ガールズ&パンツァー 盲目の狂犬   作:大洗に住みたい

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トンチキシスターズの推理

私と飼い主、ダブル導火線へアーこと杏は教室から生徒会室に移動して話をすることになった。

 案内するよ、と杏は言っていたけど大洗女子学園の間取りは覚えているし一人で探索したこともあるから場所は把握している。

 

 それに、飼い主を脅しの材料にするような奴に案内されたいとは到底思えないからね。それなら喉掻き切って死んだ方が億倍マシさ。

 んな訳で、飼い主をおんぶして猛ダッシュ。杏を置き去りにして一足先に生徒会室へ到着、部屋の中に転がり込んだ。

 

 生徒会長の杏じゃない人物が飛び込んでくるなんて予想していなかったんだろうね。しかもドアを蹴破って入ってくるときたもんだ。

 モノクルインテリもどきと苗字詐欺女が目をまん丸にしていたわ。

 

「で、なんで私らに戦車道やらせたい? 必修科目は生徒が決めて良いんだろ?」

 

 遅れてやってきた杏を前に、私と飼い主が横並びの形で椅子に腰かけ話を始める。

 モノクルと苗字詐欺女が杏の後方に立っている辺り、二人は杏の手先って感じか。

 

 必修科目には戦車道以外にも色々ある。香道とか忍道とかそれはもう『なんだこりゃ?』と言いたくなるようなものまで沢山。

 そんな中で戦車道だけ、ここの生徒会連中はやたらと強くプッシュしている。

 せっかく復活させたんだから盛り上げたいのだと仮定しても、そこに私らを無理やりにでも組み込もうとする理由が分からん。

 

「確かに私と弘海さんは黒森峰女学園で戦車道を履修していました。でも、だからといって私たちが欠かせないとは思えないんです」

 

 飼い主も杏達を問い詰める。

 

 私ら戦車道経験者に無理に拘る必要性が感じられない。必要なら講師を外部から呼べばいいんだからさ。

 戦車道が広く深く普及するようにって目的で、戦車道連盟も多数の外部講師を育成してきたんだからそこを利用すれば全員初心者でも形にはなる。

 

「いやねぇ……そう言われても、やっぱり必要なんだよ。2人の助力がさぁ」

 

 理由を語ろうとはしない。何を言っても『2人の助けがいる』とだけ言ってはぐらかそうとしてくる。

 その態度がますます胡散臭い。何故そんなに私たちに拘る?

 

 こいつは私たちに何かを見ている。他の生徒には無い、何百といる大洗女子学園の生徒達の中から私と飼い主だけに何かを見ている。

 

 ……ダメだねぇ。私の悪い癖が出てるよ。

 気になる事を、気になるで済ませておけない。徹底的に追求し、解き明かさないと今夜はきっと眠れないと思う。

 

「現状わかったことを整理しよっか」

「そうだね。一旦纏めて、推理しようか」

 

 隣に座る飼い主に軽くもたれ掛かりながら提案すると、悩む様子を一瞬たりとて見せずに同調してくれた。

 さすが中学生からの付き合い、話が分かる。

 

「杏は私とみほに戦車道履修をもちかけた」

「それも提案じゃなくて強制的…弘海さんが履修せざるを得ないよう、私を脅しのカードにしてきたことからもそこは明確だね」

 

 戦車道履修を強制し、そこに脅しのカードまでつけ加える力の入りよう。

 そして脅しのカードの中身が私の場合はみほだった。逆に杏が最初に接触したのがみほだったと仮定すれば、脅しのカードの中身は私になっていただろう。

 

「つまり、杏は私とみほの関係性を熟知した上であの発言をしたってことになるわな」

「脅しの材料として適任だと見るだけの理由、私と弘海さんの共通点かなぁ」

 

 私と飼い主の共通点。

 

 ①性別

 ②年齢

 ③戦車道履修経験

 ④転入前の学校

 ⑤流派

 

「性別と年齢は関係ないよね。そんなの女子校のここじゃ該当者が多すぎるし」

「流派も今回は関係ない。戦車道を辞めていたこの学校に西住流だの島田流だのは関連性ゼロだし」

 

 残されたのは③と④だが、この2つはある意味でイコールだ。

 

 私たちは共に戦車道の履修経験があり、転入前の学校は黒森峰女学園。

 あの学校は戦車道の全国大会で9連覇をやって見せた絶対王者であり、世間でも戦車道に理解がある人なら『黒森峰女学園=戦車道の強豪校』という方程式が成り立つ程にその強さは浸透している。

 

 そこから生徒が二人も、しかも一時的にではなくて学籍まで移して完全なる転入をしてきたとなれば、戦車道を復活させるにあたって引き込みたくなるのも分かる気はする。

 でも、そこもまた不自然。なんで戦車道を履修させるのに、脅しなんて手段を用いるほどにこの女は固執するのか。

 

「戦車道を復活させて、経験者の私たちに履修をさせる。その為に手段を選ばないような強行的姿勢を見せた目的」

「復活したての戦車道を盛り上げたい……そう言われれば理解も少しは出来るけど、やっぱり理由としては弱いよね」

 

 まず最初に思い付く理由はみほも述べた、復活したての戦車道を盛り上げたいというもの。

 

 戦車道は他の武道とは比べ物にならないくらいの費用がかかるものでもある。戦車の購入費や整備維持費もかなりの額になる。

 そんなものを復活させたのだから人目を引いて、理解者や参加者を集めたいと思うのも当然と言えば当然。

 

 でも、それだとしても脅しを用いるほどの理由としては成立しない。

 それこそ最初のうちは戦車が走る映像を見せたりビラを配ったりと、地道な宣伝から始めるのが普通だろう。

 いきなり『戦車道の強豪校から来た二人が参加しています!』なんて言ったところで、戦車道を知らない人からすれば『はぁ?』の一言で片付けられようというもの。

 

 それを予見できないほどの間抜けとは、目の前にいる杏を判断することは出来なかった。

 

『戦車道履修してくれないと……西住ちゃんに代わりに履修してもらうからね?』

 

 あの発言を叩き付けてきた時、私は声と気迫から杏の覚悟を感じた。

 

 冗談なんかじゃない。私が断ればこの女は本当にみほに戦車道履修を強制すると、飄々としたような物言いの中に確かな確信を得るに足る真剣さを感じた。

 そんな非道な行為に走る可能性すらチラつかせる脅しを、馬鹿なヤツが出来るわけが無い。

 

「そうなると、考えられるのは『復活したての戦車道で何かデカい成績を残す必要に迫られている』という可能性」

「ッ…」

 

 杏の覚悟と、戦車道履修を強制される私とみほ。

 

 二十年以上ぶりに目覚めた戦車道に、全国大会9連覇を成し遂げた強豪校の元生徒を何としてでも組み込もうとする異常なまでの固執。

 

 一から練習をして着々と力をつけ、やがては全国大会出場と優勝を目指す……という当たり前のルートを強豪校の元生徒二人を利用して思い切りショートカットしてやろうとするような行為の裏に潜むもの。

 

 それを口にすると、杏の微かな声が聞こえた。ビンゴだ。

 

「その大きい成績もベスト4とかじゃないね。それくらいで良いなら私たちにあんな脅しをかけて、無理やり履修させようとするにしては過剰だもん。だから目指しているのはベスト4よりももっと上のもの。優勝、ですよね?」

「うっ……」

 

 みほの指摘に更に声を漏らした。これで狙いの一つはわかった。

 

 杏は復活したての戦車道でデカい成績を、全国大会で優勝するという結末を望んでいる。

 初出場の無名校が全国大会優勝を狙うなんて夢見すぎも良いところだ。

 実力もなければ知識もないようなひよっこ連中が、毎年毎年優勝の座をかけてしのぎを削り合う強豪校の間に割って入るなんて出来るはずがない。

 

 では、そんな夢物語を杏が本気で目覚すのは何故か?

 極めて不可能に近いが、仮に成し遂げられたとなれば実績としてかなり強力なものになる全国大会優勝を目指すのは何故か?

 

「全国大会優勝で杏個人にあると思われるメリットは?」

「う〜ん……進学とか就職の履歴書に『全国大会優勝』って書ける、とか? でも学園艦内に存在する学校の生徒会長をやってるってだけで、陸にある学校の生徒会長よりも有利だしそんな経歴必要かなぁ?」

 

 まず最初に思い付いたのは杏個人にメリットがあるパターン。

 

 なにか目的が無ければ戦車道を復活させるなんてことはしない。戦車を一輛購入するのだって下手な高級車を買うよりお金がかかるんだ。

 戦車道連盟への加入にもかなり長くて面倒臭い手続きを何度も踏む必要がある。

 

 そんなことをしてまで、この女は就職or進学に有利になると戦車道を復活させて全国大会優勝を目指すのか?

 そんな程度の理由で、あんな覚悟の決まった声を発せられるものか? 気迫を纏えるものか?

 

「……よし、やってみるか」

 

 この際、出し惜しむのは無しにしよう。気になった以上、解き明かせないと気持ちが悪いしね。

 瞼を開ける。視力を有さない濁った瞳をさらけ出し、杏を真っ直ぐ見つめる。

 

 視力という五感の一角を欠損している代わりに研ぎ澄まされている他の感覚、及びに第六感。

 それ等を一人に集中させれば言動の節々、肉体に現れる反応からの推察、超人的とまでしほさんに言わせたカンの鋭さで気持ちや意図が読み取れる。

 

「今回の一件、それは決して『杏個人のみにメリットがある』話じゃないな」

 

 断定はしたが、返事はいらない。答えなくても、人間は自分の思惑を見抜かれるとどうしても動揺してしまうもの。

 それは「どうしてわかったの?」という言葉としてのみではなく肉体の各所に反応として現れる。

 

 身動ぎ、視線が泳ぐ、発汗、手を固く握り込む、顔を逸らす等々その反応は多岐に渡る。

 

 ごくっ…さり……

 

 何かを飲み込む音と、肌同士が擦れる音。

 唾を飲んで、手を握り込んだみたいだな。断定が緊張を招いたか、微かに汗の匂いが強まった。

 

「杏さん個人だけが得をするんじゃないとすると……得をするのは学校かな?」

 

 みほの推察に、杏が更に身動ぎした。誤魔化しようがない、衣擦れの音を私の耳は確かに拾った。

 私たちが情報の整理・推理を初めてからというもの、亀のようにじっとしていた杏が大きく動いた。

 

 杏の背後、モノクルと苗字詐欺女がいる場所から髪の毛が衣服と擦れる音が聞こえた。

 二人の視線が顔ごと動いたな。それも、杏に向くように。

 

 学校が得をする、その言葉に三人が反応したな。この線が一番怪しい。

 

「知名度の向上とか……後は、文部科学省学園艦教育局からの資金提供の確保とか?」

「そうだと私も思うなぁ。戦車道の全国大会で優勝したってなればそれだけで箔が付くし、お金も少しは融通が効くと思うし」

 

 知名度の向上。これは学校という施設が人員を確保する上で大切なことだ。

 知名度が向上すれば進学先を決める際に選択肢の一つに浮上しやすくなる。そうやって進学先に選んでもらうことで学校は生徒数を維持し、統廃合という結末を回避もしくは先延ばしに出来る。

 

 文部科学省学園艦教育局からの資金提供の確保。これも学園艦という巨大船舶を無事に運行させる上で欠かせない。

 並の豪華客船なんて比較にならないほどに巨大な学園艦は、小さめの部類に入る大洗女子学園のものですら維持費だの整備費だのが莫大に必要となる。

 

「今回の戦車道復活は、学校に何かしらのメリットがあるからやったって事?」

「うん、そうなると思う」

 

 戦車道を復活させ、それですぐにでも全国大会優勝を目指すというあまりに性急な思惑の根幹には、学校に何かしらのメリットをもたらすという狙いがある。

 

 しかも、私とみほを何としてでも引き込もうとする程に杏達はそのメリットとやらを掴み取るのに躍起になっている。

 あれだけの覚悟を決めるに足るだけの、それだけ大きなメリット。

 

「……そもそもメリットなんてない、とすれば?」

 

 固執し過ぎるのはいけない事だ。視野狭窄を引き起こし、肝心なことを見落とすかもしれない。

 情報を得る時だってそう。この情報が絶対正しい!なんて妄信的になるのではなくてこれも間違っているのでは?と疑うことが大切だ。

 

 音を聞いて、匂いを嗅いで、触れて感じ、味を知り、カンも加味して複合的に情報を見て、正誤を見分ける。

 私にとっては、生きていく上で必要な能力であり生きる為に身に付いている能力でもある。

 

「メリットがないっていうと?」

「メリットデメリットなんて言ってらんないくらい、何か逼迫した状況があるのかもしれない」

 

 杏の右後ろ、苗字詐欺女が身動ぎした。

 

「杏があんなに強行的な態度を示したのは何もメリットを欲しがったからってだけじゃなくて、強行的な態度を示す必要性があるくらい何かに迫られているって線も考えられない?」

「あ〜……そういうことかぁ。躊躇ってなんか居られない、時間も猶予もないってくらいに追い込まれてるってことだね?」

 

 今度は左後ろ、モノクルインテリが「そこまでッ……」と呟いた。

 

 私たちの推理を止めようとしての発言じゃない。意図を解き明かされ、そこまで解かれたのかって感じの驚愕とかからくる発言だ。

 

「そっちの線で見ると戦車道復活と私たちが履修する必要性、優勝する必要性がその追い込まれている状況にどう絡んでくるかが大事になる」

「……復活した戦車道で私たちの力を借りて、優勝しないと打破できないくらいに杏さんにとって大事なものが危ない状況ってこと?」

 

 みほの言葉に、杏が今日一大きな反応をした。

 

 ソファーの背もたれにぼふっと体を預けて「たはぁ〜!」と変な声を漏らした。図星だな。

 

「そうなる。で、杏は生徒会長。この学校のトップ。運営とか諸々の舵取りしてる存在だわな。どんな人とか私はよく知らんから人柄面での考察は抜くとして、立場の面から役割とか込みで紐解くと?」

「この学校……まさか、廃校の危機?」

 

 私とみほが出した結論。

 

 戦車道を復活させて、地力を養うとかの大切な工程を全部すっ飛ばして私と飼い主の力で優勝狙うなんてズルみたいな事をしてでも優勝をもぎ取ろうとする理由。

 

 それは、その功績を持ってして『大洗女子学園の廃校を取り消そうとしている』という目論見だった。

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