IS学園へ視察に行くスネイルです。行きたくなくても行かなければならない事情を抱えたので行かざるを得なくなりました。
まず前提として倉持技研は日本代表候補生のISを開発中
それを世界初の男性操縦者が現れた事により、あろう事か国の代表になるかもしれない人間の装備製作を放棄してそちらに飛びついたのです。
これを聞いた時は正気かと思いました。
確かに世界初の男性操縦者というブランドは魅力的なのは理解しています。だが、ほとんどの研究を放棄してそこに一点集中しようとするのは社運をかけ過ぎです。
呆れましたよ、多くの重要案件を『世界初の男性操縦者の装備を造る』と言うだけで放置するとは。
そのせいで営業の人間が上層部に激怒しながら謝罪周りに行っていたのを遠目で見ました。
愚か愚かと思っていたがこれほどとは…………
他の研究所が捨てたものを拾うというのはまさに『捨てる神あれば拾う神あり』。私の支援を受けられることを光栄に思うでしょう。
後始末という言い方は癪に障りますが、私の研究所で賄えるところは賄うのが吉かと。
ノルマは達成しているのか?もちろんです、企業から与えられるノルマを達成しつつ追加でやれることをする、これが企業戦士です。
とはいえ全員が私の様に働けるわけが無い。全て自分の基準で動くことは失敗の原因となります。
適度に死なない様に休息をさせて、私の目が届く範囲で働いてもらうのが吉です。
偶に私の作り上げたMTの情報を横流ししようとする輩もいますが…………
「閣下、もうすぐ到着します」
「そうですか」
運転手の言葉に私は返事だけをする。視察には車で、スーツをそつなく着こなし毅然とした態度で向かう。
決して周囲になめられないよう、特にこのご時世は男というだけで暴言を吐いてくる愚か者が一定数いるためあからさまに偉いという雰囲気を出さなければならないのが面倒なことです。
さて、IS学園も近づいてきたことですしプレゼンの準備でもしておきましょう。
「倉持技研2番研究所所長スネイルです。貴方が更識簪ですね?」
「…………帰ってください。話をするつもりはありません」
「おいそれと帰ることは出来ません。我が技研が愚かにも放棄した案件についてです」
整備室にこもっていたらしい日本代表候補生を呼び出し話を付けようとしましたが、これはどうも陰鬱な雰囲気を出してこちらを見てくる。
認めたくはありませんが、倉持技研の愚か者共が突然彼女のIS作成を打ち切ったことで人間不信に陥っているのが手に取るように分かる。
「こちらも醜聞を広めるわけにはいかないんですよ。ひとまず現在の完成度をお聞きします」
「…………」
「やはり、芳しくないようですね。一人でISを完成させることは出来るはずがありません。技術はもちろんのこと、貴方には物作りの経験も浅い」
「…………っ!」
「それも、姉に対するコンプレックスですか」
「う、うるさい!」
ばん!と机を叩き威嚇してきますが、その程度の怒りは私にとって日常茶飯事、上層部の理不尽で無意味な罵倒と比べたらぬるい。
ロシア代表となった優秀な姉と常に比べられて相当のストレスが溜まっているのでしょう。学生ながらその重圧に耐えるのは相当の苦難のはず。
「し、失礼しました。みっともないところを」
「構いません。ですが、そう怒鳴られると後ろの教師に迷惑がかかると思うのでそれっきりにしていただきたい」
先ほどから無言を貫いているが、私の後ろにはよりによって織斑千冬がたたずんでいる。
研究所所長という立場の人間の護衛としては最高峰ではあると思いますがそこまでされるかと言われたら疑問が残る。
下手に刺激したら強制退場させられる可能性が出てきましたね。ここで下手に時間をかけると何をしに来たか分からなくなる。
「では、単刀直入に言いましょう。我が社倉持技研が一度放棄した機体、打鉄の新型開発を2番研究所が引き受けます」
「どうして、今更?」
「言ったでしょう。醜聞が広まる前に対処がしたい、それだけです」
そう言いつつ私は鞄の中から一つのUSBを取り出す。
「合計48発の同時掃射でしたか。元はマニュアル操作で行う予定と聞いていましたが、効率が悪すぎる。48発ものミサイルを同時でなくとも複数操作するのはISといえども大きな隙をさらすこととなる。ロックオン式ではありますがデータは用意してあります」
「…………2番研究所はよく分らないものを作ってるって聞いたことがあります」
「基礎が出来ているから応用として独自のものを作っているだけです。案内してもらいましょうか、貴女が搭乗するISの元に」
十中八九、開発を放棄してから事は進んでいないとみて間違いないでしょう。
先ほどから織斑千冬の視線が刺さっているのですが、私は何か恨みを買ったのでしょうか?
全く度し難い。世界初の男性操縦者も彼女の弟ということも踏まえて面倒ごとを引き付ける体質でもあるのでしょうか。
嫌な世の中だ。兵器開発という職に就いている時点で厄介ごとは避けられないのは仕方ないが、どうもここ最近はそういう事象に首を突っ込まなければいけないとは。
これからも大きく関わっていくでしょう。もし、天災の干渉があるとするならば…………
早くプランを完成させなければ。
スネイル・秋葉。ISが世界に広まる少し前に倉持技研に入職した男の名前。
ISが世界に広まるのと同時に女尊男卑の世になっても出世をし続けて2番研究所所長まで登り詰めた天才である。
尤も、篠ノ之束という天災には敵わないと思われている。
そして、よくない噂も多々残されている。
曰く、ライバルをあらゆる手段を用いて蹴落とした。
曰く、気に入らない上司を失脚させる手段をいくつか持っている。
曰く、非人道的な人体実験をしている。
全て裏付けのない噂ではあるが危険な人物には変わりない。
よりによって更識簪のIS製作の支援の第一人者という立場についてしまった以上、警戒するに越したことはない。
「データに不備はないか?」
「織斑先生。いえ、今のところは不審な点はありません。それどころか9割…………いえマニュアル抜きで言うと完成まで行けます」
「これだけでか?」
「これだけでです」
更識のISのコンセプトから少しズレてはいるが、模擬戦に用いるだけで言うなら十分すぎるデータ。
シミュレーションで実施した結果、オートロックだけでも回避に専念せねばISでも直撃を免れない代物でもありながら、任意の対象へのロック速度も並よりも早く誘導性も向上させる事が出来てしまった。
短くとも大いに頭を悩ませたミサイルの制御という問題をUSB一つで解決されては元々開発しようとしていた研究所からすると面目丸潰れだろう。
「2番研究所は爆発物の開発はしていないと聞いてたのに…………」
「だが最低限は備えていてもおかしくはない、のだがこれは一体?」
「エネルギー武器でしたか。2番研究所はそれの研究を進めていた筈です」
「それにパルス兵器とやらもな」
実弾を使わない武器の開発を進めている2番研究所。しかしISで使用するとなると実用性はかなり低いとスネイル本人が証明している。
実用性を高めるための研究もしているだろうが、あえて自分からISに使えないと証明するのは何故?
研究者ではない千冬には分からない。だが何か企んでいると勘だけが働いてしまう。
「気をつけておけ。あの嫌味たらしい男は信用ならない」
「…………交流は最低限にしておきます」
有用なのは間違いないが、信頼がないという結果に落ち着くスネイルの評判であった。
損得勘定あれど割と善意で動いてるのに態度により信用されないスネイル。残当。