倉持技研2番研究所所長スネイルです   作:蓮太郎

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この回はタイトルが全てのつもり。


13. あこがれたんだ

 

 篠ノ之束は天才である。いや、天才という言葉では片付かないほどの超天才である。

 

 身体能力は織斑千冬以外では並ぶものは無く、頭脳においては並び立つものは誰もいない。

 

 故に、どれほど画期的な発明をしたとしても非現実的だと笑われる事が多かった。

 

 それをひっくり返したのが『白騎士事件』。ISの有用性を世界に見せつける事で地位を確立しようとする為に敢えて起こした事件である。

 

 二千を超えるミサイルを撃ち落とし、その才能を世界に轟かすことになる。

 

 だが、ISは兵器としか見られなかった。

 

 もし、スネイルが居たなら、世界中の軍事施設を同時にハッキングしてミサイルを撃つくらいならSNSで面白い事をすると情報を拡散させ、たくさんの見物人を集めた後に公開演出でもすればいいと提言しただろう。

 

 面白半分でも釣れる奴は釣れる。ついでに束と千冬の画像を載せていたら美人見たさに来る人間だっていただろう。

 

 しかし束はそのような事を思いつきもしなかった。

 

 極々一部(織斑姉弟)義娘(クロエ)を除いた他人に興味を示さず、むしろ排除にまで徹するスタイルを貫き続けたせいだ。

 

 その為に世間がどう流れるかの動きを見据えることができず、ISが乗れるだけで誇られる女尊男卑の世界となった。

 

 束は絶望した。人間が愚かとは思っていたが、こうまで愚かになるとは想定していなかった。

 

 国が提案し、強制執行した『重要人物保護プログラム』により一家は離散。その国もISを宇宙開発ではなく兵器として転用しようとした。

 

 だから身を隠した。

 

 信用できるのは千冬のみとなった彼女は適当にISを作り、そしてばら撒いたくらいで姿を消す事となる。

 

 行方不明の期間でクロエを義娘として拾い、世界各地にちょっかいをかけまわっていた。

 

 全て退屈凌ぎ。珍しいものがあれば見に行く程度でハッキングをして情報を抜き取り、つまらなかったら他所へ捨てるなど傍若無人ぶりを見せる。

 

 それから時は経ち、一夏がISを動かしてしまいIS学園へと強制入学させられた頃。

 

 束は3番研究所へと侵入して白式の改造を勝手にした。

 

 持ち込みのデータや機材を使い、あっという間に終わらせたのはいいが、警備がザルなのか、それとも束のハッキングが優秀すぎて警備システムが作動しないのか人が全く来ない。

 

 これはつまらないと思い、近くにあった3番研究所に置かれた最新らしい機材を弄ってみることにした。

 

 それが運命の分かれ道だった。

 

 それはスネイルが開発したシミュレーターで、ISを擬似的に操作できたり、開発中のMTの試運転のようなデータの山だったのだ。

 

 とりあえずデータだけコピーして撤退後、変なバックドアがないかだけを確認して同じVRシミュレーターを制作、そしてデータをインストールして試してみた。

 

 シミュレーターとして、束がいい感じと思えるくらいには出来が良く、ゲームとして使うのならば十分過ぎる代物であった。

 

 さらに実物がなくとも設計図とデータ出力さえ一致すれば新たに作成できるという利点もあり、わざわざゴミのような試作品を作る手間を省ける仕組みがあった事を即座に理解して好き放題遊んでみたりした。

 

 ISだけでなくMTという土木作業機ながら兵器に転用できる機械。そしてACという謎の超兵器。

 

 ACは負荷こそ大きいものの、束スペック、もしくは相当訓練した人間なら乗れるという代物ではあるが、その設計に関してはシミュレーター内には存在していなかった。

 

 一旦の謎は放置して、好き放題にデータを入力するほど遊べるシミュレーターに時間を忘れて遊びこんだ。

 

 クロエが食事の時間になっても戻ってこない束を呼んだことで相当長い時間を費やしていたことに気づいた。

 

 この自分がここまでやりこんでいたことに驚いた束は、これの制作者に興味を持った。

 

 調べ自体はすぐに済んだ。

 

 スネイル・秋葉という倉持技研2番研究所所長が該当し、他にも何を作っているかを調べていった。

 

 目立った功績はEN武装とパルス武装の開発。しかし、これらの製造理論はスネイル本人の手によって使えないものとして決めつけられていたが、これも本来の性能を隠すための偽装だということを束は見抜いた。

 

 EN武装はともかく、パルス武装はISのエネルギーシールドを削るために存在しているような物であるのだが、スネイルの誘導に気が付かず産廃扱いにしている研究者が多すぎてイラついたこともあった。

 

 そして、今までの功績とシミュレーター内のデータから、スネイルは本気でこれらの物を作り上げるつもりだと確信した。

 

 IS武装はどうでもいい、MTとACの構造が究極的天才の束ですら分からない。

 

 久しぶりの未知。それだけで心躍るものはない。

 

 そこからスネイルという人間に注目し始めた。

 

 束の予想ではこれ以上に何か作り出しているかもしれないと思っていたが、残念なことにその時はそれ以上無かった。

 

 無理もない、ISにより男性の地位が低くなりつつある中で頭角を現し始めたスネイルを潰そうと多くの仕事が彼にのしかかっていたのだ。

 

 反省はしていないが、流石にちょっと可哀想かもしれないと思わないでもない。

 

 仕事量が多すぎて開発に手間取っているみたいだが、そこそこ進行していたのでゆっくりと眺めることにした。

 

 時間こそかかったが、スネイルはMTの公式発表までこぎつけた。

 

 こっそりと身分を偽らせたクロエを説明会に行かせてISに録画させた。

 

 意外な事に、潜んでいた亡国機業はともかくクロエまで追跡されるとは思わなかった。

 

 当然ながらクロエが装備しているISにより追跡してきた人間を撒いて帰宅させた。

 

 戦いのために造られ失敗作とされたとは言えそこらのエージェントよりも優秀なクロエですらISを使わなければ撒けない相手という人材も保有していると分かったこともあったが、束が最も興味を示したのはMTの説明、否、スネイルの演説だった。

 

 形だけ参加してほとんど興味が無い者も、利益実益を交えて話しつつ多くの分野において活躍できると豪語し興味を引き付けるその姿。

 

 あまりにも自信に満ち、必ず成功するという未来を確信している立ち振る舞い。

 

 例え誰にも理解されずとも、自分だけでもそれを信じて突き進めようとする傲慢さ。

 

 されど決して独りよがりではなく現実味を帯びた事例及び試作MTによる作業風景を動画として流すことで本気ということを信じさせる力。

 

 篠ノ之束は万人が認めざるを得ない『天災』である。だが唯一持ち合わせていないものがあった。

 

 それは『商才』である。

 

 彼女は親友である織斑千冬に相当叩かれて漸く興味のない他人に適当な返事をするくらいのコミュニケーションしか取れない。

 

 だがスネイルは違う。木っ端のような他人であっても利用価値を生み出し、言葉巧みに使い潰す。有用ならば手元において使うという人間らしい戦い方。

 

 全てが細胞レベルで超越しているはずの束が他人に興味を持つことが出来ないという致命的な欠陥を、自分に並びうるかもしれない人間が持ち合わせている。

 

 この光景を見た束は思い出す。自身がISを初めて学会に発表した時の光景を。

 

 空想的と呼ばれようと妄想と馬鹿にされようと反論し続け、いや、もう最初から試験機を持ち込んだらもっと楽だったんじゃないかと考えたところで気づいた。

 

 スネイルという男は、全てを完成させた上で向上の意思を持って、勝利を確信した状態であの場に立っていたのだと。

 

 このように下地を全て作り上げた状態で大舞台に立った男はどれほどの時間を費やしたのか?

 

 多くの実験、多方面への協力、開発までにかかる費用。それを全て工面するうえで上層部からの妨害をいなしつつ行わなければならないのだ。

 

 あまりにも苦境。凡百の天才ならくじけて諦めてもおかしくはない状況。

 

 だが彼は諦めなかった。

 

 持てるものを全て費やして夢の舞台へ立ったのだ。

 

 自分の時とは正反対の舞台で、忘れられない言葉があった。

 

『私の目標は地球における文明の繁栄ではない。いずれ来る資源不足の解消のために、この星の外、皆が忘れている宙への進出。未知の世界を切り開き、更なる人類の未来を切り開くことです!』

 

 それは力強く発せられた、確実に来るその先を見据えた言葉に束の凍ってしまっていた心が動いた。

 

 宇宙への進出、束が抱いた最初の夢であり、世界に絶望して放置していた物語。

 

 それをスネイルは真っ当で健全な方法で、夢をかなえようとしているのだ。

 

 別の目的が入っているかもしれないとはいえ、ほぼ確実に宇宙へと進出するであろう男の動向は見逃せるはずがない。

 

 妹の次に優先事項となった彼の追跡は、まさかの彼が所属する企業の上層部からの嫌がらせで直接邂逅になるとはあまり考えていなかった。

 

 もとより銀の福音を暴走させて紅椿の活躍の場を作る予定ではあったが、もしかしたらスネイルの隠し玉を見られるかもしれないという期待もあった。

 

 だから、束は今砂浜にいる。

 

 スネイルが援軍として呼んだ、束でも爆笑するくらいにバカでかいヘリとオマケで付いてきたIS乗り。

 

 束の視線は馬鹿が作ったような巨大ヘリに釘付けだった。

 

 一体あれから何が出てくるのだろうか?

 

 あれだけ豪語したのだ、ただのMTが出てくるわけが無い。

 

 出てくる機体を束は想像する。

 

 シミュレーターの中に眠っていたACという機体。数多に組み合わせのあるものの中で何が出るのかを、本当に楽しみに、子供のような笑顔で待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『閣下、こちらメーテルリンク。聞こえますか?』

 

「聞こえます。こちらの準備も終えました。出発は1分後、貴女には私の僚機として出撃してもらいます」

 

『はっ!了解です。…………砂浜に人がいます。追い払いますか?』

 

「結構。どうせ篠ノ之束博士でしょう。他に人がいるなら興味を持った教員です」

 

『了解しました。こちらに手出ししないよう注意は』

 

「必要ありません。では、行きましょう。世界初の有人ACの誕生を、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に奏でさせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、仕事を始めましょう」

 

『メインシステム、起動』

 

 





天上天下唯我独尊級『天災』と時代と世間の波に揉まれる天才。

力がある故に失敗した者と全てを巻き込み成功に近づく者。

自由な野良犬と牙を隠し爪を研ぐ猟犬。

さあ、どっちのルートを取る?
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