「整列!今回の臨海合宿に特別にお呼びした倉持技研2番研究所所長スネイルだ。挨拶!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
砂浜にて水着姿のまま整列した生徒達に一斉に挨拶されたスネイルです。
織斑千冬の号令に合わせて一斉に動かせる、そこそこの訓練をしてきた者しかできないことです。
最初から戦う人間、建前は競技用の人材を育てるための学園故に統率は取れているのでしょう。
若干1名、男性操縦者の動きが鈍かったですが。
「ご紹介にあずかりました、スネイルです。1日早く来てしまいましたが、装備テストということで、昼食後に質問を多少受けましょう」
直立のまま、自分の役割を告げて周りの反応を見ましょう。
「どう?あの人って結構顔良くない?」
「倉持のところの所長だって!絶対賢いよ」
「鬼畜眼鏡って感じだよね」
「なんか苦労してそう」
「何で男の技術者を派遣したんだろ?」
「うっは、責められてみたいな…………」
「なんかネチネチしてそう」
概ね好意的に捉えられたという認識でよいでしょう。邪なことを考えるのも学生のうちくらいです。
社会に出たらそう甘くないのですからね。余計な思考を費やすと後に響きますので、下手なことを言うとセクハラにも該当します。
私としては仕事をすればプライベートなことは節度さえ守ればどうでもいいのです。
変に犯罪を犯すと企業のイメージダウンにつながりますからね。そこのダメージコントロールもしなければ。
「ということだ。昼食後も自由時間はある。後でスネイル所長に聞く様に」
「「「はい!」」」
この統率、そして信頼、織斑千冬のカリスマが相当なことがうかがえる。
今まで彼女と接触した時は周りに生徒はいませんでしたからね、こういった場面では活躍しているのですか。
伊達に
「スネイルさんも一緒に食事でもどうかな。その様子だとまだじゃないですか?」
「ええ、そうですが。いい店でもあるのですか?」
「旅館にカフェがあるので、そこでどうでしょうか?」
何かやけにグイグイと来る女教員が居ますが、いったいこれは?
ハニートラップとも考えられますね。私も相応の立場にいますので、引っかけて情報でも聞き出そうとしているのか?
「榊原先生またやってるよ…………」
「先生が喰いついたってことは、また酷い目に合うってコト!?」
「私は知ってたよ、あの顔はろくでなしだって」
「
「後で指導する」
どうやら単純に私の気を引こうとしているようでした。
しかも会話を聞いているとこの教員は結婚願望でもあるのでしょう。それも、またと言われているあたり何度も失敗していると。
私を巻き込まないでいただきたい。私までろくでなし判定にされるのは不本意です。
とはいえ、せっかく誘いを受けて断るのもこの場での印象が悪くなるだろうと予測します。
久しぶりの休日のようなもの、少しは休ませてもらいましょうか。
「やっほー、束さんがやって来たよー」
気の抜けたような声で、先ほど起こった揺れの震源地に落ちてあった人参を模した馬鹿みたいなロケットから出てきた女がそういった。
何が起きたか、私も天然の地震とは違う揺れを感じて『護身用具』を持ちだして見に行ったのですが…………
篠ノ之束博士、写真で数回しか見たことは無かったが、当人がそこに居る。
整形すれば簡単に成り済ますことは出来る?確かにそうだが、天才の雰囲気と言うものは感じ取ることが出来る。
フロイトのように自由であり、そして他者を顧みることはあまりなさそうな雰囲気を彼女から嫌でも感じ取れた。
織斑千冬に飛びつこうとしてラリアットを食らっているあたり、雑に扱われるのはいつものことのように…………待ちなさい、ラリアットが当たった時の音が首の骨が折れるくらいの勢いだったのですが?
そう思っていたのもつかの間、何事もなかったかのように起き上がり抗議する篠ノ之束博士。
なぜ彼女が現れたのか、どうしてこのタイミングなのか。
IS開発者は一体何を考えている?ここはIS武装のテスト及び訓練の…………
待て、IS武装のテスト?まさかとは思うが友人や妹の顔を見るためだけにここに来るはずがない。
つまり、篠ノ之束博士は…………
「ん?そこに居るのはスネイルさんじゃないか。こんなところに何しに来たの?」
「…………これは篠ノ之束博士。まさか名前を知っていたとは光栄です」
「MTだったっけ?人型っぽい重機を作って世界に広める。あのようなやつは初めて見たよー」
何か言いたそうな、専用機持ちとしていざという時のために一緒に連れ出したであろうイギリス代表候補生が居ましたが、それを無視して私に近づいてきました。
「で、実際は何考えてるの?」
「MTを世界に広げ、企業としての格を上げる。それだけです」
「ほーん?結構嫌がらせを受けてるみたいだけど、できるのかなー?」
私の実力を認めているのかは定かではない。だが、私にはこう言っているように思える。
『ISの二の舞にならないか』、と
…………良かれと思って作られたものが兵器として運用されることはどの時代、どこにでもあります。
かの有名なアルフレッド・ノーベルもダイナマイトを製造し、自らの想像を遥かに超えた兵器として運用されてしまった。
私も想定外のことはあると思っています。人間、思っているよりも愚か者が多いので、馬鹿の予測は出来ないと言った風にどうしようもないことはある。
その愚か者をどうにかしてこそ企業。本当に嘘の日程を教えてきたような上層部のような者を操作することが最も賢いやり方です。今回の様に予想外な嫌がらせを受けた私がそこまで行けていない時点で説得力がありませんが。
「貴女にだけは言われたくありませんね。宇宙活動としての運用を放棄し、軍事目的に使用される現状を放置した貴女には」
「言ってくれるねぇ。ま、無理だろうけど」
「それで要件は?貴女の目的は私ではなく彼女達の誰かでしょう」
「おっと、そうだった。テヘペロ」
思ってもないことを平然とうざったい仕草で見せつけてくる。
織斑千冬はよく我慢できましたね、四六時中このような態度を取ろうものなら縁を切ってもおかしくはなかったですよ。
いつどこで私のMTを知ったのかは知りませんが、話題に興味を失ったように妹である篠ノ之箒の元へ行く。
「じゃじゃーん!箒ちゃん専用機でーす!束さんのチューンで完成させた第4世代機だよ!」
とんでもない身内贔屓を見た。第3世代型ですら苦戦しているというのに次の型番を作り上げるとは。
それに、数に限りがあるはずのISコアを新たに製造している時点で恐ろしい考えが思いつく。
この博士、まだ最新型を隠しているのでは無いか?
私も言えた義理ではないが、秘密兵器を隠していてもおかしくない。
「ふふん、これで箒ちゃんも専用機持ちに」
「性能はどうなのですか?」
「あん?せいのーだってぇ?この束さんが作った物が合わないとても思わないのかー?」
「例えどれほど最新であろうと、貴女が直接作り出したものはどれも扱いが難しいものばかり。それを数日で慣らそうとするつもりでしょう」
「分かってるじゃん?でも箒ちゃんなら」
「例えプロでも武装の一つを変えれば大きく動きが変わるものです。たかが数日で慣れる器は存在しません」
「ここに居るけど?」
「例外を入れないでいただきたい」
何という傲慢、自分が出来るなら妹にも出来るだろうという考え。
いや、流石に自分ほどではないとは思っているだろう。その為に態々現地まで来てチューンするつもりか。
「いくら実践であろうと、ぶっつけ本番の危機くらいで無ければ即座に身体に馴染むはずもない」
私はそう吐き捨てた。
ここまで他人の事を考えない人間だったとは。今までの行動も、天才故誰も周りにまともな理解者もおらず、精神の成長が止まっている。
誰も咎めることが無かった、立ち向かえる者が居なかったが故の停滞。
もはや話すこともないでしょう。彼女の精神構造は社会に適していない。
「ふふふ、それはどうかなー?」
にこやかに、そして怪しく笑う篠ノ之束博士はそれだけを私に向けて言い、それ以降は無視して妹と織斑姉弟に向けて喋り出した。
もはやまともな臨海学校にならないだろう。
その思いを胸にしまい、私はその場を後にするのだった。
ちなみに昼食後の質問ターンはめっちゃ質問された。
そして殆ど辛辣な評価を出し改善点を出した。
榊原教員は歯牙にも掛けられなかった。