Rebellion Against Fate 作:zawadinosaur
本当はもう少し早く更新する予定でしたが、今回の話が急遽挟まったお話でしたので時間が掛かってしまいました…申し訳ないです…!!
今回は時間が割と飛んでいますがご容赦下さいませ…次のお話から少しだけ物語が動き始めます!
今回も駄文ですがどうかご一読くださいませ…!!
──はい、お誕生日おめでとうフィリア。
……いつかの思い出。
5歳の誕生日の時に、母が生まれて初めてくれたプレゼント。
細く白い首筋に掛けられたのは自分の瞳と同じ、透き通った琥珀色の宝石が嵌め込まれた簡素で小さななペンダント。
今見ると少し拍子抜けなそれも、初めて間近で見た宝石の輝きは気が遠くなりそうなくらい美しくて、眩しくて、フィリアの脳裏に今も焼き付いている。
──その宝石を、肌身離さず持っているのよ。……
母は、ひどく寂しそうで今にも泣き出しそうな表情でフィリアのきめ細やかな髪を優しく撫でる。
……言葉の意味は、正直よく分からなかった。
自分に姉がいたという事実もその時初めて知ったし、何なら母以外の肉親のことを何も知らなかった。
母自身も、確かに共に生きていたはずの家族の話は頑なにしたがらなかった。
ただ昔々に死んでしまった、とだけ。
それでも、唯一残された一人娘のフィリアに母は仕事で忙殺される中でも出来うる限りの愛情を注いでくれていた。
フィリアを何不自由なく育てるために、身を粉にして働いてくれている。
そのせいで滅多に顔を合わせて話を出来ないのが、幼いフィリアには辛いことでもあった。
だがそれでも、フィリアは母からの愛情を疑ったことは一度もない。
本当に、強くて優しくて、憧れの女性だった。
……そういえば、母が一体どんな仕事をしているのか聞いたことがなかった。
聞くべきではないとずっと目を背けてきたが、そろそろ知りたいという気持ちもある。
今度、電話越しにでも聞いてみることにしよう。
「ぅ……んん…んが…。」
薄らと目を開くと、締め切ったカーテンの隙間からまだ淡い陽の光が童話の妖精のように部屋にお邪魔していた。
枕元に置かれたペンダントがその光をそのまま跳ね返して爛々と輝いているのが寝起きの目には痛い。
ベッドに身を任せたまま大口を開けて欠伸をすると、フィリアは3回ほど寝返りを打ってからゆっくりと上体を起こす。
「ふっ……んんん!」
寝ぼけ眼をこすり、思いっきり身体を伸ばすと脳まで血流が回って、ぼやぼやだった視界がようやくクリアになってくる。
──時刻は午前6時。
本格的な活動を始めるには早朝過ぎる時間帯だが、いつまでも寝転んではいられない。
来たる朝の訓練向けてフィリアは朝の支度を全力で執り行う。
ヨレヨレの寝巻きを着替えて、シャワーを浴びて、びしょ濡れの髪を乾かして、簡単に化粧をして、ドライヤーと櫛で髪を整える。
毎日恒例のように行なっている朝の支度を済ませれば、いつも通りの格好のフィリアの出来上がりだ。
………フィリアとミラが本当の意味での仲間になれたあの日から、3ヶ月が経過した。
それはつまり、フィリアが『円卓』に加入してから早くも3ヶ月が経過したことを意味する。
早いと言えば早いが、当のフィリアにとってこの期間はがむしゃらに多くのことを励み、呑み込み、頑張るだけの時間であり、本人の体感ではほんの2週間にも満たないほどであった。
──早朝の7時。
この日も普段と変わらず、フィリアは
「ミラ〜?起〜き〜て〜!」
「う〜ん……明日…………起こして………。」
「そんなに寝てちゃダメでしょ!」
ゆさゆさと全力で布団に包まって蓑虫みたいになっているミラを揺すりながら、フィリアは声を荒げる。
ミラと同室で暮らし始めて3ヶ月。
初めは簡素なマットレスで寝ていたフィリアだったが、今では既に実家から届いたベッドと家具が配置されていて、すっかり室内は2人だけのシェアルームのようになっていた。
一応、数日前にフィリア専用の部屋の用意は出来たらしいが、すでに荷物を運び込んでしまったし、ミラと過ごす時間はフィリアにとっては掛け替えの無いものだったこともあって、別室への今のところ移転は断っている。
最近では2人で一緒に映画を見たり、おすすめの漫画を(半ば強制的に)読んでもらったりと、彼女との関係も着実に進展していた。
初めは乗り気でなかったミラも、次第に自分から感想を言ってくれるようにもなっていて、それがフィリアには堪らなく嬉しい事でもあった。
それはそうと、今現在フィリアは毎朝ミラのモーニングコールを担当していた。
共同生活を始めて意外だったのは、ミラは朝にものすごく弱いと言うことだった。
普段は才色兼備、品行方正、クールビューティを地で行く彼女だが、その反面朝には滅法弱いようだ。
放っておけば多分半日だろうが丸一日だろうが寝続けるであろう彼女を見ていると、自分が来る前は一体どうやって起きていたのか興味が尽きない。
思えば、初めて顔を合わせたあの日。
記憶が正しければミラはあの日、シャグランと一緒に遅れて隊室にやって来た。
もしかしたら、あの日も寝坊で遅刻していたのかも知れない。
「…ん?」
ふと彼女の枕元に置いてあるものの存在がフィリアの視界に入ってくる。
薄桃色の枕の隣には、3冊重ねられた『祝賀海鮮』の単行本。
そして、アニメ映像を垂れ流したままの携帯端末。
これはフィリアが彼女にオススメし続けた漫画と、その映像化作品だ。
そこでああ、と合点がいった。
きっとミラは夜更かししてこれを鑑賞していたのだろう。
友人が同じ作品にハマってくれることは喜ばしいがだからと言って遅刻はダメ絶対だ。
規則と習慣は護らなければならない。
それに箱入りお嬢様をオタク沼に引き摺り込んだ責任というものがある。
「ほらミラ〜!?起きなきゃ遅刻するよ!」
まるでお母さんのような口ぶりで彼女の身体を揺らしながら呼び掛けると、突然ミラの身体がまるでバネ仕掛けの人形のようにバン、と音を立てて跳ね上がる。
流石にやばいと思って飛び起きたのだろうか。
虚空を眺める彼女の隻眼はフィリアを捉えると、ボソリと一言。
「………あれ………ふしぎなカセキ岩……。」
「……??」
うわ言のようなミラの言葉に、フィリアは思わず首を傾げる。
何のことかマジで分からなかったが、意味が分かるよりも先にドサリとミラが再びベッドに倒れ込んだ。
「あ〜も〜!!!起〜き〜て〜!!!!」
結局、ミラが起きるまではここからさらに10分以上かかったのだった。
〜食堂にて〜
「いっただきます!!」
「いただきます。」
──8時半。
あれから何とかしてミラを叩き起こしたフィリアは、元気よく手を合わせて目の前の食事にがっつく。
今日の献立は芳醇なスパイスの湯気が立ち上るカレーライス。
カレーなんて少し前までは朝には重くて食べられなかったが、『円卓』で心も身体も鍛えていく内に胃袋まで強くなったらしい。
甘口のルーと、スパイスの香りが効いた野菜をライスと一緒に大口を開けて口へ放り込む。
辛いものがNGなフィリアにとってここの食堂の辛さを選べる制度は天国だった。
しかも一仕事終えた後の栄養補給というのがたまらない。
あらゆる全てが五臓六腑に染み渡る。
「おはよ〜2人とも。」
そんな『至り』かけていた最高の心持ちのフィリアの頭上から降ってきた欠伸混じりの挨拶に顔を上げると、
「あ、シーナさん!おはようございます!」
「おはようございます。」
そこには、カラフルな具材が挟まれたサンドイッチの載せられたプレートを抱えた『コルタナ』の一員──シーナ・フロイツの姿があった。
ただ、普段の彼女とは様相が大きく異なっていて、普段は肩まで流しているセミロングの髪型はポニーテールで一つ結びになっていて、身につけている紺色のシャツもシワだらけだ。
そして何より、目元には特大の隈を貼り付けたままで瞳を充血して真っ赤になっていた。
いつもは皺一つなくビシっとしている姿の彼女からは想像も出来ないほどの荒れ果てよう。
「すっごい眠そうですけど……何かあったんですか?」
フィリアの何気ない問いにシーナは大欠伸で一拍置くと、二人の対面に腰掛けてω字になった口元をもにょもにょと動かす。
「そうなの……なんかヴェナさんに変な機械の最終調整任されちゃって…ほぼ徹夜だよ…。」
「変な……機械…?」
ヴェナは『円卓』屈指のメカニック。
『コルタナ』は勿論、他の部隊にも応援としてちょくちょく顔を出す程度には周囲からも信頼された腕前を持っている。
そして目の前のシーナは、彼女の一番弟子だ。
そんな関係性だからこそ、シーナもまたマシンには詳しいし何ならこの間は壊れたゲーム機の修理をこっそり頼んでもいた。
そんな彼女が変、とまで言い切るマシンなんてまるで想像がつかない。
フィリアの脳内に安易に浮かんだのは、自律思考して最終的に人類と敵対するタイプのロボットだったわけだが、普通に考えてそんなわけがない。
「うん、なんか『電波ぶっ殺しゾーン』とか書いてあった小さいボックス型のやつなんだけど…。」
「……ええ…?」
「あの人はまた……。」
意味がわからないネーミングにシンプルに困惑するフィリアと頭を抱えるミラの眼前で、シーナは具材を溢しながらサンドイッチを口にする。
それはそうと、と話を区切って前置きをすると
「あ、そうだ!フィリアに薦めてもらった『祝賀海鮮』のアニメ見始めたよ〜!」
「ゴッフォ!?」
シーナのその言葉に、フィリアはライスを喉に詰まらせかけて盛大に咽せる。
隣のミラが背中を優しくさすってくれるのが実にありがたいが、今はそれどころでは無い。
「っホントですか!?」
涙目になりながらも、フィリアは机に乗り出す。
あの作品を『円卓』で知っていたのはヴェナとハルカくらいしか履修していなかったから、同じ趣味を共有できる人が新しく出現したのは喜ばしいことだった。
「うんうん。いや〜あれはOPがいいねぇ。『NORMALZ』だっけ。」
「確かにあれは良い曲でした。」
顎に手を添えてしみじみと首肯するシーナの言葉に、ミラも首を縦に振る。
「意外!ミラも見てるの!?」
「はい。私もフィリアに勧められまして。」
「ミラってば夜中まで観てたせいで今日も寝坊寸前だったんですよ!」
実は今朝のようや寝坊は今日だけのものでは無い。
実際ここ最近、休みの日も含めてミラの起床時間はいつもフィリアが管理していた。
まあ、それはそれで楽しいのでフィリアは別に構わないのだが。
「…うるさい。」
「わはは、また寝坊助が悪化しちゃうねぇ。」
頬を膨らませたミラはぷい、とそっぽを向いて自分用のトレイの上に置かれた野菜ジュースにストローを突き刺して啜り始める。
その様子をシーナと2人で温かく見つめると、一拍置いてシーナは優しい声色で言葉を掛ける。
「ねぇ、フィリア。」
「…はい?」
さっきまでとは違って少し真剣そうな声色に、フィリアは思わず身構える。
怒られるはずはないと思っていながらも、目の前の人の声の質が突然変わるのはやはり恐ろしいところがある。
それも、上司だと尚のことだ。
「フィリアがここに来てからしばらく経つけど……『円卓』には慣れた?」
だが、シーナが口にしたのは答えるまでもないほどの問い掛けだった。
『円卓』の環境に慣れたかどうか。
そんなことは、本当の本当に答えるまでもない。
「はい!本当に皆さんには良くしてもらえて…助けてもらえて…話しかけてもらえて………。
──こんなに充実してるのは生まれて初めてです!!」
ミラに、バリトンに、シャグランに訓練を見てもらえて。
ヴェナに、シーナに、カレンに楽しく話しかけてもらえて。
ケイに、ハルカに、フイミに期待して、応援してもらえて。
今までの誰も信じられなかった日々とは、何もかもが違う。
こんなに幸福でいてもいいのか、と心配になってしまうほど今の生活は幸福で、充実している。
誰にも見向きもされずに、避けられ続けた人生だったせいでハードルな下がり切ってしまっている感も否めないが、それでもこれはフィリアの本心だ。
この日常が、いつまでも続いてくれればなんて淡い期待も抱いている。
「言い過ぎだよ〜。」
フィリアの真っ直ぐがすぎる言葉にシーナはふにゃふにゃと力無くテーブルにもたれ掛かって嬉しそうに口元を緩ませる。
「…それで今日はこの後どうするの?」
「え〜っと…バリトンさんと型稽古をして……シャグランさんと射撃訓練をして……ミラとバトルして………まあいつも通りです!」
フィリアはこの後に控えているイベントを一つ一つ宙を眺めながら指折り数える。
個々の大変さは、この島に来たばかりの頃なら気絶しそうなくらいだが3ヶ月も続けていれば流石に慣れてくる。
「うっは〜、多忙な後輩だこと。」
「フィリア、最近はガレス卿とばっかり訓練してるくせに、卿が多忙になったら急に私に頼ってくるんです。」
「違うよ!!私のカセキバトルの師匠はミラだけだよぉ!」
「…どうだか。」
「仲良いねぇ…。」
フィリアがあたふた慌てながら抗議するのを、ミラは冷め切った目で見つめる。
妹たちの戯れ合いを見つめる姉のような視線を向けながらシーナはズズ、と優雅に紅茶を啜るのであった。
─────────────────
──所変わって、稽古場にて。
「セイッ!!」
パシン、と乾いた音が畳に木霊して静かに消えてなくなる。
パリっと張った空気の中ではどんな音でもよく響き、同時に自分の技の冴えも分かりやすくてやる気が3割増くらいになる。
それはともかく、先の音の正体はフィリアの放った足刀蹴りをバリトンか受け止めた音だった。
「うん、良い蹴りだ。もう少し繊細なコントロールが出来るようになれば、顎先を蹴り抜くことも容易だろう。」
全身全霊の一撃を受け止めたバリトンはいつも通り涼しい顔をしながらフィリアの一撃に忌憚のない答えを言ってくれる。
「はいっ!!」
続け様に肘打ち、膝蹴り、手刀、そして最後に回し蹴り。
だがどれも全て威力は最低限に抑えられて受け止められる。
ここ最近訓練をしていて分かったことだが、やっぱりこの人は人間じゃない気がする。
なんだか、生物としての壁が1000枚くらいありそうで追いつける気がまるでしない。
どんな技を打とうとも受け止められることくらいは分かっている。
だからせめて正しいフォームで、最大限の威力で自分のありったけをぶつける。
「よし、ここまでだな。」
「うぉわぁ!?」
最後の回し蹴りを受け止めた瞬間、フィリアの身体がふわりと宙に浮かぶ。
そのまま重力に従ってお尻から畳に落下する。
初日にミラがこの技を喰らっているのを見たが、本当に自分が何をされたのか一ミリも分からない。
というか、投げ技なんてもっとしっかり組み付いてから投げるものだろう。
それだというのに、バリトンは片手で軽く掴んでそのまま投げ飛ばすのだ。
一体どれだけの鍛錬と修練を積めばこの領域まで至るのだろうか。
興味は尽きないが、きっとフィリアじゃどれだけ頑張ってもきっと無理だ。
「……やはり、足技主体に変えたのは正解だったな。」
そんなフィリアの心境を知ってか知らずか、バリトンはメガネの位置を戻しながらフィリアにタオルを手渡す。
…初日は組み技や、後日は打撃技を練習してきたフィリアだったが、一週間が経った頃には足技が最適解であるとハルカなど周囲の意見を交えながら辿り着いた。
そしてそれ以降はずっと蹴り技を体得すべく訓練を重ね続けていた。
身につける技は東洋のカラテだけではなく、カポエイラ、キックボクシング、総合格闘技…etc。
知りうる限りの技術を試して、鍛え、体得すべく修練を続けてきた。
「ですね!後は回し蹴りだったり踵落としとかが出来たらな〜って!」
初めはへなちょこな技しか出せなかったフィリアだが、今では大の大男に目眩を起こさせるくらいには技が研ぎ澄まされつつあった。
願うことならば、ミラみたいな威力で蹴りを放ってみたいし、足技の王道でもある踵落としなんかもやってみたいものだ。
「その辺りはミラに教えてもらうと良い。俺は関節が硬くてな。そういったものは不得手だ。」
確かに、バリトンが柔軟をしている場面なんてまるで想像がつかないが、どうやら想像通りであったらしい。
頭も表情も関節も硬いとは…全身カチカチ人間なのか、と勝手に頭の中で失礼な記号たちがスクラムを組んでいる。
…などと意味不明なことを考える脳みそをブンブンと頭を振って鎮静化させるが、やはりバリトンはフィリアの心情など察する気配もない。
「……………一先ずは、俺の教えるべきことは終わった。合格だ、スノーフレーク。」
何の前置きもないその言葉に、フィリアはリアクションすら取れずに瞠目する。
立ちあがろうとした動きが止まって、そのまままた尻餅を着いてしまった。
「はえ?」
なんて、間抜けな声が漏れ出る始末だ。
だって、フィリアは全く達成感がない。
遠すぎる背中を追いかけ続けて、まだあと5000歩くらい先が遠いなぁ、と実感し始めた程度だ。
騎士のスタートラインに立ったかと言われれば全く立てていない。
むしろようやくスタートラインとの距離を把握した程度だ。
「……え………………?私全然バリトンさんにダメージ入れられませんし全然弱いですけど…?」
「ああ、知っている。」
「筋力なんてないし瞬発力も全然ないですが…?」
「それも知っている。」
「じゃあなんで……?」
本当に、何が評価に値したのかがフィリアには全く分からなかった。
その理由はさっきの通りだが、騎士として一人前になるにはミラやハルカに並ばなければならない。
だが今のフィリアはあの2人のつま先にも及ばない。
だと言うのに、彼は自分を見習い卒業と判断してくれている。
「……言われたことをしっかり出来ていること。そして俺と短時間でも立ち合いが出来ることが俺の設定した基準だ。」
確かに、フィリアは最近バリトンとの実践形式での立ち合いを許された。
結果は数秒で投げ飛ばされることが殆どで、まともに戦えた時間を計測したところで今までの合計は1分にも届かないだろう。
だがそんなでも良いと言うのだろうか。
それでも、『コルタナ』の一員でいいと。
「お前が自分をどう卑下していようが、お前の努力は間違いのないものだ。
──胸を張れ。お前は、自分が思っているよりもずっと実力がある。」
バリトンはポン、とフィリアの肩に右手を置く。
その掌と言葉が心に重たくのし掛かかってくる。
でも、それは重責や恐怖に依るものではない。
それよりもむしろ…
「……はいっ!バリトンさんのおかげです!」
喜びが胸に満ちていた。
認めてもらえたことと、本心から褒めてもらえたこと。
張るような胸も自信もないが、それはひとまず後回しだ。
「そうか…それ言って貰えるのはこちらとしても光栄だ。」
そう言って、バリトンは少しだけ表情を崩す。
初めて笑った彼の顔は、ぎこちなかったが本心からの笑顔だと信じることが出来た。
だって、フィリアも釣られて笑ってしまうくらい純粋だったから。
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──さらに所変わって、射撃訓練場。
カンカン照りの中で直射日光に灼かれながら、フィリアは最低限の呼吸数で的に向かって銃口を向けていた。
直立不動の的を狙っていた初日とは違い、今のフィリアはランダムなタイミングで飛び出してくる可動式の的へ命中させる、というかなり高難易度な訓練に励んでいた。
「もう一回お願いします!」
そう叫んだコンマ数秒後、数メートル先のマシンから赤と白の縞模様の的が物凄いスピードで飛び出してきた。
それを阻むべく即座に狙いを定めて、息を呑み、指先に力を込める。
だが放たれた弾丸は的の通った軌跡に掠っただけで、当の目標には当たってすらいない。
「…う〜ん……?難しいなぁ……。」
この訓練を始めてから、早3週間が経過しているが安定して当てられたことは1度だってない。
4回に1回当たればいい方だ。
25%の確率というのは高すぎる壁だ。
くじ引きなら幾らでもその確率を乗り越えてきたが、こと自分の身体に染み付かせるとなると一苦労だ。
いや、一苦労なんて言葉じゃ生温い。
どれだけ鍛錬しても、訓練初日に見たシャグランの鶴の一声のような射撃には遠く及ばない。
「精が出ますね。」
「わひっ!?」
春のそよ風みたいな優しい声色に、首が捩じ切れそうな勢いで振り返ると、いつも間に立っていたのかシャグランがフィリアの訓練を見守っていた。
「トリスタン卿いつからそこに!?」
「たった今ですよ。少し取りに行くものがありまして。」
にこやかな彼は視線をフィリアに向けた後、さっきまで射撃をしていた跡に目を向けると満足げに微笑む。
その行為にどんな意図があったのかは分からないが、それよりも気になることが一つ。
「…その…取りに行くものって……?」
「ええ。
──これまでの貴方の努力に、これを。」
シャグランからフィリアの手に渡されたのは、新品のような輝きを放つハンドガンだった。
ズシリ、と模造品とは全く異なる重みが手のひらにのし掛かる。
ただの拳銃ではないことは何となく分かるが、見た目だけでは何一つ分からない。
「……これは?」
「はい。これは先代トリスタン卿や私、そしてミラさんが見習い時代に使用していた拳銃です。」
「…………ファッッッッ!?」
率直な質問に、とんでもない回答が返ってきた。
それが意味することはつまり…
「そんな大事なものを……!?」
歴代の英傑たちを育ててきた、とんでもない貴重品ということだ。
そんなものを、こんなペーペー兵士が受け取れるわけがない。
慌てて返そうとするフィリアの手を、そっとシャグランの手が抑える。
「……先程も申し上げましたが貴方のこれまでの努力と成果に、敬意を。」
「……えっと…それってもしかして…?」
「はい、合格です。私が設定していた基準はクリアしています。」
示し合わせたかのようかタイミングでバリトンに引き続き、シャグランにまで合格をもらえてしまった。
それ自体は嬉しくて仕方のないことだがやはり今回も、フィリアには自信がない。
「…私まだ動く目標を正確に狙うことはまだまだ出来てなくて…技術も未熟で……。」
「いいえ。」
俯いたままもごもごと自信のなさを語るフィリアの弱音を、シャグランの声が弓のように射落とす。
「私が設定していた合格基準は静止している的を正確に狙えること。そしてもう一つは一度でも動いている的に射撃を命中させることです。」
シャグランから課されていた訓練内容は、初めは動かない的を狙っていたが初日からメキメキと腕を上げたフィリアは静止した目標を狙うという課題は早々にパスしていた。
そこでここ最近では専ら可動式の的を狙い続けていた。
だが、シャグランの言葉と照らし合わせるとそれはつまり…
「じゃあ私もしかしてかなり進んだことしてたんですか!?」
「そうなりますね。」
だとしたら早く言って欲しかった。
いやマジで。
だがフィリアの性分的にそれでは怠けてしまっていた可能性も否めない。
故にこそ、フィリアは一文字に口を噤む。
「ともあれ、これで私が貴女に教えるべき基礎的なことは終わりました。残る応用的な技能は私やミラさん、他の部隊の方々を頼ると良いでしょう。」
この射撃場には、たくさんの狙撃手たちが集まっていた。
ブルーノ卿部隊のシュバルツやミラ、シャグランや他にも多くの騎士たちが集っていた。
彼ら彼女らに直接教えを請うことで、きっとさらに上を目指せるだろう。
だがそれよりも、フィリアにはとある憶測があった。
「バリトンさんも今日合格を出してくれたんですけど…もしかして何か決めていたんですか?」
こんなあまりにもバッチリ同じタイミングで別々の訓練に合格するなんて考えられなかった。
それこそ、事前に予定日を決めていたくらいしか考えられない。
だがフィリアの言葉に当のシャグランは目を丸くすると、彼はすぐに表情を崩した。
そのリアクションだけで、彼に何かしらの意図がないことは簡単に推察出来た。
「……そうですか、バリトンさんもでしたか。
特に事前の話し合いなどしていませんよ。これは、貴女が掴み取った貴女だけの勲章です。」
そう言い残すと、シャグランは背を向けて訓練所を後にした。
ただフィリアは納得感と混乱で頭がめちゃめちゃのまま立ち尽くすのであった。
──────────────────────────
──訓練所。
バリトンとの格闘訓練に、シャグランの射撃訓練には合格することが出来た。
だが、この後の訓練はそう簡単には行かない。
「──さて。今日も始めようか。」
「…うん!よろしく!!」
だだっ広い訓練所には、定刻通りミラが到着していた。
彼女とする訓練は、互いのリバイバーを用いたカセキバトル。
特に何も合格基準について触れていなかったバリトンやシャグランとは異なり、ミラは訓練を開始した当日から明確にゴールを提示してくれていた。
それは、『ミラのテフラーに一撃でも有効打を与えること』。
聞くだけなら物凄く簡単に聞こえる合格基準。
だがこのゴールが、あまりにも遠かった。
「おいで、テフラー。」
「行くよ、グランデ!!」
2人は同時にメダルを投げ、相棒を呼び出す。
片や蝶と龍が融合したような幻想的なリバイバー…テフラー。
そしてこちら側に立つのは赤い巨龍──ではなく、純白の一角竜だった。
変わったことといえば、もう一つあった。
フィリアの相棒…アマルガーのグランデはミラの
「先手必勝、『オミアシ・ドス』!!」
フィリアの威勢のいい声色に反応して、グランデはユニコーンのような角の鋒をテフラーへと向けて後ろ脚で何度か地を擦る。
そして、
ドンッ!!
と、弾丸のようなスピードで視界から消えると一気にテフラーとの距離が縮まる。
オミアシ・ドスは、シンプルな突進技だが持ち前の敏捷性と巨大な一本角による破壊力が売りだ。
先手の攻撃にも、一撃離脱の起点としても、逃走用にも、あらゆる局面で役に立つオミアシの生命線のような技だ。
その使い方も用途も、同じくオミアシ使いであるソレドールからも指南を受けている。
余程の実力差がない限り、一撃ダメージを与えるという条件は難しくはないだろう。
「テフラー。『テフラースケイル』。」
そう、『余程の実力差がなければ』。
「ッッ止まって!!」
テフラーが悠然と、蝶のように巨大な翅を2度、3度と羽ばたかせる。
瞬間、極彩色の粉末が大気を満たし場は一瞬でテフラーの支配下に置かれた。
撒き散らされた小さな鱗粉は、それぞれ一つ一つがリバイバーにダメージを与える魔法の粉。
ワザの名は、『テフラー・スケイル』。
本来であれば広範囲攻撃として用いられる技だが、今現在は牽制技として使用されている。
戦ってわかったが、ミラは鱗粉を使っての戦い方か異常に上手かった。
牽制用の設置型と鱗粉、攻撃用の弾丸のような鱗粉、そして通常の範囲攻撃型の鱗粉。
初動じゃどんな技を打ってくるかまるで分からない。
ただ、何度も見ているうちにこれがどんな性質を持つのかは分かる。
今回のワザは、牽制用の設置型だ。
よって、このまま突っ込めばワザの餌食になる。
かと言ってこのまま消極的でいれば……
『フィリアさんは……何と言うか…猪突猛進すぎる気がします。もう一歩引いて戦いを進めるのが良いと思いますよ。
……オミアシは機動力がありますから、相手の出方を伺いながら戦略を組み立てることが効果的です。』
頭の中で、ソレドールの言葉が通過する。
だいぶオブラートに包んでくれたが、要はフィリアは攻撃ばかりが先行して視野が狭まり過ぎているのだ。
これまでも、何度も手玉に取られて返り討ちに遭い続けてきた。
普段なら『それでもいっか』なんて、ナイーブな考え方があったのだろうが今日は違う。
バリトンとシャグランに認めてもらえた手前、中途半端なばかりでいるのは2人に合わせる顔がない。
それにミラだって、フィリアのためにわざわざ時間を割いて訓練に付き合ってくれている。
だから今日こそは、絶対に彼女に勝ちたい。
勝って、報いたい。
「…かかって来ないならこっちから行くよ。テフラー、やって。」
ミラの指示にテフラーはコクン、と首を縦に振ると巨大な翅を勢いよく羽ばたかせる。
それと同時に、漂っていた鱗粉の幾つかに指向性が付いた上で散弾のようにこちらへとんでもない勢いで弾き出される。
「グランデ逃げて!!」
フィリアに指示をされるまでもなく、グランデはその健脚で大地を跳ね、駆けて迫り来る弾丸たちの間をすり抜ける。
だが
「ッ!」
無造作に放たれる範囲攻撃を、いつまでも避け続けられるわけがない。
一発、また一発と極彩色の弾丸はグランデの身体を捉え始める。
(このままじゃまた…!!)
頭を過ぎるのは、ここ3ヶ月で積み上げに積み上げた敗北の記憶。
近づくことすら出来ずに、肉迫すら出来ずに惨敗を積み重ねた光景。
このまま逃げ回るだけでは、結局いつもと同じ結末を迎えることはフィリアにだって分かっていた。
「……グランデ、覚悟を決めよう。」
隣に聳え立つ相棒に、フィリアは低い声で語りかける。
だがグランデも気持ちは同じだったようだ。
『任せて。』
そう言わんばかりに鼻を鳴らして、ミラのテフラーに鋭い眼光と鋒を向ける。
ビリビリと闘気がこちらまで漂ってくるがミラもテフラーも全く怯む様子はない。
むしろ、楽し気に口元を緩ませている始末だ。
「良いね。その調子だよフィリア。」
フィリアとグランデの覚悟に応えるように、テフラーは大きく翅を広げて姿勢を低く構える。
その様子はさながら獲物に狙いを付けた肉食獣のようだったが、今更そんなものに怯んでいられない。
「もう一回『オミアシ・ドス』ッ!!」
フィリアの渾身の指揮に従って、グランデはかつてないスピードで2頭の間のコースを疾走する。
しかし、
「テフラー、迎え撃って。」
どれだけスピードを出したところで、コースは直線。
タイミングさえ合わせれば、カウンターを入れることは容易だろう。
その証拠に、テフラーは既に『テフラーサマー』を出す構えをしている。
このまま突っ込めば、ミラの思惑通りになってしまう。
「グランデっ!!!もっともっと速くっ!」
ならば、カウンターのタイミングをずらせば良い。
想定よりもずっと速く懐に入り込む。
距離はもうまた鼻の先。
進行先を切り替える時間はもうないし、テフラーももう避けられる距離ではない。
正面突破が、現在の最適解だ。
(…あ。)
だが判断を誤った、とその時ようやく気が付いた。
ここは突撃よりも、激突の直前に『オミアシ・エクス』に技を切り替えられればミラの意表を突くことの方が有効的なはずだ。
だが今更そんな指示を出せる暇もないし、1秒未満で的確な指示なんて思い付かない。
ミラも既にカウンターの指示を出す直前だ。
どう足掻いても、間に合わない。
折角、バリトンとシャグランが認めてくれたというのに。
「テフラー!『テフラーサマ
「kyaaaa!!」
「っ!!?」
「え!?」
グランデが一際大きな声で咆哮すると同時に、彼女は暴れ馬のように180度身を翻した。
突然のことにミラ、サマーソルトを繰り出す直前だったテフラー、加えて主人であるフィリアでさえも反応が出来なかった。
確かに心の中でそんな指示ができたら、と後悔はした。
だが、決して口には出していない。
こんな動きを仕込んだ覚えもない。
ホリダーの指示すら受けずに、バトル初心者であるはずのリバイバーが1人でに対戦相手を謀るような行動を取ったのだ。
こんな光景は長年戦ってきたミラですら見たことがない。
その経験故か、若さ故か、ほんの一瞬だけ判断が遅れた。
「っグランデ!!!!『オミアシ・エクス』ッッッッ!!!!!!」
細かいことは、この際はどうだって良い。
その寸刻の隙を、フィリアは見逃さなかった。
鞭のようにしなる尻尾の2撃が、無防備になったテフラーを捉え弾き飛ばした。
渾身の一撃の破壊力は凄まじく、見上げるほどの巨体であった恐竜の身体がサッカーボールのように吹き飛ばされた。
物凄い量の土煙が舞い上がり、ガラガラと壁の表面が瓦礫として崩れ落ちる。
漫画で見る決まり手のような情景だ。
流石にやり過ぎてしまったのだろうか、という憂慮は一瞬で杞憂へと変わった。
「gruuuuu……。」
土煙の中に、二つのミラと同じ色の瞳がゆらりと揺れて、続けて低い唸り声がフィリアの鼓膜を揺らす。
あれだけ派手に吹き飛んでも、テフラーはまだまだ元気らしい。
それより一撃もらったことでスイッチが入ったのだろう。
『ぶっ飛ばす。』
そんな心持ちがハッキリと伝わってきた。
だがこちらのグランデはさっきの動きで気力を使い果たしたのか、心なしかぐったりしている。
このまま戦えば敗色は濃厚だろう。
だが、
「……合格だよ、フィリア。」
ミラの短い声と共に、テフラーは小さなメダルの姿に戻された。
『合格。』
その言葉に、フィリアはその場にペシャンとへたり込む。
「勝っ……………た?」
確かにこの手で勝利をもぎ取ったはずなのに、全然現実味がない。
ずっと欲しかったものが手に入った時みたいな、受かりたかった志望校に合格したみたいな、そんな感覚。
「お疲れ様、よく頑張ったよ。」
いつまでもぽわっとして座り込んでいるフィリアに、ミラは立ち上がるための手を差し伸べる。
その表情は穏やかで、和かで、まるで母親のように優しい目をしていた。
ミラはどんな時でも励ましてくれて、コツを教えてくれて、戦い方を教えてくれた。
この3ヶ月の努力を、頑張りを、一番真近くで見てくれていたのは間違いなくミラだ。
その彼女からの心からの労いの言葉に涙腺が緩んで、視界が一気にぼやける。
「ミラ……ミラぁぁぁ…!!」
「よしよし。フィリアは頑張ったよ。」
まるで母に甘える子どもみたいに、大泣きしながらミラの腕に抱かれるフィリアであった。
────────────────────────
すっかり日も落ち切った頃。
フィリアとミラは小麦色に光る廊下を揃って自室への帰路についていた。
「……最後の技、あれどうやって出したの?」
「う〜ん…?実はあんまり覚えてなくてさ…私も無我夢中で……。」
「…そっか。じゃあフィリアとグランデの絆の奇跡…ってことなのかな。」
「だといいな……。」
先の試験での最後の攻防。
グランデがフィリアの指示を受けずに動いたあの瞬間。
あれが一体何だったのか、フィリア自身もよく分かっていなかった。
熟練のリバイバーとホリダーが以心伝心で互いの意図を察することはある。
ミラとテフラー、シャグランとフェイルノートも言葉なく相棒と連携が取れると小耳に挟んだこともある。
だがフィリアとグランデは幼い頃から一緒に過ごした存在とはいえ、カセキバトルは初心者そのものだ。
経験値も戦術眼もまるで育っていないのは2人揃ってだ。
それなのに、あの瞬間グランデはフィリアの意図を完璧に汲み取って動いた。
まるで、
「でも次はもう不覚は取らないから。明日は本気で闘わせてもらうよ。」
「も〜分かってるから!」
いくら手加減していたとは言え、ハンデがあったとは言え、初心者にバトルに負けたのがよほど悔しかったらしい。
ミラは事あるごとに頬を膨らませながら、フィリアに釘を刺してきていた。
だが嫌な感じは全くしない。
むしろ対等な仲間として認めてもらえたことの実感の方が強くて、心地よかった。
るんるん気分でフィリアは自室(ミラの部屋)のドアノブを捻る。
「お〜帰ってきたな!」
「おかえり〜、2人とも。」
扉の向こう側には、真っ赤な長髪と黒のセミロングの2人組──ヴェナ師弟が部屋の中でミラとフィリアを待っていた。
事前の連絡は特になかったし、重要な話があるとの話も特になかったはずだが。
「ヴェナさん?それにシーナさんまで。」
「どうしたんですか?」
「いやな、シャグランとバリトンからフィリアが合格したって聞いたからさ。」
立ち上がったヴェナは得意げに笑うと、小走りで何かを持って来た。
「──そりゃぁお祝いパーティするしかないだろ若造ども!」
その手に握られていたのは巨大なコーラが入ったペットボトル。
よく見てみると、扉の影になっていた部屋の奥には大量のお菓子とジュース、それに山盛りのピザにボードゲームにゲーム機まで完備してあった。
「こんな量どうやって!?」
この厳重な雰囲気漂う組織がこんなジャンクの塊みたいなものを大量に保管しているはずがない。
それだというのに一体どうやって。
「細かいことは気にすんなアタシの奢りだ奢りっ!!色々頑張って揃えたんだよ!後輩を労うためなら何だってしてやらぁ!」
「こんな時間にこんなカロリーの多いものを…!」
「まーまーほらミラ、あ〜ん。」
キラキラとチーズ滴るピザを、シーナはミラの口元に持っていく。
普段なら断っても良いところだったが、ミラ自身今日はめでたい日ではあると感じていた。
「…ん。」
大人しくピザを口にしたミラは満更でもない様子でもぐもぐと高カロリーの塊を嚥下する。
それはまさに背徳の味。
何だかもう色々どうでも良くなってきた。
初めはお説教の気分だったが、今は今はただ2切れ目のピザが食べたい。
「今日は無礼講だろ!気にせず楽しむのが一番だ!!楽しみたくば喰らえぃ!!」
「やった〜!!じゃあ私も今日は腕によりをかけますよ!パエリア作りますかパエリアっ!!」
「お〜良いじゃん良いじゃん!キッチン借りてくるかぁ!アタシも創作料理してやんよ!」
「「それだけは辞めてください!!!!」」
この後は、楽し過ぎて正直よく覚えていない。
みんなで笑いながら食事をして、遊んで、軽い賭けをして、ヴェナがゲームで無双して、ミラが間違ってお酒を呑んで暴走して。
夜明け近くまで4人の宴会は続いた。
……そして翌日、この場の全員が遅刻してバリトンに大目玉を喰らったのはまた別の話だ。
「本作戦には、フィリアさんも同行して頂きます。」
『そう、優しいのねフィリアは。』
「商談に向かっていただきたいのですが。」
「ちょっと食材の調達に行ってくるよ。」