Rebellion Against Fate   作:zawadinosaur

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お久しぶりです!!最近はワイルズに夢中で低浮上でしたが、何とか1ヶ月更新は守れました!
今回はバジルちゃんの戦闘回です!誕生してから一年音沙汰ありませんでしたが、今回は大暴れしてますよ!彼女の戦闘描写の参考にしていただければ幸いです…!


第十一話『獣たちの輪舞曲』

 

──廃墟の町外れ。

ミラの追手からまんまと逃げ果せたリリーは、横に侍らせた護衛の男とまるで散歩をするような軽い足取りで戦場の外縁を歩いていた。

だが、この道は長閑な散歩道とは決定的な違いがあった。

……断続的に響く地鳴りと破壊音。

戦争とはまた違う、極めて原始的な滅びの音色。

まるで神話の戦いを想起させるような譜面。

そんなリズムに耳を傾けながら、二人は丁度良さそうな広場に出る。

噴水も枯れ果て、人間すらいない空間だったが表社会に居場所のない彼女たちにはむしろ心地良いほどだった。

 

「…随分派手な戦いだこと。ラムダとミューたちは大丈夫かしらね?」

 

異音に耳を傾けながらリリーは、瓦礫の上に腰を掛け現在地の確認する。

手元の端末に表示されているのは、自身とラムダとミューの現在地。

自分から護衛の任務を引き受けたラムダの現在地は、先程まで自分がいた場所だというのは分かっている。

ただ、『その辺りをプラプラしてくる』と言い残してスキップで離れて行ったミューの所在地については判然としていない。

だが端末の反応によれば彼女に埋め込んでいる発信器の反応は街の中心付近だ。

ミューの居場所がそこなのは意外だったが、呼び戻せば特に問題のない距離だろう。

そもそもあの娘は並の兵士を圧倒出来る程度には強い。

道中、余程の妨害さえなければ5分もせずに合流出来ることだろう。

そんな風に楽観視していたリリーだったが、護衛の男の態度がその思考に対して不信感を植え付けていた。

 

「……どうかしたのかしら?」

 

彼は、ミューがいるはずの位置へじっと視線を向け続けていた。

リリーの問いに男は一切答えない。

だがその表情の険しさと剣の柄から手を離さないことが尋常ではない事態であることを物語っていた。

 

「………いるな。」

 

「何ですって?」

 

短く発したその言葉に、数秒の拍を置いて男は続く言葉を口にする。

 

「──怪物がいる。」

 

『怪物』。

それは恐らくトリスタンの足止めに用意した改造セイスモーのことを指している訳ではなさそうだ。

男が向いている場所も座標も異なっている。

つまり、アレ以上の化け物がこの戦場にいるということ。

『円卓』の関係者………それとも今回リバイバーを貸し与えていた組織の残党?

それとも、全く素性不明の第三勢力?

彼の反応からして、ラムダとミューがいる場所の付近にソレはいるのだろう。

 

「……仕方ないわね。」

 

……万が一の事態もある。

あの二人はまだ自分の計画に必要な戦力だ。

こんな所で失うわけにはいかない。

彼女は重い腰を上げて、彼の視線の先へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ミラとラムダが交戦を開始したのとほぼ同時のタイミング。

この朽ちて色褪せた煉瓦町の中で、全く別の闘争が行われていた。

あちらの戦いが理知と秩序、そして武のぶつかり合いだったのに対して、こちらはその真逆。

…即ち、野生と本能、そして暴力の衝突。

最早動物と何ら変わらない凶暴性を曝け出した潰し合いに他ならなかった。

 

 

 

 

「『ヘラクブレード』ッ!!!」

 

 

「『サタンストライク』ッ!!!」

 

 

障害物だらけの大地の上で暴れ狂うのは漆黒と群青。

振り下ろす必殺の拳を必滅の豪角が迎え撃ち、それに怯まず更なる一撃を互いに叩き込む。

一合一合打ち合う度に、爆風にも近しい衝撃波が吹き荒れ、脆い煉瓦造りの建物は粉々に崩れていく。

肉が裂け、骨が砕ける原始の世界の闘争にも見えるこの戦いだったが、何も暴力に身を委ねるのはリバイバーたちだけではない。

 

 

「中々やる…!!」

 

 

「ンハハ!!ハハハハハハァ!!」

 

 

衝撃と砂塵が舞い続ける戦場を、赤い影が颯爽と突き抜ける。

紅……ミューは掌がすっぽりと収まった袖を棚引かせながら、殺し合いの場にはあまりに不向きな高笑いを響めかせていた。

相手は長物持ち……いや、匂いからしてそれ以外にも無数の武具をマントの下に隠している。

どんな罠があるのか、どんな初見殺しがあるのかなんて量り知ることは不可能だ。

通常であれば慎重に一手ずつ詰めていくのがセオリーだろう。

だが、ミューはそんなもの心の底からどうだって良かった。

 

──今この瞬間を全身全霊で駆け抜ける。

敵を倒して捩じ伏せ、悔しさに歪んだ顔を目に焼き付ける。

それだけが、ミューにとっての生きた時間だ。

 

そんな狂気にも似た闘争心が彼女の小柄な身体を駆り立てていた。

 

「……無謀だね!」

 

右へ左へステップを切りながら撹乱を試みるミューに、バジルは何の躊躇いもなく手慣れた動きで日本刀を振り下ろす。

宛てがわれたのは、鎧を着込んだ騎士でも簡単に両断する切れ味の一撃。

少女の頭部くらいバターのように分割してやれる。

ましてや向かってくる敵影に武装らしき武装は見当たらない。

痛みを感じる暇もなく少女は即死するはずだった。

だが、

 

 

ギィンッ!

 

 

甲高い金属音と火花と共に、バジルの刀身がピタリと静止した。

 

 

「ッ!?」

 

 

必殺の斬撃が止まったのは、ミューの隠れた袖の部分。

そこに対していくら力を込めても刀身が前に進まない。

それどころかギリギリとこちらの刀身が徐々に欠けている。

まず間違いなく何かが仕込まれているだろう手応えに必然バジルの警戒度が上昇する。

 

「…『禽獣、一式』。」

 

「おっとぉ!?」

 

繰り出されるは、目にも留まらぬ速度の急所だけを狙った斬撃。

合谷、内尺沢に、肘詰。

急所どころか腕すら切り落とす勢いで放たれたこの業であっても、それでもやはり鳴るのは肉の裂ける音ではなく金属音だ。

本命は切り落とせなかったものの、はらりと山吹色のパーカーの裾は切り裂かれて宙を舞う。

そうして顕にになったのは…

 

「…っガントレットか!」

 

無数の刺々しい突起に覆われた手甲の姿だった。

バジルの斬撃でも傷一つ付かない点から察するに、アレは恐らく合金などが配合された特別製の防具。

打ち合えば刃毀れをするこちらが不利になる。

僅かに気が乱れたのを察知したのか。

ミューは歯を剥き出しにしながら右のガントレットを左肘付近まで引くと、

 

「フハァ!!」

 

顔から上を消し飛ばす勢いで振り抜いた。

だが左頬目掛けて放たれた横薙ぎを難なく躱すと、バジルは刀を持ち替え、鯉口をチャキリと鳴らす。

狙うは胴体。

例え他にも防具があったとしてもそんなものは関係ない。

横一閃に開腹させてやろうと視線を尖らせるが、

 

「ッ!」

 

その僅かなモーションだけで危機を感じたのか、狂喜の笑みを貼り付けていたミューは表情を落ち着かせヘラクレーターの元へと飛び退く。

野生の勘にしても、戦術的に間違ってはいない判断。

長物を持つ相手である以上、遠のいた距離から攻撃は出来ない。

 

──そう、本来なら。

 

「んぁ!!?」

 

しかしミューが後退した直後、眉間がじわじわとむず痒くなる感覚。

それが血流のように全身へ広がっていく。

戦闘中に働くミューの野生の勘が最大限の警鐘を鳴らしている時の感覚だ。

ヤバい、逃げろと本能が鐘を突いている。

警告の対象は、目と鼻の先。

眼前に迫っていた危険物を、ほぼ勘でガントレットを使い殴り弾き返す。

目視はできなかったが、手応えはあった。

カランカランと甲高い耳障りな音とともに地面の上に転がったのは…

 

「…………針?」

 

よく目を凝らせば、自分が今弾き返したものは手のひらよりも大きな暗器だった。

それも小さな含み針とは違って殺意に溢れている。

あんなものが刺されば腕くらいなら平気で貫通する。

しかもオマケのようにツンと鼻を刺す匂いからして、間違いなく毒が塗りたくられている。

それも喰らえばタダでは済まないタイプの。

ヒュウ、と口笛を鳴らして危機を回避出来たことに束の間の安堵を得るが…

 

「……やべっ。」

 

だが、ほんの一瞬でも視線を離したのが良くなかった。

間髪入れずにバジルがこちらへ真っ直ぐ突撃してくる。

その手に握られているのは、お手頃サイズの鉄パイプ。

その辺りで拾ったであろう刺々しい突起を確認すると、ミューは迷わず迎撃すべく飛び出した。

所詮鉄の棒程度では大したダメージを受けることなんてほぼない。

というか、ガントレットと鉄棒を硬さ比べしたら前者が勝つに決まっている。

その棒切れを叩き折って顔面に数発拳を叩き込めるとタカを括っていた。

しかし、その予想は意外な形で覆される。

ジャコン、という機械的な音と共に鉄パイプは瞬時に槍へと変形した。

 

「ぃッ!?」

 

咄嗟に膝を折り曲げてスライディングの要領で足元へ滑り込み、緊急脱出を試みる。

直後ズドン、という鈍い音と共に背後の廃屋がガラガラと崩れ落ちる。

もしも今反射的に避けなければ、今頃ミューは脳漿をぶちまけた汚い串団子になっていたことだろう。

確か、あの武器はスペタムとかいう大昔に使われていた槍の一種。

時代遅れもいいところな武装だが、使い手が怪物であればこうも化けるものだ。

 

「………これも避けるか。」

 

「ハハァッ!!」

 

座ったままの姿勢から即座に繰り出した足払いを軽々と避けると、バジルはヘルサタンの掌の上に着地する。

軽いアクションでとんでもない跳躍力だが、それでこそ打ち倒すに値する強敵だ。

 

「…来い、ヘラクレーター。」

 

高い所からミューを品定めするように見下ろしているバジルは、懐から新たなリバイバーを呼び出す。

 

「BRUAAAっ!!!」

 

召喚されたのは、奇しくもミューの相棒と同族であるヘラクレーター。

ただ流石に改造は施されていないようで、ツノの形は通常通りだ。

だがその代わりに全身に無数の古傷が刻まれており、それだけでもあの個体が歴戦の猛者であることを物語っていた。

 

「おっ!そっちもヘラクレーター持ってんだ!

いいじゃんいいじゃん!!パワー勝負しようぜ!!」

 

 

「やれ、ヘルサタン。」

 

バジルはミューの誘いを完全にスルーすると、手甲のようなヘルサタンの手のひらから地面へと着地する。

それと同時に、ヘルサタンは新たに呼び出されたヘラクレーターを軽々持ち上げると、その角を地面へと向けた。

 

「…?」

 

何をするつもりなのかとミューが首を傾げていると、

 

「GWOOOOッ!!!」

 

ヘルサタンが咆哮を上げると同時に、ヘラクレーターが地面へと叩き付けられた。

 

「はぁッ!?」

 

意味の分からない一連の動きに、思わず喉の奥から声が漏れる。

てっきり自慢の角を武器の様に振り回すのかと予想していた分、期待を裏切られた落差は物凄かった。

闘剣のような様相で地面へ垂直に突き立てられたままのヘラクレーターは、呻き声すら上げていない。

あまりにシュールな光景にコントか、とミューが失望と共に警戒を解こうとしたその瞬間だった。

 

「──囲え、『ヘラクビーム』。」

 

「BRUAAA!!!!」

 

バジルが命令を下したのと同時に、大地が微かに青白く光った。

そして光が増すほど地鳴りは巨大化していく。

 

「……おいまさか。」

 

ミューがバジルの狙いに気が付いたその瞬間、

 

 

 

ズオッ

 

 

 

ミューとバジルたちを囲うように青白い壁が地面から噴き出した。

その直径は、目測で10メートル以上。

その高さもまた同じく10メートルを超える。

さらに加えて、この光の壁は恐らくヘラクビームで構成されている。

触るだけで大ダメージは間違いないだろう。

さしずめ、逃げ場のないリングそのものだ。

 

「レーザーを細かく枝分かれさせた上に曲げて壁にした……?ハハッ、ヘラクビームってこんなことも出来んだなぁ!!」

 

長年ヘラクレーターと連れ添ってきたが、パワー勝負のみのミューでは思い至らなかった発想だ。

 

 

「混食拘束術式3番…解放!!!」

 

「…っ!!!」

 

感心するのはまだ早い。

その短い単語と共に、バジルの纏う圧が桁違いに上がる。

そしてまるで呼応するかのようにヘルサタンの周囲をドス黒いモヤのようなものが覆い始める。

まさしくサタン、といった風体だがやること自体は変わらない。

 

「『サタンストライク』。」

 

「ハハァ!またやるかぁ!!」

 

バジルの指令は数分前と同じく『サタンストライク』。

であればこちらも同じように出るだけのこと。

 

「『ヘラクブレード』ォ!!」

 

雄牛のように突撃する青の鎧が振り下ろされる漆黒の棘を迎え撃った。

先の一撃と同じように、ヘラクレーターの刀剣とヘルサタンの拳が真正面から衝突する。

以前と同様に互いの威力が拮抗して相殺し合うはずだったが…

 

 

「BRUA…ッ!?」

 

「あぁ!?」

 

ヘラクレーターがガクンと膝をついた。

間髪入れずに放たれたアッパーカットでヘラクレーターは光の壁の間際まで弾き飛ばされた。

 

「ヘラクレーター!?」

 

「よそ見かなっ!!」

 

吹き飛んだヘラクレーターに視線を向ける暇はない。

ジャラリ、と物々しい鎖とその先端に取り付けられた鎌が風切音と共に高速回転している。

ボン、という爆発音にも似た音と共に命を刈り取る鎖鎌が放たれた。

 

「ッッッッ!!!!!」

 

視認するのも難しい刃は、何度も何度も勢いを一ミリも殺さずに狭い光の壁を駆け回る。

ミューの赤い毛先を、お気に入りのパーカーの端を、頰を、右腿を掠め続ける。

一瞬でも気を抜けば、そのまま身体のどこかが斬り飛ばされる。

バジルの攻撃は認識するのも難しいほど速い上に、受け止めるのも受けるのも不可能なほどに重い。

まるで暴風雨のような女だが、その攻撃の軌道自体は直線的で単調。

ミューの動体視力であればギリッギリで回避可能だ。

とはいえ、手傷は追い続けてしまうが。

 

(……いきなり力負けした?さっきまで互角だったのにか?)

 

タイムリミットは一分もない。

その間の思考は回避を鈍らせる要素でしかないが、今はこの謎を解かなければ勝ち目すらない。

強烈な違和感を感じながら、ミューはバジルの斬撃を紙一重で躱し続ける。

 

(ヘルサタンの特性………。オビラプの強み…。

 

…………………………まさか、KP吸収か?)

 

いや、それだけでヘラクレーターが力負けしたとは考えにくい。

もっと別に…何かを奪われたと考えれば…。

ふと視線にヘラクレーターを向けると、まるで生気を抜かれたかのようにぐったりとしたままだ。

いつもの雄々しい姿はどこにもない。

弱り切った子鹿のようにガクガクと足を揺らしている。

 

「…………あ"ぁ"、そーゆーことね。」

 

丁度攻撃の軌道も見切れてきた頃合いだ。

最も可能性の高い考察に思い至ったミューは、短くため息を吐くと目の前に迫った鎖鎌を軽く避け、威力の根源であった鎖を掴み思い切り引っ張った。

力の流れを乱された鎌はあらぬ方向に飛んで行き、鎖と絡み合ってあっという間に団子状態に絡まっていく。

鎖鎌を無効化したミューはヘラクレーターの元まで飛び退いた。

地に伏せたままの相棒だったが、その小さな瞳にはまだ強い闘志が燃えている。

 

「そのヘルサタンの能力!!」

 

「…ん?」

 

ビシリとバジルに指を差し、ミューは名探偵さながらの気分でバジルの秘密を言い当てる。

 

「──KPとLPの吸収能力の大幅強化…違うか?」

 

その指摘に、バジルの整った眉がピクリと動いた。

どうやら推測が当たっていたことを確信すると、ミューは今後の方針を変更する。

先の吸収能力は恐らく対象と接触することで発揮されるものだ。

であれば、実につまらないが遠巻きに射撃を続けることが最も有効な一手となるだろう。

全くミューの主義にも趣味にも合致しないが、ここで無惨な斬死体になるよりはマシだ。

 

「………何を言い出すかと思えば…。そんな隠してもないこと言い当てられても困るよ。」

 

やれやれ、と肩を竦めるバジルはどこまでも余裕綽々のご様子だ。

 

「ハッ!じゃあ遠慮なくキッツイのお見舞いしてやらぁ!!」

 

その声に呼応して、たった今まだ伏せていたヘラクレーターが勢いよく起き上がり、角の先端を淡く光らせた。

最大出力での『ヘラクビーム』の連打。

それで倒せはせずとも、せめてあの薄気味悪い羽衣くらいは粉砕してやる。

 

 

「──遠距離攻撃だけしてれば勝てる…なんて考えてるのかな?」

 

だが、破滅の光を前にしてもバジルはまるで動じない。

それどころかこちらの魂胆を的確に言い当てる始末だ。

かと言って、狙いを当てられたところで痛くも痒くもないのも事実だ。

実際問題搦手や遠距離攻撃技を有していないヘルサタンでは、射程外から着実に詰めてくる相手は不得手。

 

 

「──混食拘束術式2番、解放。」

 

 

………………通常個体の範疇であれば。

 

短く呟かれたバジルの言葉と共に、ヘルサタンの身体が大きく痙攣した。

それと時を同じくして、ヘルサタンを覆っていた靄がよりドス黒く濁る。

次は何が来るのか、と身構えていたミューだったが差し出された答えは予想の遥か上を行っていた。

 

「──『王者のほうこう』。」

 

「はぁ!!?」

 

そのワザは、恐竜の王とも名高いティラノの有する全体攻撃。

スーパーリバイブ後の姿こそ酷似していれど、元がオビラプのヘルサタンには使用できるはずもないワザ。

ブラフに過ぎないと無視しようとする理性を、野生の本能が引き摺り下ろす。

この迸る嫌な予感は必ず実現する、と。

 

「ヘラクレーター下がれ!!!」

 

そして、その予感は的中した。

 

 

 

 

 

 

「GOAAAAッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

衝撃波すら感じるほどの大咆哮。

声でガラスが割れるのは見たことあるが、声だけで石材が砕けリバイバーにまで大ダメージを与える規格外の音波攻撃だ。

脆い人間の身体であるミューはこの場にいるだけで肉がひしゃげて中身が飛び出すことだろう。

かと言って、光の壁のせいで後退すら出来ない。

後退すれば黒焦げになり、前進すれば汚いミンチにされてしまう。

万事休す、といった状況にミューは周囲をぐるりと見渡す。

そして…

 

「………ハハァ、こんなとこにヒントあるじゃんかよ。」

 

いつだって、どんな状況だって打開のヒントはそこら中に転がっているものだ。

迫る砂の津波を前に、ミューはにやりと口元を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──数十秒後。

砂塵嵐が吹き荒れる壁の中をバジルは探索していた。

あの一撃を放ち、仕留めたはずの獲物の肉を探しての行動だった。

退路を完全に塞ぎ、リバイバーですら防ぎきれない音波攻撃を行ったのだ。

いくら腕の立つ達人であっても中身が壊れれば脆いもの。

内部が壊れた食材はあまり好みではないが、味見くらいはする価値のある敵だった。

名前すら知らない少女の遺体を探して持ち帰るくらいの敬意は持っても良いと、バジルは思っていた。

 

「……いない?」

 

だが、探せど探せど目標は見つからない。

それどころか、血の匂いすらしていない。

不可解な現状に首を傾げるバジルだったが、その答えは目の前に広がっていた。

 

「…っ!?」

 

黄金色の瞳に映ったのは、風穴が開けられたヘラクビームの壁。

別に脱出されること自体に驚きはしない。

そうなれば、リバイバーは逃れられてもその主人は生きていられない。

本来であれば、こんがりと焼けた肉の塊と化しているはずの少女だったが…

 

 

「ハハハハハハァッッ!!これだから殺し合いってのは飽きねえよなぁ!!」

 

 

光の壁を潜り抜けた先には、五体満足かつかすり傷一つない少女がヘラクレーターの背に跨っていた。

 

(……どうやって脱出した?そんな優しい出力にはしなかったはずだけど。)

 

訝しむバジルの顔を見て内心を察知したのか、ミューはヘラクレーターの背から降りると元々貼り付けていた笑顔をさらに凶悪に歪めた。

 

「ハハァ、ご丁寧にヒントくれたからなぁ。」

 

 

「…ヒント?」

 

そんなものを与えた覚えはないと結論付けようとしたバジルの視界に、とある違和感が映り込んだ。

──ヘラクレーターの対象に青白い残光が残されている。

まるで、さっきまで何かを身体に纏っていたかのように。

 

「……ああ…そういうことか。」

 

つまり、タネはこうだ。

この主従は()()()()()()()()()()()()ことで光の壁を突破したのだ。

同じリバイバーが使う同じ技である以上、ぶつけ合えば相殺する。

つまり敵は、たった一度見ただけでバジルの使用した湾曲するヘラクビーム、そのやり方を習得したということになる。

驚嘆すべきセンスと洞察力だ。

野生の勘としか形容出来ないソレに、興味を抱きながらもバジルは即座に次の一手に入っていた。

 

 

「面白い。じゃあ、次はこれだね。」

 

術式の効果は継続させたまま、ヘルサタンの口元には薄緑の光が集まっていく。

装填するカートリッジを選ぶように、バジルは次に放つ技を決めた。

 

 

「火力勝負と行こうか。」

 

真っ向から全力の一撃を叩き込む。

この光景にミューもまた、狂喜を顔に貼り付け瞳を紅く染める。

パワープレイをこよなく愛する彼女にとってバジルの誘いは願ってもないものだった。

 

「──shall we dance?」

 

「勿論。」

 

それこそ、王子が手を引くダンスの誘いのようだ。

合いの手に合わせてヘラクレーターの豪角の先とヘルサタンの口腔内に光が溜まってゆく。

 

「混食拘束術式、二番解放……!!」

 

 

「シンクロレベル4…!!」

 

 

ヘルサタンの纏う瘴気がより一層濃く濁る。

ミューの瞳が紅く染まり、ヘラクレーターの全身をプラズマが迸る。

それぞれが待つ有力な強化形態に変じたことで、大気が恐怖するように震え始めた。

そして互いに最大最高の火力を相手に向けて、

 

 

 

「『ヘラクビーム』ッッ!!」

 

 

「『トツゲキビーム』ッッ!!」

 

 

同時に撃ち放った。

高密度のエネルギー同士の衝突は、既に死に体だったこの地を更に蹂躙し侵し尽くしてゆく。

地が捲れる、空が揺れる。

互いに相殺し切れなかった余波がまるで水飛沫のように飛び散り、その場で弾けた。

だが『終わり』という表現が最もマッチする光景は、二人の少女の眼中にも入っていない。

 

「ハハッ…次は…!」

 

一息つかせる余裕すら与えず、バジルは即座に次の一撃の準備へと入る。

同系統の一撃は防げても、『面』を叩く攻撃であればどう防いでくるか。

好奇心に突き動かされるように新たな技へと発現させた。

だが、

 

「オラァッッ!!」

 

「っ!」

 

瞬間、真横から叩き込まれた鋭い衝撃にバジルの身体は吹き飛ばされた。

とはいえ、即座に刀身を地面に突き刺し減速させたおかげもあってさほどのダメージでもないがこの不意打ちには少し驚いた。

即座に傷口を確認すると、脇腹に小さな穴が複数開いて服の上からでも分かる程度には血が滲んでいた。

恐らく、あの刺々しいガントレットで殴られたのだろう。

だがこの程度の出血は何の問題もない。

バジルは脇腹に軽く力を込めると、流血は一瞬で停止した。

 

「あんなに乗り気だったのに釣れないね。」

 

「一回だけに決まってんだろバ〜カッ!!」

 

あれだけ正面からの撃ち合いを熱望していたのに、一回やればもう飽きたというのだろうか。

……いや、趣味だけに走っては勝てないと判断したのだろうか。

勝ち目の薄い相手であっても諦めず、逃げ出さず、弱気一つ見せずに勝ち筋を探し続ける。

まさにバジルが理想とする戦士の姿。

初めはただの食材程度と思っていたが、それは思い違いだったようだ。

目の前の少女は言動こそ狂戦士のようだが、その実態は強さと勝利を貪欲に求め、手繰り寄せる一角の戦士。

その性質にだけは、敬意を表そう。

 

「ハハァ、良〜い貌するようになったなァ。」

 

その指摘の意味が一瞬分からなかったが、その琥珀の視線はバジルの表情に向いている。

何かおかしな点でもあったのかと、ぺたりと自分の頬に手を添える。

 

「………あれ、私もしかして笑ってる?」

 

手に伝わってきた感覚は、バジルが()()()()()()()()()()()()()

普段の狩りでは、バジルは鉄仮面の表情を貼り付けたまま淡々と獲物を裂いて回っていた。

そこに特に感情が入り込む余地はないし、あったとしてもより良い食材を集めて仲間たちに提供することくらいだ。

だが今はどうだ。

目の前の少女とのこの瞬間が楽しくて仕方がない。

こちらの一手にどう対応して防ぐのか、隔絶している実力差を如何にして埋めてくるのか。

刹那刹那が楽しみの連続だった。

一方的優位からの『狩り』では決して味わえぬ痛みと高揚、充足感。

言動に不快感は感じながらも、バジルは敵対する彼女へ負の感情は向けられなかった。

むしろ…

 

「…フッ…!フフフ……ハハハハ。」

 

「あ?何笑ってんだ脳まで振動響いたか?」

 

場違いにも程があるバジルの笑みにミューは眉を顰めながらも身構える。

先程までの打ち合いで、ミューは目の前の少女は人の姿をしているだけの怪物だと確信していた。

ほんの一瞬でも気を抜けば首と身体が泣き別れするほどの大物狩り。

故にこそ、ヘラクレーターを隣に侍らせたまま琥珀色の瞳で次の一手を注意深く伺っていた。

だが、バジルの笑いの後に出た言葉は意外なものだった。

 

「──誇っていいよ。」

 

バジルがミューへ向けている感情は、敬意と感謝だった。

純粋な強敵への畏敬と、楽しみを提供してくれたことへの謝礼。

しかしそんな心中はミューには2割も伝わっていない。

 

「…あ?」

 

なんの混じり気もない賞賛の言葉。

晴れやかな笑顔と共に放たれた一言はまるで戦いが終わったかのように爽やかで純粋で、毒気が抜かれてしまう。

 

「私に()()を出させた相手は、本当に久しぶりだ。」

 

ピン、と張り詰めた空気の中生唾を飲み込むミューの前でバジルは刀身をくるりと回転させ、まるで『舞』のような足取りを取り始めた。

 

 

 

  喰らうは森羅、呑むは万象、滴る血潮は我らが首級

 

  ■■■の名より告げる。

 

  我が裡に渦巻く無窮の罪業、無極の混沌

 

  饕餮、檮杌、渾敦、窮奇、飢える獣の肖像よ

 

  凡て総べて、昏き暴牙となり果てろ  

 

 

 

──何も、感じない。

先程までは恐怖も脅威も何もかもを本能が感知して逃げるべきだと判断出来た。

でも今目の前で起きているモノには何も感じない。

ただただ、一種の美しさすら感じていた。

美しい少女が、刀を踊らせ優雅に舞う。

何かの儀式にも見えてしまうその光景には、警戒なんてしようもない。

 

オーケストラを聴いて、会場で叫ぶ人間がいるだろうか?

美麗なピアノの伴奏を聴いて、下手くそなハーモニカを吹き鳴らすだろうか?

美しい祝詞と舞を見て、邪魔する無粋がどこにあろうか。

 

 

「──混食拘束術式、壱番解放。」

 

 

 

「GYAGAAAAッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バジルの瞳が変色すると同時に、ヘルサタンが悲鳴のような雄叫びを上げた。

そしてその開いた口に、小さな小さな光の玉が形成される。

初めはビー玉程度の大きさだったソレは、瞬きのたびに一回り二回りと渦を巻きながら質量を増していく。

やがてバスケットボールほどの大きさまで成長した光弾は、ぴたりと静止した。

 

「『しょうめつストーム』+『サイクロン』+『さくれつブレス』+『ブラックスパーク』」

 

「は!?おい待て待て待て!!?」

 

ミューはバジルの口から発された単語に目を見開き、反射的に距離を取った。

彼女はつい数分前にも本来使用出来ないはずのティラノのワザを使用した。

であれば、恐らくあの『術式』という謎の単語がそれを可能にしているはずだ。

そう仮定するのならば、これから起こることは…。

 

「じゃあね。可食部位が残ってたら回収してあげる。」

 

──甚大で、無造作で、容赦のない破壊に他ならない。

 

「『蝕始の一雫』(ファーストカラミティ)

 

バジルが手を掲げた瞬間に、光弾は再び激しく蠢動し、膨れ上がり、鼓膜が破れるほどの轟音を響かせた。

 

「クッソ!!ヘラクレーターッッ!!!」

 

死に物狂いで相棒へ呼び掛けるが、既に何もかもが遅かった。

ヘルサタンの頭部から弾けた閃光が、破壊が、終わりが、この場の全てを一瞬で呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──数秒後。

網膜を焼き尽くす程の光量が引いた頃には、空には巨大なキノコ雲が舞い上がり、周囲は巻き上げられた砂塵によって視界を真っ黄色に染めていた。

 

「………〜ふぅ…!」

 

爆心地に立っていたバジルは大きく息を吐き出すと、発現していた『混食拘束術式』を解除する。

術式の解除に伴って、背後に聳えていた黒い巨影は掌サイズのメダルへと姿を変えた。

バジルの能力は強力無比の決戦兵器だが、如何せん負担が大きい。

全力全開で発動させればバジルにもヘルサタンにも相応に負担がのし掛かる。

本当であればこんな所で使う必要がないレベルの大技だったが、これはあの命知らずの少女への最大限の返礼だ。

久方ぶりに『狩り』ではなく純粋な『闘争』を提供してくれたことへの感謝に他ならなかった。

 

「……しまったな。混ぜ過ぎた。」

 

だが、バジルの表情は見晴らしの良くなった風景とは異なり決して明るいものではなかった。

その原因は、目の前の景色にある。

──砂煙の先に広がっていたのは、まるで滅亡した都市のような有様。

元々半壊していたこの場所は完全に砂同然にまで分解されてしまい、挙げ句の果ては辺り一面全てが衝撃波で瓦礫の山になっていた。

さらに『蝕始の一雫』を放った先の地面が大きく抉れて、捲れ上がって、数100メートル先まで破壊の痕跡を残している。

相変わらず、この技は威力の調節がまったく利かない。

おかげで、良い食材を跡形もなく消し炭にしてしまった。

それに、今の一撃で流石に『円卓』にも察知されてしまったことだろう。

混乱に乗じて奇襲をする予定だったが、それももう難しい。

何より、興が乗ったせいで力を使い過ぎた。

ここからCNを持つ騎士と交戦するのはリスクが高い。

 

「…まあ、仕方ないか。今日のところは帰ろっと。」

 

若干反省しながらも、バジルは大人しく撤退を決める。

だがその時だった。

 

「………ん?」

 

微かに感じた何かの気配。

揺らめく土煙の風向きがほんの少し変わった。

そよ風にも満たないほどの変化だったが、その違和感はバジルの獣の勘を強烈に刺激している。

……何かが、来ていると。

そして刹那の後に、その曖昧な予感は現実のものとなった。

 

 

「ッ!」

 

砂の薄幕を裂いて現れたのは、2振りの日本刀。

自分のものよりも少し古い型のそれを、バジルは咄嗟に刀身で受け止める。

敵影は視界が悪く全く見えないが、問題ない。

周囲全てを消し飛ばせばそれで済む話。

バジルは押し付けられた刃を弾き返し、くるりと手のひらで柄を持ち替える。

そしてそのまま、垂直に刀を振り下ろした。

 

「──『雷獣・二式』。」

 

 

カンッ

 

 

鋒が地面に触れた瞬間、バジルの周囲数メートルが大きく陥没した。

雷が落ちたと錯覚するほどの衝撃と地響き。

『雷獣・二式』は刀身を振り下ろした爆風と衝撃波で周囲の全てが吹き飛ばす範囲攻撃。

至近距離でこれを浴びれば、どんな達人であってもタダでは済まない。

爆風で砂煙も一気にクリアになった。

先の一撃で立ち込めた砂塵は消えてなくなっていく。

だが、バジルは直後に異常に気が付いた。

──()()()()()()()()()()()()()

足元こそ凹み、ひび割れている。

だが、大きめの石や瓦礫には何の変化も起きてはいない。

それどころか、

 

「ッ!!?」

 

突如バジルの手甲に、ビシリと巨大なヒビが入った。

あり得ない事態にバジルは思わず数メートル後方まで飛び退く。

 

(何が起きた……いつ斬られた?いやそもそも、どうやって私に気付かれず…?)

 

幸い、防具の内側には傷一つない。

他の箇所にも何の欠損もない。

敵とて、繰り出された一撃を反射的にカウンターを入れた程度なのだろう。

所詮は猫騙し。

牽制程度の児戯に過ぎない。

だがそれでも、バジルの警戒心は過去類を見ないほどの引き上げられていた。

薄く煙る視界が晴れるまでの数瞬ですら永遠に感じるほどの集中力の中、視界の先に佇んでいて敵影は…

 

 

「──私の『娘』がお世話になったようね。」

 

「近寄りすぎるな。喰われるぞ。」

 

毒々しい蜘蛛の面の女と、正装を着込んだ剣士。

予想より少し違った来客たちに僅かな驚きを胸に感じつつも、バジルはスンスン、と鼻を鳴らし両者の情報を脳へと取り入れる。

──片や、身体の半分近くが食えもしない人工物で支えられた唾棄すべき非食物。

先程の一撃を防ぎ切ったのはこっちではないだろう。

──では、もう片方は…

 

 

「────っ!!」

 

瞬間、バジルの表情が歓喜に染まる。

 

 

 

──金剛石のように研ぎ澄まされた肉体美。

──初見であったはずの『雷獣・二式』を防ぎ切り、さらにはカウンターまで合わせるほどの腕前。

──一部の隙も見出せないほどに完成された『武人』としての立ち姿。

 

間違いなく、今まで遭遇してきた食材の中で最強の一角に入るであろう圧倒的な『暴』と『武』。

近付くだけでも小間切れにされそうなほどの鬼気。

達人と形容するのも生ぬるいほどの威圧感を前に、バジルは彼の姿に夢中になっていた。

これ程の怪物の肉は、一体どんな味がするのだろうか。

期待と享楽と戦闘本能が入り混じったバジルの熱視線に、目の前の剣士は腰に佩いた刀をするりと鞘から抜いた。

 

「──ジェイド・スメラギだ。手合わせ願おうか。」

 

 

「──バジル・アンファン。貴方の肉にはとても興味があるな。」

 

獣のように低い姿勢で構えるバジルを、迎え撃つジェイドは二刀を正面に並行して構える。

 

怪物退治の絵巻のような光景だったが、その終わりはあまりにも呆気なかった。

 

ピピピピピピピリピリ

 

控えめだがよく響く電子音がこの場の張り詰めた空気を打ち破った。

その発信源は、バジルの腰部分から。

 

「………出ても?」

 

「ああ。」

 

目の前の剣士に促されるまま、バジルは通信機の回線を開いた。

 

 

「はい、こちら『アペタイザー』。」

 

「──あ、あ〜、やっと繋がった!

バジル様ちわっす!突然なんすけど今大丈夫すか?」

 

ガガガ、と数度のノイズを繰り返した後快活な青年の声が耳元にお届けされた。

──声の主は『無花果の会・密猟部隊』に所属しているツグミのものだった。

意外な通信相手にバジルは面喰らいながらも冷静に返事を返した。

 

「…ツグミ君?何かあった?緊急事態?」

 

彼とは年代の近さもあって多少の交友はあった。

特にお互い刃物をメインウェポンとする者同士、色々と切断談義に興じることもしばしばだった。

だが、そんな彼から個別の連絡が来たのは初めてのことだった。

それ故に、まずは何か不測の事態…或いは暴力装置である自分が向かわなければならない事態が発生したのではないかと勘繰ってしまう。

 

「いや、大した用じゃないんすけどね?というかただの報告と言いますか…。」

 

「うん。」

 

「さっきウルウコ様とちょ〜っとお話しさせていただいたんっすよ。その時に『ユターの時も楽しかったから、次はジャンゴ食べてみたいなぁ』って言ってたんすよ。

もしかしたら近いうちにまたフルコースの皆さんでお食事会があるかもと思って連絡をさせていただいた次第っす!バジル様いっつも最高に張り切ってますから!」

 

ツグミから告げられた内容を脳が理解するよりも早く、バジルは構えていた武器を収納し、目を輝かせた。

 

「ポワ姉さんが!?今直ぐ戻ります、ありがとうツグミ君!!」

 

バジルが『姉』と慕うフルコース・魚料理(ポワソン)のウルウコ。

彼女の望みとあらば、自分が今行なっていることなど栓なきこと。

神託と同義に近い。

だがその前に確認すべきことが一つあった。

バジルは両手をマントにすっぽりと隠したまま、首だけを彼らに向けてひとつ問いかけた。

 

「……この中にジャンゴを持ってる方、います?」

 

敵方からすれば意味の分からない質問に、仮面の女と剣士は首を横に振った。

 

「いいえ?」

 

「ないな。」

 

「そうですか…。」

 

落胆の表情を浮かべながらも、バジルは近場の廃屋の屋上まで跳ねる。

今最優先にすべきことは既に定まって動くことはない。

そしてそれを果たすにあたってもはや関係なくなった彼らとこれ以上削り合うのは時間の無駄だ。

 

「では、私はこれで。」

 

次から次へと廃屋へと飛び移り、バジルの姿はあっという間に見えなくなった。

 

 

 

 

完全に置いてきぼりのリリーたちは、数十秒後にようやく口を開く。

 

 

「……………一難去って、って感じねぇ。」

 

「そうだな。」

 

アレの正体が何だったのかは不明のままだ。

だが、あのまま交戦していれば無事で済むことはなかっただろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()、あの手の手合とは関わらないに限る。

というより、勝ちの目も薄かったように感じる。

 

「…あ、忘れてたわね。」

 

思考の方に気を取られてもう一人の小さな戦闘員のことを失念するところだった。

 

「ミュー、出て来なさい。」

 

「は〜い、ママ。」

 

軽快な返事と共に、ドゴン、と鈍い音と共に一際大きな瓦礫が吹き飛ぶ。

積み木のように積み上がった石の山を蹴り開けて、砂まみれのミューが咳混じりに這い出してきた。

 

「よく分かったねママ!本気で隠れてたのに!」

 

「位置情報と生体反応で丸わかりよ。それにしてもよく無事だったわね、貴女。」

 

「いやぁ〜マジでやばかったよ!!咄嗟にヘラクレーターを肉壁にしなかったら消し飛んでたかも!」

 

バジルの放った『蝕始の一雫』。

アレは本来避けられるものではなかった。

というか実際、ミューたちは咄嗟に横に飛んだものの、あの一撃を避け切れてなどいない。

光が炸裂したあの瞬間、ミューはヘラクビームを円形に纏わせることで障壁を張り、尚且つ自身もヘラクレーターに抱きしめられるような形で彼の腹に飛びついた。

それでも威力を殺し切る事など到底できず、ヘラクレーターはメダルの姿に戻されてしまった。

だが運良く瓦礫が大量に積もっていたおかげでなんとかあの怪物からやり過ごし事が出来たのだった。

まるで全力で遊んで帰ってきた愛犬のような様子の『娘』の頭をリリーは軽く撫でる。

 

「随分派手に楽しんだのね。ところでアレ、何者?」

 

「わっかんない!でもバケモン強かったなぁ〜、あいつ。ヘラクレーターもやられちゃったし。」

 

「あらあら。それじゃあしっかり回復させてあげないとね。」

 

「うん!」

 

仲睦まじくもどこか歪な親子の団欒の時間。

だが、次の瞬間にはそれを引き裂くような甲高い声が響いた。

 

「──お母様ッ!!」

 

視線を後ろに向けると、短い金色の髪を揺らしたラムダが廃屋の上から着地していた。

肩で息をしている彼女は逸る足取りでリリーに駆け寄る。

余程焦っているのか、普段はきちんと着こなしているミリタリーコートがシワだらけになってしまっていた。

 

「ご無事でしたか!?」

 

「あらラムダ。おかえりなさい、首尾はどうだったの?」

 

リリーの問いに、ラムダは軽く一息付き加速していた呼吸を落ち着かせるといつものように理路整然とした口調と表情で報告を開始する。

 

「……ミラ・エンフォーサの足止めには成功しました。ただ、謎の衝撃波やトリスタンの妨害もあり仕留めることは叶いませんでした。

……………申し訳、ありません。」

 

「いいえ?たった一人でよくやってくれたわ。やっぱり頼れるのはラムダね。」

 

「…っ…はい。」

 

リリーのその言葉に、ラムダは俯く。

理由はシンプルだ。

『母』に、存在を肯定してもらえた事がたまらなく嬉しかったから。

緩んでしまった口元を見られたくなかったからに他ならない。

例え()()()()()()()()()()だったとしても、()()と比べて『母』が認めてくれる点が一つでもあれば、ラムダは何だってする。

 

「ハハァ、ラムダズタボロじゃんかダッセェ!」

 

「…チッ。アンタは遊んでただけでしょこの役立たず。」

 

「ハハァ、火の玉ストレート。」

 

「…あ?」

 

「ハァ?」

 

気持ちよく自己肯定感を高めていたところに口を挟むバカな妹の声にラムダは容赦なく毒を吐く。

そんな罵声をまるで意に介していない様子のミューにイラつきが4割増しになる。

 

「ハイハイ喧嘩しないの。今日はもう目的も達成したことだし。

──『円卓』さんたちのご厄介になる前に退散するとしましょうか。」

 

 

仲睦まじく喧嘩をする二人の『娘』の肩に手を置くと、リリーは帰還を促す。

置いてけぼりだったジェイドはそっぽを向いたまま腕を組んでいるが、まあこの男はそういう手合いなのだろう。

彼が向いている先には、恐らく『円卓』がいるのだろう。

まるで強さに反応する磁石のような男だ。

自分にはまるで理解出来ない性質だが、戦闘要員としてこれほど頼もしい人間も他にいないだろう。

 

──まだまだやるべき事は山積している。

むしろ、今日の出来事は一つのステップに過ぎない。

まずは今日の戦闘データを集積、そしてあの改造個体のセイスモーから得た『コルタナ』の情報を解析しなければ。

そして、掲げた『最終目標』のためにより研究に力を入れなければ。

こうして蜘蛛の親子、そして蛇の遣いは荒れ果てた戦場を後にするのであった。

 




・補足
バジルちゃんの『混食拘束術式』の解説。
三番解放→ヘルサタンが攻撃する度に確定でKPかLPを奪取してくるようになる。
二番開放→これまでに食したことのあるリバイバーのワザ、或いはオートカウンターなどの特性を1つに限り使用可能となる。(インターバルは必要かつ、エボルバーのワザも発動不可)
壱番開放→術式二番の制限がなくなり、尚且つ複数同時発動も可能となる。ただし術者本人とリバイバーにはかなりの負担が掛かる。しかしバジルちゃんは頑丈なので普通に連打してくる。こわいね。

・喰詞について
バジルちゃんの喰詞は中国の妖怪の『四凶』がモチーフです。ポケモンSVの準伝説のモチーフにもなっています。

・バジルちゃんの技について
この子の技のネーミングは『⚪︎獣・⚪︎式』で統一されています。例を出すと『走獣・三式』と言った感じです。思い思いの技をカスタマイズしましょう!
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