまで表現しなくて良いのか?

 悩ましいが、何もしないよりマシだと信じたい。いや、ゲドーユニオンに挑むくらいなら、何もしないほうが正解だった。

 

 今のまま、このかのことを信じていれば良いのか。なにか、思いを伝える行動をすれば良いのか。

 言葉が思い浮かばないのなら、なにか行動。例えば、手をつなぐとかどうだ? これまで、あまり経験がない気がする。

 効果の程がどれなのかは分からない。それでも、少しでも、思いが伝わったのなら。

 

「このか、手をつながないか?」

 

「うん、嬉しいよ。だけど、どうして? なんてね。話は聞こえているんだから」

 

 正直に言って、すごく恥ずかしい。この持ちかけ方で良かったのか? もうちょっと、うまい流れがあったんじゃないか?

 そんな考えもあるけれど、行動してしまったからには仕方ない。もう、戻れない。

 いや、そんな大げさな話でもないんだがな。手をつなぐだけだ。

 

 このかに右手を差し出すと、相手の方からつないできた。

 小さくて、柔らかくて、暖かい手。いかにも女の子という感じで、この手に色々なものが乗っかっているのだと思うと、悲しくなった。

 本当なら、もっと学生生活を楽しんでいられただろうに。

 

 このかの方を見ると、こちらに向けて微笑んだ。そして、俺の手を頬の方へと持っていく。

 とても幸せそうにしていて、思わず見とれそうになった。吸い込まれそうな感覚があったんだ。

 やはり、このかは可愛いよな。まあ、身内びいきみたいな気持ちはあるかもしれないが。

 とにかく、いつでもどこでも一緒に居たからな。相応の情はある。

 

「樹くんの手、あったかいね。また、こんな時間を作りたいな」

 

「いつでも、何度でも、構わない。お前が望む限りは、絶対に」

 

「約束だよ。ウソだったら、わたしはおかしくなっちゃうかも」

 

「それは嫌だな。このかが苦しむ姿は、もう見たくない」

 

 実際、2回も泣かせているからな。

 ゲドーレッドの時、ガベージにボコボコにされて。

 次は、ゲドーイエローの技でボロボロになって。

 どちらも、俺を心配して泣いていたんだ。もっと早く、理解できていたのならな。

 いや、無理か。俺は、得体のしれない自信を持っていたからな。自分でも、何かができるという。

 

「わたしだって、樹くんがケガする姿なんて、二度と見たくないよ」

 

「ああ、気をつけるよ。これから、ちゃんと身の程をわきまえるから」

 

 手痛い出費ではあったが、命があるし後遺症もない。問題はあるが、最悪ではない。取り戻せる範囲だ。

 それでも、苦しさはあるのだがな。仕方のないことだ。無力で愚かだったのが悪い。

 結局のところ、今の行為だって、大した意味はないのだろう。このかの力になるという意味では。

 俺としては、このかとの日常の大切さを感じる機会ではあった。死んでいたら、もう過ごせなかった時間の。

 

「樹くんが無事なら、何でも良いんだけどね」

 

「ボクとしては、このかは分かりやすいね。樹の安全が、何より大切らしい」

 

 それなら、俺の行動は。このかの何より大切なものを傷つける行為。

 だとしたら、俺はどれほどこのかの感情を軽んじていたのだろう。

 結局のところ、自分の感性がすべてだと思っていたのだろうな。バカバカしい。

 

「それなら、ちゃんと安全なところにいる。それで、いいだろう?」

 

「うん。樹くん、ずっと一緒にいようね」

 

 このかの感情に、何か影響を与えることができただろうか。

 いずれにせよ、いま以上の行動は難しい。自分の発想の貧困さが嫌になるな。

 だが、どうしようもないことだ。休んでいる間、何か考えることはできるが。

 以前はゲドーユニオンに対抗する手段を探っていた。今度は、このかの感情により良い影響を与える手段を探すだけだ。

 

 それから、このか達は去っていき、俺はひとり残された。

 ひとりになると、改めて悔しさが湧き上がってくる。歯を食いしばりながら、我慢していたが。

 当然のことだが、俺は戦えない。それだけのことが、重くのしかかってくる。

 このかが好きだからこそ、危ない戦いからは離れてほしかったのに。むしろ送り出したような形になっている。

 

 今の体では、なにかに八つ当たりすることすらできない。

 だから、頑張って考えをそらそうとした。このかの感情を、どうにかする手段なんかに。

 このかは、俺を大事に考えてくれている。それは確かだ。

 だからといって、全く頼られていない。そんな考えが浮かんだ。

 俺はネガティブばかりだな。自覚して、思わず笑ってしまう。

 

 結局、もやもやした思考ばかりを思い浮かべて、その日は終わった。

 そして次の日。今度は検査の結果を聞くために病院へ向かった。

 一応、最低限の治療はされたが、結果次第では通院の回数が増えそうだ。

 とりあえず、即座に入院が必要なほどではないそうだが。実際、家に帰れている訳だからな。

 

 受付を済ませて、待合室で待機する。そうしていると、ガベージが現れた。

 念のために距離を取りながら様子をうかがっていると、すぐブロッサムドロップがやってくる。

 

「前を向いて生きようとする人々の邪魔をすることは、このブロッサムドロップが許しません!」

 

 そう言って、ピンク色のリボンを放つ。即座にガベージ達は倒れていく。

 もはや、ガベージでは時間稼ぎもできないようだな。このかの強さが、よく分かる。そして、俺の弱さも。

 以前、ゲドーレッドと戦った時には、俺はたった一体のガベージすらも倒せなかった。

 それが、今のこのかは、ガベージなど問題にもしていない。このかとの距離が遠くなったようで、つい右手を伸ばしかけた。

 

 このかは全てのガベージを倒し終え、同じ頃に緑の怪人が現れる。またマントをまとっている。

 見た目からして、ゲドーグリーンと言った感じ。ゲドーブラックは、まだ出てこないようだ。

 そうなると、ゲドーユニオンのリーダー的存在がブラックなのだろうか。

 まあ、答えはすぐに分かるだろう。目の前のグリーンが四天王かどうかで。

 

「オイラはゲドーグリーン。この病院は、ゲドーユニオンが破壊するよー!」

 

「そんな事、許しません!」

 

 このかから、黒いリボンがあふれ出る。もしかして、強い怒りを感じているのだろうか。

 声を聞く感じでは、冷静さを保っているように見えていたのだが。

 このかは、もしかして憎悪で染まってしまったのだろうか。一度、怒りに身を焦がしたから。

 それなら、俺のせいじゃないか。俺が、このかの感情に影響を与えていた。それも、悪い方に。

 

 結局、昨日の行動は無意味だったのだろうか。それとも、あまりにも怒りが大きいのだろうか。

 どちらにせよ、俺が悪い。このかの心を癒やせなかった、俺の問題だ。

 なぜなんだろうな。俺は、何をした所でこのかの役に立てない。

 戦おうとすれば足を引っ張り、このかは怒りで戦うほどに歪んでしまった。

 かつては、誰かを守るために戦うと言っていたのに。見る影もない。

 

 このかの黒いリボンは、あっという間にゲドーグリーンを包み込む。

 そしてしばらくして、相手が解放されたら、そいつは全身の関節が逆に曲がっていた。

 野次馬らしき人からも悲鳴が上がり、ブロッサムドロップに恐れの目を向けているのが分かる。

 

「ブラック様、ごめん。ブロッサムドロップには、勝てなかったよ……」

 

 そのままゲドーグリーンは消えていく。このかの黒いリボンは、圧倒的な力を誇っている。

 だが、俺には不吉の象徴にしか見えなかった。このかが歪んでいる証にしか。

 原因は何かと考えれば、俺が傷ついた恨みなのだろう。つまり、俺のせいだ。

 優しい性格だったこのかを、ここまで変えてしまった。どれほど罪深いのだろうな。

 

 同時に、強い無力感も襲いかかる。このかの力は圧倒的だ。だからこそ、俺には何もできない。

 うっかり、このかの怒りを沈めてしまえば、それで弱くなってしまうかもしれない。

 このかの安全は、何よりも大事だ。だからこそ、今の変化してしまったこのかを受け入れるしかない。

 だが、本音では嫌でしかなかった。少し気弱だけど、確かな優しさを持っていた、そんなこのかが好きだったから。

 

 俺は無力だ。このかを傷つけて、守れないで、歪めてしまって。

 何か役に立とうとして、悪い方向にしか進めていないじゃないか。

 どうしてなんだろうな。ただ、このかに笑顔で居てほしかっただけなのに。

 いや、答えなど分かり切っている。俺が弱いからだ。心も、体も。

 

「ゲドーユニオンの悪逆は、私が打ち砕きます」

 

 ブロッサムドロップの言葉に、周囲は怯えている様子。

 あまりにも過激な正義にでも見えているのだろうか。

 いずれにせよ、俺がこのかの心を黒く染め上げなければ、怯えられることもなかっただろうに。

 俺の罪が、また増えてしまった。このかだって、きっと恐れられるのは嫌だろうに。

 

 結局は、足を引っ張り続けるだけ。もう、どうしたら良いのだろうな。

 死んでしまいたいぐらいだが、このかを傷つける選択でしかない。

 どんな道を選んでも無駄でしかないと思えて、胸が引き裂かれそうな心地だ。

 

 だが、このかだって苦しんでいるはず。現に、いま人々に怯えられているのだから。傷ついているはずだ。

 分かっているから、自分だけが不幸なつもりにもなれない。どこまでも、中途半端なだけなんだ。

 いっそのこと、投げやりにでもなってしまえば、楽なのだろうが。

 それでも、このかを支えたいんだ。せめて、心だけでも。隣に居ることで、何かできればと。

 

 ブロッサムドロップは、周りを見回した後、すぐに去っていく。空気を感じたのか、何なのか。

 これから先は、このかが怯えられなくて済むといいが。

 何もかもが、ゲドーイエローの時の失敗と繋がっている。せめて、何か取り戻せたら。そう思うが、俺にできることなど思いつかない。

 

 本当に、何もできないんだな。前に進むことも、後ろに戻ることも、逃げ出すことも。

 いっそのこと、やけになるほどバカになれたらな。なんて、このかに迷惑をかけるだけか。

 

 ゲドーユニオンもブロッサムドロップも居なくなって、とりあえず検査の結果をもらって。

 家に帰ってから、ずっとひとりで考えていた。せめて何かができないかと。

 

 このかの心を慰められるのなら良いが、まだゲドーブラックが残っている。うかつなことはできない。

 今のこのかの負の感情。それを失わせるのは、正しい判断なのかどうか。ひとりで判断できることじゃない。

 せめてリーベが居たのなら、相談することもできたのだが。

 

 考えは袋小路に入ったまま、ベッドの中でゴロゴロすることを繰り返すばかり。

 これまでだって、俺自身の手でこのかの役に立てたわけではない。少なくともゲドーユニオンに関しては。

 今のこのかの強さを考えると、そもそも俺の手は必要なかった可能性が高い。

 結局のところ、わざわざ余計なことをして、それを成果だと誇っていただけ。どこまでもくだらない限りだ。

 

 俺はゲドーユニオンと関わってから、少しでもこのかの力になれたのだろうか。そんな疑問が浮かぶが、答えは分かり切っていた。

 このかの助けになれないのなら、何のために生きているのだろうな。分からないのに、死ぬことすらできない。

 

 今の俺には、このかの顔を思い出すたびに、無力な自分が映り込んでいるような心があった。

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