設定等を完了させると目の前が輝き出した。そして光が収まり、目を開くと俺は『はじまりの街』の中央広場に降り立った。
「2ヶ月振りに戻ってきたぞ…この世界に!」
周りからもプレイヤーが次第にポップしていき、広い中央広場が狭く感じた。
「早速βテストとの変更点とか確認したいけど、先に道…ミラージュと合流しないとな」
俺は人混みを掻き分けながら合流地である黒鉄宮に向かった。
黒鉄宮の周辺はまだサービス開始されてから数分しか経って無いからかプレイヤーは1人しか見かけない。
俺は黒鉄宮の入り口で佇んでる見慣れたプレイヤーに声をかける。
「よう、ミラージュ。ちょっと遅れた。」
「もう!黒鉄宮に着いたとき龍悟がいなくて不安になっちゃたじゃない!」
「わりぃわりぃ…後ガロッドな?」
「あっ!そうだったね。」
俺と道葉はゲームをする際は決まってガロッドとミラージュの名前にしている。
名前の由来は、子供の頃にハマっていた某機動戦士Xの主人公の名前をもじったものだ。
一方道葉は「ミラージュってなんか美しく感じない?」らしい。よく分かんないな、その感性。
「さて、合流出来たし、早速フィールドに出るか!」
「ゴー!」
俺達は興奮しているせいか、勢いのままフィールドに繋がる門へとダッシュしていった。
ーーーーーーーーーー
「おりゃっ!」
「セイッ!」
はじまりの街付近のフィールドで俺達はフレンジーボアという他RPGでスライム相当らしいモンスターらを蹂躙していた。
俺はボアの突進を蹴りで返して、剣を振るう。
ミラージュは突進を正確に避け、カウンターの一撃を放つ。どっちもβテストから衰えていないようだ。
「あはは、なんかこのモンスターと戦ってるとβテスト初日を思い出すね。」
「あー、すっごい懐かしいな。お互い死にまくったよな。」
今は軽くいなしているが最初の頃は本当にひどかった。
なんせ、今まで体育の授業以外まともに運動してなかった人間だ。ボアすらも相手にすることができなかった。初日は何十回もリスポーンしまくっていた。
「それにしてもベータの頃から衰えないみたいだね。」
「だな…そうだミラージュ。1時間で何体狩れるか勝負しないか?」
「良いわよ。ガロッドが私に勝てるとは到底思えないけどね」
「何おう!じゃあ1時間後ここに集合な!」
「チクショー!負けたー!」
「僅差かなぁって思ってたけどまさか10体以上も差が付くなんてね…」
勝負の結果俺が42体、ミラージュが54体でミラージュの勝ちになった。
「ミラージュの目の前で集団リポップするなんて聞いてねぇよ…」
「私だってビックリしたよ…でもまぁ私の勝ちだし負けたガロッドは夕飯にピザでも奢ってよ。」
「はぁ!?罰ゲームなんて話してねぇぞ!」
「今作ったし、別にいいでしょ?ガロッドも自分が勝ったらなんか罰ゲーム用意してたんでしょ〜」
「…別に罰ゲームなんて考えてもなかったが…まぁいいや。種類は俺が適当に決めるからな。」
「やったー!」
「さてとまだ15時か…もう少し続けるか?」
「うーん。それもいいけど街も探索しない?剣の耐久値もかなり少ないし」
俺は剣をタップしてウィンドウを開き、耐久値を確認する。俺の剣は2割残っているが俺より多くの数を屠ったミラージュはギリギリなのだろう。
「そうだな。剣も新調したいしアイテムも補充したいしな。よしっ!一旦戻るか!」
「攻略は明日からにして今日は街巡りしよっ!」
あの後不足のものを補充して街巡りをしていたが、お互いまた剣が振いたくなって結局フィールドでモンスターをボコボコにした。
今は遊び疲れて小さな丘の上で寝そべっていた。
既に空は夕暮れになっており、仮想の太陽の光が俺達の体を照らす。
「あ〜。しばらく動きたくない〜」
「そうだな。でもこれだけリアルだとここが現実に感じちまうよ」
「だね〜」
ミラージュは返事が上の空になっており、返事が適当になっている。
よく見たらミラージュはうたた寝していた。
今日のことを振り返ってみたら走って斬って街回って斬って、ずっと動いてばかりだった。
「(そろそろ休憩挟んだ方がいいかな…)なぁ道葉今日は早めに晩飯にするか。」
「ふぇ?もうガロッド、SAOの中で本名言わないって言ったのはガロッドでしょ?」
「今は2人っきりで近くに誰もいないからいいだろ?一旦飯食って風呂入るなりしてリラックスしてから夜に入り直そ」
「んー、分かったぁ。ふわぁ」
道葉があくびをしながら立ち上がり、メニューを開く。
俺もログアウトするためにメニュー画面を開きログアウトボタンを押そうとしたがログアウトボタンが消えていた。
「…?なぁ道葉、ログアウトボタンあるか?」
「ないね。早速バグかな?」
「バグってお前…もしかしたら出られないんだぞ!」
「大丈夫でしょ。他にログアウト方法がある「無いよ」…それって本当?」
「あぁ無い。ゲーム内から戻る方法はログアウトボタンしかない。SAOの説明書にもログアウトの情報はそれだけだった。…GMに直接問い合わせればいいんじゃないか?」
「その手があった!やってみる。
…反応ないね」
「まぁそうか。俺達が無かったら他もそうか。みんなGMに問い合わせてるだろうな。他は…精々外部からナーヴギアを外して貰えば強制ログアウト出来るけど…まぁ俺達には望み薄いな」
「…だね」
今俺と道葉の両親は海外出張で帰ってくるのが早くて明後日なため、ずっとログアウトボタンが消失して出られなくなったら、親が帰ってくるまでベットに横たわったままだ。そう思うとゾッとする。
「…なぁ道葉おかしくないか?」
「おかしいって確かにこんなこと起こるのは早々ないけど」
「そう言う意味じゃない。仮に多くのプレイヤーがGMに問い合わせているなら全員その場でログアウト出来るだろ?GM権限を使えば」
「そう…だね。確かになんで権限を行使しないんだろう」
「…なんか嫌な予感がするな」
胸の中から感じる焦燥感に襲われていると突然鐘が鳴り始めた。
俺は咄嗟に時刻を確認したが、キリのいい時間帯では無かった。
なんでこんなタイミングで…そう思っていると俺と道葉の足元から光が発生する。
俺達はこの光を知っていた。これはテレポートの際発生する光だ。
何処に飛ばされんだと考えている合間に光が収まり、はじまりの街の中央広場にテレポートされた。
「どういうことだ?」
周りを見回すと他プレイヤーも突然のことに動揺している姿が目に見える。
ふと上を向くとWarningまたはSystem Announcementと書かれた六角形のパネルが増殖し始めた。
増殖し始めたパネルは次第に空一帯…いや第二層の底を覆い尽くした。そしてパネルの間から血より粘土の高いドロっとした液体が溢れ出した。
次第にそれは空中で形を形成していき、真紅のローブを被った巨大なアバターが目の前に君臨した。
その光景に誰もが唖然としているとローブは語り出した。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ……私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ』
「あの人が…」
「茅場晶彦…」
アバターには顔が無く、茅場である証拠は無い。もしかしたら他の人が成り代わっている可能性があるが俺達はあれが茅場だと本能で分かった。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』
「(仕様…どういうことだ?まるで訳が分からん)」
『諸君は今後ゲームから自発的にログアウトすることはできない……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もし試みられた場合…ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
「………は?」
生命活動を停止。すなわち死、彼はこの場で堂々と殺人宣言を出したのだ。
周りがざわつくが茅場はそのまま語る。
『現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果…残念ながら、すでに213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
茅場の周りには数々の現実のニュースが浮かび上がる。どうやら嘘ではないようだ。
『現在あらゆるメディアが、多数の死者が出ていることを含めて繰り返し報道している。よって、諸君らのナーヴギアが解除される危険性は既に低くなっているだろう。諸君らは安心して、ゲーム攻略に励んで欲しい』
「こんな状況で…」
「こんな状況だからだろうな」
『しかし充分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』
俺は左上に表示されているHPバーを見る。
「(これが俺の残りの命…)」
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。アインクラッド第百層まで辿り着き、最終ボスを倒すことだ』
「…ガロード、どのぐらいかかると思う?」
「単純に1週間で1層攻略するとしても大体2年はかかる。それに上に行くたびに難易度も上がって行くだろうからもっとかかるだろうな」
『最後に一つ。諸君らのストレージに、私からのプレゼントを用意しておいた。確認してくれたまえ』
俺はメニューからストレージを開くと手鏡らしきものが入っていた。
「(手鏡…?)…なんでこれを…うわっ!?」
俺は手鏡を取り出す。疑問に思いながら持っていると周りが光に包まれ俺の周囲も包み込む。
次第に光が収まった。
「…あれ?特に何も起きなかったな。あ、大丈夫か?ミラー……ジュ」
「大丈夫。特に何も…あれガロッド?なんで現実の姿になってるの?」
「そういうお前もだぞ」
「えっ!?…本当だ」
道葉は手鏡で自分の姿を確認していた。
俺も持っている手鏡を覗くとリアルの自分と瓜二つの姿だった。
「どうやって現実の体を…?」
「うーん。頭はナーヴギアを被っているからそこからスキャンしたのは分かるが体はどうやって…」
「分からない…でもどうしてこんな事を…」
「どうせ答えてくれるだろ」
『諸君らは今、”何故?”と思っているだろう。何故SAO及びナーヴギア開発者である茅場晶彦はこんなことをしたのか?と… 今の私は、何の目的も持たない。この世界を作り、観賞するためだけに私はSAOを、ナーヴギアを作った。そしてそれは、既に達成せしめられた。…以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の、健闘を祈る』
真紅のローブはチュートリアル終了の宣言と共に消えていった。
暫しの静寂。誰もがこの事を真実と飲み込めなかった。余りにも突然過ぎたのだ。ただ世界初のフルダイブ型VRMMORPGを運良く手に入れてプレイしたら、いつの間にかクリア出来るか分からないデスゲームに投じられたのだ。
ポリゴン片になる音が聞こえる。きっと手鏡を落としたのだろう。
この音を皮切りに浮遊城アインクラッド第一層主街区はじまりの街中央広場は阿鼻叫喚の嵐に包まれた。
発狂、呆然、絶望…この広場にはあらゆる負の感情が溢れ出していた。
「りゅ、龍悟…私達どうなっちゃうの?」
「…!(まずいな…道葉も冷静を保てなくなっている)道葉…こっちに来い!」
俺はこの惨状から逃げるため、道葉を落ち着かせるために道葉を手を取り、中央広場を後にした。
「冷静になれたか?道葉」
今俺は中央広場から離れた細道で道葉が落ち着くのを待っていた。
「うん。ありがとう龍悟…とんでもないことになったね」
「そうだな。こんなことになるなんてな…」
本当にとんでもない悪運だよ。ゲームの中に閉じ込まれるなんて考えたこともない。
「…それよりこれからどうするの?あの人の言う通りなら外部からの救助は望めないよね」
「多分クリアする他ないだろうな」
「…だよね」
「一旦これからどうするかを考えるか」
「そうだね。でも私達は攻略するしかないんじゃない?私達ベータテスターだし…」
「…」
「な、何?私変なこと言った?」
「いや、その、怖くないのか?」
「…怖いけどそれ皆んな同じだから…だったら他の皆んなよりもこのゲームの知識があるベータテストが皆んなを先導しないといけないと思うの」
「…」
「それに龍悟私が行こうと行かなかろうと行くんでしょ?幾ら龍悟でも元々はFPS専でしょ?SAOやったからってRPGの醍醐味でやられそうじゃない?」
「んだとコイツ〜!俺もやってないだけでそう言うのは知ってるは!」
「あはは!ごめんって。…でも方針は決まったね」
「だな。はじまりの街の次に行くならホルンカだな」
ホルンカははじまりの街から最も近くにある村だ。この村のクエストの1つに『森の秘薬』と言うものがあるがそのクリア報酬が強化すれば4、5層まで使えるクソ強シリーズである『アニール』シリーズの片手直剣が入手できるのだ。
「それじゃあ行くぞ!道葉!」
俺達はフィールドに繋がる門へと向かった。ただそれは数時間前の勢いに任せたものではない。覚悟を決め、現実に帰るためのものだ。
「正面にダイアウルフ2体!」
「了解!」
俺達は剣を抜き、俺は『レイジスパイク』、道葉は「バーチカル」を放つ。2つの剣はダイアウルフ2体のHPを0にさせ、ポリゴン片に変えた。
「(絶対に戻ってやる…この世界からあの世界に…!だから絶対)」
「(皆んなが現実世界に帰るために私は)」
「「(クリアしてみせる!)」」
今ここに2人の戦士が立ち上がった。
大体1ヶ月ぶりです。これからはセリフ外では龍悟、道葉呼びです。リアルネーム使うの珍しいのかな?
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