トレジャーハンターをハントしようとする激重勇者 作:酉柄レイム
「!!!!!!!」
「ハハ! すげーだろ? 俺も始めてんときはそんな感じだったなぁ」
龍籠に乗ったソルテたちは、ライロックへ向かって空の旅の途中。籠とは言っても魔力耐性やかなりの強度を誇るガラスに囲まれており、一切の障害物もなく空を見渡すことができる。
飛ぶ前は少し怖がっていたウィンも、龍籠の上部に取り付けられたハンドルを握って竜人が飛翔した瞬間、大地から空へと一瞬にして景色が切り替わり、ウィンの恐怖は感動へと変化した。龍籠に張り付いて景色を眺めるウィンに、他三人から暖かい視線が送られる。
(ふふ♥ こうしてると夫婦みたいだね……♥)
訂正。一人だけ邪な感情が付随していた。
「確かに空の旅は見事なものですが、ライロックに行くのであればここまで飛ぶ必要はないのでは?」
「ライロックに行く目的は、大体ライロック山の散策が多い。こうして高くまで飛び上がることで、目的地までの大体の距離を頭に叩き込めるからな。もちろん、ただライロックに行きたいだけなら最短で行くよう頼めるぜ」
「なるほど……それに、今考えれば空へ行く感動は、ライロックを去った後共有される。それによってライロックを訪れる人が増え、繁栄につながるということも考えられるか」
「そういう側面もあるだろうな。ただ一番は、やっぱり空の景色を知ってほしいってのがでかいと思うぜ」
ウィンみたいに喜んでくれるなら、俺ならいくらだって空まで運んでやりたいって思うしな。そう続けたソルテに、龍籠を運んでいる竜人ダリアは、話がわかるやつだなぁとソルテの評価を最大まで上げた。
竜人は基本的にプライドが高い。しかし、ライロックに住む竜人は友好的で温厚、ソルテとレイナの間で龍籠が空高くまで昇ることについて様々な考察がなされていたが、ライロックの竜人としての答えはまさにソルテの言った通りであった。
空の景色を知ってほしい。竜人も、生まれてすぐに空を飛べるわけではなく、厳しい訓練の末空を飛べるようになる。その初めて空を体験したときの感動を共有したい。ライロックの利益などではなく、ただそれだけが理由。
「おい男! 俺はダリアという! お前、名前は!」
「ん? ソルテだ。よろしく」
「よろしく! お前はいいやつだし、そこの子どもも喜んでくれてるから、満足するまで飛んでやるよ!」
「ありがたいけどいいのか? 無理はすんなよ!」
「空という領域において、俺たち竜人に無理は存在しない!」
(ふふ、相変わらずだね)
ソルテと言葉を交わすダリアを見て、ソフィアは一人微笑んだ。
竜人ダリア。一緒に旅をしていた仲間であり、仲間になったきっかけは、今回のようにダリアがソルテをいたく気に入ったことと、ソフィアたちがライロックを訪れた際、魔王軍幹部である竜の混血の魔族がライロックを強襲し、ともに戦ったこと。
遡る前。ソフィアは一人になったところを奇襲され深手を負ってしまい戦闘に参加できず、ソルテとウィンとレイナが外へ攻撃できるように加工した龍籠に乗り、ダリアが龍籠を掴んで飛翔。ウィンが『プロビデンスの眼』で敵の位置を捕捉、攻撃を把握した上で司令塔となり、接近できればレイナが、遠距離であればソルテが攻撃する布陣で戦って辛うじて勝利を収めた。
(今回は絶対にやられない。ライロックについたらすぐに消しに行く)
ソフィアは空の旅にはしゃぐウィンと、せっかくならと一緒になって楽しみ始めたレイナ。そして気が合ったのか話に花を咲かせるソルテとダリアを横目に、魔族の位置を捕捉する。竜人が普段飛ぶであろう高度よりもさらに高い位置。そこに魔族がいた。
「ダリア! ちょっと扉開けてもいい!?」
「あ? あぶねぇぞ!!」
「大丈夫! 私も空得意だから!」
ソフィアが本気だと悟ってゆっくりと速度を落とし、空で静止。礼を告げたソフィアが扉に手をかけると、ソルテが待ったをかけた。
「おい待てソフィア。こんなとこで何する気だ?」
「魔族倒してくる!」
は? と呆けるソルテに恍惚としながら扉を開けて、空へ跳ぶ。龍籠から距離が離れたところで体にかかる重力を軽減するために魔力装甲を纏い、自身の真下に魔力の塊を生成。それを剣で叩くと、強烈な光とともにソフィアの姿が掻き消えた。
「……魔力爆発させて、飛んで行ったってことか?」
「乱暴。正気の沙汰とは思えない」
「流石勇者様……」
「……」
ソルテ、ウィン、ドン引き。レイナは尊敬の念を抱き、そしてダリアは。
はじめて、竜人である自分よりも空に相応しい人間を見た。
竜の混血。魔王軍幹部の魔族は、遥か上空からライロックを見下ろしていた。
「人類へへりくだる竜など言語道断。この俺が消してやりたいが……それには勇者が邪魔だな」
魔族の目には、龍籠に乗るソフィアの姿が見えていた。どれだけ遠く離れていようともその姿をはっきり捉えることのできる目は、一瞬で視界が変わる空中戦において最強をほしいままにできる才能。
「幹部が悉く屠られているようだが、俺は違う。なぜなら俺は魔王軍幹部」
もちろん、この後やってきたソフィアに屠られた。お約束というやつである。
ただいまー! と言って普通に帰ってきたソフィアを乗せた龍籠は、ライロックへと降り立った。ウィン以外の三人は上空で何が起こったのか、膨大な魔力の放出があったことは理解できているものの、その詳細まではわかっていない。
しかし、『プロビデンスの眼』により魔力を視認できるウィンは、何が起きたのかはっきりわかってしまった。そしてそれはもう怯えに怯えた。
隠していた魔族の魔力がソフィアの攻撃によって一瞬だけ視認できて、それが一瞬のうちにぐちゃぐちゃのボロボロにされ、この世から消えていく。一つの命が暴力的に散っていった様をじっくり見てしまったウィンは、ソフィアが帰ってきた瞬間気絶。このままダンジョンに行くわけにはいかないと、とりあえず一泊することが決定した。
「ライロックは鉱業も有名だが、温泉もこれまた有名だ! 空の旅で冷えた体をゆっくりじんわり温める! 里長は勇者一行ならタダで何回でも入っていいって言ってたし、ウィンって言ったっけか? そいつが起きたら入ってけよ!」
ダリアの案内で宿へと入り、当然のようにソルテに割り当てられた部屋に入ろうとしたソフィアを縛り上げたところで、ダリアから提案があった。それに目を輝かせたのは縛られているソフィアであり、期待を込めてソルテに視線を送ったものの、「勇者様を縛るとは何事だ!」と言って喧嘩を打ったレイナの対応に追われて結果的に無視される。
流石に提案されて喧嘩を続けるほどソルテとレイナも無法者ではなく、喧嘩の手を止めた。
「んー、じゃあお言葉に甘えるか。なんなら、ソフィア、レイナ。今行ってきていいぜ。ウィンは俺が見とくよ」
「え、いいの!」
「ゆ、勇者様と、私が!? そんな恐れ多い! 勇者様、私はソルテを見張っておきますので、先にお入りください」
「えー、一緒に入りたいなぁ」
「さぁ、行きましょう。おいソルテ、覗きなどしたらその命ないと思え」
「できねぇよ。ソフィアにはぜってぇバレるからな」
やらないのではなく、できないと答えたソルテは正直な男であった。言ってから失言を悟ったソルテはポーカーフェイスで(気づくなよ……!!)と祈りを捧げ、その祈りが届いたのかソフィアとレイナは並んで温泉へと向かった。
その場に残されたのは、ベッドに寝かされたウィンと、その近くにある椅子に座ったソルテ、その背後に立つダリア。
「なんかワリィな。タダで宿使わせてもらう上に、温泉までいただいちまってよ」
「構わねぇ。それより、あのソフィアという女……勇者だったか。俺たち竜人以上の速度で空を駆けるとは、何者なんだ? あいつ」
「ダリアが言った通りだよ。あいつは勇者。そんだけだ」
おや? とソルテは期待を抱く。
ライロックの竜人は温厚。とはいえ竜人であることに変わりはなく、プライドを失ったわけではない。ソルテは、今のダリアの発言が、自身のプライドを刺激されてのものに聞こえていた。
事実、ダリアはソフィアが空を駆ける姿を見てプライドを刺激されていた。翼もないのに自分より速く空を駆け、優雅に舞う。竜人の目をもってして一瞬しか姿を捉えられず、帰ってきたソフィアはいつも通りといった涼し気な表情。
それを見たダリアに芽生えたのは、ソフィアを追い抜いて、空に一番ふさわしい存在になりたいという思い。
(……使える)
「ダリア。実はな、俺とウィンはソフィアから逃げようとしてるんだ」
「あ? なんで」
「魔族との戦いは俺の身が持たねぇ。一緒にいても足を引っ張るだけだと思ってな」
「それなら強くなればいいだろ」
「まぁ聞け、お前にとって悪い話じゃねぇ」
まず、嘘はつかない。なんどかライロックを訪れて竜人に対して感じたのは、嘘を嫌うということ。それは嘘に気づけるということではないが、もし嘘をついてそれがバレた時、一気に信用を落とす。竜人の心は空と同じく嘘をつかない。ライロックの竜人が誇りのように語っていたそれを覚えていたソルテは、真実を伝えた上でダリアを勧誘する。
「俺たちが逃げるってことは、ソフィアは追ってくる」
「あぁ」
「俺たちが逃げる時。ダリアも一緒に逃げれば、ソフィアと『速度』っつー領域でやりあえるってことなんだ」
「!!!!」
目を見開いたダリアを見て、プライドを刺激されたという自分の推測は間違っていなかったと、ソルテは片側の口角を上げて笑みを浮かべる。
「あんな芸当ができるソフィアとやり合えるなんて、これ以上ない修行だと思わねぇか?」
「ソルテ!! お前が逃げるの手伝ってやるよ!!」
「おう、よろしくな」
ウィン(目)に続いてダリア(足)をゲットしたソルテ。自分が完全に逃げ出せる日がどんどん近づいてきていることを確信したソルテは、声を出して笑った。
(どうせ、追いつかれるんだろうな……)
そして、途中で目を覚ましていたウィンは言っちゃだめなことを考えて、健気なソルテを思い心の中で涙を流した。