Rebellion Against Fate   作:zawadinosaur

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マ〜〜〜ジでお久しぶりでごさいます!!新社会人でドタバタしすぎで手が付けられていなかった小説ですが、ようやく形に出来ました!!
今回はフィリアとミラのデート回前半戦です!ぜひご一読ください!


『The Date Time!』
第十二話『初めてのお買い物』


 

 

──某日の昼下がり。

響く笑い声と、楽しげな会話。

燦々と照る太陽と、心地いい温度のそよ風。

祝日を控えた週末ということもあって、待ち合わせ場所は予想以上の人熱でごった返していた

向こう見ずに全力疾走する子供と、それを眺めて穏やかに微笑む夫婦。

手を繋いで、お互いの体温と感情を確かめ合う恋人たち。

『幸せ』という言葉がこれ程までに似合う光景も他にないだろう。

そして、噴水の弾ける水音がそれらを一切を包み込んで一つの音調のように調和している。

 

 

「〜〜〜♫♫」

 

 

そんなショッピングモール前広場の噴水の縁。

プラプラと両足を揺らしながら鼻歌混じりのフィリアは、今か今かと待ち人の到着を待っていた。

ファッションにはいつにも増して気合いを入れており、普段は滅多に着用しないロングスカートとワンピースのセットコーデ。

今日という日のためにわざわざ実家から母に郵送してもらったのだ。

香水もメイクも、いつもより一割り増しで丁寧に、尚且つワンランク上のモノで揃えてきた。

こんなにもやる気が漲っているものの、今日は別に異性とのデートなどでは断じてない。

これからここに来るのは、数少ない友人の一人であるミラだ。

だがそれでも、誰かとお買い物に行くなんて人生で初めてなのだ。

任務以上に気合いが入るのも、致し方のないことなのである。

 

──事の経緯は、数日前に遡る。

 

 

 

「フィリア。これから本格的に任務に参加するわけだけどさ、装備とかの持ち物は足りてるの?」

 

初任務の翌日。

最近買ったばかりの観葉植物に水をやっていた時のことだった。

ミラから投げかけられたらその問いに、フィリアは小さなジョウロを片手にキョトンと目を丸くする。

初めての戦いで大金星を上げて浮かれていたせいもあったのだろうか。

実に呑気なリアクションだ。

 

「え?そういうのって組織側が負担してくれるんじゃないの?」

 

そんな、どこか傲慢な答えが思わず出てしまった。

新人としての心構えが抜けている、なんて思いつつ慌てて口を押さえたが時すでに遅し。

バリトンに聞かれていたらお説教に発展しそうなこの発言を受けても、ミラはいつものポーカーフェイスを崩さなかった。

 

「それはそうなんだけど…それでも『円卓』の物資も装備も無限じゃない。ある程度は自分で揃えておかないといざって時に困るよ。」

 

ごもっともな返しに、フィリアは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

確かに、『円卓』の仲間たちは皆多かれ少なかれ武装しているが、それらは専ら組織が用意したものだ。

だが、『円卓』が保有している物資も無から湧き出るわけではない。

ミラの言う通り、何か起きた際には手元にないことだってあるだろう。

フィリアも武器は持っているが、それは以前シャグランに合格記念に渡されたハンドガンと、『円卓』から支給された着るだけで動けなくなりそうなくらいに重い鎧だけだ。

だが、つい先日までパンピーだったフィリアには『武器を買う』と言う行動に若干の忌避感があるのも事実だ。

 

「確かに……でもそういう戦いに使う物とかって簡単に買える物なの?法律とかで難しくない?

私のイメージだとこう……ダークWEBとか裏社会みたいなヤバめの所じゃないと手に入らないイメージなんだけど…。」

 

大げさに怖い顔と手振りで脅威を表そうとするフィリアだったが、ミラにはまるで通じていない。

不思議な動物を見るような目をこちらに向けたまま、言葉を続けた。

 

「まあそのイメージは概ね間違ってないかな。CNを持ってる人たちとかは付き合いの長い装備の補充先が居たりするけど私たちみたいな一般騎士はそうはいかないからね。

アレクさんとかは昔ダークWEBで詐欺に引っ掛かってたし。」

 

「何やってんのあの人。」

 

既に被害者というか哀れな子羊がいたことに呆れ果ててしまう。

だが呆れている反面、自分もそうならないとは限らない。

何せ、昔から鈍臭いところが多分にあるフィリアだ。

その界隈の人間から見れば格好の獲物に違いないと自負していた。

暫定自分と同類であるアレクがまんまと罠に引っ掛けられたのだ。

フィリアもきっと……

 

「よし、じゃあ買いに行こっか。」

 

「え!?ダークWEBで!?」

 

真っ青な顔で嫌な想像をするフィリアの思考を、ミラの言葉が堰き止めた。

まあ確かに、ミラはその手のトラブルに遭遇したとしても軽々も解決してくれそうだし、実際めちゃくちゃに頼りになる。

だが、かと言ってダークWEBを使用すると裏社会の一員として泥沼に足を突っ込んでしまう気もする。

ただ、そんな懸念はミラの続く言葉に綺麗さっぱり拭き取られた。

 

「違う。元『コルタナ』に頼りになる武器商人がいるんだ。メーレさんっていう人なんだけど。今も個人的にお世話になってる。」

 

元…ということは辞めてしまったのか。

その原因が何なのかは分からないが、この組織にOBがいることに驚きだ。

てっきり完全終身雇用かつ辞めるのであれば死ねというタイプだと勘違いしてしまっていた。

 

それはともかく、武器商人の人間が提供してくれる装備であればあらゆる面で不安がない。

その一点だけは、間違い無く安心できる。

……治安とか人柄については、あまり安心出来ないが。

 

「メーレさん今はショッピングモールにお店出しててさ。フィリアさえ良ければ今度の週末、一緒に買い出しに行こう。」

 

「いいの!?」

 

いつも通りの無表情から放たれたその言葉に、フィリアは思わず声を上げる。

ミラが出した提案は、週末に、2人きりでお出かけということを意味している。

それはつまり…

 

 

(デートのお誘いってこと!!!!??)

 

 

例えミラにその気がないとしても、形だけを見ればデートそのものだ。

高嶺の花感がハンパないミラのお相手が、こんな芋娘でいいのだろうか。

いや、そもそもミラにその気はあるのだろうか?

フィリアはそれなりに…というかかなり満更でもないのだが。

だが、いつだって現実は非情なり。

 

「うん。フィリアだって今は立派な『コルタナ』の仲間だし。あの人もOBだから色々実のある話も出来るんじゃないかな。」

 

舞い上がるフィリアを他所に、ミラは淡々と買い出しに行くことのメリットをつらつらと語っている。

見たところ、本当にただただ装備を揃えに行くだけという認識らしい。

こちらの認識との齟齬がとんでもないが、この喜びの前では些事だ。

そうして迎えた今週末。

指定された場所が、この賑やかなショッピングモールだったというわけだ。

初めは場所を間違えているんじゃないかと思ったが、マップで調べた所ミラから聞いていた店の名前はしっかりとこの場所にあった。

表向きはサバゲー用の装備を販売をしているミリタリーショップだそうな。

詳細は分からないが、木を隠すなら森の中………という事なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

そうして、現在に至る。

フィリアがこの場所に来てから、既に10分ほどが経過していた。

だが人の流れは相変わらず凄まじく、通り過ぎる人もコロコロ変わる。

見ていて飽きない光景だが、自分も早くあちら側に行きたいというのも本音だった。

 

「………遅いなぁ。」

 

ミラが来るのが、ではない。

時間が経つのが遅すぎるのだ。

あまりにもこのお買い物が楽しみ過ぎたせいで30分以上前に来たのがいけなかった。

ミラは『外出の手続きをしてくるから先に行ってて』と言っていたが、意外と窓口が混んでいるのだろうか。

シャグランやケイ、ハルカはこういった週末にはパートナーと共に外出をしていそうだ。

そんな微笑ましい彼らの休日を夢想していると、

 

 

 

 

 

「──ねえ『()()()()()』!」

 

 

「っぅ!!?」

 

いきなり真横に思い切り引っ張られて、倒れそうになる身体をフィリアは慌てて石製の縁に手を付いて咄嗟に支える。

 

「っ…!?えっと…キミは…?」

 

視界を引き寄せられたに向けると、そこには鮮血を頭から被ったように真っ赤な髪色をした少女が立っていた。

着古されたであろうパーカーに、ちょっとだけ食べ物の染みがついたショートパンツ、そして大きめのマスクを付けているその姿は、まあまあありふれた年頃の少女、と言ったところだ。

だが、見たこともあったこともない少女の突然すぎるアクションに困惑しかない。

ああいうものは多分、親しい人間を驚かせるためにするものだろう。

 

「ねぇねぇ誰待ってるの?彼氏ぃ?」

 

狼狽したままのフィリアのことなど気にしていないように、水飛沫と喧騒をねじ伏せるようなハキハキとした声で、マスク姿少女の声が語り掛ける。

こちらを覗き込む琥珀色の瞳は、まるでその場に空いた虚空のようで目を合わせると呑み込まれてしまいそうだ。

それに、少女の顔立ちが気にかかった。

 

──自分と全く同じ位置に刻まれた泣き黒子と、自分と全く同じ色の瞳。

偶然にしては出来すぎているとは思ったが、いつまでの喉に空気を詰まらせたままではいられない。

 

「え〜っと……友達だよ!友達!」

 

『円卓』の同僚…なんて口が裂けても言えない。

全力で答えを濁して、妙に人懐っこい少女へと模範解答を差し出す。

というか、彼氏なんて今までの人生でいた試しがない。

悲しみの現実を思い出させないで欲しい、と思いながらフィリアは少女の答えを待つ。

 

「………へぇ〜?ふぅ〜ん?そっかぁ〜、そうなんだぁ…。」

 

少女は、好奇の目をフィリアに向けたまま含みのある返事を投げ返す。

正直、そういう眼差しはフィリアのトラウマを呼び起こすものなのでやめて欲しいのが本音なのだが、初対面の彼女にそんなことを言っても仕方がない。

こちらを舐め回すように見つめる赤髪の少女の視線に耐えていると、次の瞬間…

 

「いったぁ!!?」

 

言葉よりも先に、彼女の頭部に拳骨が振り下ろされた。

ガツン、と骨同士がぶつかる鈍い音と共に赤毛の少女は頭を抱えて身悶える。

 

「……………勝手な真似するなっていっつも言ってるでしょ。バカ妹。」

 

視点を変えると、赤毛の少女の背後には全く同じマスク姿と、大きめのミリタリーコートを羽織っている燻んだ金色髪をした少女が立っていた。

姉妹にしては髪色が違い過ぎる、とも思ったが目元の特徴的な泣き黒子は共通している。

 

──姉妹揃って、自分と似すぎているとは思ったが他人の空似の範疇だろうとフィリアは思っていた。

少し奇妙だ、とは感じていたが。

 

それはともかく、目の前で本気で痛がっている年下の女の子を見て見ぬふりをするほどフィリアは人間を捨てていない。

 

「あの…妹さんに手荒な真似はちょっと」

 

「これはこちらの問題なので。部外者の貴方は口を出さないでくれませんか?

偽善者ぶるのはどうかと思うのですが。」

 

まるで刃物みたいに鋭い目付きの彼女は、フィリアの言葉を途中で切ると心底嫌そうな顔つきでこちらを睨みつけてきた。

言葉の切れ味も鋭くて、目つきもセリフも心にクリティカルで突き刺さる。

確実に心を抉りに来ているワードチョイスに、頭を抱えそうになるのを堪えて、フィリアは必死に苦笑いを浮かべた。

そんな彼女など見えていないかのように、ブロンドの少女は妹のフードを乱雑に掴むと無理やりフィリアの側から引き剥がした。

 

「ほら、さっさと行くよ。」

 

「え〜!?もうちょっとだけぇ!!今日は休みなんだしいいじゃんかぁ!」

 

「うっさい。」

 

ぐずる妹の言い分を押し返して、姉の少女は人混みの方角へ足を向ける。

あまりにも乱暴なやり口だが、赤毛の少女はさほど反抗的ではない。

あの光景はいつものことなのだろうか。

不思議な姉妹だな、と彼女たちを見送っていたその時だった。

 

「……ああそうだ。一個聞いておきたいことがあったんでした。」

 

人混みの流れに入る直前で、彼女はピタリと進む足を止めた。

軽く振り返った少女はこの世の全てに絶望してしているかのような顔をしながら、フィリアの瞳を全く同じ色の瞳で見つめる。

彼女と自分は初対面のはずだが、奇妙な既視感があった。

言葉の端々に違和感を感じつつも、フィリアは大人しく少女の言葉を待つ。

 

「えっと…何、かな?」

 

「…………………今の生活、楽しいですか?」

 

「……?」

 

何を聞かれるのかと身構えていたフィリアだったが、少女が聞いてきたのはありきたりの、何の変哲もない質問だった。

ただ、質問の意味がよくわからない。

何故、そんなことを態々()()()()()()()()()のだろうか。

だが、一つだけあり得そうな可能性が頭に浮かぶ。

 

(……夏休みの自由研究か何かなのかな?)

 

目の前の少女は見たところ、中学生くらいの背格好だ。

ということはきっと、街ゆく人への街頭インタビューのようなものなのだ、とフィリアは勝手に納得した。

内容は多分、人々の生活への満足度を調べているのだろう。

そういう理由であれば、全力で役に立つ答えを提供してあげなければ。

 

「すっごく楽しいよ!周りの人たちもみんな優しいし頼りになるし!

『円……あ、いやいや…職場もある程度自由にさせてくれるし!!何より、世界で一番大事な友達もできたし!」

 

流石に子供に傭兵である『円卓』の活動内容を話すわけにはいかないので物凄く暈したが、これはフィリアの本心だ。

『円卓』──『コルタナ』や仲間たちと過ごす日々は自分の人生で何よりも掛け替えのないものだと思っている。

彼らとの…特に、親友であるミラとの時間がいつまでも続けばいいとすら思っている。

自分の短い人生で絶頂期があるとすれば、きっとそれは今に違いないと断言出来る。

 

満面の笑顔と共に発されたフィリアの答えに、少女は一瞬驚いたように目を見開くと直ぐに視線を切った。

 

「そうですか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───反吐が出る。」

 

「………え?」

 

小声で何かを呟くと、ブロンドの少女は妹と共に人混みの中に消えて行ってしまった。

あんまりにも冷たい反応に答えを間違えてしまったのかとも思ったが、今から追いかけてもきっと人混みに遮られてしまう。

彼女たちは何だったのだろうか、と思いつつ思考に耽るが解答なんて浮かんでくるはずもない。

強いて言えば、ブロンドの少女はすごく驚いた後に一瞬だけ悔しそうな……いや、怒った顔をしていたように見えた。

勿論、見間違えかもしれないが。

もしかすると、フィリアの回答は趣旨とずれていたのだろうか。

そんな一人反省会をしていると、背後からトントン、と肩を叩かれた。

 

「フィリア、お待たせ。」

 

その安心する声と、待ち人の到着に心躍らせ目を輝かせながら振り返る。

 

「ミラっ!!」

 

だが、

 

「………………ミラ?」

 

 

180度変わった視界の中に映り込んできたその姿に、フィリアは言葉を失った。

 

「どうしたの?」

 

怪訝そうに首を傾げる彼女だったが、そのリアクションをしたいのはこちらの方だ。

だって……………

 

「……ミラ、それ私服?」

 

だってミラの姿は、いつも通り寸分違わぬ制服姿そのものだった。

濃緑色のトップスに、桃色の結び目のアクセサリー、それに暗色のショートスカート。

毎日見ている、もはや見飽きたくらいのいつもの組み合わせ。

普段は訓練や会議にと色々あるので、正装なのかと思い気にも留めていなかった。

だがよくよく思い返せばミラは就寝時以外は基本この服装しか着ていなかったような気がする。

これを裏付ける証拠に、ミラのクローゼットにはこの服以外入っていなかったような覚えがある。

年頃の乙女が、自分好みの服すら持っていないなんてことがあり得るのだろうか。

 

「…うん、そうだけど…?

この服、結構便利なんだよ。軽くて丈夫で任務にも普段使いにも使えるし。もし良ければフィリアにも何着かあげるよ?」

 

いや、そこではない。

そんなことは、今関係ないのだ。

現在フィリアの中で問題になっているのは、ミラがマトモな私服を一着も持っていないということ。

いくらミラが『円卓』の箱入り娘だったとしても、これを看過することは到底出来ない。

 

「っ何!?」

 

気付けば、フィリアはミラの手を引いてショッピングモールへの道筋を闊歩していた。

いつもはこんな強引なことはしないが、もうなんか色々とどうでも良くなってきた。

……この際だ。

ミラにはオシャレとファッションというものを骨の髄まで叩き込ませてもらう。

 

「行くよっ!!」

 

「どこに!?」

 

「ミラの服を買いに!!!年頃の乙女なんだからファッションにも気を遣いなさい!!」

 

「いやでも今日はフィリアの…」

 

「シャットアップ!!」

 

あくまでも本来の目的を主張するミラの口元を無理やり押さえつけて、フィリアは彼女をモールの中へと連行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてミラを強制連行したショッピグモールの3階。

2人が向かった先は、レディースファッションに力を入れていると評判のアパレルショップだった。

品揃えも良ければ、お値打ち価格で質の良い洋服が買えるらしいとフィリアの事前リサーチには記されている。

一先ずここに入れば最低限のものは揃うだろう。

実に口惜しいが、応急処置程度であればこの場で揃えられる。

フィリアの独断と偏見で選んだミラに似合いそうな服装を数セット押し付けて、彼女を試着室へと放り込んだのだった。

 

 

 

 

 

「………恥ずかしい。」

 

数分後、ミラはらしくもなく頬を赤くしながらカーテンの隙間から頭だけを出した。

その様子はさながらてるてる坊主のようで可愛らしくもあったが、容赦なくフィリアはカーテンの合間に指を掛ける。

 

「い・い・か・ら!!」

 

そしてそのまま、重要事項を隠すカーテンを無理やり剥ぎ取った。

 

「〜〜〜ッ!」

 

「お〜〜、やっぱり素材がイイと映えるね…!」

 

ミラが選んでくれたのは、桃色のスカートと、シンプルな白のトップス、そして赤を基調としたジャケット。

フィリアの見立て通り、普段から固いイメージのあるミラにはこういった少しカジュアルな服こそ映える。

 

 

「変じゃない…?こんな服着たことなくて…。」

 

本人は見たこともないほど顔を赤ながら縮こまっている。

あまりにも新鮮な姿に新しい何かが目覚めそうになってしまう。

 

「似合ってる似合ってる!最ッ高に可愛いよ!」

 

ボルテージが上がったフィリアは勢いのまま、別のセットをミラの胸元に押し付ける。

 

「よしじゃあ、次はこれとこれとこれ!!着替えたら教えて!!」

 

「ねえフィリア……今日の目的覚えてる?」

 

ジトっとした瞳でミラがフィリアを睨みつける。

……今日の目的。

ああはいはい、今日の目的ね。

 

「おぼ…………覚え……………てるよ?モチロンマカセテクダサイ。」

 

いや、正直言ってほとんど忘れかけていたがここで失念していたなんて返答したら失望されかねない。

カタコトで返答するフィリアに嘆息しつつも、ミラは再びカーテンの向こうに消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ミラにはいくつものフィリアコーディネートの服装を身に付けてもらった。

フリルの付いたスカートに、少しタイトなダメージジーンズ、露出のやや多いワンピースに、少しワイルドなスカジャンにetcetc…。

どれもミラは着こなしていたし、本人も気に入っている様子だった。

だが部屋の洋服棚は無限ではないし、いくつも買いすぎると大半の服がタンスに押し込まれてしまうことだろう。

故にこそ、今ここである程度選別しておく必要がある。

 

「ミラ何か気に入ったのあった?今の内に取り分けておかないと。」

 

店中を見て回って、ミラが来ている姿を想像して持ってきた服たちを取捨選別してしまうことに心苦しさを感じていながらも、フィリアは彼女に問い掛けた。

 

「えっとじゃあ………これと………これとこれ。」

 

ミラが選んでくれたのは、一番初めに選んだ服と、空色のワンピースと麦わら帽子。

それと、普段のミニスカートに合わせるための黒のジャケットだった。

 

「おお〜、センスいいね!!」

 

どれもこれも会心のマッチだと思っていた服装だっただけに、知ってか知らずかミラがそれを汲み取っていたことが素朴な喜びだ。

 

「そう……なのかな?」

 

ミラは首を傾げながら自分の選んだジャケットを見つめている。

彼女のファッションセンスは後々養っていくとして、今日は本当にミラの容姿の整い具合を思い知らされた。

何を着ても、着られているような様子はなく、寧ろ着こなしているようにすら感じるほどの可愛らしさと美しさ。

そして何より、所々から滲み出る育ちの良さ。

加えて直感で自分に似合う服を選ぶセンスも持っているときた。

これはフィリアの培ってきた知識やコーディネートスキルを追い抜かされる日も近いのかもしれない。

 

「じゃあ店員さんに声掛けてくるよ!」

 

「うん、お願い。」

 

試着室の番号札を持って、フィリアが向かった先は、店員の待機しているカウンターだった。

4つ稼働しているレジの中で、真っ先に目に入ったのはお淑やかに対応をしている女性店員の姿。

その列に滑り込みで並ぶと、フィリアは額に少しだけ滲んだ汗を拭って、番号札を強く握りしめる。

次々と短くなっていく列の中、フィリアは何度も何度も試着室の扉を確認した。

 

そして迎えたフィリアの会計の番。

本来ならここで、試着が終了した旨を伝えてミラが着替えるのを待つべきなのだが。

 

だがしかし、フィリアの取った選択は…

 

「すみません、お会計お願いします!あと、プレゼント用の包装も!」

 

()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

実は、このショッピングモールでの買い物が決まったその日からミラにサプライズでプレゼントをしたいと思っていた。

日頃から訓練に付き合ってくれて、一緒にいてくれて、何より、友達でいてくれて。

表情変化が少なくて、仕事一筋のミラだからこそ贈り物に何が相応しいのかと思っていたが、この洋服たちであれば不足はない。

日頃の感謝とお礼を、せめて形あるものへ。

 

「はい、かしこまりました。」

 

にこやかな笑顔の店員は手早く会計を積み上げて、フィリアの持ってきた服を折り畳み袋に収納していく。

そして、全ての服が包み終わりモニターに提示された金額は…

 

「ウォ……。」

 

想像の予算の1.5倍強の金額だった。

だが、ついこの間初任給が振り込まれたばかりだ。

まだ母やその他の人間に贈り物をする程度の蓄えは残るはずだ。

財布の中身の減耗に若干の焦燥を感じつつも、フィリアは大見得を切ってクレジットカードを繰り出した。

 

 

 

 

 

「お待たせ、フィリア。」

 

ミラの着替えが終わったのと、フィリアの会計が済んだのはほぼ同時のタイミングだった。

彼女は先程買ったばかりのスカートとジャケットを着ているせいか、普段の2割増くらい魅力的に見える。

改めて自分のセンスに惚れ惚れしてしまうが、今はそれどころではない。

原因は主に2つ。

一つ目は、厳密にはミラが試着室から出てきたのを見て、大慌てで店の出口までカッ飛んで行ったこと。

おかげで、朝から気合を入れてセットした髪が総崩れだ。

二つ目は、これからサプライズの時間だからだ。

 

「──はいミラ!これプレゼント!!」

 

満面の笑顔で、フィリアは手元の紙袋をミラに差し出す。

 

「…えっと…これ、さっきの服?お金くらい自分で出せるよ?」

 

だが当のミラは目を白黒させながら首を傾げている。

予想していたリアクションのどれにも当てはまらない反応に思わず冷や汗が頬を伝う。

もしかして、大して嬉しくもなかった…とでも言うのだろうか。

 

「いやそうじゃなくて……!!」

 

「……?」

 

いや、違う。

この感じはそうではない。

まさか、ミラはサプライズのプレゼントという文化そのものを知らないのだろうか。

だとしたら、その初めてがフィリアであることが嬉しい反面、どれだけ彼女が箱入り娘だったのかという事実が突きつけられるようでちょっぴり寂しい思いもある。

まあ、フィリアはそんなサプライズ一度も受けた覚えがないのは同じなのだが。

 

「いっつもお世話になりっぱなしだし、日頃のお礼だよ!!せめてもの気持ちに、プレゼントを贈らせて!」

 

フィリアは、心の内に在るミラへの感謝をそのまま言葉に変換した。

言い訳がましい理屈を並べ立てるよりもミラにはこういう風に説明する方が受け入れてもらえる事は、普段の付き合いからすでに把握している。

 

「……いいの?」

 

そして効果は覿面だったようだ。

少し渋るような顔をしていた躊躇の面影はもうどこにもない。

あと一押しだ。

 

「うん!せめてものお返しなんだから!受け取って!」

 

その言葉に、ミラは手元の紙袋に視線を落とし数度瞬きを繰り返した後、フィリアの琥珀色の瞳をじっと見据えて…

 

 

「───ありがとう、大事にするよ。」

 

満面の笑顔を見せてくれた。

ここ数ヶ月常に一緒にいるフィリアでさえ見たことのないミラの笑顔。

微笑むことはあっても基本ポーカーフェイスを貫くミラのそんな表情は卑怯なくらいに可憐で、綺麗で、可愛くて、胸の内側を撫でられるような変な気持ちになる。

 

「………顔赤いよ?大丈夫?」

 

「だっっ!大丈夫!!大丈夫大丈夫!!!」

 

ずい、とこちらの頬を触れようとするミラの右手を咄嗟にかわしてフィリアは彼女に背を向けて数度深呼吸をする。

あまりの破壊力に脳をやられるところだったが、何とか持ち直せた。

 

「よし!じゃあ次はあそこのお店入ろ!」

 

仕切り直し、と言わんばかりにフィリアは次なる目的地を設定する。

 

「………フィリア………………。」

 

「大丈夫だって!ちゃんと覚えてるから!!」

 

脳が茹ってそれどころではないのを全力で誤魔化しながら、ズンズンと脚を進める。

つま先が向かう先は、ジュエリーショップ。

外装からして華やかof華やかな店内に集うはどう見ても上流階級の面々だ。

自分たち……いや特に自分が場違いだと理解していたが敷居を跨いでしまったのだから仕方がない。

一先ずは人混みの最も少ない店の最奥部へと全速で駆け抜けた。

 

「……おぉ…………。」

 

視界に映ってきたのは、過剰なくらいに煌びやかな宝石が埋め込まれた無数のアクセサリーだった。

目が痛くなってくるような光源たちに再度イヤになりながら、ゴテゴテと飾られたショーケースの中身に目を通す。

 

「────あ。」

 

そんな中で、とあるブレスレットが目に入った。

それは、決して華美ではなく、質素でもなく、ただただそれ自体の持つ美しさを保持しているようなそんな宝石。

花畑の中に咲く名もなき野花のような。

しかも、これみよがしに2つセットで置いてあるのだ。

これはもうペアルックで買えと言われているようなものだ。

一目惚れに近い形でフィリアはショーケースの前に屈んでジッと宝石を網膜に焼き付ける。

 

 

「……フィリア、こういうアクセサリーが好きなの?」

 

背後から聞こえたミラの問いに、フィリアは尚もケースから目を離さないまま答えた。

 

「…そうだね。普段から琥珀は身に付けてるけど…こういう透き通った色の宝石は憧れるなぁ…。」

 

正直なことを言うと、ウェディングリングはこんな宝石が欲しいなんて、年相応の乙女願望もあったりする。

相手がいないだとか色々な文句は聞かないものとするが。

 

「そっか……。」

 

フィリアの返答にミラは含みのある素っ気ない返事をすると、そのまま踵を返して店の入り口の方へと歩いて行ってしまった。

 

「…?」

 

ミラにも宝石を見て心躍る情動があるのだろうか。

それとも、何か気になるアクセサリーでもあったのだろうか。

着実に変化してきているミラの後ろ姿に喜びのような…母のような気持ちでムフっと口元をゆるませその後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

…….数分後。

いや、数十分後?

気付けば時も忘れて、トランペットを眺める少年のようにショーケースに張り付いてしまっていた。

時間感覚が乱れている故に、どれだけ時間が経ったのか正直分からない。

もしかすると、物凄くミラを待たせているかも知れない。

大慌てで折っていた膝を伸ばして、その場で急旋回して出口へ方向転換をしようと背後を向くが……

 

 

 

「失礼致します、お客様。」

 

「へ?」

 

不意に正面から掛けられた丁寧な接客口調に振り返ると、フィリアの真後ろにはいかにも高級そうなスーツを身につけたオールバックの男性が立っていた。

にこやかな笑顔を貼り付けた彼はフィリアの真横に立つと、ショーケースに鍵を差し込み厳重な扉を開け放つ。

 

「あ……。」

 

そして先程までフィリアが眺めていたアクセサリーを2つ取り出すと、そのままレジの方向に消えて行ってしまった。

ショーケースの中を見返すと、もう欲しかったブレスレットの姿はどこにもない。

 

(……まあ、高かったししょうがないよね。あんなの買ったら今度こそ財布が終わっちゃう。)

 

まるで幻だったかのように消えてしまったそれに、心の中で言い訳を繰り返して落胆から必死に目を逸らす。

きっとセレブとかマダムとかが買ったのだろう。

そうであれば、こんな芋娘が身に付けるよりもあの宝石を煌めかせてくれるはずだ。

 

 

「……はぁ…………。」

 

だが身体は正直なもので、心がいくら納得しても身体の内側に溜まった負の感情という鉛を吐き出すように特大のため息が漏れてしまう。

ここにいると、周囲の人たちによくない感情を抱いてしまいそうなのが怖くてフィリアは駆け足で店から逃げ出した。

 

「…………。」

 

ズン、とこの世の終わりみたいな雰囲気を纏いまくったままフィリアはベンチに腰を下ろしていた。

何とか立ち直らなければと思いながら床と睨めっこをしていると、カツンと目下で鳴った。

聞き慣れた革靴の音に顔を上げると、

 

「フィリア。」

 

「やっぱりミラかぁ…。」

 

いつも通りの無表情を湛えたミラが立っていた。

そういえばミラを置いたまま衝動的に退店してしまっていたことを今頃になってことの重大さを思い出す。

 

「急にいなくなったから驚いたよ。」

 

「あ…そっか……ごめんね。」

 

気の抜けた返事をするフィリアの横に腰を下ろすと、ミラはほんの少しだけこちらに肩を寄せた。

 

「……………何かあった?」

 

「え!?いや…なんもないよ…うん、なんもない。」

 

図星を突かれたせいで少し上擦った声になってしまったが、何とか誤魔化し切れただろうか。

 

「…?そう。」

 

ただでさえ鈍いミラのことだ。

フィリアの心中も、何があったかも特に想像ついていないことだろう。

まあ、こんな子供じみた理由で落ち込んでいることなんて知られる方が恥ずかしい。

その点だけは、その鈍感さも有り難かった。

だが、いつまでも黙っているわけにもいかない。

次に行くべき場所の提案でもしようと落ちていた視線を真横に向けると。

 

「え……何?」

 

ミラが、ジッとこちらを見つめていた。

 

「手、出して。」

 

「へ?」

 

「いいから。」

 

「え……こう?」

 

若干の困惑を感じながらも、言われた通りにフィリアは右手を差し出した。

 

「ん。」

 

ミラは片膝を付いてまるで結婚指輪をはめるようにフィリアの手首に優しく触れると、カチャリと何かを装着した。

何かと思って反射的に手首に目を凝らすと…

 

「え!!?これって!!!!?」

 

フィリアの右手首には、確かにさっきまで自分が釘付けになっていたのに無くなってしまったアクセサリーが煌めいていた。

 

「うん、フィリアがさっき欲しがってたやつだよ。あんなに熱心に見てたから、欲しかったんでしょ?」

 

目の前で買われてしまったと思っていたブレスレットがまさかのオチで手に入ってしまって、フィリアはひたすらに瞠目しているのにミラは淡々としているせいで温度差で風邪を引きそうだ。

 

「いやでもさ!?結構するよコレ!!」

 

記憶が正しければ、このアクセサリーのお値段はさっきの洋服一式よりも遥かに高額だ。

それを2つとなると、軽く財布が滅んでしまうほどの特大出費だ。

そんなものをミラは何の躊躇いもなく購入したというのだろうか。

先程の服とは比較にならない高額なプレゼントを前に、フィリアは目を白黒させる。

 

「いいの。私、これでも結構給料貰ってるから。さっきのお返しと、日頃の感謝だよ。

──フィリアの存在には私も助けられてるからね。本当にいつもありがとう。」

 

そして続け様に自分の手首にも同じ音を鳴らしながら、ブレスレットを装着する。

 

「それにさ、お揃いってすごく素敵じゃない?」

 

ミラは『何でもない』、といった風に薄い笑顔を浮かべてベンチから立ち上がり、ゆったりと歩いているがフィリアにとってはこのイベントはそんなものではなかった。

 

──顔が熱くて熱くて仕方がない。

──胸が苦しくてしょうがない。

──鈴の音のような声を聞くたびに、心が乱れる。

──心臓の鼓動がうるさくて、周りの喧騒は耳に入ってこない。

 

今まで、ミラに対する自分の気持ちが分からなかった。

 

…親愛?

……友愛?

 

違う、()()はそのいずれでもない。

ずっと、悶々とする思いがあった。

納得出来るがしっくり来ない言の葉たちに懊悩とした夜もあった。

 

でもようやくだ。

この気持ちに、もどかしい気持ちに、フィリアはこの瞬間ようやく気が付いた。

 

「──ズっルいなぁ……ホント。」

 

 

──私は、ミラが好きだ。

 

どうしようもなく、あの月明かりのような彼女に恋をしてしまっている。

頬を桃色に染めながら、フィリアは前を歩くミラの姿を愛おしそうに眺めるのだった。

 

 




次回投稿はやはり未定です…!
そして、次回は元『コルタナ』メンバーも複数人出てきて、前作(?)のサブキャラも出てきます!お楽しみに!
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