強化人間って何でも適応早いね。え、621がおかしいだけ?それはそう。
IS学園のアリーナ観戦席に着席しているスネイルです。
なぜこのようなことになったかを説明すると、日本代表候補生である更識簪の武装について精査をしようと再びIS学園を訪れたことがきっかけです。
全く、私が醜聞を広めぬようフォローしたのにも関わらず、それをすることが当然と言わんばかりの上層部の態度に腹が立つ…………
私の仕事量を増やしてミスを誘おうとしているのでしょう。あいにくですが、ミスをしたとしても第2、第3のプランを用意しているため挽回することは容易いのです。
で、その過程でイベントが発生したようで、ついでに見に来たといったところです。
そのイベント内容もイギリス代表候補生と世界初の男性操縦者の模擬決闘。
開発と試運転を行っている身から言わせてもらいますと、男性操縦者の方に相当な特異性が無い限り価値は無いと言っても過言ではないでしょう。
織斑千冬の弟だとしても、はっきり言ってイギリス代表候補生と比べたら経験年数も知識も遥かに劣っているでしょう。姉のサポートがしたいと言って勉強しているのなら僅かに話が変わりますが。
ちなみに更識簪は観戦に来ておらず、私と面会して武装の確認をした後は再び調整のために籠ってしまいました。
観戦データはいつでも閲覧できるためその方が良いでしょう。
さて、私も観戦データでいいと思われがちだと思いますが実戦での空気を感じることも重要であると提唱したい。
シミュレーションとはいえ私自身も開発した武装を振り回したり観戦することで立ち回りからの修正を考えたりと学べることは多くあります。
今回の模擬決闘で興味があるのはイギリス代表候補生の武装。名前は確か蒼の雫と書いてブルー・ティアーズでしたか。機体名と武装名を一緒にするとはよほどの自信がうかがえる。
私の感覚からするとレーザードローンに近いものと感じます。高速で自動追尾し、囲んで叩いていくその姿は美しい。高速移動する相手には苦手という欠点はあれど相手によっては完封が可能な武装です。
今回も何故か見張りとして織斑千冬とほやほやとした教員が居ます。
織斑千冬はともかく何故あの教員が一緒に?しかし、どこかで見たことがあるような…………
気分転換にくだらない事を考えているとイギリス代表候補生がアリーナへ登場した。
飛行している姿や立ち振る舞いもそれなりに洗練されたもの。代表候補生として未だに粗削りとはいえ相当の訓練を積んでいることがうかがえる。
それに対して対戦相手の男性操縦者は…………
「いつになったら出てくるのですか。私の時間も無限ではないのです」
「今日ようやく専用機が到着したところで準備がかかっている。それは了承していただきたい」
「…………私の聞き間違いか?重要なものが事前に届いていなかったと?」
専用機の作製にはそれなりの時間がかかるのは知っています。
だが、ほとんどの案件を中止して開発してまで製作していたはずのものがこの時まで出来ていなかったと?
頭が痛くなる、貴様らは一体何をしていたんだ?簡単ではないとはいえもっと早く作ることは出来たはずだろう…………!
相当な予算を貰って完璧なものを作りたいと欲を出してしまった結果でしょう。
だが、せめて期限は守ってほしい。先方に怒られるのは営業なんですよ。
「すっごく眉間にしわが寄っていますよあの人」
「真耶、分かっていてもそれは言うな」
「ほ、本当に噂の人なんですか?何というかその…………」
「言うな、聞かれる」
「聞こえていますよ。内緒話ならもう少し小声かISの通信でするべきです」
わざとなのか私の耳に入る声量で内緒話をするとはいい度胸です。これが我が社の悪口かつ社員であったなら矯正待ったなしでしたよ。
このようなくだらないやり取りで時間を潰していると、ようやく男性操縦者がアリーナへと姿を現した。
現したのだが…………
「なんですあのふらついた操作は。いくら初心者といっても訓練したらもう少しうまく飛行できるはずですが」
なんですかあの体たらく。まるで飛行するのが初めてといわんばかりの風体。
織斑千冬の弟というだけあってかわずかな時間で操作に慣れ始めてはいますが、実際はこの瞬間の何十倍もの時間を訓練につぎ込んで正常に飛行できるようになるのだ。
話を聞く限り、時間は一週間あったため学業と休憩以外の時間をISの操作練習につぎ込んだら素人でも最初からマシな動きが出来るようになるはず。
「ああ、ロクに訓練していないからな」
「……………………正気なのか。わざわざ素人が挑もうなど自殺行為も甚だしい」
「それはやってみなければ分からない」
何故ニヤリと意味深く笑うのです。弟を自慢したいとでも?それともかくし芸を仕込んでいるのか。
理由は今は分からなくとも後々分かる事でしょう。
拝見させてもらいましょうか、世界最強という
「ど、どうしたんでしょうか?頭を抱えて、頭痛があったら頭痛薬を…………」
「いらん、放置しておけ」
「聞こえてますからね。後で覚えておきなさい…………!」
ひぃっ!とスネイルが地獄の底から響きそうな声で制してくるのにビビり散らかす真耶に呆れを見せつつ織斑千冬はガラス越しにアリーナへと視線を向ける。
そこに繰り広げられていた激戦、素人でありながら直近まで最適化もされていないISでイギリス代表候補生の猛攻をいなし、最適化され第一形態となった白式が相手を追い詰めた瞬間にエネルギー切れというあっけない幕切れをかました劇場が残されていた。
実力も完全に未知数であるとはいえ、弟を信頼して模擬決闘中で成してくれるだろうという期待はあった。
その期待に応えるように男性操縦者、一夏は土壇場で最適化しつつ零落白夜を発動させるまでに至ってくれた。
初めての使用ということで欠点を知らないまま振り回してしまったためにこのような終わり方をしたが訓練次第でどうにかなるだろう。
「2番研究所所長、弟の評価はいかがかな?」
頭を抱えるのはやめたが眉間にしわが寄ったままの男はゆっくりと振り向いて口を開く。
「最悪そのものです。動きも代表戦を想定しているなら操縦技術は殆ど無い。それだけでなく機体性能を全く理解していない、いや知りもしていなかった時点で論外です」
「で、でもっ!届いたばっかりのもので慣れてなかったから…………」
「だとしても剣術一本でイギリス代表候補生の
「アレには射撃武装は積まれていない」
「突撃するだけでは…………なに?」
「あの剣一本で拡張領域が圧迫されて他の武装が入り込む余地がない」
「ふざけているのですか。私が計画書を見た時は牽制用のライフルも入っていたはず…………どこで仕様書を変えた?」
スネイルはあまり興味を持っていなかったため、一度開発が凍結する前の白式の仕様書は読んでいたのだが、それ以降は読んでいなかったのだ。
無理もない、最終的に篠ノ之束が秘密裏に改造して送り出したのだから急な変更を知るはずがないのだ。
改悪されたような酷い仕様でありつつ操縦者が未熟すぎてこき下ろされることには変わりない。
「レーザードローンも実際に目で見ると操作に手間取り動けなくなるという欠陥も抱えて、実に学芸会らしいイベントでした」
最後の台詞がスネイルからした模擬決闘の総評である。子供同士の殺すつもりのない戦いは彼にとってただの遊戯にしか見えなかったのだ。
「ふん、見るものは見ただろう。出口はあそこだ」
批判しかなかったためか若干不機嫌そうな千冬が観戦室の出口を親指で指している。
批評家との相性はとても悪いようで、退出を促されたスネイルもつかつかと二人に目も向けず出て行った。
「ぷはぁ、き、緊張したぁ…………」
壁にもたれかかり今にも崩れ落ちそうな真耶はさておき、千冬は再び外に視線を向ける。
「白式の仕様はある程度知っていたのにも関わらず、欠陥となった理由を知らない、か」
恐らく研究所に戻ったスネイルは再び白式の仕様書を確認するだろう。
そして、誰が白式を回収し完成させたのかを考え始めるだろう。
「そしてオルコットの欠陥も即座に見抜いた」
これは本人の熟練度によって戦略は大きく広がるため千冬も指導する際に指摘するつもりだった。
スネイルも分かっているだろう、それでもあまり使えないという評価を落として帰っていったのだ。
「これは訓練だな」
ニヤリと笑った千冬だが、アリーナから退場しようとしていた一夏とセシリアは背筋に氷を差し込まれたと錯覚するようにぶるっと体を震わせたのだった。
千冬「愉快な遠足の始まりだ!」
夏&セシ「「ガタガタブルブル」」