人間を拾ったので〇〇してみた   作:ヤニカス

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2話

人探しーーーー魔族探しはナハトの得意分野でもあった。ナハトの固有魔法『(シャッテン)』はこの世界の何処にでもあり、何処にでも繋がっている。

 

まるで見えない手足のように自在に扱えるこの力の前では、隠れることなんてまず不可能だろう。

 

ゆえに変わり者の魔族を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。

 

今は使われていない造船所跡。

海岸で遠くの地平線を眺める魔族の少女が一人。

 

蒼の瞳を持つその少女は、海を眺めながら静かに佇んでいた。

その姿には、どこか寂しげな気配がある。

 

ナハトはゆっくりと砂を踏み締めて近づいていく。

 

「人類を研究している魔族を探しているのだが、お前か」

 

そう声を掛けると、彼女はゆっくりと振り返った。

蒼い双眼がこちらを見つめてくる。美しい目だった。

 

「そうよーーーーー貴方は誰?」

 

透き通るような声音で問いかけられる。

 

「僕はナハト。君を探しに来たんだ」

 

「へぇ……。誰にも見つからずに隠れていたつもりだったけど……どうして分かったのかしら?」

 

「君の魔力は特殊だ。だから、すぐに分かった」

 

ナハトの言葉を聞いて、少女はくすりと笑みを浮かべた。

 

「ふぅん……? まぁいいわ。それで私を探してどうする気なのかしら?」

 

少女の目は興味深げにナハトを見据えている。

まるで品定めをするかのように。

 

「人間の赤子を育てたい。その方法を、知識を教えて欲しい」

 

その言葉に少女は驚いたように目を見開いた。

だがすぐに表情を戻すと、クスクスと笑った。

 

「面白いわね、貴方」

 

少女は愉快そうに笑うと、ゆっくりと近づいてくる。

そしてナハトの鎧に手を触れると、まるで試すように口を開いた。

 

「私はね、とても長い時間を人類の研究に費やして来たわ。何十年、何百年という時を。その間に学んだことは数え切れないほどあるわ」

 

少女は微笑みながら語る。

だが、不意にその雰囲気が変わったような気がした。

そして少女は静かに言葉を続けた。

 

「人間の子供なんて育てて、どうするの? 殺すの?」

 

ナハトに顔を近づけると、その瞳で覗き込むようにじっと見据えてきた。それはまるで心の内側を覗き込もうとしているかのようだった。

 

「そのつもりだ。家畜のように育てて、一番旨い時に喰う」

 

ナハトの答えを聞いて、少女は小さく答える。

 

「ふふ、素敵な答えね」

 

そして少女はゆっくりと身体を離すと、そのまま背を向けて歩き出した。

 

「何処に行くんだ?」

 

ナハトの問いかけに、少女は足を止めることなく答える。

 

「ついて来て、中でお話ししましょう。私の名前はソリテール。よろしくね」

 

ソリテールが歩き出すと、ナハトもその後を追いかけていく。

そのまま二人は造船所跡の中へ入っていった。中はボロボロに朽ち果てており、床板や壁材などが剝がれかけている箇所も多く見受けられる。

 

今にも崩れてしまいそうな状態だが、ソリテールは気にせず進んでいき階段を登って上の階へと昇っていった。

 

そこはまだ辛うじて建物としての体裁を保っていたようで、簡素な家具がいくつか置かれていた。

 

「さぁ、お座りになって」

 

勧められるままに椅子に腰を下ろすナハト。

するとソリテールも反対側に座り、頬杖をついてこちらを見つめてきた。その蒼い瞳からは感情が読み取れず、ただ真っ直ぐに見つめてくるだけだ。

 

「魔族がどうして人間を食べるのか知っているかしら?」

 

唐突な問いかけに、ナハトは少し考えてから答える。

 

「魔力か」

 

「ええ、そうよ。別に魔族は人間を食べる必要は無いのだけど、他の動物と違って人間には魔力が多く含まれているの。多くの動物を食べるより人間一人を食べる方が効率的でしょう?」

 

ソリテールは淡々と語り続ける。その声音からは何の感情も読み取れず、ただ淡々と事実を述べているだけのようだった。

 

「人間を赤子から育てるのは、とても大変よ。人間は魔族と違って脆弱な存在だから、ちょっとした事で死んでしまうの。だから、しっかり育て上げるには時間が掛かるわ」

 

「構わない。じっくりと時間をかけて調教すれば良いだけだ」

 

ナハトの言葉に、ソリテールは楽しげに笑みを浮かべた。それはまるで新しい玩具を手に入れた子供のような無邪気さを感じさせた。

 

「ふふ、ちょうど私も人間の赤子を研究したいと思ってたの。いい機会だわ、手伝ってあげる」

 

「本当か」

 

「えぇ、もちろん。その代わりーーーーー」

 

そう言ってソリテールは妖しく微笑むと、ナハトに顔を近付けてくる。吐息がかかるほど近い距離まで詰め寄られ、思わず心臓が高鳴った気がした。

蒼く透き通るような彼女の瞳はまるで宝石のようで、見つめているだけで吸い込まれてしまいそうになる程魅力的だ。その美しい瞳に見つめられながら、ナハトは静かに問いかける。

 

「……なんだ?」

 

すると彼女は耳元に顔を寄せてきて囁いた。

 

「ねえ、君は本当に魔族なのかな?」

 

予想していなかった問いかけに、ナハトは思わず動揺してしまう。

しかしすぐに冷静さを取り戻して答えた。

 

「僕は魔族だ」

 

だがソリテールは納得していないようだ。更に質問を重ねてくる。

 

「本当にそうかしら? 私には君が人間のように見えるのだけれど……」

 

そう言って兜の奥底を覗き込んでくる。彼女の瞳に見つめられると、何故か全てを見透かされているような気分になった。心の奥底まで覗かれているような気分になるのだ。

 

(この女……侮れないな)

 

ナハトは警戒心を強め、思わず身構えてしまう。

その様子にソリテールは小さく笑った。

 

「冗談よ」

 

そう言うと彼女は再び距離を取った。その表情はどこか楽しげだ。

 

「ごめんなさいね、少し気になったものだから」

 

「いや、構わない。それより」

 

ナハトは影の揺籠から赤子を取り出すと、ソリテールに手渡す。彼女はそれを優しく抱きかかえると、慈しむように見つめながら頭を撫でた。

 

「とても強い魔力を持ってるのね」

 

「分かるのか?」

 

「えぇ、珍しい魔眼持ちだからかしらね。凄いわよこの子」

 

「それは良かった」

 

どうやら無事に気に入って貰えたようだ。

ナハトはほっと胸を撫で下ろした。

 

「名前は何というの?」

 

「まだ無い」

 

「そう、じゃあ付けてあげないとね」

 

ソリテールはそう言って優しく微笑むと、赤子の額に手を当てて詠唱を始めた。瞬間、淡い光が赤子を包み込む。その光はしばらく続き、やがて消えてしまった。

 

一体何をしたのだろうか?

 

ナハトが疑問に思っていると、ソリテールはそっと赤子を手渡してきた。落とさないようにしっかりと抱きかかえる。

 

「リヒト。それがこの子の名前よ」

 

「そうなのか?」

 

すると突然、腕の中の赤子が泣き始めた。

どうやらお腹が空いたようだ。

 

「ミルクが欲しいみたい」

 

「なるほど……」

 

どうしたものかと考えていると、ソリテールが再び立ち上がった。

そして部屋の隅に置かれていた箱のようなものを手に戻ってくる。

どうやらそれは哺乳瓶のようだった。

 

「たまたま近くに来てた商人から買ったの。さぁ、飲ませてあげて」

 

そう言うと彼女は再び椅子に腰かけた。

ナハトは言われるままに赤子を抱き抱えたままミルクを与えようとするが、やはり上手くいかないようだ。

 

腕の中で泣き続ける赤子に困惑していると、ソリテールがそっと手を伸ばしてきた。そのまま慣れた手つきで乳飲み子の抱き方を教え始める。

 

そしてようやくコツを掴んだのか、ナハトはゆっくりと赤子にミルクを飲ませていった。すると次第に泣き声が小さくなり、少しづつではあるがゴクゴクと飲み始めた。どうやらお気に召してくれたようだ。

 

やがて全てを飲み切ると、赤子は再び眠りについたようだった。

 

ベッドへ寝かせるが、その間も起きる様子は全く無かった。よほど疲れていたのだろう。ナハトは優しく頭を撫でてやった後、ソリテールの方へ向き直った。

 

「すまない、助かった」

 

ナハトの言葉に、彼女は小さく笑うと言った。

 

「気にしないで良いのよ」

 

そして立ち上がると、窓際まで歩いていき外を眺め始めた。ナハトも立ち上がると、その隣に並ぶようにして立つ。そこからは美しい海を一望することができた。

 

「綺麗だな」

 

思わず呟いてしまうくらいに美しく、雄大な景色が広がっていた。水平線の彼方まで続いている青々とした海原を眺めていると、不思議と心が安らいでいくような気がした。

 

そんなナハトを見てソリテールは小さく笑うと言った。

 

「どうして魔族は人間の姿を真似したんだろうね。収斂進化って言葉があるけど、私は……」

 

そこまで言いかけて、彼女は口を噤んだ。

それからまたクスクスと笑ってみせる。

 

「やっぱりなんでもないわ」

 

そして彼女は静かに微笑むと、ナハトに向かって手を差し出してきた。握手を求めているようだ。

 

少し躊躇いながらもその手を握ると、彼女は嬉しそうに握り返してきた。ひんやりとした感触が伝わってくるが、何故か嫌な感じはしなかった。むしろ心地良いくらいだ。

 

そのまましばらくの間お互いの手を握り合っていたのだがーーーふと何かに気づいたかのようにソリテールは手を離した。

 

「ああ、やっぱり。君は……うん。とても可愛そうな、中途半端な存在なんだね」

 

ナハトを見つめながら、ソリテールは唐突にそんな事を言ってきた。

 

その表情はとても悲しげで、まるで同情しているかのようだった。だがその理由が分からず困惑するしかない。

 

「どういうことだ?」

 

疑問を口にすると、ソリテールはじっとこちらを見つめてきた後ーーー突然クスクスと笑い始めた。そして堪えきれないといった様子で口元に手を当てて笑い始めるのだった。

 

どうやら彼女のツボに入ったらしい。

 

一体何がそんなに面白かったのだろうか?

ひとしきり笑った後、ソリテールはナハトに向き直ると言葉を続けた。

 

「人間は、とても残酷な生き物だということよ」

 

そう言って微笑む彼女の顔からは、もう先程の悲しげな様子は微塵も感じられなかった。ナハトは静かに問いかける。

 

「それは……」

 

しかし、続きの言葉は出てこなかった。

 

一体自分は何と答えようとしたのだろうか? 自分でも分からなかった。

 

ただ、何か大切な事を忘れているような気がしてならなかった。

 

黙り込んでしまったナハトを一瞥すると、ソリテールは窓際から離れて行った。そして部屋の中央に置かれたテーブルの方へと歩いていき、椅子に腰を下ろすとナハトにも座るように促してきた。

 

それに従い対面する形で椅子に座ると、彼女は再び話を始めた。

 

遠い遠い昔話は神話の時代まで遡る。

勇者の成れの果てと、地に落ちた女神の神話。

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