トレジャーハンターをハントしようとする激重勇者   作:酉柄レイム

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第5話 命を狙う者と命を守る者と色々狙われる者

 ウィンの体力が回復し、そろそろ逃げられそうになったため、ソルテとウィン、そして「私へのプレゼントかな?♥」と幸せな勘違いをしたソフィアは露店街を訪れていた。

 ドワーフ、獣人など、露店を開いているのは人間だけではなく、そのこともあってか通常の店では手に入れられない掘り出し物も見つかるのがミオクルの露店街の特徴。

 

「ソルテ、ソルテ」

「ん? どうした?」

「あれ何?」

 

 物珍しそうにきょろきょろしていたウィンが興味を示したのは、ドワーフが開いている露店。木箱の上に高そうな赤い布を敷いて、その上に様々な宝石が並べられている。一目で見て価値がわかるものだからか、道行く人々の目を引いており、ドワーフが扱う宝石であれば間違いないと、買い手もそこそこいるようだった。

 

「ドワーフの宝石店。宝石っつってもただの宝石じゃなくて、例えば魔力を貯蔵して、必要な時にそこから魔力を使えるやつがあったり、衝撃を与えりゃ魔法を放つやつもある。なんだ、ほしいもんでもあったか?」

「んーん。なんか不思議な魔力がいっぱいだったから気になっただけ」

「あぁ、そっか。見えるんだもんな、魔力」

 

 ソルテがウィンに与え、左目に埋め込まれた『プロビデンスの眼』は、魔力を可視化する。その効力は視界に映るものに限らず、使い手によっては遠く離れた魔力を視ることもでき、実際に遡る前のウィンは、ダンジョンの外からトラップの位置を看破できるほどになっており、魔法を発動する前の魔力の流れでどのような魔法が発動するかも把握できていた。

 

「ソルテ♥ 宝石に夢中なのは、やっぱり結婚を意識してかな……?♥」

「これ何?」

「化け物」

 

 ウィンがまた幸せな勘違いをしているソフィアを指せば、ソルテが暴言で打ち返した。それに納得したウィンは、「何がどうなったらこんなのが生まれるんだろうね」と心の底からの疑問を口にし、「俺が今一番知りてぇことだな」とソルテが遠い目をしながら答えた。(やっぱり、私のことが気になるんだ……♥)と考えるソフィアは、安心するくらいいつも通りであった。

 

「んー、これと言って目を引くもんはねぇなぁ」

「ソルテはいっぱいダンジョンに潜ってるから、お宝いっぱい持ってるもんね」

 

 ダンジョン。世界各地に点在するそれは、多数のトラップとダンジョンボスが存在することが特徴。ボスを倒せば『お宝』と呼ばれているアイテムがドロップする。ソルテがソフィアから逃げるときに愛用している『ヘルメスの短刀』、ウィンの左目に埋め込まれている『プロビデンスの眼』もその一種。

 お宝はとんでもない効力を持っていることがほとんどであり、その多数を所持しているソルテにとって、露店に並べられている商品のほとんどがお宝の下位互換だった。

 

 そんなソルテでも掘り出し物が見つけられる可能性が高いのは地下街だが、ウィンがいる今地下街へ行くわけにもいかず、ウィンを留守番させようにもソルテから離れない。その分力になってくれるだろ、とウィンの頭をくしゃっと撫でれば、もっとと言わんばかりに撫でてくれた手に自分の頭を押し付けた。

 

「あー!! 私のなのに!」

「俺の手は俺のもんだろうが」

「ほら、ソルテ。ウィンの頭より、私のおっぱいの方が」

「街中で何てこと言ってんだテメェ!!」

「下品……ほんとに勇者?」

「ほんとだよ! 私強いもん!」

「品格の話をしてんだよ」

 

 ソルテから可愛がられるウィンに嫉妬したソフィアの文句をきっかけに、三人が騒ぎ始める。ミオウルに滞在して一週間、この光景は街の住民にとって見慣れたものとなっており、一部では『美女と美少女に言い寄られているのにはっきりしないクズ』としてソルテは有名になっていた。

 

 そして、そんなに騒いでいれば、ソルテたちを探す者から見つけられるのも当然のことであり。

 

「見つけましたよ、勇者様」

 

 凛とした声が、騒ぐ三人の間に落ちた。

 その声の主は、癖のない黒い髪を肩の上で切りそろえ、鋭い目には翠の光を宿している。腰には立派な剣があり、身を纏う銀の鎧、その胸当てには王都の紋章である剣を咥えた鷹が刻まれていた。

 

「あ! レイナ!」

「お久しぶりです。あなたのレイナ、ただいま推参いたしました」

(あなたの?)

 

 ソルテは直感した。あ、まためんどくさいやつがきたな、と。

 

 その直感は、確信へと変わる。駆け寄ったソフィアと手を繋いでにこやかに笑っていたレイナは、ふにゃりと柔らかくなった目をまた鋭くさせ、ソルテを睨みつける。

 

「勇者様に催眠とモラハラをしかけ下僕とし、子どもを作った挙句逃亡。無賃乗車と無銭飲食を繰り返す。そして性癖はロリコン。ソルテと言いましたか。あなたのような極悪人、見逃すわけにはいきません」

「色々言いたいことはあるけど、とりあえずキレていいよな? 俺」

「図星を突かれたら怒りをあらわにする。モラハラ男の特徴ですね」

「待って! ソルテはモラハラ男なんかじゃないよ! ちょっと素直じゃなくて、私のことが大好きなだけなの!」

「品性の欠片もないアホ勇者。後半は妄言でしょ」

 

 ソルテは天を仰いだ。少し前までダンジョンに潜って誰にもバレることなくただ飯を食らってただで街を移動して、何の不自由もない生活を送っていたのに、気が付けば不自由どころの騒ぎじゃないくらい不自由になっていた。

 確かなことは無賃乗車と無銭飲食は事実であるということと、ウィンの口が悪くなったのはソフィアに対するソルテの口調を真似たせいであるということ。

 

「はぁ、勇者様が盲目となるのは無理もありません。すべてはこのロリコンが原因」

「数ある悪名の中で一番チョイスしてほしくない悪名だな」

「かくなる上は、その命。もらい受けます」

 

 剣の柄を握り、一閃。ソルテの命を刈り取るために振るわれたそれは、魔力を込めたソフィアの左腕で容易く受け止められた。

 

「レイナ、引いて。いくらレイナでも、ソルテに手を出すなら何しちゃうかわかんない」

「そこをどいてください、勇者様」

「どかしてみたら?」

「……これ以上の会話は無駄なようですね」

 

 直後、再度の激突。ソフィアから膨大な魔力が放出し、その手に剣が握られた。ただ暴力を叩きつける一撃が上段から振り下ろされ、あまりの速さに一瞬反応が遅れたレイナが辛うじて剣の腹でそれを受け止める。

 

(重い!!)

 

 ソルテへの愛がではなく、剣が。ソフィアの一撃を受け止めた剣は一瞬の拮抗の果てに砕け散り、その余波によってレイナの体が息で吹かれた埃のように吹き飛ばされる。宙で身を翻し、つま先から着地。油断なくソフィアを見据えながら砕けた剣を鞘に戻し、抜けば。その刀身は元通り復活していた。

 

「再生の魔法。その剣っていうよりは、その鞘だね」

「ご明察。私の剣はいくら砕けようとも、再び立ち上がる。そして再生により込められた魔力は、砕ける前よりも更なる力を剣へ与える」

 

 『不屈』。それが、時を遡る前に与えられたレイナの二つ名だった。いくら剣が砕けようと再生し、再生する度に力を増す。何度倒されても立ち上がるそれは、騎士としての誇りの表れであり、降りかかる火の粉を振り払う剣であり、襲い来る惨禍を防ぐ盾であった。

 

「本来はあなたを守るために振るうべき剣を、あなたに向けることは不服ですが。私にも譲れないものがあります」

「私にだって!」

 

 ソフィアの譲れないもの(ソルテへの愛)、レイナの譲れないもの(勇者を誑かすソルテへの殺意)。互いの完全に真逆な主張を通すために、二人の剣が交差した。あと魔王軍幹部が屠られたという報告を受け様子を見に来た新たな魔王軍幹部がついでに屠られた。

 

 

 

 

 

 そして、そんな大チャンスを逃すわけもなく。ソルテとウィンはミオクルを出発していた。

 

「いやぁ、ソフィアの時間稼ぎができるなら、命狙われんのも悪くねぇな!」

「ソルテ、大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇよ。不本意な悪名が轟いた挙句、命を狙われて大丈夫ならもはや俺は魔族だろ」

 

 よしよし。ウィンはあまりにも不憫なソルテの体によじ登って頭を撫でた。そのままウィンを抱きかかえたソルテは、「ありがとな」と一言呟いて、強く息を吐いて気持ちを切り替える。

 

「さて、これから向かうのは花の街『ヴェロニカ』だ」

「花の街?」

「魔法で各地方の気候を再現して、各地方の花を育ててる。だから花の街。昔馴染みがそこにいてな。近くまできたからちょっと寄っていく」

「へー! 素敵な街だね!」

「あぁ、綺麗だぜ? 街ん中はどこ見渡しても花があるし、どこにいてもいい香りがするもんだから、疲れた心を癒す人も多く訪れる」

「よしよし」

 

 恐らく世界中で心が疲れている筆頭であるソルテがヴェロニカへ行くのは、起きていれば眠気がくるくらい自然なことであった。

 

 逃亡仲間にウィン、協力者(命を狙われるオプション付き)にレイナを加えたソルテは、何が起こるかわからない未来に少しの希望と多くの諦めを抱いて、花の街ヴェロニカへ向かって歩き出した。

 

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