トレジャーハンターをハントしようとする激重勇者   作:酉柄レイム

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第2話 話を聞かない激重勇者

 ソフィアは全身を魔力の装甲で纏い、魔力によって得た推進力で空を駆けていた。

 

 凍嵐の塔。そこで行われたのは、ソフィアによる蹂躙だった。魔物に出会えば「ソルテ下がって!」と言いながら屠り、トラップを見つければ「ソルテ下がって!」と言いながら力技でぶち壊し、ダンジョンのボスに出会えば「ソルテ下がって!」と言いながら一撃で屠り、「また二人で攻略できたね……♥」と言っている間に、もちろんソルテはソフィアが怖すぎてトンズラこいていた。

 

 しかしいい女(自称)であるソフィアは怒りを抱いてなどいない。なぜならソルテは素直ではなく、時を遡る前も最初は逃げられていたからだ。むしろ懐かしさを覚え、歓喜に震えてさえいる。

 

(絶対逃がさない)

 

 ソフィアの魔力探知範囲は、広範囲という言葉で片づけられないほど広範囲に及ぶ。ざっくり言えば大陸中。しかしそれは、相手がソルテの場合に限った話である。

 

 ソルテの命を使って時を遡ったソフィアに宿っていたのは、遡る前の経験と力、そしてソルテとのつながり。遡る前のソルテが言っていた『おまけ』は、現在のソルテの首を絞める形でソフィアの力となっていた。

 

(……あ)

 

 しばらく飛行し、ソルテがいる街レノーラが眼下に見えた時。レノーラ上空に魔族の姿を捉えた。それと同時に思い出す。

 

旅に出て初めてエンカウントした魔族、魔王軍幹部と名乗ったその魔族は、勇者であるソフィアがいる時を狙い、レノーラに襲撃をかけた。それによる被害は甚大であり、傷だらけになったソフィアを前にして逃げるわけにはいかなくなったソルテとともに打倒したことを。

 ソルテと再び旅をするには、同じような道筋を辿るのが一番確実、ではあるが。ソフィアの中での優先順位は常にソルテがトップであり、ソルテを危ない目に遭わせるわけにはいかない。

 

そう判断したソフィアは、街に降りてソルテと会うついでに魔族を真っ二つにした。

 

 

 

 

 

 お宝の換金を済ませ、宿を探していたソルテの前に落ちてきたのは、真っ二つになった魔族だった。肉が弾ける嫌な音が響き、返り血がソルテをこれでもかと汚していく。流石と言うべきなのは、街が混乱に陥らないよう肉塊を視界にとらえた瞬間、それに対し認識阻害をかけたこと。

 

「我は、魔王軍幹部……」

 

 名前を言う前に、魔族は魔力の粒となって天に帰っていく。イカレた急展開にソルテは魔力の粒を目で追うことしかできなかった。そうしてしまったがために、恐怖の襲来に気づいてしまった。

 

「ソルテー!!」

 

 喜色満面。足元に大量の血がなければふわりと舞い降りるその姿は無邪気な天使のように見えたことだろう。現状を考えれば、ソルテには恐怖の代名詞にしか見えなかった。

 

「もう、急にいなくなっちゃうんだから。私でも一瞬見逃しちゃう認識阻害、やっぱりすごいね」

「……」

 

 目の前に現れた恐怖を前に、ソルテは生活に便利な魔法である洗浄魔法を用いて、街に飛び散った血と自身についた返り血を振り払う。そうしながら思考を巡らせていた。どうやってこの恐怖の化身から逃げ出そうかと。

 

「ソルテ、ダメだよ? 私から離れたら。私とソルテはずっと一緒にいるんだから」

「お前みたいな美人からのラブコール、普段ならめちゃくちゃ嬉しいんだけどな……」

「美人なんて、そんな」

 

(ヘルメスの短刀で街の門に傷はつけてある。でも今目の前で消えたらすぐに追いかけられる。ここは、適当に付き合って、ある程度距離が離れた時に転移すんのが一番だな)

(……って考えてるんだろうなぁ♥)

 

 ソルテの逃亡計画は、ソフィアにはお見通しであった。ソルテと旅をした経験があるソフィアにはソルテが取るであろう行動の予測など、右足を出して左足を出せば歩けることくらいわけのないこと。そしてその予測が当たっていた時、これ以上ない快感を覚える狂った女、それがソフィア。

 

「わかった、何も言わず消えたことは謝る。宿取って休もうぜ」

「もちろん部屋は一緒だよね?」

「もちろん部屋は別だ」

「うん! 一緒のベッドは恥ずかしいだろうから、私はソファでいいよ!」

「いや、だから部屋は別だって」

「お風呂先に入っていいからね?」

「部屋は別だっつってんだろうが!!」

 

 腕を組んできたソフィアを弾き飛ば、そうとしてびくともしないソフィアにやはり恐怖を植え付けられながら、ソルテは眉を吊り上げた。

 ソフィアからすれば、ソルテと一緒の部屋でないなんてありえない。寝ている間に襲われたら助けるのが遅れてしまう。

 ソルテからすれば、ソフィアと一緒の部屋なんてありえない。寝ている間に襲われたら死んでしまう。

 

 今、二人の主張を押し通すためのバトルが、街の真ん中で始まった。

 

「いいか、俺とお前は男と女だ! そんで金の管理は俺! 生活に関しては俺のいうことを聞け!」

「やだ! ねぇ、下僕のように扱っていいから一緒の部屋にして!」

「俺とお前は男と女だっつってんだろ! 下僕とか言うんじゃねぇよ言うこと聞け!」

「私は言いなりにはならない!」

「じゃあ下僕には向いてねぇよ!」

 

 ソルテとソフィアを見て、「あれ、あの女の人、勇者じゃないか?」「男に縋り付いて下僕にしてって言ってるぞ……」とどんどん人が集まってくる。ソルテはすぐにフードを被って顔を隠し、これ以上ここで口論するわけにはいかないと宿に向かって歩み始めた。

 

「一緒の部屋に泊ってくれる気になった?」

「あれ以上あの場所にいたら、俺がとんでもねぇ性癖の持主だって思われるから離れただけだ」

「……ソルテがどんな性癖でも、いいよ?」

「お前マジでぶっ飛ばすぞ?」

「できるの?」

 

 ソルテ、敗北。腕を組まれている今、命を握られていることと同義だと判断し、心の中で白旗をあげた。

 

 

 

 

 

「すみませんねぇ、今一部屋しか空いてないんですよ」

 

 ソフィアは目を輝かせ、ソルテは天を仰いだ。

 

 宿に到着し、ソフィアに「一部屋で!」と言われる前に「二部屋たのんます」と先手を打ったソルテは、宿屋の店主の無慈悲な一言に打ちのめされた。

 もちろん、ソフィアは一部屋しか空いていないことを知っていた。以前もソルテと宿屋に訪れ一部屋しか空いていないことを知り、野宿をすると言って聞かないソルテを無理やり引っ張って部屋にぶち込んだ思い出がある。

 

 この女、以前と今とであまりやっていることは変わっていなかった。

 

「じゃあ一部屋でいいです! さぁ行こ? ソルテ」

「待ってくれ! 店主! 俺は野宿でいいから一人分の料金でいい!」

「ごゆっくりー」

「どこからどう見たらごゆっくりできるように見えんだよ!!」

 

 ソルテを逃がさないように肩に担いだソフィアが店主から鍵を受け取って部屋へ向かう。ソルテは死を覚悟した。別々の部屋であれば、まだ隙を見て逃げ出すことができただろうに、一緒の部屋であれば隙なんてあるはずもない。

 というのはソルテの考えであり、ソフィアからすれば部屋が分かれていたところでソルテの居場所など手に取るようにわかるため、ソルテの労力的にはむしろ一緒の部屋の方がマシである。ただし、精神的苦痛はその限りではない。

 

「わ、部屋全然変わってない!」

「きたことあんのか? あとおろしてくれ」

「うん、前にね」

 

 部屋にはベッドが一つ、二人掛けのソファが一つ、テーブルが一つと少し寂しい内装。

 

(前はソルテが「俺がソファで寝る」って言って聞かなかったんだよね……。今回はちゃんとベッドで寝てもらわないと!)

 

「ソルテはベッドで、私はソファね!」

「いや、いいよ。お前がベッドで寝ろ。あとおろしてくれ」

「やだ! ソルテがベッドで寝るの!」

「お前の方が体壊しちゃまずいんだから、ベッドで寝ろ。あとおろしてくれ」

「じゃ、じゃあ、一緒にベッドで寝る?」

「おろせや!!」

 

 肩に担がれたままソルテが激昂すれば、ソフィアは「あ、ごめんね」とそういえばソルテを担いでいたことを思い出してそっと床におろす。敵わない相手に担がれながら会話する。今まで生きてきた中で味わったことがないタイプの屈辱に、早くもソルテの精神は擦り切れそうになっていた。

 

「一緒に寝るのは(逃げにくくなるから)言語道断! ここはぜってぇ譲らねぇ!」

「このわからずや!」

「テメェが言うな!」

 

 普段であれば、ソフィアのような美人から一緒にベッドで寝ようなんていう誘い、ソルテであれば飛びつかないわけがない。しかし相手がソフィアとなれば話は別。ソフィアが自身に執着する理由も、生活能力が必要だからというだけでは腑に落ちず、それならなぜここまで執着するんだと考えれば恐怖しか生まれない。

 

「もういい! 先にお風呂入るからね!」

「勝手にしろ!」

「……覗いちゃだめだよ?」

「俺がそんな命知らずに見えるか?」

 

 ソルテがそういった瞬間、ソフィアは満面の笑みを浮かべた、

 「俺がそんな命知らずに見えるか?」という言葉は遡る前のソルテも言っていたことであり、ソフィアは「同じこと言ってる……やっぱり、ソルテはソルテなんだ」と感動して、風呂へと向かった。

 

 そしてソルテはシャワーの音が聞こえたと同時、ヘルメスの短刀により街の入り口へ転移し、逃走を開始。

 時刻は夜。夜の間に街を出るのは危険だが、ソルテにとってはソフィアと一緒にいることの方が何倍も危険だと判断した。

 

「強さはめちゃくちゃだけど、頭が弱いのは助かった……!」

「そうそう。だからソルテが一緒にいてくれないと困るの!」

「さぁ、焼くなり煮るなり好きにしてもらおうじゃねぇか」

 

 逃げ出せた安堵にから出た独り言に返事をしたのは、いつの間にか並走していたソフィア。髪も体も一切濡れていないのは、『シャワーの音を聞けば急いで逃げ出すだろう』という推測の元シャワーを出してソルテが逃げ出すのを待っていたからであり、わざわざ一度逃がしたのは『逃げるのは無駄だ』とソルテに刻み付けるためである。

 

「もう、焼くとか煮るとかそんなひどいことしないよ? ただ、一緒にいてくれるだけでいいんだから……♥」

「俺が何をしたって言うんだ……」

 

 面倒くさいとかがらじゃねぇとか文句を言いつつも結局最後まで旅についていって、その間めちゃくちゃ世話を焼いて、世界を救うために命賭けられねぇなんて言いながらソフィアが時を超えるために命を使わせたというすさまじいことをしているのだが、そんなことは現在のソルテは知る由もなかった。

 

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