Rebellion Against Fate   作:zawadinosaur

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お久しぶりでございます皆様。しばらく顔を出せていませんでしたが、最近少しモチベが戻ってきたので新しいお話を更新させていただきます!
今回からゲストキャラの皆さんを動かしていくので、ぜひご一読ください!
そして解釈違い等ございましたら遠慮なくご指摘してください!!すぐに修正しますので!


第十七話『白蛇の森』

 

──????

 

歩く、歩く、歩く、歩く。

何も見えないに、ただ歩く。

歩かされる。

両手を縛る縄に引かれて、足を前に出し続ける。

隣にいるのは、きっとお母さん。

横からはぐしゃぐしゃと私と同じリズムの音がいくつもいくつも響き続けている。

お母さんも、きっと歩いている、歩かされている。

それに、知らない人達もたくさんいる。

 

周りはは暑くて暑くてじめじめしてて、羽虫がりんりん哭いている。

泣いているのは後ろの人たちも同じ。

啜り泣く音、嗚咽の音、ポロポロポロポロと涙が落ちる音。

 

ここは多分、森の中?

真っ暗で何も見えないはきっと、さっき着けられた目隠しのせいだ。

ぐちゃくちゃって地面がうるさいくて、私の手を引く人はもっとうるさい。

かみ、にえ、ささげもの、めぐみ、かみ、にえ、ささげもの、めぐみ。

ずっとずぅ〜っと、同じことばかり言っている。

 

「──白神様に恵あれ、我らに繁栄あれ。」

 

意味は、正直よくわからない。

自分たちがこれからどうなるのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

──エスト大森林、麓町オリエンス。

隣接する大自然の恵みと、それによって形成された穏やかな気候で発展した長閑な田舎町。

近代的な建造物など全くなく、時代劇の中に迷い込んだような街並みは風情があってなんだか心が踊る。

道ゆく人々の格好もフィリアたちが身につけているものとはかけ離れていて、麻布で作られたキモノ…と呼ばれる服を着用していた。

ハルカによれば、夏祭りや花火大会では一般的に着る物だそうだが生憎フィリアには一緒に祭りに行ってくれる友達はいなかったため初耳だった。

いつか機会があれば、『円卓』の皆んなと一緒に行ってみたいものだ。

 

閑話休題。

それはそうと、フィリアたちが今滞在しているのは街角にある茶屋だった。

 

「……それで、皆さん成果の方は…?」

 

みたらし、ずんだ、三色、小豆。

美味しそうなお団子が並んだ皿を前に、ヒラミーは気まずそうに話題を切り出した。

その問い掛けと同時に、他4人の空気はぐんにょりと淀む。

その理由は至極単純なものだ。

 

「申し訳ありませんが皆無です。『白蛇教』の名前を出した途端、蜘蛛の子を散らすように避けられていました。」

 

「ミラに同じく。」

 

「悔しいですわ…人生で初めてあんなに避けられましたわ…!」

 

「あ……あはは……。」

 

ミラとハルカが淡々と事後報告をして、シュバルツは湯呑みを片手に本気で凹んでいる。

そんな様子を見て、同じく情報収集に惨敗したフィリアは苦笑いを浮かべた。

揃いも揃って気を落とす皆と同じく、ヒラミーもまたため息と共に肩を落とす。

 

「恥ずかしながら……私もダメでした。相当煙たがられていますね『白蛇教』…。」

 

──この街に到着したと同時に、フィリアたちは五手に別れて情報収集に当たっていた。

既に『白蛇教』の情報は『円卓』側から提供されているが、念には念を入れるべきというヒラミーの方針に全員が賛同した。

…だが、街行く人々は『白蛇教』の詳細について知る者はほとんどおらず、それどころか『厄介ごとに巻き込まれるのは御免』と言わんばかりの対応ばかり。

無言で去っていく者はまだマシな方で、ひどい人は怒鳴り散らして追い払おうとする始末だ。

全員が別行動を取って聞き込みを行ってみたが、結果は空振り。

1時間以上を費やしたものの、得た収穫は皆無。

折角の方針だったが、徒労に終わってしまった。

そんな落胆の中、5人は仲良く団子と抹茶で休息を取る。

色とりどりの甘味を味わう瞬間だけは、さっきまでの出来事を忘れることが出来た。

 

「……なんだい嬢ちゃんたち。『白蛇教』のこと調べてんのかい、物好きだねぇ。」

 

特に言葉もなくお団子の串を積み重ねるフィリアたちに、店の奥から主人らしい男性が顔を出す。

ねじり鉢巻と付け歯かと疑いたくなるくらいの前歯。

どう見ても寿司屋だろ、とツッコミを入れたくなる外見の店主はフィリアたちと少し離れた席に座る客へ料理を提供すると、その足のままこちらに近付いてきた。

1時間前、散々情報提供を断られてきた以上、今は最早藁にもすがる思いだ。

 

「店主さんは何かご存知ですの?」

 

すかさずシュバルツは上品に湯呑を傾けながら店主に尋ねるが、彼の反応は芳しいものではない。

 

「いやぁ…あんなイかれた連中関わりたくもないってことぐらいしかなぁ。何回かガサ入れされてるとは聞いてるんだが……。」

 

その表情も言葉も、本心から彼らを忌避しているのは見て取れる。

一体何をどうすればここまで嫌われるのかが気になってくるレベルだ。

ここでも空振りか、とシュバルツが残念そうな表情を覗かせたその時だった。

 

「……のか?」

 

「え?」

 

先程店主に食事を提供されていた男性が、ぼそぼそと何かを呟くと声の小ささとは裏腹に勢いよく立ち上がった。

その余波で座っていた木製の座椅子はガランカランと勢いよく倒れ込み、騒音と共に静寂が場を包み込む。

ガラリと変わったその雰囲気に、全員の視線が一気にそちらに向かい、同時に警戒心が跳ね上がる。

 

「『白蛇教』を………追っているのか?」

 

打ち水を叩きつけたような静かさに、絞り出すような男の声が静かに響く。

ボロ切れのようになった外套を羽織った男は、フィリアたちのテーブルまでヨロヨロと近付くと血走った瞳で5人を順繰りに見つめた。

その眼光は奇人変人のそれに違いなかったが、その身なりは小綺麗なものだった。

この街に住む人々の着物とは違う、フィリアたちが見慣れた近代的な服装。

ただ、この人物が『白蛇教』の関係者ではないとは言い切れない。

 

「……。」

 

事情や情報を伝えるにしても決して低くないリスクが伴う。

そのことを理解している4人と、ひたすら戸惑っているフィリアは口を噤む。

 

「………。」

 

「……それは…。」

 

だが、

 

「…はい。彼らを調査して、最終的には捕えるのが我々の目的です。」

 

全員が判断を躊躇っている中、ヒラミーだけは最速最短の思考回路で眼前の男が無害だと断定した。

端的にな形での情報を伝えると、男は顔色を変える。

 

「っなら!!!」

 

先程までの幽鬼のような雰囲気から急変して、男はバンと机に両掌を叩き付けるとそのまま机に向かって頭を下げた。

 

「──俺も連れて行ってくれ!!妻と娘を助けたいんだ頼むっ!!」

 

そして彼の口から飛び出して来たのは、各々の予測とは些か違う懇願だった。

 

「奥さんと…娘さん…?」

 

一見、件のカルト宗教とはなんの関係もなさそうな二つのワードにフィリアは首を傾げながら先の衝撃で倒れかけていた湯呑みを抑える。

彼の家族と、『白蛇教』。

両者を結ぶ線なんて、情報不足の現時点で見つかるはずもない。

………いや、違う。

 

「………まさか…!」

 

思えば、繋がりの糸は一つだけある。

──『白蛇教』の罪状の一つに、無辜の民を生贄に使っていたというものがあった。

この男性の憔悴しきった姿と、『白蛇教』を追っている自分たちの存在。

これだけのピースがあれば、素人のフィリアでもその背景は推し量ることが出来る。

 

「人身御供の生贄に……選ばれたということですか…!?」

 

「あぁ……つい先日…奴らに攫われた…!!」

 

ミラが結論付けたその言葉に、男は苦々しい表情で首を縦に振る。

 

思わぬ急事態に5人は眉間に皺を寄せると顔を突き合わせた。

 

本来、よほどの事態でなければ現地の協力者を戦場に同行させるなどあってはならないことだ。

余程任務地の事情に詳しかったり、敵対することになる存在やリバイバーについて詳細に把握しているなどの事態は除くが、目の前の男はどう見ても巻き込まれた側の一般人。

情報源としても期待はあまり出来ない上、これからの旅に同行させれば高確率で命を落とすことになる。

だが、同行者各位が結論を出すよりも早く男は両手と頭を床に擦り付けて頭を下げた。

 

「頼む!俺の生きる理由そのものなんだ!!どうか…….どうか……!!

俺のことは肉壁に使ってくれてもいい!望むことはなんでも応える!!だからどうか…2人を………助けて下さい…!」

 

この懇願を前に、無碍に断ることはどうしても出来なかった。

これを断ることは騎士であること以前に、一人の人間としてどう在るか。

どう在るべきかを問われているような気がする。

 

「ど……どうしましょう…!?」

 

「この場での決定権は貴女にありますわ。ベディヴィア卿、ご判断を。」

 

今回の任務。

唯一のCN持ちの騎士がヒラミーだ。

この場で最も階級の高い彼女の判断に従うのが『円卓』としての規則。

だが同時に最年少でもあるヒラミーに決断を押し付けるような形になってしまったのは心苦しいものでもあった。

 

「〜〜〜……。分かりました。」

 

数瞬の逡巡の後、ヒラミーは苦しそうな表情を浮かべながら解答を作り出す。

規則か、心か、それとも別のルートがあるのか。

少女の出す結論に全員が固唾を飲む。

 

「旦那さん、顔を上げてください。」

 

小刻みに震えながら床に頭を擦り付ける彼の目前に、ヒラミーは膝を付くとその背にそっと手を添える。

 

「貴方の頼みは勿論引き受けます。私たちの最も重視するものは罪のない人々を守ることですから。ただ、こちらからも一つ条件が。」

 

ヒラミーの出した答えはシンプルなものだった。

元より『白蛇教』の拠点に向かう以上、そこに囚われている人間の救出はこちらとしても望んでいたもの。

予定からは多少ズレるかも知れないが、大枠にはなんの支障もない。

 

「なんでも…言ってくれ…!金か…命か…!?」

 

ヒラミーの言葉に顔を上げた男は、開き切った瞳孔を彼女に向けて浅い呼吸をするが彼女は首を横に張った。

そして、

 

「──どうかこの麓町で待っていて下さい。奥さんと娘さんの大切な人を失わせるわけにはいきませんから。」

 

天女のような優しい声色と表情で、男の掌を握る。

その言の音は不思議と、心の奥に染み渡るような音色でなんの雑念も感じさせない真っ直ぐさを持っていた。

 

「ありがとう……ございます…っ……ありがとうございます…!!!」

 

男は、大粒の涙を流しながら慈愛の騎士の前に首を垂れる。

ヒラミーの掌を包む仕草や言葉はどこまでも優しく暖かいものだった。

だが、その瞳に宿っている覚悟はとても年若い少女のものとは思えないほどに研磨されている。

 

「…ベディヴィア卿。」

 

「──はい。今すぐに、『白蛇教』の元に向かいます。」

 

ぐずぐずしている時間はない。

男性の剣幕からして事態は一刻を争う。

5人の騎士はそれぞれの武器を手に立ち上がる。

目指すはオリエンス大森林。

大蛇の大口のように開かれた薄闇に、彼女たちは踏み出すのだった。

 

──────────────────

 

──エスト大森林、中腹地点。

 

一行が森に足を踏み入れてから優に2時間が経過していた。

森の中には絶えず野生動物たちの鳴き声や生活音がオーケストラのように奏でられていて、小さな物音程度は軽く飲み込んでしまいそうなくらいには騒々しかった。

加えて、足場も悪い。

雨の多い盆地であるこの場所の土は常に湿り気を持っていて、油断すれば足を取られかねない。

さらに、フィリアたちが歩いているのはロクに整備がされていない獣道だ。

虫除けは過剰なくらいにしてきたが、それもどの程度続くのかも未知数。

そしてなにより…

 

「暑い……なにここ…ジャングル…?」

 

「流石に蒸し暑いですわね…。この森自体が盆地状の地形である以上仕方のないことですが…。」

 

圧倒的に高い湿度と気温が問題だった。

時期が時期だけに、サウナと見紛うくらいの圧倒的な湿気とそれに付随して上がる体感気温。

普段から比較的薄着のフィリアではあるが、この熱気の中ではそんなものはもはや関係無い。

全身から汗が吹き出して、進行速度は下がる一方だ。

首にタオルを巻き付けて、亡者のような足取りで先頭を歩く先達たちに必死にくらいついていた。

 

「フィリアさん、こまめに水分補給をして下さいね。自分が思っている以上に水分を消費してるはずですから。」

 

「ありがとうございます…。」

 

フィリアの一つ前を歩くヒラミーは、まだ未開封の経口補水液を手渡す。

もはや液体を嚥下する元気もないが、それでも摂取しなければ命に関わる。

残り少ない元気を振り絞って、フィリアはすでに温くなった命の水を喉に通す。

乾いた身体を潤すと、視線を先導する騎士達へと送った。

フィリアたち一行は、今現在一列に並んで行進を続けていた。

 

「ミラ、だいぶ体力ついたね。見違えた。」

 

「っはい…!ですがまだまだ…!!」

 

先頭を歩くのは、フィジカル面に秀でたハルカとミラ。

桜色の綺麗な髪飾りを揺らすハルカに、息を切らしながらもミラは同じペースで歩き続けている。

対するハルカは息すら乱れておらず、歩くペースも依然変化しない。

一体どれだけの体力オバケなのかと恐ろしくなるが、それ以上に気になる点が一つあった。

 

(綺麗な髪飾り…。ケイ卿から貰ったのかな…?)

 

それは、深緑の中で嫋やかに揺れる桜の髪飾り。

元から綺麗な髪色をしていたハルカを、さらに美しく彩る一輪の花。

少し前、2人の隊室に召集のお知らせをしに行った時から着け始めたアクセサリー。

フィリアの修行期間中、ケイの周囲で何かしらのゴタゴタ……もとい激戦があったとは聞いていたが、もしかしたらその期間で2人の距離は縮まったのかも知れない。

具体的にどんなことがあったのか、今の2人がどんな関係なのか、その辺りはフィリアには知る由もない。

でもいつかお茶の席なんかで聞いてみたいな、などとフィリアは思い耽る。

 

閑話休題。

それはそれとして、先行するフィジカルエリートたちに続くのは比較的一般フィジカルの3人。

3人の先頭をシュバルツがドレスを揺らしながら歩き、その後ろをフィリアと、フィリアにペースを合わせてくれて歩くヒラミーが続く。

今はギリギリ列から遅れずに済んでいるが、それも時間の問題だろう。

 

「ベディヴィア卿……まだ目的地は先なんですか…?」

 

「ん〜、残念ながらそうみたいです。ここからあと数km歩かないといけない…とおじいちゃんから貰ったにはマップでは出てます。」

 

「マジですかぁ…!!」

 

そろそろ限界が近付いていたフィリアが隣を歩くヒラミーに問い掛けるが、その返答は残酷なものだった。

今現在歩いた距離が何kmなのかは判然としないが、もうフィリアの足腰はボロボロだ。

出来ることならこの場で五体投地してしまいたい。

 

「流石に一度休息を取りましょう。ハルカ様たちにも伝えて来ますわ。」

 

「そうですね…このまま目的地まで歩き通しというのも後の任務に差し支えるかもしれませんし。」

 

そんなフィリアを見かねて、こちらを振り向いたシュバルツは小走りで先頭を歩くハルカとミラまでの伝令役を買って出てくれた。

思えば、麓での出来事から休息なんて一切考えずに最速の行軍を続けてきた。

全員、表には出さなくとも相当の疲労が溜まっているはず。

『白蛇教』の根城に辿り着くのがゴールではない。

むしろそこからがスタートラインだ。

潜入、戦闘、救助、どんな任務が待ち受けているのかはまだ未知数。

故にこそ、あらゆる事態に備えて身体のコンディションを保たなければ。

 

「ハルカ様、ミラ様。一度この辺りで休憩を挟みましょう、流石のお二人も疲れが溜まっているでしょう?」

 

小走りのシュバルツは、数メートル先を歩いていた2人の背中に軽々と追い付く。

その足取りは、重厚なライフルケースを背負い、さらにドレスという動きに制限がある服装ということすら感じさせない。

それもそのはずだ。

何せ、シュバルツは(ラグルの無茶に付き合い続けたせいで)いかなる悪環境にも既に慣れっこだ。

直近では吹雪吹き荒れる銀世界を歩き回っていた。

それに比べればこんな森程度、舗装道路のようなものだ。

 

「シュバルツさん。………確かにそろそろ頃合いですね。では、私とハルカさんで座って休める場所を探して…」

 

陶器のような白い肌に汗を流すミラは、シュバルツの呼び掛けに首を翻すとそのまま首を縦に振る。

追加の仕事まで率先してこなしてくれるひたむきな後輩に頭が上がらないが、それよりも先にとある違和感に気が付いた。

 

「…ハルカさん?」

 

「ハルカ様…?」

 

ハルカの様子が普段と異なっていた。

平時のハルカであれば、ミラやシュバルツの呼び掛けに何の反応も示さないなどということはあり得ない。

だがその視線の先は、鬱蒼と繁る木々の間に固定されている。

まるで2人の声がまるで届いたいないかのようで、その眼差しはまるで研ぎ澄まされた鋒のように集中しきっていた。

 

「止まって。…………何か来る。」

 

その声と共に、ハルカは腰の剣に手を掛けた。

ただそれだけのアクションだったが、隣に立つ2人の警戒レベルが必然的に向上する。

彼女が意味しているのは、()()

『白蛇教』の手の者か、ノライバーか、それとも別の第三勢力か。

現時点でそれらを判別することはできないが、脅威であることには変わりない。

ミラは腿に装着しているホルスターに、シュバルツは背に携えたライフルケースに手を伸ばす。

そして、僅かに変わった空気の流れで何かを察したのか、ヒラミーもフィリアの手を引き素早く彼女たちの陰に身を置く。

 

「…正面左の茂みから来る……。数は、3……いや4。この感じからして人間じゃない……野生動物か、もしくはリバイバー。」

 

一体何を以て判断しているのか、秒針が進むごとにハルカは次々と情報を口にする。

たがその直感は確かなようで、フィリアたちの行手からは確かにガサガサと木々を突っ切りながら奔る何かがいた。

音はどんどん大きくなって、木々の揺れもさらに膨れ上がる。

枯れ木を踏み折る音と、泥濘んだ土を踏み散らす音が段々と大きくなっていく。

続けて聞こえるのは、獰猛なまでの息遣い。

 

そしてその正体は、

 

 

b()i()g()「KYAAAAッッ!!」/()b()i()g()

 

 

揺れる茂みから飛び出してきたのは、白と群青。

真綿のように美しい白の毛並みと、青く伸びたトサカ。

加えて、鋭い牙と爪。

その姿に該当する存在は、この世に二つとない。

 

「ベロキー…!それも4頭……!!」

 

太古の暗殺者──ヴェロキラプトルのリバイバーであるベロキーだった。

 

「フィリア、下がってて。」

 

「ミラさん、シュバルツさんやりましょう!」

 

「はい。」

 

「了解ですわ!」

 

その姿を認識すると同時に4人は迎撃の体制へと入る。

ハルカが鞘から抜刀し、ミラ、シュバルツ、ヒラミーは相棒のメダルを構える。

見たところ敵は特殊な個体ではないベロキー。

この4人の前では脅威にすらなり得ない。

だが、

 

「kyao……」

 

番いのベロキーは、こちらを一瞥するだけで何もせずに、足早に別の茂みへと消えていった。

 

「…!?」

 

「どこへ……?」

 

その予想の外の行動に、ミラとハルカは気が抜けたように武器を下ろした。

短くガサガサと茂みは音を立てるが、すぐにそれも木々のざわめきに消えて行った。

一度は、姿を消して撹乱するつもりかとも疑ったが、あの2頭の気配は既に消えている。

その様子から察するに、あの2頭は自分たちの姿なんて微塵も映ってはいなかったことだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぅっ…!!?」

 

瞬間、キン、と脳を貫くような痛みがフィリアは頭を走り抜けた。

予期すらしていなかった突然の激痛に抗えず、思わず膝を付く。

ぐしゃり、と柔い地面で膝小僧が汚れるが絶え間ないノイズが思考を上書きしていく。

そして、その出所は明白だった。

 

「さっきの……ベロキー…っ!?」

 

森の中へと消えていった2頭のベロキー。

彼らの抱いていた強烈な思念がフィリアの『特性』を通じて脳に流れ込んできていた。

他生物の思考を読み取ったことは今までに何度もあったが、こんなにも痛みが伴うのは初めてのことだった。

それだけ、彼らの抱いていた感情が強大だったということなのだろうか。

それとも、何か他に理由があったのだろうか。

判然としない慣れない感覚に、フィリアは目眩を覚えながらもなんとか立ち上がる。

 

「フィリア、大丈夫?」

 

「うん…ありがと、ミラ。」

 

ふらつきながら立ち上がるフィリア肩を、ミラが咄嗟に支える。

未だ頭痛は治らないが、襲い掛かってきた情報の内容はようやく理解出来た。

だが同時に、彼らの心の内側を支配していたのは思いがけない感情だった。

 

「あのベロキーたちは……()()()()()()…。」

 

そう、あの2頭のベロキーは明確に()()を恐れていた。

身が引き裂かれそうなほどの恐怖で慄いていた。

その畏怖の念の強さはなんの事情も把握していないフィリアですら釣られて震えてしまうほど。

生命の最も忌避するもの……『死』に直面したかのように怯えていた。

だが一つ大きな疑問もまた発生していた。

 

「恐れている…?一体何を……それにあのベロキーたち()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「ベロキーは身体は小さいけど、知能も攻撃力も高い強力なリバイバー。群れでいれば尚更脅威。それが戦いもせずに逃げる相手……。」

 

一体何が、ベロキーたちに逃げほどの恐怖を与えたというのだろうか。

ハルカの言う通り、彼らは小柄ながらも驚異的な暗殺者だ。

群れを成した彼らの連携は大型のリバイバーにすら匹敵する。

そんな彼らが、戦いを選択せずに逃げ出すほどの脅威。

そんなものが果たして存在するのだろうか。

いや、それが存在するとしたら、きっとそれは……

 

 

「……ともかく進みましょう。答えはきっとこの先にあるはずですから。」

 

 

──それは、途方もない怪物に他ならない。

 

嫌な予感が止まらない。

進む足は重さを増すばかりだ。

だが、止まっていては麓町の男性の家族を助けることは出来ない。

全身にへばりつくような悪寒を抱えたまま、5人は鬱蒼とした道を進むのだった。




とりあえずの更新でございます…!!続くお話はなる早で更新いたします!!!
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