アーキバスグループ、あえて言うと倉持技研には療養施設がある。
ISの武装やロボット類の研究はもちろん、それらを応用した医療技術、主に義手や義足、人工臓器についても研究しており一定の成果は挙げられていた。
その成果の中にはスネイルが関わったものも多く、当時の頭の悪い上層部が勝手に割り振り仕方なく研究したものである。
もちろんだがACから技術を転用しているため超高性能のものが出回っており、当時の貴重な資金となっていたりする。
療養施設はそれらの研究も含まれており、アーキバスグループが発足した為に医療機関のみならず多くの国を巻き込んだ支援を受けて今も研究がなされている。
そこに、1人の男がやってきた。
「すまないがVIPに案内してくれ」
特別な権力を持っているようで、身分証を見せるだけで研究棟へと入ることが出来るようだ。
療養区画とは別にある研究棟に進んでいき、一番厳重な警備が敷かれてある区画へ進む。
カードキーで扉を開け、その部屋に男は入った。
「あら…………また来たのね」
ベットに横たわる女性、スコール・ミューゼルが入ってきた男に声をかけた。
「ああ、いつ死ぬかわからない先輩の顔くらい見て良いだろう」
「まあ、口は達者ね。倉持に飼われてから口も上手くなったのかしら」
軽口を叩き合いながらも男、オキーフはベットの横にある椅子に座る。
現在ではアーキバスグループ内での情報管理部長兼ヴェスパー部隊3番隊長の肩書を持つ彼と亡国機業の幹部でありながら捕虜となり監禁と言って過言ではない扱いを受けているスコール。
2人の共通点はどちらも元米軍であり、先輩後輩の仲であった。
ただ、スコールは26歳と言っているがオキーフよりも年上であり、四肢や内臓の一部が捕虜になる前から機械化されているため紛らわしかったりする。
「オータムは元気にしてるかしら?」
「じゃじゃ馬娘の事か。再教育センターでまだ粘ってるらしい。愛されてるな」
「ええ、あの子はそういう子だもの。貴方も恋人の1人や2人は作ったらどう?」
「面倒だ。俺には独り身が似合う」
「昔はまっすぐでモテてたのに、どうしてこうなったのかしら?」
2人からしたら他愛もない会話。しかし10年以上も時間が空いて久しぶりになる会話は何度あっても尽きる事はない。
「亡国機業はもうすぐ終わりだ。もうアーキバスの手から離れて国が対応を始めている」
「その国に手駒もいる筈よ?まだ甘いわねぇ」
「残念な事に粛清は済んでいる。お陰で人材不足だと嘆いていたぞ」
「勝手に敵勢力を知らないうちに呼び込んでおいて何を今更」
くすくすと、くつくつと互いを確かめ合うように笑いあう。
お互いに百戦錬磨の戦場を潜り抜けてきた猛者、余計な言葉こそ戦いの剣となるのだ。
ひとしきり笑った後にスン、と静かになり一瞬で冷徹な空気が空間を占める。
「いい加減、裏方のことを話してくれないか?そうしたらこっちも楽になる」
「そうね、話したら用済みになるでしょう?あの時のように」
「スネイルは使い潰すタイプだ。せいぜい人工臓器性能テストに使われるくらいだ」
「同じじゃないの」
「死者はまだ片手で数えられる範囲だ。それも、元々身体が弱って耐えられなかった奴らだ」
「私はそのうちの1人になるわよ?」
おどけるようにスコールは言うが、事実であるためオキーフは否定できなかった。
死亡扱いとなる作戦に参加したスコールは、軍部上位陣の策略により捨て駒にされて瀕死の重傷を負い、体の大部分を機械化させ生き残ったわけなのだが負担が少なかった訳ではない。
機械への強制的な接続、人工臓器の劣化による度重なる手術、裏組織である故に必ず性能が良いものが渡されるわけでもなく。
生き延びる事はできても人としての寿命は削れていたのだ。
「そうならんようにスネイルに掛け合う。お前のいた所の科学者はろくでなしばかりだな」
「ええ、そうでなければ裏の社会で生きてけないもの」
「…………あの強化人間の娘の事は聞いてるか?」
「エムの事ね。ええ、出自も最初から知ってたわ」
エム、ISC兵器の搭乗者であった少女が呼ばれたコードネーム。
本来付けられた名は織斑マドカであり、遺伝子では織斑千冬、一夏の兄妹にあたるクローンである。
「プロジェクト・モザイカ。皮肉な事だな、完璧な人間を作ろうとして天然物が3人も現れるとは」
「…………2人ではなくて?」
「倉持技研で戦ったアイツがいただろう。あれも同じ枠だ」
ここでオキーフが指しているのは篠ノ之束、スネイル、そしてフロイトである。
前者2人は色々と名が知れて当然の事を成しているがフロイトは違う。
基本的にサボり魔な警備員であり、今まで裏で活動していた専属の特殊部隊の名前が知られる事はまず無い。
とはいえ名前は知らずとも噂は立つ。まだACが完成する前にオータムのISやその他作戦でヤバい男がいるという話は亡国機業内でもあった。
「あの時にスネイルの代わりに乗っていた奴のことね。本気で言ってる?」
「ああ、織斑千冬と並ぶのは間違いない」
引き合いに
恐らくスネイルが乗っていても負けていただろうがマドカがISC兵器にならなければならない程追い詰められるとは思っていなかった。
しかしフロイトには完敗だった。ISC兵器の起動時に放たれたアサルトアーマーもどきの不意打ちとその後のルビコニアンデスキュベレイのような軌道から放たれる攻撃しか被弾していない。
そこそこの被害を与えたと言ってもいいが、ISに乗っていた3人からしたら損害は少ない方だろう。
強化手術したマドカですらまともに相手をされていなかったのだから。
「貴方でも勝てない?」
「正面からは無理だな。小細工も余程の物がない限り通用しない。スネイルが頭脳、あいつが武力、その両方を持つのが篠ノ之束と言った所だ」
「貴方のところって勢力図的に理不尽じゃない?」
「ああ、理不尽だな」
なお、スネイルがフロイトの問題行動に悩まされている事は教えない。
「だから安心しておけ。ただ平凡なだけで頭角を表す奴を潰すような馬鹿はしない」
「歳を取れば変わるわよ」
「実体験か?」
「叩くわよ」
緊迫した空気ではあるが叩き合う軽口に、2人はふっと笑う。
「随分と充実してるのね。あの頃とは違うわ」
「肩の力を抜く方法を知ったのさ。フィーカを飲めたらいいんだが、まだ許可が降りなくてな」
「胃瘻からの栄養摂取も飽きた所よ。貴方の上司に掛け合えないかしら」
「頼んでみるか。また来る」
オキーフにもやるべき事はある。今を生きるために未来を切り開く仕事なのだ。
人類の進化と謳いつつ閉塞した未来へ向かうのは、オキーフは生きづらいのだから。
「…………『技研』よ」
ドアノブに手をかけた時、その単語が呟かれた。
「私達に技術提供してきた組織。プロジェクト・モザイカを取り仕切り、エンフォーサーを引っ張り出してきたのも『技研』よ」
「何処の技研だ」
「いいえ、日本語で2文字の漢字だけ。エムに強化手術をしたのも彼らよ」
「コーラルを使った兵器の開発元か…………」
まだ名前と所業しか判明していないとはいえ納得した。
スネイルが言っていた、人間を後天的に強化する事は相当数の犠牲を重ねなければ不可能という事を。
つまり、プロジェクト・モザイカの時点で多くの命を犠牲にした上で強化手術を成功させるために更に多くの人間を犠牲にしている筈なのだ。
「気をつけなさい。エムがつけていたエンフォーサーは一つの兵器にすぎない。私も知らない『巨大兵器』がまだある筈よ」
彼女がどういう魂胆で情報を与えたのかはオキーフには分からない。
虚偽、欺瞞、その可能性はあっても完全な否定はできない。
一度スネイルには報告はするが、確定させるために動くしかない。
「…………忠告どうも」
最後の返事を残してオキーフは病室から去った。
嵐はこれから吹き始める、その事をまだ誰も知らない。
これを聞いたスネイルは卒倒しかけたんだよね。
ほらC兵器って沢山あるじゃん?ヘリアンサス型とかルビコニアンデスキュベレイとかヘリアンサス型とかヘリアンサス型とか。
なんだよヘリアンサス型お前絶対採掘用に作られてないだろ。