Rebellion Against Fate 作:zawadinosaur
今回は珍しく早めに話が形になったので1ヶ月スパンで投稿できました次第でございます!
さて今回はVSスランガ戦終盤に突入でございます!バケモンコンビのギガロン&スランガにもう飽きてるかもしれないですが、あと2話か3話で『共同任務編』もおしまいとなります…!ラストまでお付き合いいただければ幸いです!!!
〜side ミラ〜
──廃村中央部。
黒い雨に濡れた泥のような地面を、甲高い鳴き声と共に力強い脚が踏みしめる。ばしゃりと黒い塊のような泥が跳ねるが、それが着地するよりも早く2つの影は疾走する。黒と白のコントラストが鮮やかな羽根と共に強烈な風圧に揺られながらその背に跨るのは、対照的な黒とは金色の髪を揺らす少女……ミラだ。
「GOOOOOAッッッッ」
全身の細胞が震えるような咆哮と共に、眩い死の光が中空に灯る。真っ白な光を放つ電球のようなそれは、瞬く間にバチバチとプラズマのようは光が蠢き始める。しかもその砲口は真っ直ぐ追従しながらミラへ狙いを定めていた。死を知覚するには十分かつシンプルな光景に、背筋を悪寒が走り抜ける。
「っ旋回!射線から離脱して!」
「KUAッッ!!」
最速で下した指示に騎馬たるリバイバー……ティタニスは勇ましく喉を鳴らすと泥濘んだ大地をその進行方向を180度翻した。刹那、
ジュオッ
と、何かが溶け落ちる音と共に数秒前までミラたちが走っていた位置に赤熱した孔がぽっかりと空いていた。その映像に心の底から戦慄する。
数秒前まで自分たちが走っていた場所には、真っ赤に熔けた穴だけが残っていた。あんなもの、掠れば終わりだ。
「っありがとう、ティタニス…!流石ベディヴィア卿のリバイバーだ。」
「Keaa♫」
心からの感謝に、ティタニスは誇らしげに喉を鳴らすと更にさらに加速する。何故なら、
「GAッッ!!」
ギガロンが短く咆哮した次の瞬間、ティタニスはその健脚に力を込めると、さらに進行方向を逆転させ逃亡から一転、攻勢に出た。全身にのし掛かる重力に抗いながら、ミラは決して敵から目線を離さない。
その隻眼に映るのは、無数に迫る光の槍。それが弾丸のように小さく圧縮された『アロテラー』であることを察するのはコンマ数秒遅れたが、下す判断は変わらない。
「ッッ避けて!!!」
「KUAAAっ!!!」
ティタニスの雄叫びが大気を震わすと同時に、大量の光槍が正面から降り注ぐ。少しでも掠れば死が確定する難局であっても、速度は少したりとも落ちることはない。針の穴を突き通すような繊細な軌道で光の雨を潜り抜けると、そのままの軌道で砲台たるギガロンの間合いにまで迫る。
「GARUAッッッッ」
だが、ギガロンもそれを易々と許すようなタマではない。岩山のような荒い爪を振り上げた巨獣は、それをスライサーのように敵向けて叩き伏せた。急降下してくる手のひらはまるで天から降り下ろされる包丁。人体程度一撃で両断可能であろう一撃に向き合いながらもミラとティタニスは逃げ出さない。それどころか、更に速度を上乗せした。
「駆け上がって…ティタニスっ!!」
「KAッッ!」
巨大な掌の隙間をすり抜けると、そのまま手の甲を踏み台に岩壁のような剛腕をまるでアスレチックのように駆け上がると刹那の間にギガロンの肩先まで迫る。
眼球の動きから、こちらの出方が見切られていることを悟るが、見上げるほどの巨体では即座に喉元まで突き付けられた刃を撃ち落とすことは叶わない。しかしそれでも怪物は反射的にその口腔を僅かに光らせた。だが、エネルギーが収束するよりもこちらの攻撃が届く方が疾い。
「今っ…『ティタニスコンボ』!!」
ミラの指示が下されると同時に、モノクロのシルエットは目にも止まらない速度での連撃がギガロンの顔面に叩き込まれる。
「GA……FUAっ!?」
鋭利な爪による一の段と、流れる様な滑らかな動きで連続蹴りによる二の段。大型リバイバーすら怯ませるこの攻撃は、如何にタフなギガロンであっても例外ではない。口に溜まり始めていたエネルギーも霧のように霧散した。この化け物のエネルギー砲がどれだけ凶悪かつ強烈だとしても、そもそも撃たせなければ問題ない。このままヒットアンドアウェイに徹して隙を作り続けることが今のミラの役目だ。
そして、ダメ押しにもう一つ弱体化を付与する機会が巡ってきた。
「おいで、プレシオっ…!」
メダルケースから迷い無く取り出したのは、青と白のメダル。そこから僅かな間もなく呼び出された相棒の一人は、1秒にも満たないアイコンタクトだけでミラの思惑を理解してくれた。
プレシオか狙いを定めたのは、ギガロンの頭部。つい先程ティタニスが蹴り上げ、その衝撃で開かれたその口腔内。エネルギーが溜まり始めたタイミングであれば、これから行う作戦は焦熱光線に伴う熱で消し飛ばされていたことだろう。だが、今なら──
「『アトランティックボム』っっ!!」
「Kyuッッ!!」
空中で高速旋回するプレシオは何も無いはずの空間に渦を作り出すと、そこから気泡の様な泡がボコボコと生まれては弾ける。この泡をそのままの形で放つのが通常の『アトランティックボム』だ。
…が、この怪物相手に普段の濃度で足りるはずもない。プレシオは作り出した泡を囲むような3次元的な軌道でグルグルと周回を始めた。弾ける毒の一滴すら逃さず、濃縮還元された毒はもはや泡では無く、どろりとした粘性を持った薬液と化していた。ただ、問題はワザの速度だ。ゆるりゆるりと落下する液体では、目標に届くよりも先にギガロンが口を閉ざしてしまう。
ただまあそれは、
「──お願いします!!」
一人で戦ってた場合の話に過ぎない。
「Kueeeッッ!!!!」
廃墟の隙間を縫って、白と緑の黒影がジェット機さながらの速度で舞い上がる。慮外の闖入者にギガロンはほんの一時動きを止めた。が、クエルコが…その主人であるシュバルツが欲しかったのはその数秒だ。
『 『フットバシ』ィ"ッッッッ!! 』
後方から吹き荒れたのは、追い風という言葉すら生温い超突風。激烈な風圧は、毒性の液体程度簡単に急加速させる。粘ついた塊はそのままの形を保ってゴールまで直進した。
「Geaaoっ!?」
突如喉の奥まで突っ込まれた異物に拒否反応を示すが、それを吐き出す暇など与えない。反射的に嘔吐こうとするギガロンの顎先をティタニスが再度蹴り付ける。真上を向く様に方向を強制的に変えられたことで、彼の喉奥に毒液が雪崩れ込んだ。
「Gu……………………AAAAAAAAッッッッっ!!!!!」
喉が焼け落ちるような感覚に、内側が爛れる最悪の激痛にギガロンは悶えるように苦悶の咆哮を上げた。確かな手応えに、ミラは内心で拳を握り込む。プレシオの有する激毒は、あらゆるリバイバーの体力をごっそりと抉り取る。これで戦況はこちらに傾く───
「わけ、ないか」
眉間に皺を寄せながら、ミラは嫌になりそうな現実に苦笑する。だって、見えていたから。
「──レスナーっ!!ぶちかまして!!!!」
「Garuoaaaaaaaッッッッ!!!」
だが焦熱光線を放つ構えを取ったギガロンの僅かな隙を、CNを持つヒラミーが見逃すことはあり得ない。固定砲台の様に地面に貼り付くこの瞬間だけがギガロンの明確な隙だ。
白い巨影の真横から、黒炎が走り抜ける。ギガロンに迫る巨体が、その肉体全ての筋肉を総動員して体当たりを敢行した。甲殻同士が激突する轟音が響くと同時にギガロンの身体はボーリング玉のように転がり飛ぶ。
ズドン、ガゴン、と無人の木造住宅を粉砕しながら錐揉み回転する姿は戦闘不能に直結しそうなモノだが、こんなもので決着はしないと全員が理解していた。
だからこそ、
「『ヒートブレス』っ!!」
『 『ダイセンプウ』"ッッ!!! 』
ダメ押しに、酸素遮断の火炎旋風をお見舞いする。
フィリアの初任務で相対したと記録されている異常な再生力を持ったセイスモーを撃破したのと同じ手口だ。どれだけ頑丈であっても、無酸素空間は生物にとっては非生存領域。意識をシャットさせることが出来ればゲームセットだ。
が、
「これでもダメですか…!?」
『何っっなんですのコイツ…ッ!!!』
一筋の閃光が、竜巻の中から直上に走り抜ける。光の河のような高熱の奔流は持ち上がった次の瞬間、振り下ろすような軌道で正面に向けられる。レーザーと同義なその光はちっぽけな炎と風程度瞬く間に掻き消して、一刀両断してしまった。円の形を失いただの風のように吹き消える。
上がる煙の中で揺らめく姿は、最悪なことに戦闘序盤と変化すらない。僅かにでも疲労や負傷が見て取れればまだ希望は持てると言うのに、残念ながらそんなお優しいことはないらしい。
──突破力が足りていない。
ミラのテフラーを欠いていることを加味しても、火力があと一歩足りていない。3人が出せる火力では、このままダラダラと戦い続けることになるだろう。しかも、継戦=被害の拡大だ。既に戦場である『白蛇教』の村は壊滅状態。加えて、周囲の山の景色も焼け焦げて生物の住める環境ではない。
これ以上時間を掛けるわけにもいかない。だと言うのに…
「どう……します、か…ベディヴィア卿…?」
ミラには、この現状を打破するだけのイメージが出来ない。何をしたとしても、あの怪物は跳ね除けてしまいそうな気さえする。そしてそれはシュバルツも同じだ。通信機の先からは彼女の歯軋りの音が聞こえてくる。
ヒラミーもまた、この最悪がすぎる現状に歯噛みしていた。
「〜〜っ……。一度、引きましょう…!全員の力が無ければ、アレは倒せません…!!」
この場を率いる長として、決断しなければならない。
全員の力を合わせるためにも、今は引かなければならない、と。
悔しさと情けなさを噛み潰して、ミラとヒラミーは相棒と共に踵を返して仲間達の元へ走るのだった。
─────────────────
〜side ハルカ〜
──所は変わって、戦場はハルカとスランガの熾烈な肉弾戦。
「〜〜〜ッッ!!!」
「ぅはははァっ!!!」
凄まじい衝撃波と共に、2人を中心に地面は大きくひび割れる。スランガの拳から吹き出し、ハルカの肉体もまた悲鳴を上げる。
ギシギシと骨の軋む嫌な音が鼓膜を叩き、それを追うように痛みが両腕を走り抜ける。痛みのおかげで意識はクリアだが、だからこそハルカは現状に危機を感じていた。
(…〜ッ、あと一歩…斬り込めない…!!)
それは、
──ハルカとスランガ。
共に驚異的な身体能力を備えたフィジカルモンスターたちだが実のところ、両者の間に身体能力の差はそこまではない。だが、互いの有する技量に関しては圧倒的なまでに差があった。幾つもの死線を潜り抜けて来たハルカは、『円卓』の中でも疑う余地のない強者だ。だが、相対しているこの男もまた、傭兵として半生を捧げた生粋の戦士。
生きた年数による圧倒的なまでの戦闘経験の差。
それが剣VS拳という本来なら成立し得ない現状を生み出していた。
これまで、ハルカはスランガに致命の一撃を与える機会は幾つもあった。しかし、その尽くをその拳に叩き伏せられた。敵ながら天晴れと言う他ない技量だ。そしてそれだけに留まらず、スランガは徐々にハルカの技の精度と速度にも適応しつつあった。
「〜〜ッッ!!」
目の前に転がる現実に歯噛みしながら、次なる一撃を放つべく愛刀を構えた。弱気は技を鈍らせる。疑心は判断力の足を引く。胸の裡に湧いて出た靄を払い、『これで決める』と心を強く保つ。
……が、
「………そろそろ店仕舞いかねぇ…。」
視線を尖らせるハルカとは対照的にスランガは退屈そうに目を細めた。その冷めた視線はまるで
彼にとっては繰り返し出される技は、同じ料理が幾度も提供されるようなものだ。バリエーションを付けたとはいえ、元の味わいは変わらない。最早構えだけで放たれる技すら予想がつく。
「ッなら…!!!」
その目線に、ハルカの額に青筋が走る。それは怒りから来るものではない…とは言い難いがその原因は彼女の全身に込められた力によるものだ。これまで打ち合っていた時よりも遥かに強く、深く、血管に張り巡らせるように『力』を流し込む。生み出される推進力はこれまでの比ではない。踏み込むだけで地を蹴り砕くほどの膂力をそのまま速度に変換して、ハルカはスランガへ突っ込んだ。
「──と、そりゃお前はそう動くよな?」
全ては彼の思惑通りに。
「っ!?」
不意に彼が浮かべた笑みに、ハルカの背筋を悪寒が走り抜ける。仔細は分からないが、確実に罠に嵌められたことを確信した。このまま突っ込めば敗ける、と。
「っぐぅ!」
咄嗟にブレーキを掛けて減速はしたが、敵との距離は僅か数メートル。フィジカルモンスターてあるスランガなら瞬きするよりも疾く距離を詰められる。
突風と共に彼我の距離が消え失せた。一瞬で変化した間合い。僅かな焦燥。長い刀身を振り抜けないほどの近距離。
マイナス要素だけで構成された状況の中で、スランガの拳が形を変える。殴る為だけに造られたような握り拳ではなく、
そして、
「咬ッッ!!!」
「ッが!!?」
ハルカの右腕に激痛が走り抜ける。この痛みは殴打による圧痛や衝撃によるものではない。もっと深く、されど表面的なモノ──神経を蝕む痛みだ。
スランガが突いたのはハルカの上腕の経穴。一般的にはツボなどという呼ばれ方をされている部位だが、中国拳法に於いては効率的にその部位を破壊するウィークポイントそのものだ。筋肉や骨ではなく神経を刺激するその一撃は、いかに強い痛み耐性を持つハルカとはいえ耐え難いものだ。
──その隙を、スランガは見逃さない。
「把威ッッ!!!!」
瞬間、真下から放たれたナニカがハルカの麻痺しかけの両腕を弾く。
……いや、ナニカなどという曖昧なモノではない。これは、
(ここに来て───蹴りッ!?)
この局面でスランガが放ったのは直上へ打ち上げるような軌道の
──この戦いの中、違和感は確かにあった。中国拳法を極めた拳士であるスランガが、なぜ拳しか使わないのか。
戦闘の冒頭、肉を殴る感覚を重視していたこの男は拳のみの攻撃をしてくるのだろう。そんな固定観念がどこかにあった。故に、足技の類は来ないものと
クルクルと回転しながら宙を舞う刀は、立ちはだかるスランガの後方へと突き刺さった。まるで墓標のようにも見えるそれを見た瞬間、冷や汗が頬を流れる。
「じゃあな、お前のことは一生記憶に刻んでおくさ。」
「あ──」
「楽しかったぜ?」
刀を失い、腕すら満足に動かすことの出来ないハルカにスランガの一撃を防ぐ術などありはしない。無防備に開かれた胴体は、彼にとっては格好の的でしかない。
「───噴ッ!!!!」
大気を震わせる声色と共に、地面が大きくひび割れる。
繰り出される一撃の名は、『絶壊』。
八極拳の代名詞たる発勁をより殺戮に、破壊に特化させたモノを壊すためだけに存在する殺人拳。接触した対象の内部を揺らし、千切り、機能から殺し最終的に物理的にも死に至らしめるスランガの有する一撃必殺。
ズン
そして、地を割る震脚と共に無慈悲の一閃がハルカの胴体に突き刺さった。
「──、───、─────。」
胴体こそ貫通しなかったが、そのダメージは甚大。達人や屈強な兵士ですら一撃で絶命しかねない破壊力の一撃をガードも無しでマトモに受けたのだ。心臓が稼働しているだけでも奇跡と言えるような状態。口の端から鮮やかな紅色な溢れて、そのまま膝から崩れ落ちる───
はずだった。
「ッ〜〜〜〜ぁあッッ!!!」
「おガッッ!!?」
次の瞬間、ハルカの肘打ちがスランガの顎にクリーンヒットする。その破壊力は容易く彼の顎を外し、泥濘んだ地面に膝を付かせるに十分すぎる代物だった。
脳をシェイクする勢いで揺らされたスランガは廻天する視界の中、冷静に外れた顎を嵌め直すとガチガチと数度歯噛みをして肉体の損傷具合を確認する。幸い、脳を揺らされただけでダメージは軽微…………とはいかない。正直立っているだけで吐き気が起こるほどの浮遊感と膝が芯から震えるようの虚脱感が常に全身を覆っている。まさか勝ちを確信した盤面からここまで覆されるとは思っていなかった。
「……………お前マジで化け物じみてやがるなァ。決まり手の発勁を流した上でカウンターかよ。」
「ハッ……ハッ………ゲホッッ……ッッ!!!」
「ま、タダでは済んでないわな。」
ゴボ、と気泡が弾ける音と共に黒い地面にさらに赤黒い血溜まりが零れる。威力を流したとはいえ、ハルカの肉体に蓄積されたダメージは本来人間一人が絶命してもおかしくないほどだ。
寧ろ、血を流す程度のダメージで済んでいる彼女が異常とすら言える。
「だがよぉ、次の一撃は流せるか?俺も万全じゃァねえとはいえ、まだまだ元気いっぱいだぜ?あと何回さっきみたいに跳んで跳ねてが出来るよ。」
顎関節を嵌め直し、流暢に言葉を話せるようになったスランガは余裕綽々といった様子で挑発を始めるが、ハルカの耳には半分も入っていない。
(…腕に力が入らない……。肘から先の感覚がもう…。)
開戦と同時に凄まじい破壊力と振動を放つスランガの拳を受け続け、経穴を的確に射抜かれた両腕は既に使い物にならなくなり始めていた。最早痛みすら感じない両腕に、スランガの後方に突き刺さっている愛刀。冷たい雨に打たれながら、ハルカは静かに確信した。
『次は、絶対に受け切れない』、と。
────────────────
〜side フィリア〜
あの母娘と別れた後、フィリアは仲間たちの援護のために村の中央部まで戻ってきていた。
響く金属同士のぶつかり合う音と、絶えず巨影から白い熱戦が放たれる空気の軋む音。まるで悪夢のような光景へ向かって走る時間は恐怖でしかなかったが、それでと脚は止められない。
カケラほどでもいいから助力を、大切な仲間たちの役に立て。そんな思いが震える脚を動かしていた。
そして、村中央付近でフィリアが見た光景は…
「ハルカさん…!!」
刀を失い、決定打を受け地に膝を付くハルカの姿だった。素人目で見ても危機的な状況…最早詰みに近い盤面を目の当たりにしてフィリアの呼吸が一気に早まる。
──どうするべきか。
そんなありきたりな疑問が脳裏を走る。援軍に来たのだから、助けに向かうのが正解なのだろう。だが、あの敵影と初めて遭遇した時に解ってしまったことがある。
だから、仮にフィリアが出て行ったとしても時間稼ぎにすらならない。転がる死体の数が1つ増えるだけだ。役に立つ、なんてことを思考するよりも早くあの世へ旅立つこととなる。
(でも……だからって……!!)
だが、このままここで震えて見ていることはハルカを見捨てることを意味している。師であり、友人であり、何より大切な仲間である彼女を見捨てることなんて出来やしない。
…考えろ、考えろ、考えろ。
どうすれば窮地を脱することが出来るのかを。足りない脳を限界まで回せ。
(多分、隠密行動はダメだ。あっという間にバレちゃうはず……。)
あの男は、交戦前に離れた位置にいたフィリア達の気配を一瞬で気取っていた。気の隠し方が三流以下なフィリアじゃ秒で見つかってしまうことだろう。
であれば、遠距離からの射撃ならばどうだろうか。……とほんの少し思考したがそちらも難しいことだろう。漸く動く的に弾を当てられるようになった程度の腕前では一撃だって当てられない。寧ろ、ハルカの方向へ誤射してしまう可能性だってある。
もしもそうなら、フィリアの取れる選択肢は一つだけだ。それも、タコ負けする未来しか見えない最悪の賭け。ほとんど自殺するようなものだが、これしか取れる手段はない。
「……………やるしか…ない、か。」
躊躇っている時間すら惜しい。黒い雨が降り注ぐ中、静かに少女騎士は決心するのだった。
「さて、華々しくこのフルコースを締め括ろうじゃねえの。」
「ッ…!!」
場面は変わって、スランガはゴギンと鎖同士をぶつけ合わせると一歩一歩を噛み締めるように踏み出すと、膝を付くハルカに向けて拳を構えた。楽しい上に肝が冷える戦いを提供してくれた目の前の少女に対するせめてもの返礼だ。己が鍛え上げた最大最高の一撃を以て、ド派手にこの宴を終わらせるとしよう。
「まだ…だっ……!!」
絶体絶命。そんなフレーズが頭を過ぎるが、ハルカとてまだ諦めるわけにはいかない。
ガクガクと震える手足を奮い立たせて無理矢理立ち上がるが、ただそれだけのアクションですら全身に鈍い痛みが走り、口の端からは赤黒い血が流れ落ちた。『鳳龍の冥加』の効果で『絶壊』で受けたダメージの修復は既に始まっている。だがそれを加味しても、まともに動けるほどの治癒とは程遠い。残る力を絞っても、動けてあと1度が限度だ。撃退にせよ、撤退にせよ、このたった一度のチャンスでこの戦局は大きく変わるだろう。
視線を尖らせ、目の前の怪物を睨み付けるハルカだったが…
「──ぅぅあああああっっ!!!!」
次の瞬間、スランガ共々彼女の意識は真正面から響いた雄叫びに向けられた。その声色の主をハルカはよく知っている。だって、スランガの背後から走ってくるその姿は…
「フィリ、アっ!?」
「お〜お〜、隠れてやがったもう1人か。なんだなんだ?お前も戦いたくなったのかァ?」
後方からダダ漏れだった気配にスランガは驚く様子もなく振り返ると、ハルカに向けるはずだった拳をそのままフィリアへと向けた。
ズイ、と土に突き刺さったままの剣の前に立ちはだかると先程よりももっともっと深く腰を落とし、必殺の一撃を拳と共に作り上げる。その気配を感じ取るだけで全身の血液が鉛になったかのように重圧感が全身を押し潰してくる。
(死ぬ………死ぬ死ぬ死んじゃう死んじゃう死んじゃうどうしようどうしようどうしよう!!?)
本能が叫んでいる。
今すぐ逃げ出せ、と。もういい、と。
一瞬でも気を抜けばきっと、自分の進行方向は180度変わって迷いなく逃げ出せるほどの恐怖。肺は空気なんてほとんど取り込まない上に、吐き気が止まらない。視界もずっと滲んだままだ。
胸が張り裂ける、なんて誇張表現だとずっと思っていたが、そんなことは断じて無いと思い知らされる。本当に、臓腑が腰から順に飛び出てきそうなくらいの圧迫感と恐怖心。自ら死地に飛び込むことがこんなに恐ろしいなんて知らなかった。
敵の構えは準備万端。助けも援軍も期待できる筈もない。対してこちらは丸腰の小兵が一人。ゾウの群れにアリが一匹で突っ込むようなものだ。生き残れる可能性なんて万に一つもありはしない。
そして勿論それはスランガも解り切っていた。いま突撃してきている敵は自分にとっては躓く小石にすらなり得ないと。だからこそ彼は訝しんでいた。
(このガキ…丸腰で突っ込んで来やがったのか?
勝利の女神様ってのは誰彼構わず微笑みかけるほど節操なしじゃねえぜ?)
生粋の戦闘狂であるスランガは、対面した敵を短時間観察するだけでも力量差や練度がある程度把握出来る。彼によるフィリアのジャッジとしては、落第点も落第点。武道を身に付けたのはごく最近な上に、それらも全て付け焼き刃。身体能力も並程度だ。軽く拳を当てるだけでも命すら刈り取れる。
そして、そんなことはフィリアもよく分かっている。マトモにぶつかって勝てるわけがないし、真正面から突っ込んで目的地まで駆け抜けられる筈もない。だからこそ、これは命を秤に乗せた賭けなのだ。賭ける内容は至ってシンプルなもの。
(攻撃が来たら全力で跳ぶ……
敵がどこを狙ってくるのか、そもそもどんな技を繰り出してくるのかなんて素人のフィリアには知りようもない。だから一番成功率が高い選択肢が、攻撃が衝突する直前に全力で回避をして潜り抜けるしか無い。
そんな浅い思考を繰り返している内に、気が付けばスランガとの距離はもう目と鼻の先だ。もう選択しなくてはならない。
選べ、選べ、選べ、選べとアラートが鳴り止まない。間違えれば即死。成功確率はほぼゼロ。
でも、成功すれば大切な人を助けられる。それだけでも賭ける価値はある。
「───舐めすぎだろうがクソガキが。」
なんて、思っていた自分が愚かだった。
なんの奇策も無く突っ込んでくるフィリアの姿に嘆息しながら、スランガは構えていた拳を放つ。
「あ」
ただそれだけの動作で理解してしまった。
目の前にあるのはただの拳でしか無い筈なのに、彼女の眼にはスランガの攻撃が不可避かつ絶対の理にすら映っていた。
高速回転する脳内にフラッシュバックしたのは、幼い頃に鑑賞した映画のとある場面。逃げ場のない狭い坑道で、トラップの大岩が転がってくるシーンだ。あの時、主人公は機転を利かせた策で危機を脱していたが、ここには都合のいい装置も脱出口もない。そのまま圧倒的な力に押し潰される以外の未来はない。
読み違い、なんて烏滸がましい。自身の力量と相手の力量を正確に把握が出来ていなかったことの、そして安い見積もりで感情任せの吶喊を敢行したことへの報いだ。
避ける術も、受ける術も何もないまま、拳鬼の一撃の前に成すすべもなく身体に風穴を開けられて絶命する───
『──しょうがないなぁ、ちょっとだけだよ。』
はずだった。
「───えっ?」
頭の中に、少女の声が木霊する。聞き覚えのない凛とした声。
その出所を周囲を見回し探るよりも前に、異変は起こった。
(あ、れ…?)
今のフィリアの視界は、先のウラルとの接触から他者の感情を色のような形で感知できるように成長している。目の前のスランガからは、『楽』の色と『怒』の色。
後方からフィリアを助けるべく走り出しているハルカからは『焦』と『哀』の色が靄のように浮かんでいる。変わったばかりの映像にまだまだ慣れてはいないが何となくの仕様程度は把握できていた。
そして、その視界が今まさに大きく変容を迎えていた。まさに今、幼体から成体へと羽を携え飛び立つように。
(………
──ハッキリ見えるのだ。相手の動きが。
次に何をしようとしているのか。どこに、狙いを定めているのか。まるで未来を映像を見ているような感覚だ。ゲーム画面の如く、敵の攻撃の起動が矢印のようにフィリアの身体へ向かって伸びている。それが意味することは即ち、
(……この人が狙ってるのは……私の胴体…心臓っっっ!!)
如何に身体能力が離れ過ぎていても、どれだけ強さに隔たりがあっても、狙われている場所が、攻撃が来るタイミングが、その軌道が、全て見えているのであれば話は別だ。
視界が変化した時点でフィリアは既に全身の力を右側に跳ねる事だけに集中させていた。そして、
「噴ッッッッ!!!!!」
凄まじい咆哮と地響きすら感じる震脚と共に大気が震える。あとコンマ数センチで届く終わりの拳は、
「ッッああぁあ!!!」
「はぁぁッ!!!?」
「…えっ……?」
拳突が空を切ると同時に、ソニックブームに近しい衝撃が走り抜け降り止まない雨にポッカリと穴が開く。あんなものをまともに受けていたら間違いなく惨たらしく死んでいた事だろう。
だが、円満無事なんて都合のいい話があるわけがない。
「ぐッッ……ぎぃ…!!」
寸でのところで身を捩ったとはいえ、あんな速度の攻撃を避け切れたはずも無い。僅かに掠っただけの身体の側面に激痛が走り抜ける。
間違いなく肋骨が折れたであろう人生初の感覚に、歯を食い縛りながら泥濘んだ大地を踏み締めた。
スランガは予想だにしなかった回避に面食らってフリーズしたままだ。今が千載一遇のチャンスだ。呼吸するだけで激痛が走る身体のまま、フィリアはだった一つの目標向けて駆ける。
初めからフィリアの目的はただ一つだけだ。この詰みの現状を何とかしてくれるかもしれないと信じられる、たった一つの打開策。
「あ…やっべ…。」
目の前にあるその活路は、彼女の手から奪い取られた刀剣。さながら勇者の剣のように地面に突き立てられたそれを引き抜くと、フィリアは全速でハルカの元まで疾った。持ち上げるだけで腕が攣りそうになる重量のソレを抱えて、崩れ落ちそうになりながら切り札を届ける。それだけが自分が果たせる数少ない役割だとフィリアは理解していた。
「ッッッハルカ、さん……ッッ!!!!」
激痛と疲労のせいで肩で息をするフィリアは、奪い返した愛刀をハルカの元へと送り届けた。スランガと同じくフリーズしていたハルカは、ハッと現場に気が付くとフィリアから刀剣を受け取る。
「──ありがとう、フィリア。……弱気になってた、私も負けてられないね。」
満開の桜のような穏やかな笑みを浮かべると、その刀身をゆるりと空に走らせた。満身創痍のはずの身体は不思議なくらいに力が籠ってゆく。友人であり、教え子のようなフィリアが命を張って窮地を打開してくれたのだ。
自分だけも命を張らないわけにはいかない。
『──ハルカ様っ!一時撤退を!!』
その瞬間、二人の聴覚にシュバルツの声が響く。何のことかまるで理解出来ていないフィリアだったが、ハルカは瞬間的にその意図を完璧に把握した。
「フィリア、ちょっとごめんね。」
目の前で膝を突く彼女を軽く抱えると、ハルカは片腕だけで刀を構えた。
「穢れなき刀身を以て、描くは古龍の泳動──
彼女が得意とする蛇行する斬撃。波のように唸り、敵に喰らい付く一閃。
最早この戦闘で幾度となく披露したこの技は、スランガに通じる事はないだろう。しかしたった今放った
その攻撃が向かった先は、真下。泥濘んだ地面に叩きつけられた一撃はグズグズになった表面の泥を吹き飛ばした。
「ぬあぁぁああッッッッ!?」
海神の火力で弾き飛ばされた泥の速度は、さながらショットガンだ。さしものスランガもこれに対して回避は選択出来なかった。だが、彼もこれがただの目眩しであることくらいは理解している。だからこそ、次に来るであろう一撃を暗闇の中で待ち構えた。
(右から来るか…?いんや、ここは裏かいて後ろって線もあるなぁ…さあどっから…)
…………が、待てど待てど攻撃は来なかった。
それどころか、雨音以外の全てが聞こえてくることもない。確かに在ったはずの気配も遠のいていく。
「あん…?居ねえじゃん。……つか一張羅が台無しになっちまったよ。」
薄目で状況を確認すると、既にそこにハルカたちの姿はなかった。足跡すら残さずに姿を隠すとは、流石は鳳龍の一族といったところか。
獲物を取り逃した可能性が真っ先に思考に浮かんでくるが、それを即座に別の思考が塗り潰した。
(
そんな連中がこのイカれ村と……倍はイカれてる俺たちを放置して帰るか…?いや、ねえな。)
脳内で問答を繰り返しながら、彼女たちが決して逃げていないことを確信する。
であれば、撤退の理由は体勢を立て直す為だ。あのままダラダラと継戦していれば勝ち目はないと判断したのだろう。その決断は間違っていない100点満点の解答だ。
ならばそれに対して自分はどう動くべきか。戦術的に言えば、このまま追撃を掛ければこの戦いは終わるだろう。だが、
「…あの青髪のガキ……あの時、どう見ても
つい先程、奪い取ったはずの剣を奪還された場面。真っ直ぐ特攻をしてきただけの何の武力も持たない筈の少女が、スランガの渾身の一撃を回避した。あれだけが、スランガの本能に強烈な違和感を植え付けている。
武に精通していればいるほどあり得ないことだと理解出来る。あれは偶然などではなかった。物事が起こるには、必ずそこに何かしらのメカニズムが存在している。どんな手段を使ったかなど知りようがないが、スランガの本能型の脳味噌でも不気味なモノである事くらいは分かった。
「キメェな……頭の中覗かれてるみてえな感覚だった…。それに
スランガの脳内では、パズルのピースのように情報同士が結合して気味の悪いシナリオが浮かびつつある。彼の知る二人の少女と同じ顔、他者の思考を覗き見る能力。つまり、あの少女の役割は…
「GAOAッ!」
と、そこまで思考を進めた瞬間背後からドズン、ドズンと強烈な振動が響き渡る。金属音のような鳴き声なのに大型犬のような発声をする生物など、スランガには一つしか思い当たらない。
「お〜、お〜、ギガロンお前も楽しんでるみてえだな!!」
「GAっGAっGAッ!!」
「おうおう何言ってんのか一ミリもわかんねえや、ウははは!!!」
相棒であるギガロンは実に楽しそうに咆哮を上げる。長年連れ去ったとは言え、彼が何を言っているかは相変わらず全く分からない。ただまあ、楽しそうという事くらいは理解出来る。
「…ま、ちょっとだけ待ってやるか、ギガロン?
──可愛いガキんちょ共の足掻きを見届けてやろうじゃねえの。」
ご一読いただきありがとうございました〜。
今回明かされた情報&補足はこんな感じです!!
▪️スランガの流派
この人が使ってるのは八極拳+中国拳法系諸々です。発勁とか経絡とか、中華っぽいことは基本なんでもできちゃいます。しかもここに筋肉密度10倍前後とかギャグ漫画の身体能力か加わるのでこの人はもう出る作品を間違えてますね。
▪️フィリアの能力
今回フィリアが開花させた能力は、他人と思考を強制的に同調させることで一方的に未来の映像を覗き見るというチートもいいところなものです。次回以降でどんな副作用があるのか、これが一体何なのかの一端が明かされる…はずです!!
あと、スランガは一体どうしてこれを「趣味が悪い」と評したのですかね…?