ガールズ&パンツァー 盲目の狂犬   作:大洗に住みたい

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仲良しお散歩作戦です!

 目の前の光景に、私は空いた口が閉じられなくなりました。

 信じられないもの、予想してすらいない衝撃的なものを目の前にすると、人間こんなことになるんですね。

 

 戦車道の授業初日。少しでも多くの人員を集めようと特典を盛りに盛りまくった戦車道でしたが、集まった人数は総勢で22名でした。

 戦車を用いて行われる武道にしては、人員が足りていません。全国大会は初戦でも10輌もの戦車が出てきますが、この人数では多く見積もっても6輌しか動かせないでしょう。

 

 それで、戦車はどこにあるのかと思えばあるのは長いこと使われずに放置されていたIV号戦車D型の1輌だけ。

 後は記録上他の戦車もあるはずだから探してきて、というまさかの丸投げ方針でした。見切り発車というか適当というか……この先、この方針に振り回されそうな気がしてなりません。

 

 そして……いざ、戦車捜索開始となったその時でした。

 

「黒森峰女学園 西住まほ。戦車捜索協力、及び翌日の練習視察に来た。本日はよろしく頼む」

 

 何 故 か お 姉 ち ゃ ん が 来 ま し た

 

 黒森峰女学園の校章が描かれているケッテンクラートを乗りこなして颯爽と登場したお姉ちゃん。私を見てドヤってるけど、そんなもの気にしている余裕がありません。

 

 もっと衝撃的なのが居るんですから。

「西住流師範代 西住しほ。復活した戦車道の視察に来ました。今日はよろしくね」

 

 お 母 さ ん ま で 来 ま し た

 

 まさかの西住家女性大集合に私は茫然自失、その場で魂を引っこ抜かれたみたいに棒立ちしてしまいました……

 

「黒森峰ってみぽりんがいた場所だよね!? そこの隊長さん!?」

「西住流……ということは、戦車道の流派ですね。そこの師範代まで……」

「うええぇぇぇぇぇ〜〜〜!? まだ戦車すら揃ってないのに強豪校である黒森峰女学園が協力うぅぅぅぅ〜〜〜!?」

 

 みなさんもう大絶叫&大パニック状態です。

 

 私も皆さんの今の姿を見なければ、そのまま取り乱していたかもしれません。

 

 そう思った……矢先でした……

「あっ! 副隊長居ました!」

「なんかぽけ〜っとしてますよ……大丈夫ですかね?」

「無理もないよ……私たちが来るとか普通思わないって」

 エマさん、赤星さん、アンナさん……黒森峰女学園の皆さんまでゾロゾロと集結しています。

 

ぽけ〜っとしているって、そうするなって言う方が無理ですよエマさん!

 

 なんであの二人居るんですか!? いや、お母さんがいつか来るのは分かっていたけど『今度』って言いましたよね!? 早くないですか!?

 

 そもそも練習は!? なんで皆もいるの!? 黒森峰女学園がいくら強豪校だからって練習はどうしたの!?

 

「皆ぁ〜! 今日は黒森峰女学園の皆が戦車の捜索と整備を手伝ってくれるよ〜!」

「黒森峰女学園は現在、保有戦車の一斉メンテナンスを行っており時間が空いていたとの事だ。全員、この好意を無駄にしないよう必死に捜索するように!」

 

 嘘だ! そんな一斉メンテナンスなんてやったことがありません! そんなことをしたら練習なんて完全に止まってしまいます!

 

 もう訳の分からないことが立て続いてしまい頭の中はパンク寸前。困惑していると、私の前に綺麗な銀髪の人が立ちました。

 

「全く……なんて顔しているのよ、元副隊長? そんな顔で新生大洗女子学園戦車道の隊長が務まr「エリカさんッ!!」グエぅ」

 

 まさかのエリカさんまで登場して、私の頭はパンクを通り越して爆発。カール自走臼砲の主砲が直撃したくらいの大爆発を起こしてしまいました。

 エリカさんの着ているパンツァージャケットの襟を掴み、ガックンガックンと揺さぶりながら問いただしました。

 

「なんであの二人いるの!? エリカさん達もなんで着いてきちゃったの!? 練習どうするの練習は!? 一斉メンテナンスなんてやったことないよね!?」

「おッ、ち着きッ、なさッ」

 

 そんなことをされたらまともに話せないと分かってはいるんですが、パニック状態の自分を抑え込むことが出来なかったんです。

 

「み、みぽりん! そんなことしたらその人話せないって!」

「落ち着いてくださいみほさん!」

「うわわわわわ!? い、逸見殿の顔がどんどん青くなっていきますぅ!!」

 

 沙織さんと華さんが何とか私をエリカさんから引っペがしてくれて、そこでようやく私は深呼吸が出来ました。

 深呼吸して落ち着いて、そこでエリカさんにとんでもないことをしてしまったと気付きます。

 

 あんなのブチ切れ案件です。挨拶しようとしたらいきなり襟掴まれて揺さぶられるとか怒らない方がおかしいです。

 

「あ、あの……ごめんなさいエリカさん…」

「はァ…はァ……まぁ、無理も無いわ。パニック起こすなって方が無理だものね、これは」

 

 私に散々揺さぶられて衣服がぐっちゃぐちゃに乱れてしまったエリカさんですが、怒りはしませんでした。

 むしろ私の反応は想定内だったようで、乱れた衣服を整えると後頭部をガシガシ掻きつつお姉ちゃんとお母さんを見ます。

 

「全国大会9連覇なんてすごいです!」

「初めて戦車に乗った時ってどんな気持ちでした?」

「西住さんのお母さんってスラッとしてて綺麗ですね! バレーやりませんか!」

「馬術も映えそうぜよ」

 

 それはもう、大層なモテモテっぷりです……あんな風に取り囲まれるのは黒森峰女学園にいる時からそうだったけど、好奇心とかに起因するああいうのは慣れてないんじゃないかな。

 

「凄いのは私個人ではない。皆が力を合わせ、戦車の性能を最大限活かし、そこに戦術を組み合わせることで性能以上の活躍を発揮させた……だからこその9連覇だ。初めて戦車に乗った時のことか……フフっ、懐かしいな」

「バレーね……ママさんバレーという言葉もあるくらいだし、時間に余裕があればお邪魔させてもらおうかしら。馬術……馬術ね…」

 

 あーあーあーあーやっぱりかぁ……お姉ちゃんもお母さんもニコニコしてるよ。お母さんなんて最近じゃ見なかった明らかな笑顔だよ……

 

「仰る通り、一斉メンテナンスなんて今までやったことがないわ。そんなことやったら練習出来ないじゃない」

 

 エリカさんの言葉に少し安心しました。やっぱり一斉メンテナンスなんてやっていないんだって。

 

 でも、それならそれで疑問が残ります。やったことがない、ならなんでお姉ちゃん達は黒森峰女学園から遠く離れたこの大洗女子学園に居るのか。

 

「そ、そうだよね……なら、なんで」

「今まで、と言ったわよ?」

 

 姉妹揃って変なところでポンコツね……いえ、姉妹だからかしら。

 

 エリカさんは私の言葉を遮って呆れたようにため息を吐き、取り囲まれてモテモテ状態の二人を親指で指差しました。

 というか、今お姉ちゃんのこと『ポンコツ』って言った? あのエリカさんが?

 

「隊長が『戦車道を復活させたのなら必要最低限の手助けをし、今後の戦車道発展に寄与する』って言い出してね、黒森峰女学園開校以来初の一斉メンテナンスを本当にやったのよ。で、時間が出来たからって真っ当な理由になるって言い張って私ら全員連れてこられたのよ」

 

 まさかの実態に、言葉が浮かびません。奇跡的に浮かんだとしても直ぐに強烈なショックでかき消され、もう何が何だか分かんなくなります。

 

 確かに一斉メンテナンスをやれば時間が出来るのは分かるけど、だからってそこまで……

 

「……何してるのあの人?」

 

 何とか捻り出した言葉も、我ながら呆れてしまうくらいボキャブラリーのないどシンプルなものでした。

 お姉ちゃんをあの人、なんて言ったの人生初かもしれません。

 

「私にも分かんないわよ。練習が出来なくなるんじゃって話もしたんだけど……『戦車道を始めようとする学校を助ける、これもまた戦車道よ』とか言い始まってさぁ。聞く耳持ってくれなかったわ」

 

 エリカさんもため息を吐いています。この人、私がいた頃はお姉ちゃんの決定にここまで露骨な態度したっけかなぁ……

 

「それをしほさんも聞いててね。ほら、西住流は勝利第一主義で脱落した人置いてくのを認めてるでしょ? 流石に難色示すかと思ったら……」

「……思ったら?」

「『分かりました。メンテナンスには時間をかけるように』とか言い出したわ」

「何言ってんのあの人!?」

 

 お姉ちゃんがお姉ちゃんならお母さんもお母さんだった!

 

「『ベストな練習をする為にはベストな整備が必須。入念に、日にちを掛けてでも行うように』とまで言ってたわね。あの人達、二日どころか下手すりゃもっと滞在する気よ」

「え、えぇ……いいの、それ?」

 

 そんなの練習なんて出来たものじゃありません。全国大会も近付いてきているのにそんな悠長なことをしていて良いわけが無いのに。

 ほとんど無意識というか、本能的とも言えそうなつぶやきに「いい訳ないでしょ」とエリカさんはバッサリ切り捨ててきました。

 

「そんな訳で、時間が出来た私達も戦車の捜索手伝うことになったって訳。幸い、うちの整備班も人が多いからね。一斉メンテナンスをやるにしても余りは出るし、そういった人たちも軒並み連れてこられたから発見次第すぐ整備可能だそうよ」

 

 

 呆れてものも言えないわ

 

 隊長としほさん、どれだけ貴女のこと好きなのよ

 

 これで今年の大会も負けたら笑えないわ

 

 エリカさんから出てくるとは思えない非難の声。私たちが去った後で、エリカさんも相当に苦労したのでしょう。明らかにキャラ変しています。

 

 でも、そんな呆れだの不満だのを口にしながらも、エリカさんは笑っていました。

 

「凄いわよね、弘海は。隊長としほさんをあんなに変えちゃうなんて」

 

 お姉ちゃんとお母さんの方針の変化。事情を知らない人が見れば『気でもふれたか』と本気で思いそうなくらいの激変を引き起こしたのは……

 

「これも悪くは無いけどやっぱりうちの相棒の方が数千倍可愛いなだがこれが可愛くないかと言われればそんなことはなくてむしろこれはこれで愛嬌があるとも言える」

 

 発見した戦車を牽引するようにと持ち込まれたティーガー(P)戦車回収車を凝視し、早口で何やらひとりでブツブツ呟いている弘海さんです。

 

 エレファント重駆逐戦車が絡むと少し壊れるのがあの人の悪いところですね……

 

「あ、あはは……まぁ、ほら…黒森峰の狂犬って言われてたんだし、それくらいはね?」

「そんなふわっとした理由で納得しちゃう自分が嫌になるわね……でも、あの頃は楽しかったわ。3人で怒られ怒られバカやって、それでまた怒られて…懐かしいわね」

 

 黒森峰トンチキシスターズ。

 

 私と弘海さん、エリカさんの3人を一纏めにしたあだ名で、3人ともそれを気に入っていました。

 先頭に立って暴走する弘海さんについて行こうとして、それがなんだか楽しくなって私とエリカさんも真似して暴走。

 

 私たちを真似してさらに他の生徒が暴走するなんてザラで、お母さんに止められて怒られるのが決まった結末でした。

 隊列はバラバラになって、でも何か分からないけど上手い具合に戦局を優位に進められて、それがまた楽しくって……

 

 結果も伴ってしまうものだから反論なんかほとんど許さない、まさにやりたい放題。

 唯一反論できるお母さんも説教中に弘海さんがナンパして有耶無耶にしようとしたり、そこから更に悪ノリして即興劇なんか始めて巻き込まれることで収拾がつかなくなることも多かったです。

 

「……ごめんね、エリカさん」

 

 私だけではありません。弘海さんも、エリカさんも黒森峰トンチキシスターズとして動くことを楽しんでいました。

 

 でも、私と弘海さんが抜けたことでそれももう出来ない。懐かしかったと、今までの記憶を振り返るような遠い目と優しい笑顔をしてくれているエリカさんを置き去りにしてしまったから。

 

 それでいて、私は新たに大洗女子学園で弘海さんと楽しく生活していると思うと申し訳なく思えてしまい、頭を下げて謝ってしまいました。

 

「……ハアァァ」

 

 深い溜め息、幻滅されたのでしょうか……

 

 でも、そこから先がいくら待っても来ません。エリカさんなら黙っているなんてことは無いでしょうから、何かしらのアクションがあったはずです。

 

 どうしたのだろう、そう思って顔を上げた所を狙い済ました一撃。

 

「あてっ」

「っ、慣れないことするもんじゃないわね…」

 

 額へのデコピン。大して痛くもない、でも完璧な不意打ちだったが為に小さな声が漏れてしまう、それくらいの手加減。

 

 びっくりしているとエリカさんの両腕が伸びてきて、私の両頬を押し潰してきました。

 ぶにっ、と音が聞こえそうなくらいに強く、でも痛くない絶妙な力加減です。

 

「あのね、貴女1人が謝ったってどうこうなる話じゃないでしょ? 確かに寂しかったし大変だったけど……でも、お別れなんて卒業式迎えたら誰だって寂しさを味わうし、それこそ生きていたら大変な思いなんてごまんとするのよ。なら、それが少し早まっただけじゃない」

 

 ぷにぷに、こねこね、ぐにぐに。

 

 私の頬をこねくり回して遊びながら話すエリカさんは、呆れ少々を含ませた優しい笑みを見せてくれました。

 

「私は気にしてないわ。貴女にも罪の意識とか避けたいものとか色々あったんでしょうし。でも貴女の気が済まないって言うなら……全国大会、決勝まで上がって来なさい。そこで真っ向から殴り合って、そこでサッパリさせようじゃない!」

 

 その言葉に、胸のモヤモヤ感が晴らされたのが分かりました。

 

 この人は優しくて、案外ノリが良くて、トンチキシスターズとして好き勝手やっている時の印象が強いから忘れがちだけど本来はストイックな人なんです。

 

 自分に厳しく、相手にも厳しく……でもやっぱり、優しいんです。

 こうして私の気持ちが落ち込み過ぎないよう気を利かせてくれて、その優しさにどうしても甘えてしまいます。

 

「……言ったね、エリカさん。勝てるの? 私と弘海さんの大洗トンチキシスターズに?」

 

 気を利かせてくれたお礼は、挑戦状の叩き付け。

 

「ハッ! どれだけ黒森峰で一緒にトンチキしてたと思ってるの? コテンパンに叩きのめしてあげるわよ!」

 

 決勝まで登ってこいなんて挑発されたら乗らないでいられませんよね?

 

 投げ付けられた挑発には進んで乗ります。乗って、進んで、決勝でぶち倒します。

 

「早く整備を出来ればベストだって隊長は言ってるし、早く捜索を始めましょう。ほら、行くわよ」

「手でも繋ぐ? お出かけ楽しいらんらんらーんとか歌いながら行こうか?」

「ならそこにしほさん加えるわよ?」

「絵面地獄だからやめて」

「ガチトーンじゃない……」

 

 こんな風にエリカさんと軽口を言い合うのも久々で、昔に戻ったみたいで楽しいです。

 

 互いに挑発し合い、挑戦状を叩きつけ合った私とエリカさんは仲良く手を繋いで、あるかもしれないとされる戦車の捜索を開始しました。

 

「行こうエリカさん! 仲良しお散歩作戦です!」

「……相変わらずネーミングセンスがないわねぇ」

「むぅ……可愛くて良いと思うんだけど…」

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