Rebellion Against Fate   作:zawadinosaur

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お待たせしました!!やっと第一話が形になったので更新させていただきます!!


『The Begining Of Fate』
第一話『重なる光と影』


 

 

─────したわ。

 

何か、聞こえる。

誰かが、喋っている。

ひどく悲しげで、虚な声。

浮遊しては消える儚く水泡と、不自然なくらい黄色い液体に包まれた中、『彼女』は薄く目を開ける。

小さな小さな容器の中、揺蕩う感覚だけが身体に伝わってくる。

何もかもが曖昧で、判然としない世界に、響くのは聞き覚えのない女性の声だけだ。

 

─────ようやくよ…。

 

何が、だろうか。

声の主が何を言っているのか、さっぱり分からない。

わずかに震えるその声は、涙ぐんでいるようにも聞こえた。

 

……分からない。

……何もかも。

……自分が何で、ここが何処なのかも。

 

─────必ず、貴方を……。

 

何でもいい。

今は、ひたすら眠いんだ。

このままどうか寝かせて欲しい。

そんな退廃的な思考のまま『彼女』は、そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「んが…っ!?」

 

所変わって、ここは雲上を走るヘリの中。

周期的に揺れていた機体の中、ガクン、とヘリ全体に響く強い衝撃で、彼女は目覚める。

臓腑が全部浮くような落下重力が腹に浸透して来て、軽く嘔吐きながらいつの間にか口の端からだらしなく垂れていた涎を拭う。

実に腑抜けた声を出してしまったが、幸い絶えず大音量で聴こえてくるプロペラの音が、恥ずかしいそれを掻き消してくれていた。

もし操舵手の人に聞かれていたら、きっと舌を噛み切っていた。

それはそうと、何があったのか窓から眼下に広がる景色を確認すると、

 

「おぉ……!!」

 

──広がるは、一面の蒼世界、そして浮かぶ絶海の孤島。

世界から隔絶されたような立地のそこは、これから自分の居場所となる島。

どうやら到着時刻らしい。

先の揺れは、降下に先立つものだったようだ。

段々と接近してくる地上を見ると、緊張と期待が胸を弾ませてくれる。

聞こえないことをいいことに、鼻唄を歌いながら着地までの数分を足を揺らしながら待つ。

その心持ちは、まるで遠足のようだった。

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!!」

 

待機中のエンジン音を飛び越えるように、特大の感謝をパイロットに伝える。

ここまで片道4時間も掛かったのだ。

その間彼女は爆睡していたにも関わらず、パイロットは粛々と自分をここまで送ってくれた。

彼は軽く会釈すると、あっという間に突風と共に間に飛び去って行ってしまった。

淡白な反応に少しだけ残念がりつつも、即座に視線を移す。

ヘリポートを抜けた目の前に聳え立つは、厳しい建物。

この島の名は、キャメロッ島。

治安維持のための傭兵組織──通称『円卓』の本拠地。

実物で見るとあまりにも巨大に映るソレに威圧されつつも、大きく2つ深呼吸。

覚悟は決めてきたはずなのに、呼吸は乱れる一方だ。

今日から、自分が所属することになる組織を前に尻込みすることなんてないはずだが、それでも足は竦むし、震える。

手元のスーツケースも、3割増しに重く感じてきた。

しかし出会いとはいつだって、斯くある物だ。

 

「よし!!行くぞ!!」

 

頬を張って自分を鼓舞しながら、意気揚々と自動ドアの先に足を踏み込む。

『円卓』。

傭兵組織に所属する実感など、まるで湧かないが、それでも事実として自分は今日からこの島に駐在し、戦うのだ。

つい先日まで一般人だった自分上手くやっていけるかどうかは、甚だ疑問だ。

唯一、幸運だと思ったのが配属先が人望に定評のあるトリスタン卿の部隊──『コルタナ』だったこと。

殺さず主義の温厚な人間の集まりだそうで、自分には心底向いていると思っていた。

他の武闘派と噂のランスロット卿やモードレッド卿に比べると、戦闘経験がほとんどない彼女にはやはりマッチしている。

それはそうと、あと一歩踏み出せば自動ドアのセンサーの範囲内だ。

大きく息を吐いて、大きく吸う。

やることは、足を前に踏み出すこと。

それだけでいい。

 

「こんにち……」

 

笑顔を顔に貼り付けたまま自動ドアを潜ると、

 

「…………は?」

 

目の前には、誰もいない。

人の気配すら感じない。

もっと賑わっているものだと思っていたが、本当にロビーは静まり返っている。

歓迎ドッキリか何かかと思いながら物陰を覗くが、やはり何もない。

想定とは違いすぎる環境に、冷や汗が頬を伝う。

まさか、存在そのものを忘れられたのだろうか…?

嫌な予感を拭いきれないまま、恐る恐る彼女は建物内を進む。

とりあえず手始めに、手近にあった扉に入ってみることにした。

だが、その時だった。

 

「──止まれ。」

 

「ッッ!!!?」

 

ロビーの中腹地点。

突然背後から声を掛けられて、首が捻じ切れそうな勢いで振り返ると、

 

「その先は王が座す玉座だ。貴様如きが入れる場所ではない。」

 

そこには流水に似た特徴的な髪型をした男性が立っていた。

歳は、20代後半から30代前半、といったところだろうか。

しかし問題はそこではない。

戦闘経験なんてまともに無い彼女にでも、立ち姿だけでも分かる。

相当な実力者…なんて言葉でも生温いほどの威圧感。

厚着の上からでも、その覇気は十分過ぎるほど漏れ出ていた。

きっと自分は、この人のデコピン一つで簡単に殺される。

そんな確信すらある。

しかも、物騒な刀まで帯刀している。

オーバーキルにも程がある!

 

「…いや、そもそも貴様何者だ?初めて見る顔だが。」

 

警戒心を顔に貼り付けた彼が一歩、また一歩と距離を縮めててくる。

その様子は身長差もあって、さながら獲物を求める肉食獣と丸腰のマルチーズ。

あちらの視点からすれば、今の自分は見慣れない侵入者そのもの。

しかも口ぶりから察するに、どうやら組織の長たるアーサー王の部屋に無断で入ろうとしてしまったらしい。

浅く呼吸を繰り返し、じりじりと後退りをしながら『自分は無害だ』という言い訳をひたすらに頭の中で考え、考え、考え尽くす。

 

「ほっ!本日付でトリスタン卿の部隊に配属された者です!!決して怪しい者ではないんですごめんなさいっっ!!!!」

 

そうして思い付いた言の葉を、ほとんど命乞いのようなテンションで頭を乱高下させながら叫ぶ。

彼にひたすら敵意がないことをアピールすることが、この場を切り抜ける唯一の手段だ。

数刻、2人の間には如何ともし難い沈黙の幕が降りる。

彼方の向けてくる視線は変わらない。

切り裂かれそうな眼差しに耐えながら、彼女は唇を一文字に結ぶ。

切羽詰まりすぎたこの状況に、頭の中で両親への感謝が浮かんでくる始末だ。

 

(お母さん……育ててくれてありがとう…お父さん……会ったことはないけど色々ありがとう……。)

 

 

 

「………。」

 

「〜〜〜っ。」

 

 

どれだけ経っただろうか。

顔どころか背筋にまで脂汗が滲み出した頃、ようやく男が口を開く。

 

「……………成程。確かにその話は昨日の会議に上がっていたな。貴様がその…?」

 

そっと顎に手を添えて、男はこちらをじっと見つめる。

こちらは、ひたすら背筋を伸ばしてどこに出ても恥ずかしくないように努める。

追加で数秒観察して、こちらを無害であると判断したのか、呆気なく青色の男は踵を返す。

 

「………励めよ、我らが王のために。」

 

去り際に短く言葉を残すと、彼は何処かへ去って行った。

 

「……はぁ〜〜っっ!!」

 

ようやく、一難切り抜けられた。

完全に腰が抜けた彼女は、弱々しくその場にへたり込む。

円卓は、あんなおっかない人達の巣窟なのだろうか。

自分では、どうやったってあんな領域まで辿り着けない。

背丈も力も知力も、まるで足りない。

早くも折れそうになる心を引き摺りながらも、懸命に建物内を進む。

出入り口の近くで呼び止められたせいで気付かなかったがこの白亜の城は、内装まで美しかった。

一流のホテルや美術館にも張り合えるほどの景観だ。

視線をあちこちに写しながら歩いていると、部屋の扉に架けられた部隊名らしきネームプレートが目に入る。

『ドリトス』と、『トルペド』。

 

「…ん?」

 

『トルペド』は分かる。

確か、魚雷を意味する言葉だったはず。

傭兵部隊の名前に、これ以上に相応しいものもないだろう。

だがドリトスには疑問符が浮かぶ。

記憶が正しければ、どこかのバンドの黄色い人の頭頂部に付いているアレ、もといお菓子の名前だったはず。

謎のネーミングに首を捻りながら、トコトコと屋内を練り歩く。

そうして進んで行く内に、段々と視界が開けてきた。

 

「…わぁ……!!」

 

──目の前に広がるは、美しい中庭。

川に見立てられた水路に、果樹園と言われても頷いてしまいそうなくらいに生い茂った青々とした碧。

小鳥が囀り、日光が燦々と照ついている。

あまりにも美しいその光景に、彼女は思わず足を止める。

そこかしこから漂ってくる甘い甘い花の香りに、蝶のように釣られながら中庭に足を踏み入れた。

花畑のようになっているこの区画は、赤青黄色に橙と無数の色に埋め尽くされていた。

膝を折って、足元に広がる花をそっと拾ってみる。

見たこともない品種の淡色の掌の上で眺めると、パっと宙に散らす。

ハラハラとゆっくり落ちていく花弁が、なんとも幻想的だ。

自分の家名が花の名前そのままということもあって、花は好きだ。

こうして愛でるのは初めてだが、悪くない。

今度苗木でも買いに行こうかと思案していた時だった。

 

「──おや?見ない顔だ。」

 

「ひえ…!?」

 

再び、背後から声を掛けられる。

また筋骨隆々マッスルボディの厳つい人に絡まれるのではないかと戦闘体制を構えながら振り返る。

だが、そこにいたのは、

 

「ああ、驚かせてしまったかな。ごめんよ、空色の君。」

 

自分とさほど変わらない年齢の少女だった。

紅玉のように美しい赤髪と、可愛らしい八重歯が真っ先に目につく。

余りにも想定とは違った外見に、思わず呆気に取られてしまう。

切り株に腰掛けていた少女はすくりと立ち上がると、戯曲のように軽やかな足取りで歩み寄るとこちらに手を差し伸べてきた。

 

「私はカレン・ヴィーダ。ここでは『ディナダン』で通っている者だ。」

 

「あ…えっと…初めまして…。」

 

戸惑いながらも差し出された手を、ぐっと握り返す。

彼女が口にしたのは、円卓の騎士の名。

それが意味するところはつまり、CNを持つ騎士ということ。

だが、

 

「あれ…?あの…確かディナダンって史実では…。」

 

男性であったはず。

しかし目の前のカレンは、その名の響きの通り可憐な少女だ。

その言葉に、目を丸くしたカレンは軽く吹き出すと表情を笑顔に変えた。

 

「ふふ、そうだね男性だよ。でもここでは割とメジャーなことさ。

アグラヴェイン卿やガウェイン卿、ガラハッド卿にガレス卿も現在は女性だよ。ああ、トリスタン卿とランスロット卿も先代は女性だったね。」

 

カレンは驚愕から立ち直れていない彼女の前で、『久方振りに言われたよ』と心底楽しそうに笑っている。

だがこちらとしては意外すぎて顎が外れそうだ。

 

「すごいですね…信じられません…。」

 

CNを預かる騎士たちのことを、アーサー王伝説に登場する英傑たち的な存在としてイメージしていたせいで、頭の中ではすっかり屈強そうな鎧姿が定着してしまっていたが、案外そんなこともないらしい。

意外と騎士の中の女性割合が多いことにも驚きだ。

もっと厳格な男社会のようなものを勝手に想像してしまっていた。

 

「それで?キミはどこの部隊の所属になるんだい?」

 

「えっと…トリスタン卿の部隊だそうです。」

 

「ああ、シャグランさんの部隊か。戦いにまだ不慣れなキミにはいい環境だよ。」

 

「はい!」

 

元気よく返事を返すが、その瞬間とある違和感が頭に浮かんできた。

 

「………って何で私が戦いに不慣れだって…言いましたっけ……?」

 

名前はおろか、素性すら彼女には伝えていないはずだ。

それなのに、何故分かったのだろうか。

 

「ふふ、見れば分かるとも。」

 

カレンは片目を閉じて、悪戯っぽく八重歯を覗かせる。

一体何から判断したのか、見当もつかない。

立ち姿?格好?それとも言動?

興味が尽きないが、当のカレンはこちらの真横を通り過ぎる。

 

「こうして会ったのも何かの縁だ。シャグランさんの隊室前まで案内するよ。」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

正直な話、どこに行けばいいのか分かっていなかったのだ。

方向音痴の自分が1人で動くと、出口までいってしまいそうだ。

敷地内に詳しい人間が付いて来てくれるのは頼もしいことこの上ない。

 

 

 

道すがら、カレンに入り口で起きた出来事を伝えると、彼女は手を叩いて大笑いをしていた。

こちらとしては全く笑い事ではないのだが……。

 

「ハッハッハ!!それはランスロット卿だね。彼、我らが王の大ファンなんだ。」

 

(大ファン……?忠誠心が強いってこと…なのかな?)

 

部下が上司の大ファン…ということなのだろうか。

正直あまりイメージが浮かばないが、確かにあの雰囲気は大ファンのそれと言われても違和感がない。

だがランスロットと言えば、円卓最強と名高い忠義の騎士だ。

イメージ通りと言えばイメージ通りである。

その他にも、色んなことを彼女に聞いた。

『ドリトス』(?)を率いている奇人騎士ブルーノの話。

小柄な身体ながら、誰よりも真摯に任務に向き合う騎士ガレスの話。

そしてその相棒である何だかおかしいオミアシ、メイチャンの話。

他にも、フローレンス卿、ガラハッド卿、アグラヴェイン卿、ケイ卿の話。

彼女の話はまるで、演劇を眺めているような夢心地だった。

 

「──さて、ここだよ。」

 

そんなこんなしてる内に、とある一室の前にたどり着いた。

体感時間は、5分にも満たなかったが、時計を見る限り10分ほど歩いていたようだ。

それだけ、カレンの話術が巧みだったのだ。

退屈する暇も、よそ見する暇もまるでなかった。

カレンは口元に笑みを浮かべながら、ドアノブに手を掛けるのを見守ってくれている。

無言の優しさに深く感謝しながら、取っ手に手を添える。

しかし、

 

「…ディナダン卿。王がお呼びです、申し訳ないのですが御足労願えますか?」

 

いつの間にか二人の背後には、全身を鎧で覆った騎士が立っていた。

顔は見えないし、無論表情も見えない。

機械のように微動だにしない彼を見て、カレンは申し訳なさそうにこちらを見る。

 

「すまない、呼び出しが掛かってしまった。それじゃあ、私はここで。キミが馴染めることを願っているよ。」

 

去り際に手を振ると、鎧の騎士に連れられて彼女は元来た道を戻って行くのだった。

 

「ふぅ〜〜〜〜。」

 

深く深く息をして、部屋の前に立つ。

今度こそ『コルタナ』の隊室で間違いない。

この中にいる方々は、どんな人たちなんだろうか。

カレン曰く、『良い環境』と言っていたが、どうしても心配が心の隅に座り込んでいる。

 

「失礼しま!……………す?」

 

思い切りドアノブを捻って、部屋に足を踏み入る。

扉を開けた先にあったのは、たくさんのデスク。

そしてその中央には、どこからどう見てもこの場には不釣り合いな炬燵。

だが、室内には誰もいない。

抜き足差し足で部屋の歩くが、本当に何の変哲もない仕事部屋のようだった。

あの炬燵を除いては。

念の為アレが何なのか確認しようと、身を乗り出して観察していたその時だった。

 

「……え?」

 

──炬燵から、真っ赤な髪の毛らしきものがはみ出している。

加えてピン、と伸び切った右腕のようなものも赤毛と共に飛び出していた。

これは……間違いなく、

 

「さ…さ………殺人現場だぁぁぁ!!??」

 

いきなり何という洗礼だろうか。

ここで適切な行動が出来なければクビ、なんてこともあるのだろうか。

アワアワしながら辺りを見回すが、救急車を呼ぶくらいしか解決案が出てこない。

カレンは『良い環境』なんて言っていたいたが、とんでもない!

修羅場そのものでしょ!

慌ててポケットの携帯に手を伸ばすが、あまりに気が動転したせいかどの番号にかけるのかすらあやふやだ。

というか、こんな孤島に警察なんて来れるの!?

 

「んあ〜?うるせーなぁ…。」

 

だが、部屋に響いた誰かの声に、こちらの動きが止まる。

何事かと炬燵に目線を向けると、叫び声に呼応するかのように赤毛の主が毛布の中から這い出て来た。

青いパーカーにジャージ姿と、その見た目は正月の正午を満喫する自分のようだったが、生憎今の季節は春である。

季節外れにも程があるその人物は、入り口に視線を向けた。

 

「ん〜〜?誰?」

 

寝ぼけ眼を擦りながら大欠伸をした彼女はムニャムニャと微睡んでいるが、『誰?』なんて随分なご挨拶だ。

 

「えっと……今日からここに配属された者なんですが…。」

 

「はぁ〜?そんな話…」

 

言いかけたその瞬間、彼女の顔が一瞬にして真顔になる。

と思ったら直後、頬に冷や汗が流れる。

 

「あの…?」

 

どう見ても何かしらの心当たりがありそうだ。

念の為問い掛けてみたが、彼女は口を一文字に結んだままだ。

 

「………………………………………やっべ。」

 

顔を真っ青にしながら彼女は短く呟くと、物凄い勢いで炬燵から抜け出し、机の上に開けっぱなしで放置してあった私物と思われるパソコンと睨めっこをしている。

一体何がヤバいのだろうか。

だが何故だろうか。

すごい嫌な予感がする。

 

「お早う。」

 

だが緊迫したムードを他所に、背後から声が響く。

ドアを潜って来たのは、見上げるほど…というわけではないが、こちらからすれば後退りしてしまうほどの大男。

黒縁のメガネにオールバックと、いかにも昔学級委員長をやっていたタイプとお見受けする。

 

「ん…?客人か、ヴェナ?」

 

彼はこちらに視線を向けると、即座にパーカーの彼女に問い掛ける。

 

「ど…どうも…。」

 

嫌な予感が確信に変わった。

きっと、自分が今日来るという話が行き渡っていなかったのだろう。

でなければ、こんなリアクションが出るはずもない。

 

「………………ヴェナ、何があった?」

 

「あ〜………はははは………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の真相を話そう。

彼女──ヴェナリスティア・ブランジアは今日から新人が来るということを丸々忘れていた上に、その事実を部隊に共有していなかったのだ。

その理由はシンプル。

新人加入の連絡があった日に、ダゴダと呼ばれる騎士共にオンラインゲームに興じた挙句、日程表にメモを取る前に爆睡をキメたからである。

おかげで、事前に会議に参加していたトリスタン卿以外の『コルタナ』のメンバーは新人の加入を知らなかったし、申請が無かった故に部屋も用意されていない始末だ。

何なら、昨日トリスタン卿からの確認があったようだがヴェナはゲームをしながら話半分に『大丈夫大丈夫』などと宣っていたそうだ。

 

 

この事態を受けて、何が起こったかは言うまでもない。

 

「おい。」

 

「はい。」

 

部屋の隅。

腕組みをしているバリトンの足元で、ヴェナは正座をさせられている。

部屋の中にはもう炬燵はないし、ゲーム機もない。

彼の監視の元、全てセルフで片付けをさせられていた。

 

「分かっているのか?お前は『コルタナ』のブレーンだ。」

 

「はい。」

 

「スケジュールの管理も、日程も、データの大元はお前が持っている。そのお前の管理がゴミでは我々の部隊そのものが立ち行かなくなる。それは分かるな?」

 

「…はい。」

 

「まずは自覚を持て。何もゲームをやめろと言っているわけではない。節度を持てと言っているんだ。小学生ではあるまいし、自分で管理できないなどということもないだろう。」

 

「……はい。」

 

「それと、丁度新人が入って来たんだ。言葉遣いにも気を遣え。特にシャグランに対してだ。目上の者と話す時は敬語が基本だろう。お前ももう大人だろ、いい加減にしておけ。」

 

「〜〜〜ッ…。」

 

ヴェナは、瞳に涙を浮かべながらプルプルと震えている。

この何とも痛ましい光景に、咄嗟に手で顔を覆う。

 

(大人のガチ説教……見てられないよぉ…!)

 

学校でのお説教は幾度もされている故慣れているが、年上の人間が本気で叱られているのを見ると、なんだか居た堪れない気分になってくる。

助け舟の一つでも出してやりたいものだが、生憎擁護のしようもない。

こんなことをしている間にも、次々に『コルタナ』のメンバーたちは入室して来て、それぞれのデスクで準備を始めている。

だが、全員このお説教現場に視線を送らない。

慣れきっているのだ。

一体、何回やらかせばこんな対応が共通認識になるのだろうか。

 

「うわ〜〜んバリトンが虐めるよぉぉ!!新人ちゃぁぁん!!」

 

「ええ!!?いやぁ……その……。」

 

大粒の涙を垂らしたヴェナが唯一視線を向けていたこちらに向かって抱きついてくるが、掛ける言葉が見当たらない。

だって絶対この人が悪いんだもん。

 

「ま〜たヴェナ先輩怒られてんのか。」

 

「何回目かな。シーナ、アンタ数えてる?」

 

「10を超えた頃から数えるのやめました!」

 

部屋にはいつも間にか10を超えるメンバーが集まりつつあった。

そして、口々にこの状況を苦笑している。

何人かはこちらの存在に気がついて会釈してくれる人もいたが、大方は見てみぬふりと言った様子だった。

居心地があまり良くないので、そろそろ誰かに紹介してもらいたいところだがリーダーらしき人物の姿は見えない。

最初は眼鏡の大男こと、バリトンがリーダーなのかと思っていたがそうではないらしい。

今部屋にいるメンバーたちも基本的に若手がメインだ。

首魁たる貫禄のある者は誰もいない。

 

「すみません、遅れました。……って、何ですかこれ。」

 

この空間の空気を壊すように新たに入室してきたのは、ブロンドをお下げにした眼帯の少女と、

 

「ああ、新人の方ですね。お待ちしておりました。」

 

そして、翡翠色の人当たりの良さそうな青年。

どちらも年齢は若い。

この2人もリーダーではないのだろうか。

しかし、

 

「おはようございます、トリスタン卿。」

 

全員が口々に、翡翠色の彼に向けてそう言った。

 

(この人が……トリスタン……!!)

 

驚愕もひとしお、入室してからトリスタンは部屋の隅のお説教現場に眉を顰める。

 

「……これは…何かありましたか?」

 

 

 

 

 

かくかくしかじか。

バリトンの口から先述の経緯が伝えられた。

そして、その最大の問題点もだ。

 

「……部屋がない?」

 

「………はいそうです…ごめんよ新人ちゃん…。」

 

どうやらヴェナのミスのおかげで、寝泊まりするための部屋がないらしい。

つまり取れる選択肢は…

 

「………男性陣の部屋と野宿は論外だな…。かと言ってシーナやヴェレーノの部屋は埋まってる…。」

 

バリトンの言葉の通りだ。

男性と一つ屋根の下なんて、恋人すらいなかったこちらにはハードルが高すぎる。

野宿は言わずもがな。

流石にそんなぞんざいな扱いをされては泣いてしまう。

 

「すみませんミラさん。貴方の部屋の一部を彼女に貸してくれませんか?」

 

数秒の思考の後、ミラに白羽の矢が立つ。

だが正直、こちらは罪悪感でいっぱいだ。

プライベートスペースにお邪魔するなんてミラにとっては迷惑そのものだろう。

 

「はぁ、まあ構いませんが。」

 

(いいんだ!?)

 

あっさりとそう返すミラの言葉に驚愕する。

ミラは見たところ自分と同年代。

プライベートな空間が欲しいと思うのは当然のはず。

だがミラは、そんなものまるで気にしていない様子だった。

心が鋼で出来ているのだろうか。

 

「すまないミラ、助かる。」

 

何やかんやとトントン拍子で話が進んでいるが、こちらは常に置いてけぼりだ。

そんな様子を見かねてくれたのか、シャグランがこちらに歩み寄る。

 

「そうでした。自己紹介をまだしてもらっていませんでしたね。」

 

そう言えばそうだった!

名前も名乗らずにこの空間にはいられない。

襟を正して、髪型を整えて、背筋を伸ばす。

そして名乗る時はとびきりの笑顔で。

敬愛する母の教えだ。

 

 

「──フィリア・スノーフレークと言います!!17歳です!気軽にフィリアと呼んでいただければ!」

 

「おお〜可愛い名前。」

 

「スノーフレーク…確かスズランスイセンという花の名前でしたか?」

 

「そうです!花言葉は『純真無垢』なんですよ!素敵ですよね!」

 

シャグランの言葉に、フィリアは満面の笑みで応える。

変わった名だと言われたことも多い名前だが、フィリアは心底『スノーフレーク』の家名を気に入っている。

白い花が幻想的な実物も勿論好きだ。

だが何よりも、花言葉が好きだった。

『純粋』、『汚れなき心』、『美』。

自分にピッタリなんて思わないが、良い意味を持っていてくれる分には嬉しいものだ。

すると、自己紹介を終えたフィリアの元にミラが歩みを寄せてくる。

 

「よろしく。私はミラ・エンフォーサ。一応この部隊では古株だから、分からないことがあったら聞いて。」

 

「は……はい!」

 

近くで見ると、ミラはかなり整った顔立ちをしていた。

眼帯を付けているせいか、同年代のはずの彼女が大人びて見える。

そのせいだろうか。

彼女と話すのに、妙に緊張してしまうのは。

 

「じゃあ、まずは部屋まで案内するよ。付いてきて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……百合百合してきたか…?」

 

2人が退室した後、後方腕組み師匠面をするヴェナの背後に、巨影が立つ。

 

「…………お前はまるで反省していないみたいだな?」

 

「ピッッ!」

 

「来い、お前には話すことが多すぎる。」

 

「ピ〜〜〜ッッッッ!!!!」

 

小鳥のような鳴き声を上げて、ヴェナは逃走を図る。

その様、まさに脱兎の如し。

 

「させるか止まれ。」

 

だが無慈悲にパーカーのフードガッチリと鷲掴みにされ、彼女の足は強制的に止められる。

 

「グエ〜〜ッ!?」

 

抵抗虚しく、ヴェナは室外にズルズルと引き摺られて連れ去られる。

助け舟を出す者は、誰もいない。

もはや日常風景として、見向く者すらほぼいない。

というか皆が談笑している。

一番弟子のシーナすら目線を逸らしている。

これが最古参のメンバーの姿である。

嗚呼、無情也。

長であるシャグランだけが、苦笑いでそれを見守っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

重い荷物でも運ぶように連行されるヴェナと、真顔で彼女を引っ張るバリトンの向かい側から、見覚えのあるシルエットが近付いてくる。

後ろ結びにした灰髪と、女性と見違えそうになるほどの端正な顔立ち。

 

「モードレッド卿。」

 

声を掛けると、モードレッド──サンディレはただでさえ細い瞳を更に細めて口元に笑顔を浮かべる。

 

「ああ、バリトンさん。この間はどうも…………って…えっと…それは…?」

 

だが浮かべた笑顔も、一瞬で身を隠す。

こんな意味のわからない状況を初見で見れば、然もありなんだ。

 

「ウチの大馬鹿です。これから『お話』があるので。」

 

「あぁ……そういう…。」

 

「ディレっち〜助けて〜…。」

 

「行くぞ。」

 

「ぴえん…。」

 

有無を言わさずにヴェナを連行する様子を、サンディレは苦笑しながら見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

ヴェナのパーカーを掴んで引き摺るその最中、バリトンはとある既視感を心中に感じていた。

フィリアと名乗った新人の少女、その外見に。

──琥珀色の瞳と、左眼の泣き黒子。

 

半年前のオークション戦で会敵した2人の少女兵士。

ミューと、ラムダ。

全く同じ顔をしていた、あの少女たち。

それに類似した、フィリアの顔立ち。

 

「…いや、まさかな。」

 

何かしらの関係性があるのではないか、という嫌な疑念が頭を過る。

だが、年齢が合わない。

あの2人は以前15歳と言っていた。

しかし、フィリアの年齢は17歳。

偽装している可能性もなくはないが、現状では参考資料が少な過ぎる。

考え過ぎ、と今のところは結論を下したのだった。

だが、彼女の加入によって物語は大きく動き始める──。




ご一読いただきありがとうございます!!とりあえず第一話は出来ましたが、今後の展開はまだフワフワなので次回はだいぶ時間かかると思われます…!!
これからも色んな方のキャラ借りる予定です…!対戦よろしくお願いします!
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