Rebellion Against Fate 作:zawadinosaur
本筋に絡む戦闘は三話後くらいから開始しますので…何卒お赦しくださいませ…!
──時刻は夕刻手前。
地下に居を構えていたメーレの店を出て、フィリアとミラが目指したのは地上階。
エレベーターを経由して登り切った1階は、買い物を終えて帰路に着く人々がちらほらと見え始めていた。
薄い橙色の光に照らされるその光景に、フィリアは時の流れの早さを実感する。
ここに来た時は、ちょうど昼前だったはずなのにもう時間は夜に近付いているらしい。
詳しい時刻を知ろうと右腕に目を向けると既に針は、16時を刺していた。
楽しい時間ほど過ぎるのは早いものだ。
明日のことも考えると、そろそろ解散するのがベターなのだろう。
……だが、このままキャメロッ島に帰るというのもなんだか勿体無い。
欲を言えば、もっともっとミラと遊んでいたい。
日付を跨ぐくらい豪遊したい。
何なら、その後のイベントだって………。
「……ねえねえミラ。このまま帰るのもなんだし、どこかに寄らない?」
そんな未練たっぷりな話題を隣に歩くミラに振ってみる。
正直言って、このデートが終われば自分たちはまた普段の生活に戻る。
決まった時間に起きて、ミラを起こして、訓練をして、1日を終える。
それらが決して退屈というわけではないが、今はまだ楽しみの真っ只中。
この非日常を少しでも長く延長したいというのが、フィリアの切実なまでの願いだった。
「………確かに、このまま帰るのは…ちょっと勿体無いね。」
願いの80分の1くらいがミラにも伝わってくれたのか、フィリアの提案に乗ってくれた。
…かと言って、何か楽しいプランを提供出来るというわけでもない。
どうしようかとオドオドしていると、ミラがゆっくりと口を開いた。
「………ちょっと行ってみたいところがあるんだけど、いい?」
「っ!!もちろん!!!」
数秒の思考をして、彼女は進行方向を変えた。
ミラから行きたい場所があるとは思いもよらなかったせいもあってか、若干上擦った声でフィリアは快諾する。
一体、ミラが行きたい場所とはどこだろうか。
プラネタリウム?
それとも、オシャレなカフェ?
それとも、またまた別の場所…?
そんな期待に胸躍らせながら追従し、ものすごい量の人混みに揉まれること数分。
「……ミラが来たかった場所ってここ?」
「うん、前から存在は知ってたんだけど一度もちゃんと見た事なくて。」
ミラに言われるがまま導かれたのは、このモールの入り口にある巨大水槽だった。
ホーネンタウンのアクアリウムのようにリバイバーたちの遊泳を鑑賞することが出来るここは、このショッピングモールでは一種の名物として有名ということはフィリアも事前に知っていた。
だが、基本的には鑑賞に料金もいらなければ、ここが様々な娯楽に溢れた場所というのがミスマッチなのも知っている。
これに態々視線を向ける者は多くとも、留まって鑑賞する人は少ない。
大抵はそのまま通り過ぎてしまう。
インパクトはあっても、一度見れば満足してしまうのが人の心理。
施設を象徴する場所であっても、それだけを見に来る客は稀…というより皆無だ。
その証左に、アクアリウム前のソファには誰1人として近寄らない。
皆が皆、自分の目標だけに終始している。
伽藍堂のソファに、ミラとフィリアは腰を下ろす。
周囲の人間たちは、変わったものを見るかのように2人を見ている。
その目線は、『なんでわざわざあんなものを見ているんだ』と言わんばかりだ。
(………でも。)
──淡い水色の中を番いのプレシオが泳ぐ。
──生い茂った海藻の中をアノマーロやディッケロが這うように進む。
──ゴードリィやパラプーが星屑のようにゆらゆらと漂う。
そして、それらを眺めるのはソファに座るフィリアとミラだけ。
水槽を見やすいようにほんの少し照明が落とされた空間もあって、まるで2人は宇宙に取り残された唯一の存在のように見えた。
周りの全てが、目に入らなくらいに。
「──なんか、いいねこういうのも。」
「ん。」
フィリアは、ほんの少しだけミラとの距離を詰める。
肩がギリギリぶつからないくらいの、座面に添えた指先が触れないくらいの距離。
それでも、ほのかに温まった空気が肌を優しく撫でる度に想いは増していくばかりだ。
「………。」
「───。」
ミラは、フィリアの視線にすら気が付かずに水に生きるリバイバーたちを見つめている。
その横顔は、彫刻のように美しくて均整が取れていて、まるで近くにあるのに手の届かない星のようだった。
──星は……淡い月は気が付かない。
隣の佇むフィリアの溢れる想いと熱視線に。
「……そろそろ行こっか。」
「そうだね……ってもうこんな時間!?」
時間の流れすら忘れてきた頃に、おもむろにミラは口を開いた。
流石にずっとこうしている訳にはいかないと思い始めていたフィリアに、その提案を断るという選択肢はない。
念の為腕時計の針を確認すると、もうすでに時間は18時を回りつつあった。
ということはつまり、2時間以上もこの場所にいたことを意味している。
ミラを見つめては、誤魔化すようにアクアリウムを見てを繰り返していたフィリアだったがまさかそんなにも時間が経っているとは思わなかった。
だがよくよく聞いていれば、館内放送では帰宅を促すアナウンスが始まっている。
急いでキャメロッ島まで戻らなければ、明日以降の訓練にも支障が出ることだろう。
慌てて立ち上がったその時。
「……あ。」
「どうしたの?」
そこで気が付いた。
とんでもない事実に。
小さな小さな違和感だったものが、巨大に膨れ上がる感覚。
「……………………ない?」
「……何が?」
異常事態の震源地は、右手首にあった。
そこには本来、つい先程買ったブレスレットがあるはずだった。
初めての買い物で、初めての友達と一緒に買ったお揃いの宝物。
この世の何にも代え難い友情と思い出の象徴。
だが、
「ない!ない!!ない!?なんで!?」
それがどこにもない。
綺麗さっぱり無くなっている。
思い返しても思い返しても、これを落とした覚えなどあるはずもない。
かと言ってポケットに入っているわけでも、バッグの中にあるわけでもない。
では、一体どこに?
…誰かに盗まれた?
……それとも清掃員にゴミと間違われて捨てられた?
居ても立っても居られなくなって、フィリアは元来た道に駆け出す。
「っごめんちょっと探して来る!!」
「分かった!私も心当たりがある場所をあたってくる!」
走り出したフィリアを見て、ミラも即座に動き出す。
そうして、2人は二手に分かれて探し物に奔走することとなった。
「っ……どこ行っちゃったの……!?」
フィリアが真っ先に向かったのは、アクアリウムに向かう前に人混みに巻き込まれた場所だった。
正直、あの時は人が多すぎて仮に手首に何かがぶつかっても気が付かなかったことだろう。
もし仮説が当たっていれば、きっとブレスレットはこの近辺に落ちているはずだ。
血眼になって少しでも形や色味が近いものを探す。
あれだけ綺麗な装飾品なら、すぐに見つかるはずだとフィリアは確信していた。
「───。」
だが、現実はそんなに甘く優しくはない。
無機質なコンクリートの上には、煌びやかな宝石のブレスレットなんて落ちているはずもなく、ほこりや紙クズが転がっているだけだ。
「……っ…!」
逸る鼓動が止まらない。
焦燥と悔しさで心が張り裂けそうになる。
一呼吸するたびな涙が瞳に滲む。
何で、こんなにも自分はダメなのか。
たった一つの大切な宝物を無くした事にすら気が付かないなんて。
(…………ホント、駄目駄目だな私。)
フィリアは重い心持ちに引っ張られるように、足を止めて俯く。
悲しくて、悔しくて、情けなくて目頭が熱い。
自己嫌悪で大粒の涙がこぼれそうになったその時だった。
「──そこのキミ、ちょっといいかい?」
トントン、と右肩を叩かれると同時に背後から優しげな声が聞こえた。
「………は、い?」
いきなりな展開に驚きながら、フィリアは掠れた声と赤みを帯びた瞳と共に振り返ると…
「っと、ごめんよ。取り込み中だったかな?じゃあ早く要件を済ませなきゃ。」
そこに立っていたのは、周囲の女性の目を引くほど整った顔立ちをした青年だった。
年は、きっと自分より少しだけ上くらい。
多分、20代の中盤ほど?
新品にも劣らないくらい手入れの行き届いた黒のシャツと暗い赤色のベストに身を包んだその姿から、かなりいい暮らしをしていそうなのが見て取れる。
その溢れ出すオーラは道ゆく女性たちにも伝わっていたのか、彼の側を通り過ぎる彼女たちは皆一様にその見目麗しい姿に目を惹かれていた。
一緒にツレだと誤認されて注目されるフィリアだったが、今は気恥ずかしさよりも悔しさが先行していた。
そんなフィリアの今にも泣きそうな顔を見た彼は、申し訳なさそうに眉を少し顰めるとゴソゴソとポケットを探る。
そして、何かをフィリアの手のひらの上に乗せた。
「………え?」
渡されたそれに、思わず喉の奥から声が漏れる。
だって、それは……。
「はい、これ。」
男に差し出した手に収まっていたのは、白無垢の宝石がはめ込まれたブレスレットだった。
細い銀製のチェーンで繋がれた、シックながらもどこか儚い美しさを持つフィリアにとっての唯一無二の宝物。
探し求めていた失くし物、それが確かに手元に戻ってきていた。
「え…!?え…………!!!?」
あまりの衝撃に度肝を抜かれてフィリアは開いた方が塞がらなかった。
「さっき人混みの中でぶつかった時、落としてたよ。どこ探してもいないから気が気じゃなかったよ。」
男は、にこやかに笑うと端的に事情を伝えてくれた。
言葉から察するにきっと、彼はブレスレットを落としたあの瞬間から自分のことを探し続けてくれていたのだろう。
初対面のフィリアにそんな労力をかける義理なんてないはずなのに。
このだだっ広いショッピングモールの中を探し回ってくれていたのだ。
そんな素朴ながらも温かい優しさに、さらに涙腺が緩む。
まるで、これが当然の行いだと言わんばかりの立ち振る舞いの彼に、フィリアは全力で頭を下げる。
「あり、がとう………ございます…ッ!!ありがとうございますっ!!」
わざわざ届けてくれた心優しい彼には、感謝してもし足りない。
土下座でもして感謝の意を伝えたいくらいだったが、それは悪目立ちしすぎて彼にも迷惑が掛かる。
だから、その分の感謝を込めて全霊で何度も頭を下げる。
「いやいいのさ、次からは気を付けてくれればそれていいから。」
彼は笑顔のまま手を振ってこの場を去る。
見返りを要求することも、下心のようなものを出すこともなくただただ善意のみの行動。
(対応までイケメンだ……。)
そう思いながら、フィリアは紫色の彼を見送るのだった。
それから、ほんの数分後。
「──フィリア!!」
少し遅れて、ミラが通路の奥から駆けてきた。
「ごめん、見つけられなかった…。」
肩で息をする彼女は、頬に流れる汗を拭いながら申し訳なさそうに目を伏せる。
買ったばかりだった服を皺だらけにして、汚れてしまったにも関わらずミラはどこまでもフィリアに心を砕いてくれている。
そんな献身的な心と言葉に少し言葉を痛めつつも、それがたまらなく嬉しかった。
抱きしめたくなる衝動を抑えて、フィリアはミラの肩に手を添えると、
「…ありがとう、ミラ。でもそれはもう大丈夫だよ。」
フィリアはハンカチを彼女に手渡しながら笑いかける。
「!見たかったの….!?」
息を切らしたミラは目を丸くしながら、視線をフィリアと合わせる。
「うん!親切な男の人が届けてくれたんだ!」
フィリアは満面の笑みで右手首をミラに見せつける。
超ご機嫌な今の彼女には、宝石の輝きが3割り増しくらいに映った。
「そっか…安心した。」
ミラとしては、その親切な男の人、と言うのが何者なのかは少し気になるところだったが、落とし物を届けてくれたところから察するに悪人ではないのだろう。
……ほんの少し、嫉妬してしまう部分がないわけではないが。
フィリアに頼りにされて、彼女の手を取るのは常に自分でありたい。
そんな独占欲を、ミラはそっと心の奥底に仕舞い込んだ。
「…じゃあ、今度こそ帰ろっか。」
「ん。」
何もかもが無事に解決した、そんなことを思いながらミラはフィリアの隣を歩く。
外の景色はすっかり変わっていて、夕陽の光も消えつつあった。
……思い返せば、こんなにも楽しく1日を過ごせたのは生まれて初めてだった気がする。
時間も忘れて、ただ友達としたいことをする。
そんな当たり前のことを、ミラは今まで一度だって経験してこなかった。
訓練と戦いばかりの日々には無縁の非日常。
本当に、本当に充実した休日。
それを教えてくれたフィリアは、ミラにとっては友達以上の存在になりつつあった。
そんなことを思いながら視線をフィリアに向けた時だった。
「………!」
肩から発せられた微弱な光に、ミラは即座に反応する。
目を凝らすと、小さな点のような赤い光がフィリアの髪に少し隠れた肩で明滅していた。
本能的に危険を感じて、ミラはフィリアか気が付かないほどの速度でチカチカと光る何かを指先で掠め取った。
その白い指先に収まっていたのは、彼女の肌の色とは対照的に純黒のマシンだった。
これを仕掛けた人間の悪意と同じくらいドス黒いそれは、依然赤く点滅しながらこちらを見据えている。
そして、ミラはこの形状のマシンには心当たりがあった。
(………盗聴器?一体誰がこんなもの…。)
これは、形状から察するに恐らく盗聴器。
その正体に辿り着いた瞬間、ミラは真っ先に周囲に最大の警戒を向ける。
こんなものを取り付けるということは、それはつまりフィリア……ひいてはミラが『円卓』に所属する人間だとバレているということ。
だが、周囲にそれらしい人影はなく往来する人々はどう見ても一般人しかいない。
……胸騒ぎがする。
ヴェナに逆探知を頼めば、すぐに発信元を特定できるだろう。
だが、これをキャメロッ島まで持って行くのは何か致命的な予感がする。
取り返しの付かないなにかが起こるような、そんな気がする。
指先に力を込めてパキ、と指で小型の機械を潰すと、ミラはスクラップになった盗聴器をそのまま道の上に捨てた。
放置しておけば、人の往来で粉々にされて掃除されることだろう。
回収も困難になるはずだ。
「……ミラ、どうかした?っていうか今何かした?」
鋭い目線で周囲を警戒し続けるミラのことなど知らずに、フィリアは呑気にさっきまで盗聴器が取り付けられていた右肩を気にしている。
もう少し気を張ってほしい……と思ってしまったが、今日は休日だ。
ほんの最近まで普通の日常を送っていた彼女にそれを求めるのは酷だろう。
その分隣で支える自分がしっかりしなければ、と一人内心で帯を締め直す。
それに『盗聴器が付けられていた』、なんてフィリアに伝えればきっと心地良いこの休日気分は霧散してしまうことだろう。
「…………何でもない。髪にゴミが付いてただけ。」
だから、ミラは敢えてこのことを彼女には伏せた。
知らぬが仏という言葉もある。
だが、いずれにせよシャグランたちへの報告は必須となった。
万が一ということもあり得る。
違和感を共有して損はないだろう。
「……あ!『芋けんぴが髪についてたよ』、ってやつ!?」
だが、当のフィリアは相変わらず頭がお花畑状態だ。
ありがちな少女マンガのワンシーンを指摘するが……
「…………………は?」
「…え?」
それがミラに通じるはずもない。
そんな気まずいやり取りと共に、2人の大捜索作戦は終了したのだった。
─────────────────
──ショッピングモールから少しだけ離れた駐車場。
夕暮れも差し込まない建造物の中を対照的な2人の男が出口を目指して歩を進めていた。
片や、アロハシャツの上からでも分かるほど鍛え上げられた肉体を持つ野獣のような雄々しさの男。
片や、蛇のようなしなやかな身体と、美麗な容姿で裡に渦巻く真逆のモノを隠した男。
「……あれ、途切れた…ってことは気付かれたのかな?」
蛇のような男──サーペンティは耳元のイヤホンから聞こえていた会話が突然途切れたことにほんの少しの驚愕を見せる。
先ほど接触した際に取り付けた盗聴機は、余程のことがなければ素人の彼女では察知できないはずだったのだが。
(………ミラかな?)
だが、フィリアと同行しているはずのミラであれば即座に看破しても大しておかしくはない。
何しろ、彼女はサーペンティのやり口は熟知している上にこういう遊ぶ時間でも油断しないのがあの子の美点だ。
「ふふ……次に会う時が楽しみだなぁ。」
師としての親心のようなものにクスクスと笑っていると、隣を歩く大男がため息と同時に口を開いた。
「…たく、なーんでわざわざ接触なんてリスクが高い真似するかねぇ…。お前なら他にもっとやりようはあったはずだろ?」
「ハハ、可愛い後輩たちにちょっかいを掛けたくなってね。キミにはそういう経験ないかい、スランガ?」
「ねえな。後輩なんざできた試しがねえし、できてもすぐ死ぬし。」
「重い話題ぶっこむなぁ。」
大男──スランガは呆れの感情を隠すことなくサーペンティの軽率な行動に嘆息する。
スランガの言い分も分かる。
サーペンティは、元々『円卓』の人間だ。
付け加えれば、今回接触したフィリアと同伴しているミラとは面識がある。
万が一にでも彼女が自分と邂逅していれば、まず間違いなく面倒な事態になっていたことだろう。
まあ、その辺りのリスクヘッジは抜かりなく行ってはいるのだが。
だが何にせよ、
「………にしても、お前も変わり者だよな。」
「ん?何が?」
不意にスランガが溢した一言に、サーペンティは思わず聞き返す。
下衆だの軽薄だの言われたことはそれこそ星の数ほどあるが、変わり者と評されたのは久しぶりだ。
それこそ、数年ぶりに言われた。
発言者が誰なのかは判然としないが、まあリオネスかヴェレーノのどちらかだろう。
閑話休題。
何か言いたげだったスランガは、ため息半分にその真意を語る。
「……連中、お前の『元同僚』なんだろ?躊躇いとか迷いとかねえのか?
…つぅか、そもそも本気で殺れんのか?」
「……あ〜…。」
それは、至極当然の質問だった。
かつての仲間であった者たちと、果たして戦えるのか。
普通は引き金が重くなり、心境に引っ張られるように判断力も鈍る。
敵に塩を送ることだってあり得るかもしれない。
何の事情も知らないスランガから見ればサーペンティが戦力として疑わしい部分があるのも然もありなんだ。
だが、そういう問いはとっくの昔に想定済みだ。
「ボクは別に気にしていないさ。ボクたち傭兵はクライアントのために全力で戦う。それが全てだろ?
──それに、ぶち殺したいヤツも一人いるからね。願ってもない状況だよ。」
「……は〜ん?」
建前と本音を混ぜた返答の真意を知ってから知らずか、スランガは含みのある答えをサーペンティへと返す。
彼の野生の勘…もとい洞察力は何も言わずとも雰囲気や声のトーンでこちらの意図を察してくる。
これ以上茶々を入れられても面倒なので、話題を180度の旋回させる。
「……ところでさ、あの2人ってどこ行ったか知ってるかい?」
今日、サーペンティとスランガがこんな人気の多い場所まで足を運んだのは確固たる目的があった。
一つは、メーレの店で弾薬を補充し後々の戦いに備えること。
そしてもう一つは、
久しぶりの休暇を与えられたあの兵士2人が羽目を外しすぎて面倒ごとを起こさないか心配、とのことでリリーから直々に頼まれていた。
ただ、サーペンティは先程まで席を外していたこともあって彼女たちが何をしているのか現状を把握していない。
そのため、つい先程まで二人の監視についていたスランガへ現状報告を兼ねた報せを求めたわけだ。
「確か、赤髪の方は何か買いに行ったみてえだな。姉の方は知らねえ、気付いたら撒かれててな。アイツらの親から預かった位置情報的にはその辺の裏路地にいるみてえだな。」
「…裏路地?」
その状況とロケーションに、サーペンティは直感的だが猛烈な嫌な予感を感じた。
赤髪の子が独断行動や勝手な何かをするのは簡単に想像がつく。
だが、黄色の方…ラムダは職務に忠実だ。
こういう場面では無難にこちらに合流していてもおかしくない頃合い。
だというのに、監視役である自分たちを撒いてまで単独行動をしている?
それも、裏路地なんて人気が極端に少ない場所で?
「ん〜、ちょっと様子見てくるよ。キミは先に戻ってていいよ、蛇旦那にはボクから連絡しておくから。」
あのブロンドの少女とは交流が少ないため断言は出来ないが、だからこそ何をしでかすか分からないというのが本音だ。
表立って動かない内は、存在感は極力消すに限る。
それがサーペンティの考える戦いの鉄則だ。
万が一、人目に触れるトラブルなんて起こしていたら洒落にならない。
「お、いいのかそんなサービス。有り難く受け取っとくぜ?」
…元はと言えばスランガがしっかり監視の目を光らせて入ればこんな面倒な事態になっていないのだが。
こっちの心情も知らずにけらけらと笑うスランガを置いて、サーペンティは急ぎ位置情報に導かれるままこの薄暗い駐車場を後にしたのだった。
補足のコーナー
①フィリアはミラとの思い出のブレスレットをぶつかって落としたと思ってますが、実際はどさくさに紛れてサーペンティさんが盗んでます。彼はそういう人です。
②描写が飛び飛びなので今一度になりますが、サーペンティさんは元々リオネスさんの右腕だった人です。つまり、明確に『円卓』の敵に回った元騎士です。立場的にはドリベンタスさんの所のアイラさんに近いかもです。今後の活躍にもご期待くださいませ…!