トレジャーハンターをハントしようとする激重勇者 作:酉柄レイム
花の街『ヴェロニカ』。街は花に囲まれており、街の東西南北でそれぞれの地方の花が咲いている。街の入り口も東西南北それぞれにあり、巨大な花のアーチを抜ければ、花で彩られた街道に、壁から花が咲いている家や店が立ち並ぶまさに『花の街』に相応しい光景が広がる。
上空から見れば一つの巨大な花のように見えるその街の北側。そこに、真っ白な屋敷があった。屋根は藤色で、外壁には他の家と同じく花が咲いている。屋敷周囲には東西南北の花が咲き誇る庭園。その屋敷に住んでいるのが、この街の領主ブラウス家。
そのブラウス家の屋敷の前に、ソルテたちはいた。
「すごい綺麗だね! ね、ソルテ!」
「見事というほかありませんね。心に傷を負った方が訪れるというのも納得がいきます」
そう、ソルテたち。その内訳は、ソルテ、ウィン、そしてヴェロニカへたどり着く前に追い付いてきたソフィアとレイナ。
互いの主張を押し通すためにぶつかっていた二人の決着は、当然というべきかソフィアに軍配が上がった。そうして交わされたのは、『ソルテと一緒に旅をして、誤解を解いて』という約束だった。
それを聞いたソルテが、もう時間稼ぎは期待できないし、できたとしてもすぐに追いつかれることに絶望して更に心に傷を負ったことは言うまでもない。
「それで、ロリソルテ。ブラウス家に昔馴染みがいると妄言を吐いていましたが、恥をかく前に撤回した方が身のためですよ」
「まずロリコンって呼ぼうとしたことは謝れ。俺が少女に変身したみてぇになってんじゃねぇか」
レイナが頼まれたのはソルテと一緒に旅をして誤解を解く、それだけ。そのためソルテに対する攻撃性は依然変わっておらず、評価もまったく変わっていない。
自分に対してなぜか激重感情を抱くソフィア、自分の命を狙っているレイナ。悠々自適とは程遠い現状に項垂れるソルテを背伸びしてよしよしするウィンは、間違いなくソルテにとって唯一の癒しであった。
「あと、妄言でもなんでもねぇよ。もうすぐ出てくるはずだからおとなしく待ってろ」
「嘘であれば殺します」
「嘘の代償にしてはデカすぎるだろ」
「じゃあ本当だったら、今日一緒に寝ようね。ソルテ♥」
「聞いたことねぇよ、本当でも嘘でもどっちに転んでもひどい目に遭うって」
こいつらに昔馴染みと会うって話したのは失敗だったか。そうソルテが後悔した時、屋敷の扉が勢いよく開き、そこから飛び出した影が一直線にソルテへ向かって駆け寄って、飛びついた。
飛びついたのは、ウェーブがかかったピンクのボブカット。宝石のような翡翠の瞳。藤色のドレスを身に纏い、姿勢を正していれば可憐なお嬢様に見える少女。
「ソルテー!! 久しぶり!!」
「あっぶねぇな! ははっ、元気だったか? シャーリー」
シャーリー・ブラウス。ソルテの昔馴染みの少女である。
(殺害チャンス!)
レイナは『ソフィアと子どもを作ったのにも関わらず、目の前で堂々と浮気をしているソルテ(勘違い)』を見て、これを見ればソフィアも幻滅して「殺していいよ」って言ってくれるであろうと剣を抜こうとして、ソフィアに腕を掴まれる。
ソフィアは、それはもうソルテが世界で一番大切。もちろん好きで大好きで愛してると言ってもいいくらいだが、それはそれとしてソルテが幸せならそれでいいという思考の持ち主である。ただし、自身が側にいるという枕詞がつくが。
そして、ソフィアは知っている。シャーリー・ブラウスという少女がソルテにとってどのような存在か。
ソルテとシャーリーは幼い頃からの付き合いで、冒険心の塊であったソルテの帰る場所がシャーリー。度々ダンジョンに出かけては、その成果を見せにシャーリーの下へと帰る。遡る前は、「これからあまり帰れそうにない」と伝えにわざわざヴェロニカを訪れたことから、ソルテにとってシャーリーの下へ帰るのが当たり前となっていたことがわかる。
だからこそ、たとえ大好きなソルテが抱き着かれていようとソフィアが幻滅することはない。むしろ、遡るためにソルテの命を使ってしまったことを、目の前のシャーリーへ詫びたい気持ちでいっぱいだった。
(それを伝えたところで、信じるわけないけど)
「……あ、ごめんなさい。その、お仲間がいるとは知っていたんですが、つい」
ソルテと抱き合ってしばらく。ソルテ以外にも人がいることを思い出し、頬を赤くして縮こまるシャーリーは可憐であった。ソルテは長らく女の子に感じていなかった可愛さを目の当たりにし、うんうんと頷いている。
「ふふ、仲良しなんだね。私はソフィア!」
「私はレイナ。レイナ・エーテルロードです」
「私はウィン。よろしく」
「はい! よろしくお願いします!」
笑顔を咲かせるシャーリーに、ソフィアは笑顔で返し、レイナは礼儀正しく頭を下げ、ウィンはソルテを取られまいとソルテの腕を取りながら返した。
「ソルテ。家寄ってく?」
「おう。ワリィけどこいつらも頼む」
「ソルテの仲間ならいつでも歓迎するよ。さ、みなさんこちらへどうぞ!」
笑顔で言ったシャーリーの言葉に甘えて、ソルテたちは屋敷へと入っていった。
「へー! 魔王を倒す旅にソルテを!」
「そうなの! でもソルテったら恥ずかしがっていっつも逃げちゃって」
「いっつも疑問なんだけどよ、俺のどこをどう見たら恥ずかしがってるように見えるんだ?」
屋敷、シャーリーの自室。外と同じように花で彩られているその部屋で、丸いテーブルを囲んでティータイムとしゃれこんでいた。ソルテとシャーリーは向かい合い、ソルテの右隣にソフィア。レイナはソフィアの近くに立とうとしたが「おすわり」とソフィアからありがたい言葉を頂戴し、ソフィアの隣に座っている。
「ソフィアは一度脳を治してもらったほうがいい。ソルテは私とずっと一緒にいたいって言ったの。ソフィアじゃなくて」
「しかもいつの間にかこんなに可愛い子連れてきてるし。ソルテって結構女たらしだったんだね」
「なんで俺はこうも不名誉な称号ばっか得るんだ……?」
そしてウィンはシャーリーにものすごい早さで懐き、シャーリーの膝の上にいる。シャーリーもソルテの側から離れないウィンをめちゃくちゃに可愛がっていて、見ようによっては姉妹に見えた。今もテーブルにあるクッキーに手を伸ばそうとして、お目当てのものを先にシャーリーが手に取ってウィンの口に運んでいる。
「でも、ソフィアさんもレイナさんもすごく綺麗だし。そっけないふりして実は喜んでたり?」
「それはマジでない」
「ほんとにー?」
シャーリーから疑いの目を向けられたソルテは「ほんとに」と言って追及をかわす。「ない」理由を言わないのは言っても信じられないからである。どこの誰に言っても、『自分に対してなぜか激重感情を持っている』勇者と、『自分に対して殺意を持っている』騎士がいるなんてまず信じない。ソフィアはシャーリーの前では激重なところは見せず、レイナも殺そうとしたのはソルテとシャーリーが抱き合った時のみ。信じられる要素などシャーリーにはなかった。
「ふーん。でも、ソフィアさん。なんでソルテを連れていきたいって思ったんですか?」
「生活能力すごいのと、すっごく優しくてすっごく頼りになるから」
「なるほど! 見る目ありますね!」
「でしょー!」
「……」
「ソルテ、照れてる」
「いや、久しぶりに悪名じゃなくて褒め言葉聞いたなぁって思って」
ソルテのいいところで盛り上がるソフィアとシャーリーとは逆に沈黙したソルテを「照れてる」と指摘したウィンは、遠い目をしながら返ってきた言葉にテーブルのクッキーをそっとソルテの方へ寄せた。それを見たソルテは嫌なことを忘れるためにクッキーを一枚手に取って口の中へ放り込む。
「ん、これ作ったのシャーリーか」
「あ、わかる?」
「そりゃな。コックが作ったのとシャーリーが作ったの、違いがわかんねぇほどバカ舌じゃねぇよ」
「なにそれー。そりゃ私のクッキーの方が味落ちるけど」
「シャーリーが作ったやつのがうまいって意味だよ。ややこしい言い方しちまったな」
「……ありがと」
その瞬間、レイナはピン! ときた。シャーリーを見て、ソルテを見て、またシャーリーを見て。
(もしや、シャーリーさんはロルテのことが好きなのでは?)
ロリコンとソルテが混ざった結果名前を間違えながら、レイナは思案する。
シャーリーがソルテのことが好きだとして、その想いが伝えられればソルテはこの街にとどまることを選択し、ソルテを置いて旅へ出られるのではないか、と。
レイナの当初の目的はソルテの殺害である。しかし、ソルテとソフィアが離れれば別に殺さなくともいいと思っている。そしてソフィアはソルテを殺してほしくない。
そこから導きだされた結論は、シャーリーの恋の応援であった。
(しかし、どうするべきか。見るにかなり親しい間柄で、惚れているのであればとっくに想いを伝えている距離感に見える。逆に、親しすぎるからあと一歩が怖い? であれば、必要なのは背中を押すこと。では背中を押すには、ライバルの出現!)
「勇者様、今日はおとなしいですね。いつもはソルテが好きだと毎秒仰っているのに」
「え、ソフィアさんソルテのことが好きなの?」
勝った。レイナは目を丸くしてソフィアを見るシャーリーを見て確信した。やはりシャーリーはソルテが好きであり、今まさにライバルの登場に焦っていると。
(お任せください、シャーリーさん。あなたの恋、私が成就させてみせます)
慌てて「そういうの! そういうのだから!」と弁解するソフィアと「こういうのってそういうのじゃないから! って言うんじゃねぇのか」と冷静にツッコんでいるソルテを横目に、レイナは内心ほくそ笑んだ。