Rebellion Against Fate   作:zawadinosaur

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お久しぶりです、皆さんご壮健でしたでしょうか?私はちょっと自分の作品が面白いか信用出来なくなってしまってこんなにも次話投稿が遅れてしまいました…。
今回は2日連続投稿を頑張って致しますのでお暇な時にご一読頂けると嬉しいです!


第七話『任務開始、或いは歯車の始まり』

──任務当日、とある国の郊外にて。

此度の『コルタナ』に与えられた命令は、要約すれば()()()()()()()()()()()()だ。

対象は世界や社会に暴力を以って牙を剥く平和の敵とも言える存在。

特に今回は無差別に周囲へ被害を与えるタイプの暴力組織だ。

『円卓』にとってはオーソドックスな標的と言える。

一応、『権力からの解放』をスローガンに掲げている組織ではあるものの、結局は自分たちがその『権力』そのものに成り代わろうとしているのだから何の発展性もない上に、それに気が付いていないのが尚更タチが悪い。

本来であればその国の治安維持組織や政府によって介入を受けるはずの彼らだが、今回例外的に『円卓』の標的となるには十分な理由があった。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

組織自体はショボいヤクザ崩れ、というのが適切な表現なのだが、他勢力への改造リバイバーを用いた威圧行為や強奪行為、一般人をそれらを利用して襲うなどの被害も発生していた。

加えて、近日中に大規模な破壊活動に動くと予見されている。

さらに付け加えると、『コルタナ』は以前改造リバイバーを擁する敵と遭遇した経験もある。

以上の理由から正式に王からの命が下されたのであった。

二度と同様の犯罪行為に走れないように組織、構成員ごと破壊すること。

無論、『コルタナ』に敵を殺める意志など微塵もない。

そのための準備も、訓練も、無意識に敵を殺さずに無力化するための行動が取れるほどに積んでいた。

誰一人殺さず、誰一人失うことなくこの任務を潜り抜けることが『コルタナ』の使命だ。

 

 

 

 

 

 

『おっし、じゃあ最終確認すんぞ〜。』

 

突入先の建造物の物陰に身を潜めた騎士全員の耳元にヴェナのノイズ混じりで緩んだ声が届く。

前線部隊の全員が見上げる視線の先には、どこまでも近代的な鉄の塊が聳え立っている。

周囲一帯はほとんどが前時代的な廃墟かレンガ造りの建物だというのに、まるで標的は自分たちの威容を誇示しているようだ。

その階数、実に30階

ハリボテに過ぎないその栄光に気付きもしないそのマヌケな姿に、全線部隊の先頭に立つミラは思わず小さくため息をつく。

 

「油断するなよ。」

 

「分かってます。フィリアに良い所見せなきゃですから。」

 

釘を刺すバリトンの言葉にミラは首を縦に振る。

元より油断など欠片もしていない。

何せ、今回はフィリアが初参加する任務だ。

彼女は今後方支援部隊で見学をしているが、万が一のこともある。

彼女に危害は一ミクロンだって加えさせない。

そのためにミラは普段より五割り増しで気合を入れていた。

そんな彼女の横に立つ二人の騎士はこれから向かう戦場のことなど意に介していないかのように笑みを浮かべている。

 

「美しい友情だなぁ。」

 

一人目の騎士の名は、アレク。

一般人を自称するリオネスの時代から所属している古株の騎士の1人だ。

逆立てた金髪を大事そうに撫で付け、重々しい騎士の鎧を装着し始める。

頭用の鎧は細かい傷が無数に刻まれていて、それを見るだけで彼が歴戦の騎士であることが推察できるほどだった。

 

「…アンタは油断しすぎ。」

 

そしてその横に立つ、影と同化しているような存在感の無さを漂わせている騎士の名はブルート。

同じくリオネスの時代から所属している東洋の家系の人間だ。

艶やかながら切り揃えられた黒髪を揺らしながら、浅いため息を吐く。

彼女はアレクとは対照的に鎧を身に付けておらず、純黒の黒装束を着用していた。

そんな対照的な先輩騎士二人を尻目にしながら、ミラは拳銃の最終調整を終える。

撃鉄、引き金、弾倉、スライド。

全てに問題がないことを確認すると、ミラは愛銃を太腿のホルスターへと収める。

 

「そうです。アレクさんは現場を舐めすぎです。」

 

「うぉい俺先輩よ!?もっと敬ってくれよミラ!」

 

「お前たち、少し静かにしていろ。

…ヴェナ。打ち合わせ通りで問題ないな?」

 

全身を甲冑で覆ったバリトンはイラついた口調で3人を嗜めると、兜に仕込まれた通信機でヴェナへの最終確認を呼びかける。

彼の苛立ちもごもっともだ。

ここで下手に騒いで突入前に自分たちの存在がバレれば、事前に建てた計画の全てが破綻してしまう。

それに、彼の鎧越しの睨み付けは威圧感抜群で、思わず3人はお口にチャックする。

 

『──よし感度良好、ばっちぇだな。

んで最終確認な。まずミラとバリトンが最前線で突入して制圧。アレクとブルートが2人をサポート。

んでシャグランはビルを旋回しながら適宜サポートを。』

 

『了解です。突入組の皆さんもお気を付けて。』

 

いつも通りに穏やかなリーダーの声に4人は安心しつつも心の中で褌を締め直す。

今回は少数精鋭での強襲だ。

戦場が屋内である点からして、大人数での突入は戦いのテンポを悪化させかねない。

そのため、今回は近接戦に秀でた4人を選抜しての鎮圧戦となる。

だが少数精鋭である点にも勿論デメリットはある。

人数差を覆されないように先制攻撃で全てを終わらせなければならない。

 

「よし…行くぞ。」

 

先陣を切るバリトンに追従して、ミラたちも目標の建物へと足を踏み入れるのだった。

 

 

〜side フィリア〜

 

標的のビルから少しだけ離れた建物の陰。

壊れかけの廃墟たちに囲まれてすっぽりと影になっている裏路地。

そこには、ヴェナ率いる後方支援部隊が駐在する大型車が狭い通路をいっぱいに埋めていた。

迷彩柄の車体は限界まで風景に溶け込むように工夫が凝らされているが、車内は周囲の廃墟とは打って変わって近代的な様相だ。

その内装はほぼ全面にディスプレイが配置されており、180度の限られた視界で作戦の音頭を取るヴェナはブツブツと独り言を唱えながら画面に齧り付いている。

そしてその後ろに控える補佐のシーナは別のモニターと睨めっこの最中だ。

出口付近には医療担当のヴェレーノが待機しているが彼女と会話をしたことが無さすぎてなかなか話しかけられないフィリアはシーナの袖をくいくい、と引っ張る。

 

「…あの、シーナさん。」

 

「ん?どうしたのフィリア?」

 

シーナはヴェナの助手とはいえ、暇なわけではない。

カタカタと何かを打ち込んでいる作業を邪魔しないように極力弱い力で気を引く。

ただ、彼女の作業をほんの少し邪魔してしまっても聞いておきたいことがあった。

 

「ミラっていつもこんな最前線に配置されてるんですか…?」

 

それは、友人としてひどく当たり前な質問だ。

ミラは優秀な騎士とは聞いていたが、まだ自分と同じ17歳の少女のはずだ。

格闘も射撃も頭抜た技量を持っていることは分かっていたが、こんな危険な任務でも最前線を張っているとは思いもしなかった。

戦場に絶対も安全もないことくらい無知なフィリアでも分かる。

もしも彼女に何かあったら。

そう思ってしまうからこそ、こんな当たり前のことを聞かずにはいられなかった。

 

「そうだねぇ。基本的にはバリトンさんやシャグランさんと一緒にいることが多いかな。」

 

「そう…なんですね。」

 

だが隣にいるのが優れた上司たちであったとしても。

これがいつもの事だったとしても、友人を案じる気持ちは変わらない。

だが、そんなフィリアの心模様に気が付いたのか、シーナは悪戯っぽく口角を上げると、フィリアの頭を優しく撫でて得意げに笑う。

 

「んふふ〜、まあ見てなよ。言っとくけどウチのコンビネーションは結構凄いぞ?」

 

「は…はぁ…?」

 

言葉の真意も、『コルタナ』の強さも、何もかもまだ分からない。

だからせめて、この目に映ったことを信じようとフィリアはモニター越しの仲間たちへ全神経を向けることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

──ビル15F

 

「…5秒後に突入するぞ。」

 

「…はい。」

 

ミラとバリトン、アレクとブルートは構成員たちが集合している扉の前で息を潜めていた。

この時間は、対象組織が大規模行動を起こす前の最終確認のために構成員全員が一堂に介している。

この向こうからはものすごい喧騒が漏れ出ている。

音と気配から判断するに、数は30前後。

構成は全て男性、年齢は20〜50代と言ったところだ。

突入後の簡単なシミュレーションをしながら、ミラは5のカウントを待つ。

 

…5

目を閉じる。

…4

指先と関節の可動域を再確認。

…3

深く深く息を吐く。

…2

瞼を上げる。

…1

両足に全霊の力を込める。

 

「──行くぞッッッッ!!!」

 

作戦開始の合図と同時に、ミラは全力で木製の扉を蹴り開ける。

金具の拘束から外れた二つの木片は投擲物のような勢いで吹き飛ぶと、部屋の中心で粉々に砕け割れた。

 

「なんだ……!!?」

 

敵陣に動揺が広がるよりも疾く、ミラとバリトンは数メートルの間合いを疾走する。

最高速度で距離を詰めたミラとバリトンの前には、丁度良く格好の的が2人も立っている。

突然の出来事に全く反応出来ていない彼らに防御など考える隙もない。

片や強く踏み込み右足を軸に回転を加える。

片や勢いを一切殺さずに全霊の力を右拳に込める。

そしてそのまま…

 

「ハアッッ!!!」  「フンッッ!!!」

 

破滅的な威力の回し蹴りと、正拳突きが顔面目掛けて炸裂した。

日頃から鍛えに鍛えた鍛錬と力の結晶。

そんなものが頭部に直撃すれば人間がどうなるか、そんなものは考えたくもない。

 

ドンッ!!

 

という鈍い音と共に攻撃をモロに受けた男たちが錐揉み回転をしながら勢いよくデスクへと吹き飛ばされた。

無論、近くにいた取り巻きも含めてだ。

かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「何だテメェらァ!!」  「殺せぇ!!」

「新入り!あっちに連絡しろ!!」 「はい!!」

「急げ!!」

 

大方想像通りのリアクションを聞き流しながら、ミラは更に部屋の中央へ前進する。

彼らが手近の武器を取って、構えて攻撃してくるまであと数秒。

敵の最も密集している箇所に身を置くことのリスクは勿論把握している。

だがミラがこうして進めるのは背後の仲間たちへの全幅の信頼ゆえだ。

敵よりも、此方が必ず先手を打つと。

 

「そ〜らよッ!!」

 

「ハッ!」

 

その信頼に応えるかのように、続け様に突入して来たアレクが大振りな何かを、ブルートが部屋の四方八方に小さな丸薬をばら撒く。

前者は、スタングレネード。

パキン、という轟音と共に目を覆いたくなるほどの閃光が空間に溢れ、この瞬間瞼を開いていた者全員の視界を完全に塗りつぶす。

そして後者は、ブルートの家系秘伝の煙幕。

即効性の高い燃料を使い、衝撃が加わると瞬間的に大量の煙を生み出し周囲を覆う特別製。

 

「クッソ何も見えねえ!!」 「どこ行ったぁ!!」

 

小さな球体から吹き出し続ける煙は瞬き数度の内に室内の全てを覆い尽くし、この場の全員の視界は完全にホワイトアウトしていた。

本来なら、誰もが手探りで動くしかなくなるこの状況。

だが、

 

「ごはッ!?」  「ぐぁ!?」

「おい何だ!がふァ!?」

 

誰もが音以外を認識出来ないこの空間の中で、鈍い打撃音と呻き声だけが上がり続けていた。

それも、『コルタナ』以外の人間のモノに限って。

しかし、ミラたちは何も特別な装備を持っている訳ではない。

特殊な能力で敵の位置を知っている訳でもない。

彼らの装備は個別の得意武器と、耳元のインカムだけだ。

ただ、このインカムの相手が特別なだけだ。

 

『──バリトンは8時の方向に3人!ミラはそのまま直進ッ!2人いるぞ!』

 

「はいッ!」

 

「了解だ。」

 

当然と言うべきか、通信越しにはヴェナの声が響いている。

しかしその指示はまるでこの場の全てを見透しているかのように的確で、無駄がない。

何故動体視力も運動神経もカスであるヴェナがこの場の状況を詳細に把握出来るのか。

その回答は極めてシンプルだ。

振動、気流、音声、そして監視カメラによる俯瞰の映像。

それら全てを複合し、一定空間の全てを把握するヴェナ謹製の演算ソフト。

その現状報告と同時に、ヴェナは反射的に突入組たちに指示を出していた。

 

『アレクとブルートは……3時の方向!6人纏まってる!』

 

「了解……。アレク、足引っ張んないでよ。」

 

「あいあい分かってますよっ!」

 

ヴェナの指示に従って2人はほぼ同時に煙から飛び出す。

ブルートはワイヤーを括り付けたクナイを手に。

アレクは鍛え上げた肉体のみで敵に突っ込んで行く。

真っ白な煙の中、僅かな喧騒だけを頼りに霧を突き破った2人だったが、

 

「なッ…!?テメェらぁ!!」

 

2人の姿を視認すると同時にスーツ姿の男たちは一斉に武器を構える。

突入から既に数分が経過している。

武器を用意し、周囲を警戒するのには十分過ぎるほどの間があった。

だからこそ敵のアクションに驚きはない。

拳銃、日本刀に、長ドス。

いずれも当たりさえすれば一級品の殺傷力を持つ武装だが、勝負は武器の威力だけでは決まるものではない。

 

「…………獲った。」

 

手に挟んだ計8本のクナイを、ブルートは全力で投擲する。

だが、その鋒が向かった先は彼らの肉体ではなかった。

 

「あぁ!?どこ狙ってやがる!?」

 

ブルートの手から離れたクナイたちは、敵6名を取り囲むような軌道で空を切ると、とある地点でぴたりと停止した。

 

「っとぉ!少しは手加減して投げろよなお前!」

 

静止した地点では、先んじて後ろへ回り込んでいたアレクがクナイを一つ残らずキャッチしていた。

 

「はいはい。いいから早くやって。」

 

両者が日常会話のような他愛もない内容を交わしている最中でも、日本刀を持った男は大きく刀身を振りかぶるが……。

刀身がブルートの額に届くまではほんの刹那だ。

だが、彼女は余裕の姿勢を崩さない。

 

「──遅い。」

 

「ふんがッッ!!」

 

受け取ったクナイをアレクが全力で引き、それと同時にブルートがくるりと手のひらを返しながらワイヤーを引く。

中間地点に人間がいる状態で真逆の方向に力が加わればどうかるかなど言うまでもない。

瞬間、超硬質のワイヤーは骨を砕く勢いで締め上がり、囲まれていた全員を強烈に締め上げた。

 

「痛ぇぇぇ!!?」 「離せゴラァ!!」

 

「よし来た!」

 

縛られた彼らが口うるさく暴言を吐くのを意に介さず、アレクは彼らの周囲を旋回し、縄のように上体を巻き付けた。

この状態になって仕舞えば、どんな怪力自慢であっても腕一本動かせない。

ましてや数人でダルマになっている状態なら尚更のこと。

完全に拘束したことを確認すると、ブルートは懐から何かを取り出してそのまま地面に転がす。

 

「はい、これどうぞ。」

 

無造作に投げ捨てられたのは、白く丸い丸薬。

一見ただのボールにしか見えないそれだが、ワイヤーで縛られた彼らの足元に落下した瞬間に異変は起こった。

ボシュ、と破裂した瞬間に超高密度の煙が彼らの鼻先を漂う。

これに詰まっていたのは、睡眠ガス。

立ち昇る煙はあっと言う間に彼らを覆い、ほんの一瞬でその意識を刈り取った。

 

「忍法、『催眠昏倒の術』だってばよ。」

 

気絶した敵を前にしてブルートは忍々、と満足気に決めポーズを取る。

これは決して煽りなどではない。

ただ忍者兼忍者オタクの彼女は敵を打倒した後はこれをやらなければ気が済まないタチなのだ。

 

「いや純度100%科学の力だろ。あとその謎の習性やめとけってバリトンさんも言ってたろが。」

 

そんなブルートの至福の時間に、クナイを返却しに来たアレクが水を刺す。

彼女のこの奇行は昔から変わらないが、戦場では隙丸出しバカ丸出しのアクションに他ならない。

バリトンもアレクも再三やめるように口添えをしているが効いた試しがない。

今回も、呆れ顔の彼にブルートはやれやれと首を横に振る。

 

「分かってないねアレク、それでも男子?」

 

絶妙にムカつくのを感じながらもアレクはブルートの続く言葉を待つ。

 

「──こういうのは、ロマンでしょ。」

 

「ロマン。」

 

あまりにも唐突過ぎた上、意味の分からない言葉に鸚鵡返しをしてしまうが、当のブルートはあまりにもまっすぐ澄んだ瞳だ。

 

「そう、ロマン。」

 

「そっかあ……ロマンかぁ…。」

 

ロマンなら仕方ない。

アレクは遠い目をしながら自分にそう言い聞かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、ミラは全速力で煙の中を疾っていた。

10を超える敵を無力化し、今から倒す男が最後の標的。

白煙の中に揺らめく人影を目指し、クリアな姿が瞳に映るよりも早く飛び上がる。

 

「フッ!!」

 

飛び上がり、上体を捻っての回し蹴り。

顎先を軽く撫でただけのそれだが、脳震盪を引き起こして行動不能にするには十分すぎる。

崩れ落ちて床に接吻をしている男を見下ろして、ようやくミラは止めていた呼吸を再開する。

今になって流れてきた汗を袖口で拭い、仲間たちの現状を確認する。

 

「ヴェナ、敵影はどうだ?」

 

『お〜うちょっと待ってな。今再演算してるから10秒くらい待ってクレメンス。』

 

バリトンは、大の大人2人を片手で掴み淡々と首を締め上げている。

哀れな被害者たちは足をバタつかせて足掻いているがその顔はどんどん肌色から深紅に染まっていく。

その数秒後、ぱたりと動きは止まりだらんと腕が落ちる。

完全に対象が沈黙したのを確認すると、握っていた手を離しパンパン、と手をはたく。

 

「ミラ、良い動きだった。だがまだ踏み込みが甘いぞ。」

 

「あ…はい……そうでしたか……。」

 

その狭い鎧の隙間のどこからミラの動きを見ていたのだろうか。

目の前の攻防に必死だったミラからすればドン引きものだ。

 

「なー、これ後で運ぶのめんどくね?」

 

「つべこべ言わないで縛って。こいつら起きるでしょ。」

 

アレクとブルートはバリトンとミラの薙ぎ倒した連中を片っ端からワイヤーで縛り上げている。

古参の2人だからなんの心配もしていなかったが、流石の仕事の速さだ。

今一度室内を見渡すが、そこにはもう敵影らしきものは見当たらなかった。

 

「…ふぅ〜。」

 

任務完了。

そんな言葉が脳裏に浮かんだその時、全員の通信機にヴェナの緊迫した高音が響いた。

 

『オイお前ら油断すんな!まだ一人残ってるぞ!!」

 

「「「「ッッ!!!!」」」」

 

その瞬間に、全員の意識が臨戦態勢へと引き戻される。

 

『部屋の端の机の影だ!とっ捕まえろ!』

 

「クソッタレ共が……!!」

 

ミラたちの意識が自らの隠れ場所に向いたことを察知したのだろうか。

隠れていた残党は、大人しく物陰から顔を出すと何かを振りかぶった。

 

「行けベロキー!!」

 

閃光と共に召喚されたのは、白と蒼の羽毛が象徴的な小型の肉食恐竜。

その様相は通常の個体とは異なっており、一部の牙と爪が肥大化していた。

甲高い咆哮をあげたソレは正面に立つミラたちへと狙いを定めた。

 

「おっとぉ……これマズくね?」

 

アレクの言葉の通りだ。

今現在、この場にいる者に小型リバイバーに対抗できるリバイバーを有している者は誰もいない。

ミラにはプレシオがいるが、体格差、筋力、属性相性、あらゆるものを総合しても勝てるビジョンは見えない相手だ。

ミラ以外の隊員も、有しているのは中型以上のリバイバーだけだ。

この場に召喚すれば床は砕け、その余波で建物全体が崩壊しかねない。

そうなれば突入した全員が無事では済まない。

かと言って、人間の力だけでこれに対抗することは不可能。

生身でリバイバーと戦える人間がいない訳ではない。

だがそれはほんの一握りの例外的な能力を持つ者たちに限られる。

バリトンは徒手空拳においては『円卓』でも上位に位置しているがそれでも無理はものは無理だ。

ましてや歪な強化が施されたベロキーに突っ込んで行けばほんの数秒で輪切にされてしまう。

そのことを知ってか知らずか、残党の男は歯を見せ高笑いを始めた。

 

「ハハハハハハ!!跪いて土下座しろテメェら!そうすりゃ俺がここでのし上がる夢を台無しにしやがったことは細切れにするだけで許してやるよ!!」

 

勝利を確信したのだろうか。

上司にヘコヘコしていたのとは打って変わって強気だ。

言っている内容は多分あまり意味がないのでミラはとりあえず部屋にまだ敵がいないかを念の為確認するために一度男を視界から外す。

 

「特にそこの眼帯のお前!!俺の腕をへし折りやがったことは絶対に許さねえ!!」

 

突然のご指名に、ミラは索敵作業を一時中断して男に向き直る。

この業界の人間に面識なんてなかったはずだが。

顔にも姿にも全く覚えがない。

恐らく人違いだろう。

それに、腕をへし折ったのに確保していないなんてそんなことは…

 

「……あぁ、あの時の人ですか。」

 

思い返せば、一度だけあった。

約一年前のオークション戦。

あの時、情報収集の際に軽く尋問した男がいた。

よく見てみれば同じ背格好で、同じ下卑た言葉遣い。

ミラに因縁があることからも同一人物に相違ないだろう。

恐らく、あのオークションでの一斉検挙で親、或いは後ろ盾を失って堕ちるところまで堕ちた、といったところだろう。

だがそんなことにミラは一切の責任を感じてはいない。

人生の分岐点でどう動くかは全て当人の選択だ。

堕ちても昇っても、それは全て本人の責任に帰結する。

 

「手足もいで娼館に売り飛ばしてやるよ!そこで死ぬまで後悔させてやる!!」

 

「うわぉ息吐くように最低発言…。」

 

「すみませんブルートさん、しょうかんって何ですか?」

 

「ミラは知らなくていい単語。」

 

ドン引きしているアレクと、ゴミを見る目のブルート、そして発言内容を一ミリも理解していないミラ。

戦場どころか、通常運転にも程がある雰囲気に男は青筋を立てながらナイフを取り出して振りかざす。

 

「テメェら状況分かってんのか!?何談笑してやがる!」

 

その質問の答えなら、とてもシンプルだ。

何故なら、もうミラたちが戦う必要はないからだ。

確かに召喚されたベロキーは脅威だが、今日ここに来ているのはミラたちだけではない。

 

「状況が分かってないのは貴方の方ですよ。形勢をある程度見極める眼があるなら、もう少し()()()にも目を向けてみては?」

 

「……外?」

 

ミラの言葉の通りだ。

この戦場での勝敗はすでに決している。

男は何のことか全く理解出来ていないようだったが、それも数瞬後にすぐにわかる。

 

『全員伏せろ!!』

 

耳元で轟いたヴェナの言葉と共に、ミラたちは反射的に地面に伏せた。

だって、この数瞬後には立っていられない程の暴風が吹き荒れるだろうから。

 

 

 

 

 

「──吹き飛ばせ、フェイルノート!!!!」

 

瞬間、突風などという表現では生温いほどの大質量を持った風の塊が室内を横断した。

バリン、バリン、と次々と窓ガラスは砕け、薙ぎ払われたオブジェクトが宙を舞い、部屋の中央に陣取っていたベロキーはなす術もなく窓ガラスを突き破り空中へと投げ出された。

 

「GYAAAAA!!!!」

 

耳を劈くほどの咆哮を上げながら何度も宙を掻くが、目の前に立つ現実は何一つ変わらない。

空を飛ぶ手段を持たないこのリバイバーはもはや墜落する以外の道は残されていない。

このまま地面に激突し、ひしゃげてただの肉塊となる。

きっと誰もがそう考えるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「GIA…!?」

 

───だが、『コルタナ』はたった一つであっても命の損失を許さない。

地面までの距離が10メートルを切ったその時、ベロキーの視界の端には竪琴が映った。

否、厳密には竪琴ではない。

竪琴に酷似した翼模様のプテランがこちらに向かった全速で向かってくる。

自身を吹き飛ばした敵対者と、それに跨る人間に怨嗟の眼差しを向けるベロキーだが、それを真正面から受け止めて尚シャグランはライフルを構える。

 

『弾道予測いるか〜?』

 

耳元で響くヴェナの声に、シャグランは笑みと安心を浮かべる。

折角の申し出だが、この一射に限って狂いはない。

 

「──いいえ。問題ありません。」

 

何故なら射抜くべき軌道は、既に見えている。

研ぎ澄まされ、凝縮された刹那の視界の中で、シャグランはそっと引き金を引いた。

パシュ、という音と共に三発の弾丸が標的目掛けて放たれる。

銃倉に装填されているのは対リバイバー用の鎮静剤。

急所に当てさえすれば、大型のリバイバーであっても昏倒させるほどの代物だ。

そしてシャグランは外部の妨害さえなければ、加護が無くとも狙った急所を外さない。

 

「G Aッッ……!?」

 

首筋、関節、舌。

皮膚の薄い箇所に的確に鎮静剤を打ち込まれたベロキーはあっという間にメダルの姿へと戻った。

 

「……ふぅ。」

 

無事に仕留められたことに安堵したシャグランは流れるような動作で落下中の恐竜メダルを回収すると、それを懐へと収めた。

このメダルは改造リバイバーの製造元へと繋がる重要な手掛かりだ。

それを回収できた事も喜ばしい事だった。

 

「ありがとうございます、フェイルノート。」

 

指示を受けるまでもなく少しでもメダルを回収しやすいように動いてくれた彼女の頭を、シャグランは優しく撫でる。

心地良さそうに喉を鳴らす彼女に跨ったまま、二人は風に乗り暫くの間空を舞っていたのだった。

 

 

 

 

 

場面は変わって、ミラたちのいるフロア。

突風に飲み込まれた範囲は更地に変わり果てていて、まるで初めから何もなかったかのようだった。

目の前で大質量の暴風が吹き荒れたことに腰を抜かしたのだろうか。

先程まで勝ち気だった彼は、床にへたり込んでいた。

切り札たるリバイバーを失い、フロア内にいるのは気絶した仲間たちだけ。

運良く風に飛ばされずただ1人残された男に、ミラとバリトンはゆっくりと近付く。

 

「さて。幾つか質問があるのですが。」

 

「まっ!待て!頼む待ってくれ!!さっきの言動はほんの出来心で…!」

 

「待ちません。」

 

何と言おうと、彼はミラたちを殺そうとした。

それだけは確かな事実だ。

よって、かける慈悲もなければ情けもない。

後ずさる先もないのに必死に手足を床に擦らせる男の懇願を無視して、ミラは彼の喉仏に銃口を突きつける。

そこまでされて漸く自分の置かれた立場を理解したのか、脂汗まみれになりながら両手を上げ、浅い呼吸を繰り返している。

こんな状態で正確に情報を聞き出せるかは分からないが、贅沢は言っていられない。

 

「質問一つ目。貴方達の所持している改造リバイバーは、今何処にありますか?」

 

「上の階だ!詳しいフロアまでは知らねえ!俺はまだここに入って1ヶ月なんだ!大事なことは何も知らされてねえんだ!」

 

その必死の弁明から嘘は感じられない。

本当にこの男は新入りで、大事な情報な共有されていないのだろう。

知性も理性も感じなさそうな組織なのに、こういう所はしっかりしているのが腑に落ちない。

 

「………では二つ目。先程誰かが貴方に対して『向こうに連絡しろ』、と言っていましたね。まだ他に拠点が?」

 

「あッ…ああ!ある!ここから少し離れた建物に別動部隊が控えてる!そいつらに援軍に来てもらおうとしただけなんだ…!!」

 

『いんや、その点は大丈夫だ。突入と同時にジャミングかけてるから向こうに情報は行ってないはずだぞ。通信のログも見当たらね〜し。』

 

ヴェナの言葉は恐らく間違いない。

ほんの数分前とはいえ、もしも別働隊に連絡が入っていたのなら何の動きもないこと自体がおかしい。

であれば、別働隊に連絡が行っていないと考える方が妥当だ。

 

「…そうですか。」

 

ここまで聞ければもう他に聞くことはない。

厳密に言えばないことはないが、怯えきったこの状態でこれ以上尋問したところで得るものはほとんど無いだろう。

 

「──ご協力、感謝します。」

 

短く彼に礼を述べると、ミラは銃床を男の側頭部目掛けて全力で振り抜いた。

ゴン、という鈍い音が響き男は力無く床に倒れ伏す。

どこまでも最低な男だったが、次は少しでもまともな人間になっていることを切に願うばかりだ。

 

「さて…と。」

 

無事に戦闘は終了した。

残るは、彼らに譲渡されたという改造リバイバーの回収が必要となる。

次の行動へと移るべく部屋を跡にしたのであった。

 

─────────────────────

 

「どうだフィリア!!見たかアタシらのコンビネーション!!」

 

後方支援部隊の車内。

ようやく仕事から解放されたヴェナは、弾ける笑顔でフィリアに呼び掛ける。

当のフィリアもヴェナの大声でハッと我に帰る。

それほどまでにミラたちの戦闘に釘付けになってしまっていた。

 

「すごいです……語彙力がなくて申し訳ないんですけど…まるで…皆さん一つの生き物みたいで…!」

 

冗談でも比喩でもなく、フィリアには彼らの動きがまるで一つの生物のように映っていた。

一切の無駄なく最高効率で、やるべき事をそれぞれが100%こなす。

まさしく阿吽の呼吸。

いつか見た集団行動の演目を見ているようだった。

 

「んはは、じゃあ指揮者のアタシが一番すごいってことかぁ?照れるなぁ!」

 

「それだけはないですよ、ヴェナさん。」

 

「んだとコラシーナてめー。」

 

デレデレとニチャり笑いを浮かべるヴェナにシーナは溜め息混じりで釘を刺す。

 

「アハハ…。」

 

微笑ましい師弟のやり取りを苦笑いで流しながら、フィリアはもう一度モニターに目を向ける。

特に何か意味があったわけではない。

だがこの何気ない動作が違和感に気付く一助となった。

まるで、初めから彼女が気が付くと決まっていたように。

 

「あのヴェナさん、シーナさん。

──あれ…何ですか?」

 

「あ?」

 

「ん?」

 

先程まではなかった文字列。

それが映し出されているのは周囲のマップのとある一区画。

フィリアが指差した先のディスプレイには、『NOT SIGNAL』の文言が大きく表示されていた。

 




補足①今回から登場したアレクさんとブルートさんの情報
アレク→アレクサンドロ・オニキス(20)
リオネスさんに脳を焼かれて入隊を決めた騎士。『コルタナ』ではムードメーカー兼いじられ役。

ブルート→ブルート・スメラギ(20)
東洋の暗殺一族の女性。リオネスさんを暗殺しに来た際に返り討ちにあった脳を焼かれて入隊を決意。◯ルトとか◯っとりくんとかが大好きな忍者ヲタ。

補足②
今回名前だけ出たヴェレーノさんは前作でミリーという名前で出ていた方です。改名致しました。本名はヴェレーノ・トリアナイト。唯一のヒーラーですが医師免許はない闇医者です。実は『コルタナ』初期メンバーの1人でリオネスさんとは多分一番付き合いが長いです。
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