ガールズ&パンツァー 盲目の狂犬   作:大洗に住みたい

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相棒

 戦車道履修障害者用戦車整備技士。

 

 そのまんまで、私みたいな戦車道に関わっている障害者が扱う戦車をメンテナンスしてくれる整備士さんの役職名だ。

 

「あっ、お疲れ様です弘海さん! エレファント重駆逐戦車のメンテナンス終わってますよー!」

 

 気が済むまで泣きに泣きまくった私が利用している寮の正面で、帰宅するのを待ってくれていた繋ぎ姿の整備士さんが手を振って出迎えてくれた。

 整備ついでに車体も磨いてくれたみたいだね。うちの相棒がピッカピカになってらっしゃる。

 

 エレファント重駆逐戦車。ポルシェ博士が作った時代先取り戦車なポルシェティーガーの車台を使って作られた、私の大切な可愛い相棒。

 それがピカピカになっているってなると私も嬉しい。心なしか相棒も嬉しそうだわ。

 土埃を纏った姿も重厚感と歴戦感があってクールでベリーナイスだけど、こんだけピカピカな新車感も悪くないねぇ。

 

「ありがとね〜」

 

 この学校には戦車道が無いけども、障害者の私が戦車を持っているからって月一でメンテナンスしてくれる。有り難い限りだよね。

 私もメンテナンスは出来るけど、やっぱプロに見てもらえると安心感がある。

 

 お礼を伝えると荷物を置いて、早速エレファント重駆逐戦車に乗り込む。

 ちなみに、うちの相棒の車体色の元ネタは大洗だったりする。

 私が小さい頃に行った大洗町の、空の青さと海の青さが忘れられなくてこんなカラーリングに塗ったのさ。

 

 本当は磯前神社から見下ろす海と空、正面の階段やら鳥居やらも描き込みたかったけど画力が無いもんで断念した。

 それに鳥居とか描き込んじゃうと色々揉めそうだったし、ならせめてもってことで大洗の青空と海原だけでも再現したかった。

 

「座席の移動レールも少し歪みが見られたので交換しておきましたよ。それ以外は特に問題なし……いやぁ、普段から整備が行き届いてるんですね!」

「うちの大切な相棒だからねぇ。私が見れる所は見てるんだよ」

 

 磯前ブルーの車内には操縦手用の座席しかなくて、他の砲手やら通信手の座席がある場所にはレールが敷いてある。

 その上を操縦手用の座席が移動することで通信手の席に切り替わったり、砲手の席に切り替わったりする。

 

 そんな訳でうちの相棒は行進間射撃が出来ない。走行中は座席が振動やら慣性の法則やらで動かないようにロックがかかる仕様になっていて、砲撃するには必ず停止射撃になる。

 それと自動給弾機構もね。元々エレファント重駆逐戦車は装填手が2人必要な戦車だし、付けておいた方が良いって言われた。

 

 ここに自動砲撃システムとかぶっ込んだら、障害者優遇で非難の声出るだろうからね。

 私自身も操縦手やって砲手やって通信手やってなんて何足のわらじ履いてんだ状態なこともあって、今のとこ文句は付いてない。

 

「この子を見てやれるのは、私と貴女等だけだからさ」

 

 私は誰かと組む、というのが出来ない。うちの相棒のフルスペックを引き出した運用をするってなると、他の人じゃついてこれないから。

 モーターにだって手を加えたからね。長時間は無理だけど常識外れな加速が出来る。6秒くらいか?

 

 個人的な感想にはなるんだけどさ、私の操縦技術に合わせられる生徒って継続高校にしか居ないと思うんだよなぁ……奴さん等の試合見てると片輪走行だの雪原爆走だのと、黒森峰女学園でも出来るか怪しい芸当繰り返してたし。

 滞在期間は短かったけど、継続高校の学園艦にお邪魔している時に戦車を操縦させてもらってたのよ。体験授業だったかな。

 

 私の操縦技術は継続高校譲りって訳。これで私が継続高校の生徒なら砲手とかを他生徒に任せられたんだけども……私は黒森峰女学園の生徒だったからね。

 そういえば一緒に参加した赤髪の子どうしたんだろう。凄い操縦技術だったなぁ……あの子が駆る戦車は手強そうだ。

 

「そうですねぇ……ここまで手を加える人も珍しいですよ。ソナーとか搭載しないのも貴女だけですし」

 

 私以外にも体に何かしら抱えつつも戦車に乗る生徒はいる。けどその人等の大抵は自分の抱える障害とは影響が無い役割に着く人が大半。

 それが当然っちゃ当然だし悪いとは思わないけどさ。でも、私はそんな選択肢取れなかった。

 

「この子を本気で走らせてやれるのは私だけだからさ。で、この子の本気に付き合えるのも私だけ……なら、ギリギリまで手を加えるしかないじゃん?」

 

 私の相棒なら、退屈な走りなんてさせない。そんな妥協は許されない。

 

 この子が持っているスペックを腐らせなんかしないし、そんなことは出来ないのよ。私自身がそれを認可できない。

 最大限に引き出す事が出来て、それに誰も着いて来れないのであれば私一人で良い。

 

「……なんだか、嬉しいです。整備に関わった戦車がこんなに愛されてるのも、大好きな戦車が愛情を注がれているのを見れたのも」

 

 整備士さんは照れくさそうに笑った。

 私もつられて笑っちゃった。戦車好きに悪い人はいないからね。

 

 さてさて、そろそろ相棒の仕上がり具合を見てみようかね。

 座席が移動する感覚を確認する。なるべくスムーズな動きが求められるから僅かな違和感だって見逃せない。

 

 最後に乗ったのが10連覇かかってた全国大会の時で、そん時もまぁプラウダにボコボコ撃たれたモンよ。

 ま、うちの相棒の重装甲にはほとんど効かなかったけどね! 避弾経始だってお手の物さ♪

 

 それでも車体はガッコンガッコン揺れるし、他の戦車みたいに車体にガッチリ固定されているのとは違うから座席が車体の揺れに合わせて揺れるもんで、レールに変に圧をかけて少し歪めちゃった。

 

 でも、今回移動してみて歪みは全く感じられなかった。

 歪み具合が軽度だったのもあるだろうけども、相変わらず良い仕事しますねぇこの人たち。

 

「バッチリ!」

「よしっ!」

 

 親指を立てて見せると整備士さんも嬉しそうにガッツポーズをしていた。

 この手の専門家って無言っていうか必要最低限しか喋らないっていうか、そんな感じの印象があるけどこの人らはそんな事無いから話してて楽しいんだよね。

 

 出来ればこれから相棒の整備の予定とかアレコレ話をしたかったけど、この人達にも次の予定があるから引き止める訳にもいかない。

 私の対応をしていた整備士さん以外の人達が手早く撤収の用意を始めていたし、ここで話し始めたら迷惑になるからね。

 弁えるところは弁えられる出来るわんこなのです、私は。

 

「うちの相棒をありがとうね〜! またよろしく〜!」

 

 次の仕事に向けて撤収し始めていた整備士さん達を見送る。相棒を診てくれた感謝はハッキリ伝えたいしね。

 

 足音や匂いで整備士さん達が立ち去ったのを確認すると車内に引っ込み、エンジンをかける。

 重々しい重低音と体を細やかに揺する振動が現れて、うちの相棒が目を覚ます。聞き慣れた音と感じ慣れた振動が心地良くて口元が緩んじゃう。

 

「よかったねぇ」

 

 操縦桿を撫でてやると、気のせいかエンジンが一瞬だけ強く唸ったように聞こえた。

 

 うちには戦車道がないから消費した砲弾や燃料の提供が無い。だから無闇矢鱈に走らせてやることは出来ないし、砲撃をさせてあげることも叶わない。

 自腹を切ればある程度は買えるだろうけど……残念ながら、私だって生活があるからね。そっちにもお金がかかるのよ。どうしてもうちの相棒の優先順位が落ちちゃうのが現実。

 

 自分の生活全てを相棒に全ブッパ、なんて夢のまた夢よ。

 生きて行くなら現実を見ないといけない。相棒には悪いけど、後回しにせざるを得ないのよ。

 

「こっちに来てから退屈でしょ? ごめんねぇ」

 

 操縦桿を優しく握りながら、ポロッと零れ出る謝罪の言葉。

 

 大洗女子学園に転入してからうちの相棒はほとんど走っていない。毎日エンジンの動作確認の為に軽く前進後進と超信地転回をするくらいなものだ。

 

 今までの試合での動きを思い返すと、現在の毎朝ちょこちょこっと動くだけじゃ物足りないはずだ。

 そんな思いをさせてしまうのが申し訳なくて、こうして毎回乗る度に何かしら謝っている。

 

「いつかパァーっと走らせてあげたいんだけどねぇ……何時になるかなぁ…」

 

 体に焼き付いている、うちの相棒と一緒に爆走する中で感じた風や匂いの流れ。

 相棒の攻撃性能や防御性能、走破性能に私の操縦技術や砲撃技術が合わされば無敵でしょ!みたいな全能感。

 そんな全能感が木っ端微塵に吹き飛ばされる勝負の先の読めなさ。

 買った時の嬉しさや負けた時の悔しさ、そこから学びを得た時のハッとさせられる感覚。

 

 またいつか味わいたいけど、うちの飼い主が現状だと戦車道を避けているからね。傷が癒えて、飼い主が戦車と向き合える日が来る時までのお預け。

 そして何かの拍子でまた、戦車道に関われる日が来た時のお楽しみにしておく他にない。

 

「さて! 宿題やないとね!」

 

 少ししんみりしたけど切り替えていこう。宿題やらないといけないし夜ご飯も食べなきゃいけない。やることは山積しているのだよワトソンくん。

 

 相棒のエンジンを切って中から出て、キューポラに鍵をかける。盗難防止ってやつだね。

 地べたに置いていた荷物を回収して相棒に向き直り、頭を下げた。

 

「明日もよろしく!」

 

 乗り回してやることは出来ないけど、相棒との関係は今後も続いていく。

 親しき仲にも礼儀あり、とも言うからね。戦車道は立派な婦人を育てるための武道、とも言われているし。

 それに相棒に言葉を投げかけるのも楽しいしさ。何も言わないけど、何か答えてくれているような気がするんだよ。

 

 下げていた頭を上げると部屋を目指して歩き出した。

 宿題をどんな順序で片付けてやろうか、夜ご飯はどうしようか、なんて考えに頭が埋もれる。

 さっきまで頭の中を埋めつくしていた相棒の事はすっかり消えていた。

 

 

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