今思えば公式絵は曖昧な写真一枚なのにどうしてみんな容姿を想像できるんだ…………?
怖…………コーラル飲も。
若い少年が抜けきっていない声。大人か女性ばかりのこの場に似つかわしくない張りきった声が砂浜に響く。
全員が声のした方向を見ると、彼女達の殆どは知らないがつい先ほどまで重傷を負っていたのだが目が覚めたようだった。
そして、その顔はやる気に満ち溢れて今からでも出撃せんと言わんばかりに力がみなぎっている。
だが、肝心の討伐対象はとっくに撃墜している。
よって、完全に空回りした空気に包まれてしまい逆に怖気づいてしまった。
「え、えっと…………」
「織斑君、もう終わったよ」
「終わ…………終わった!?」
自分のミスを取り返そうと思ったら既にことは終わっていた。
「銀の福音もう通り過ぎていったんですか!?」
「スネイルが堕とした」
「あの、えっと、誰だっけ?」
フロイトの言葉で誰かを思い出せなかった一夏がそういうと周りはずっこけた。
もし
しっかりと紹介されていたはずなのに忘れている時点であまり頭になかったのか、それとも一度大怪我を負ったため記憶が曖昧になったのか。
「なるほど、お前が世界初の男性操縦者とやらか」
周りの反応、特異的な存在からフロイトは見たこともなかった男の事を言い当てた。
「あんたは…………?」
「フロイトだ。俺も詳しくは知らんが、スネイルがやった以上はもう話は終わりだろう」
「ま、待って欲しい!本当に終わったのか?」
そして追いついた篠ノ之箒が事情を周りから聞いて事態を把握した。
彼女にとって汚名を返上する機会だったのだが、それを潰されてしまったのはどうしようもない。
間に合わなかったのも、そもそも失敗となる原因を作ったのは一夏なのだから。
「終わった。スネイルの様子から、あっさりとな」
その言葉に二人は呆然とするしかない。だが、オープンフェイスを目撃した教員及び生徒たちは傷がほとんどなかったことから一方的に終わったのかもしれないという考えがぬぐえなくなってくる。
「では、俺はこの辺りにしておく。篠ノ之束を探さないといけないからな」
「姉さんを?何故?」
「アレの中に入れるなという指示だからな」
「アレ…………でっか!?」
「た、確かに姉さんが興味を持ちそうなヘリだ…………」
ようやく気付いたと言わんばかりに遠くに鎮座しているハンガーヘリに気づいた。
今更というが、使命に夢中になりすぎて眼中に入らなかったのである意味当然と言えよう。
「そういえば全員IS乗りなんだろう。誰が一番強いんだ?」
それはフロイトの何気ない思い。ただ単純にこの年代で一体誰が最強なのかを知りたいという純粋な考えが口に出た。
フロイトと話していたはずなのに、突然話の腰を折られて少しむっとしていた簪だが、そういえばそうだと思ってしまった。
ここ最近は模擬戦くらいしかクラスでの交流がなく、本格的なクラス対抗戦などはなんやかんやで機会がほとんど失われている。
一応は一回戦のみするという形式でやったとはいえ、たった一回、それも相性があったりするため参考になったかどうかは定かではない。
候補として名前が挙がるのは基本的に代表候補生なのだが。
それでも誰かを決めるということについては決め手に欠ける。
恐らく戦闘経験でいうならドイツ代表候補生のラウラ、縦横無尽に狙われるレーザービットを操る技量ならイギリス代表候補生のセシリア。
破壊力でいうなら中国代表候補生の鈴音、距離を選ばず変則的行動をとれるフランス代表候補生のシャルロット。
他は第4世代機となる紅椿に搭乗する箒に世界最強の弟であり一撃必殺の単一仕様能力がある一夏。
あと実力不明となっている簪。
どれも甲乙つけがたく、簡単に決められるものではない。
「誰が一番強いんだろう?」
「分かんないけど、能力的に言ったら一夏くんじゃない?」
「実践積めばそうかもしれないけど、経験だと他が…………」
「なるほど、お前が一番強くなるかもしれないという訳か」
フロイトの視線が一夏へと向けられる。
髪の隙間から見える鋭い眼光に一夏は戸惑いを隠せなかったが、そんなことを無視してフロイトがどんどん近づいてくる。
「ふむ、体格は悪くない。怪我はしているが…………まあ仕方ないだろう。何故ケガをした?」
「何でって、かばったから」
「何を?」
「ひ、人を…………」
「確か、この作戦の重要な役をやっていたな。そんな余裕があったか?」
「なっ、でも、やらなきゃ人が死んでたかもしれなかったんだよ!」
「お前が失敗したらここにいる奴ら全員が死ぬかもしれないのにか?」
広い夏場の砂浜であるはずなのに空気が凍った。
「なるほど、誰一人としてそういう自覚が無い。そのようだな」
フロイトは名目上は警備部門の人間だが、スネイルお抱えの極秘実働部隊隊長である。
命令があればある程度の法を犯すこともするし、なんなら殺人だって辞さないのだ。
たとえ競技用とのたまっていても軍事目的をメインとしている現状で、その乗員を育成する機関に在籍していても心構えがないと言うのだ。
とは言っても生徒たちはまだ子供なのだ。ラウラは初めから軍人ではあるが、銀の福音で溜まった疲れを取るための休息でこの場に居ないし、そもそも
だとしても、戦闘中によそ見をするのは命取りになる。
その結果、本来なら保険となったスネイル出撃が起きてしまったのだから大失敗と言って過言ではないだろう。
「他はまあいい。男性操縦者と聞いて期待していたんだが…………外れだったか」
「一夏が外れだと!」
フロイトの言葉に箒は怒り詰め寄っていく。恋する乙女が好きな人を馬鹿にされたら止まりようがない。
今にも掴みかかろうとしていたが、ひらりと躱されて手が届かない。
天性のセンスを持っている男に、たかが剣道全国大会優勝程度の実力ではとらえることすら難しい。
「立ち方、身のふるまい、状況判断、何もかもが劣っている。これに専用機を与えるなんて見る目が無いな」
「てめぇ、何だと!?」
明らかな侮辱に一夏が激怒する。幼馴染をどこの馬の骨かも分からない男に無感情に言われれば腹が立っても仕方のないことだろう。
だが、相手が悪すぎた。
「素人だな、そういう動きだ」
どこまでも軽く、そして平坦なテンションで、二言だけで箒の尊厳を大きく傷つけた。
訓練を積み重ねてきたとはいえ、体術でほぼ完全に負けていることにショックを受けた彼女は行動を止める。
そもそも、女性が社会的優位となってはいるものの体格的には男性の方が有利なのだ。
骨格、筋肉の付き方、他を上げるとキリがないが何よりもフロイトは前線で戦う人間。ISを装備していなければ捕まえることもできない。
「時間の無駄だったか、練度もこのくらいなら大したことは…………」
「フロイト!何をしているのです!」
言葉を遮り上空から飛んできたのはISに乗ったメーテルリンク。
「貴方のすることはヘリに侵入者が入ってこないように見張っておくことです。ここで油を売ることではないんですよ?」
彼女もまた哨戒をしていたのだが、生徒が集まっている箇所が何やら怪しいと思い降下してみるとフロイトが居た。
この時点で嫌な予感はしていたが、とにかくフロイトに仕事をさせなければいけないという思いで話しかけた。
「ああ、少し話をしただけだ」
「話?まさか閣下のことを話していないでしょうね?」
「ACのことは、まあな」
「…………喋りましたね?」
メーテルリンクの顔から血の気が引いていく。
状況的に公開に近いものの詳しい内容は極秘のACなのだが、この男がある程度喋ってしまったのかという不安が襲い掛かる。
青白くなった顔を生徒たちに向けた。
生徒、特に模擬戦もした顔見知りである更識簪は目を光らせながら頷いた。
「…………お休みのところ失礼します閣下、至急報告が。フロイトがACの事を生徒に喋りました。え?ここに居ますが、閣下?閣下!?」
即座にスネイルに通信をして事態を報告……したはいいのだが、突如無言になってから反応がなくなり接続が切れたので、整備員に通信をかけ直す。
「すみません、今スネイル閣下は…………えっ、そ、そうですか」
明らかに困惑し、仕方ないと言う形で通信を切ったメーテルリンクはフロイトに向き合う。
「スネイル閣下がこちらに来ます」
「そうか」
「消火斧を持って出発したそうです」
フロイトは逃げた。それもかなりの速度で砂浜を走り抜ける。
「待ちなさいフロイト!何故ヘリに消火斧があったのかは知りませんが銃よりはマシです!逃げるな!」
それをISで追いかけるメーテルリンク。
突然のギャグ時空になった彼等に呆然とする生徒と教員たち。
もはや、臨海学校とか訓練とか寝ることとか全てがどうでもよくなった瞬間だった。
この後、千冬から逃げてた束と合流しておもしれ―男/女になるんだよね。
結局、臨海学校も中止になって授業に使うデータだけおいて帰るんだよね閣下。何しに来たんだか。
そういえば生徒にもちゃっかり各所からのスパイとか居たりするんだよね。
やったね閣下、これでイレギュラーの仲間入りだ!