倉持技研2番研究所所長スネイルです   作:蓮太郎

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調べたらね、ピンポイントで居たんですよ。第二研究所所長が…………


4. 雨にも負けず、理不尽にも負けず

 

 上層部から呼び出しを受けたスネイルです。

 

 呼び出された理由は、実ははっきりしていません。要件を述べずただ来いという命令に辟易しますよ、ええ。

 

 言い方を変えると心当たりが多くて答えを出せないということです。

 

 上層部も軒並み女で固められており、男であるだけで私を見下してくるので不快この上ない。

 

 今回もいちゃもんをつけるだけつけて気力を削ろうと言う魂胆は見えてます。

 

 醜態を晒せば吊し上げるのが現状です。全く向上心もない腐った連中ですよ。

 

 呼び出された会議室の扉をノックし声をかけられるまで待機する。こういう礼節を少しでも欠かすと突っかかってくるので丁寧に。

 

『入りなさい』

 

 中から声が聞こえて数巡の間は動きを止め、そして扉を開けて中へ入る。

 

 扉を抜けて前へ進み、凹のように並べられた机が目の前にある。その机の前には5人の女性、上層部の一部が座っている。

 

 私はその真ん中へ異端審問される犯罪者かのような場所へ歩いていく。

 

「ご苦労。では始めましょうか」

 

 老婆が両手を組み口を開いた。この場では一番権力がある人間ではあるが、その歳になって権力に取りかかれるとは。

 

「先ずは、申し開きはあるかしら?」

 

 次に口を開いたのは若作りの中年女性。貴女は整形を繰り返して若さを保とうとしていますが限界が近いですよ。

 

 これでも割と本気で心配してるんですよ。繰り返す整形は身体に悪い。免疫力が落ちるとたちまち皮膚が壊死する場合だってある。

 

 寿命を縮めたくなければ年相応の姿がよろしいかと。

 

「はて、私は常に企業に貢献し続けているので申し開きする事はありませんが」

 

「とぼけるんじゃないよ。更識の所に勝手に出向いて専用機を開発しようとしてるじゃないか」

 

「ああ、アレですか。何か問題でも?」

 

「私達に何も言わずに重要案件を進めようとするのは越権行為だよねぇ?」

 

「そうそう、日本代表候補生のISはとても大切に扱わなければいけないの。それを他の研究所を差し置いてやろうとするなんて、常識はあるのかしら?」

 

「なるほど、その事でしたか」

 

 全く、私をこき下ろしたいために案件でもなく呼び出したと。

 

 虫唾が走る。

 

「事後報告ではありましたが、我が社の醜聞を避ける為に行った事です。私としてもまさか他の研究所が候補生とは言え日本代表になるかも知れない人材に適切な支援をしなかったとは思いませんでしたので」

 

「たかが一介の候補生と世界初の男性操縦者、どちらのISを開発するなら答えは一択でしょう」

 

 さも当然かのように言い放っているのですが、忘れていないでしょうか?

 

 『更識』の家の娘ですよ?

 

 私とて情報網は可能な限り広げており、注意しなければいけない一角として更識家は存在しています。

 

 何せ暗部の人間が身分を隠して世間に潜んでいるのです、私が造っているものも相応のものである為危険視しない方がおかしいでしょう。

 

 現当主はIS学園の生徒会長であり、更識簪はその妹に当たる。その重要性を理解していないと?

 

 姉に比べたら劣るのは仕方のない事。ですがその姉の寵愛を受けている事を理解して欲しいものです。

 

 いや、そもそも更識の存在を正しく理解できていない?

 

 無能と言えどそんな事はないと信じたい…………信じて良いものか?

 

「スネイル、聞いているのですか?」

 

「もちろんです。男性操縦者のISを作り上げる、その実績は永久に残り続けるでしょう」

 

「そのくせにその男性操縦者の開発には一切関わっていないじゃないの。本当にやる気があるのか疑わしいわ」

 

「ですが、その男性操縦者が日本代表候補生に劣るとなれば話は変わってくる、そうではありませんか?」

 

「その根拠はどこから来るのです?実際に第3世代型を渡した世界最強(ブリュンヒルデ)の弟が弱いとでも?」

 

「伸び代自体はあるでしょう。だが、多少訓練された第2世代型に敗北するくらいです。根本の性能差は返しがたいものだと推測しています」

 

 偶然とはいえ、試合を見ることが出来たのは僥倖でした。この言葉には裏付けがあり説得力も増している。

 

 倉持技研の子飼いが学園にも存在しているのです、それくらいの情報は入ってきているはず。

 

 男性操縦者もイギリス代表候補生も実戦経験は未熟だったとはいえ訓練の差は無視できない。

 

 それを無視するくらいのセンスを持ち合わせているなら、ISに触る前の実績で分かるでしょう。

 

 もちろん私も彼については調べています。何せ、彼とその姉は一定期間の過去が存在しないのだから。

 

 何か後ろ暗いものが出てくるに違いない。ですが今すぐ必要ではないので優先順位は下です。

 

「そういえば貴様が勝手に担当した候補生にも姉が居たな。どちらも姉が優秀と聞いている」

 

「貴重という面以外では似たようなものなのね」

 

「目先の利益は男性操縦者でしょう。しかし今後のことを考えていくと日本代表候補生にも手を回しておいて両方のISを作り上げたという実績も作ればどちらかが失敗してもリカバリーは効きます」

 

「ふむ、一つだけにベッティングするのはリスクはある。一理あるわ」

 

「スネイル、間違ったことは言っていませんが事前に連絡はしなさい」

 

「それとMT(おもちゃ遊び)のことなんだけど、いい加減諦めたらどう?それよりも男性操縦者のISを解析して量産の話があるのだけれど」

 

 …………言ってくれる。誰でも使える重機よりも女性しか使えないモノの話をするか。

 

 よりによって何度も提案したMTをコケにして。

 

 その後、私は一つでも発言すると皮肉を漏らしそうになるので無言を貫き通し、ただひたすらに上層部の小言を浴びせ続けられ、新たな仕事を口頭で押し付けられるのだった。

 

 どうせ後から忘れたとか言ってないとかいうくせに押し付けるな、ACの開発が遅れるだろう…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篝火ヒカルノには苦手な人物がいる。

 

 その名をスネイル・秋葉。2番研究所所長にしてねちっこく嫌味を言ってくる男だ。

 

 このご時世に上層部以外ではそのような態度をとっており闇討ちされていないのが不思議な男ではある。

 

 だが、そんな彼も上層部の事はよく思っていないらしく、呼び出された後はよく眉間に皺が寄っている。

 

「貴女は3番研究所所長。ここで何を?」

 

「白式についての報告さ。君とは入れ違いになるように時間配分されてた訳」

 

「あの欠陥甚だしい機体ですか。もしや、開発に関わってたのも貴女ですか」

 

「途中からだよ。とは言っても間接的にしか関わってなくて部下に任せることがほとんどだったけど」

 

 何故か目を細めて私を見てくるスネイル。しれっと第3世代型の白式を欠陥呼ばわりにしたなこいつ。

 

「何故射撃武器を付けなかったのです。いや、そもそも剣一本で拡張領域を圧迫するというのはどういう事です。その剣が高性能であっても弾幕を張られてしまえば無意味でしょう」

 

「それは最初の開発メンバーに言って欲しいな」

 

「後付けでも拳銃の一本でも仕込めば幅は広がった筈。しかも、最適化もせず土壇場での納品も」

 

「それはー、まあ、ね?」

 

 本来なら入学と同時に送られる筈だった白式。けれども送れなかった理由があった。

 

 それはデータと装備の改造が無許可で白式に施されていたから。

 

 誰がやったのかすらログが残っておらず、私達が必死で修正しようとしたけれど、このままでも動くのでやむを得ずそのまま送り出したのだ。

 

 正直な所、この男に罵倒されても仕方ない部分はある。

 

 だから話を逸らす。

 

「ところで2番研究所所長様は何で呼び出されたの?」

 

「分かっているでしょう。事後報告した事を蒸し返して…………全く時間の無駄でした」

 

「いつも通りかぁ。苦労するね君も」

 

「遅かれ早かれ堕とされますよ。偉ぶるだけの人材は必要ない」

 

 どこまでも無能に厳しい男だ。かといって本人が有能でありながら努力を重ね続けているからタチが悪い。

 

 彼の能力に甘えてぶら下がろうとするなら容赦なく蹴落とされる。他の研究所であってもこの男は間違いなく目を光らせている。

 

「それで、話を逸らしたつもりでいるようですが、白式の設計について言いたいことが…………通信?」

 

 話を逸らす作戦は失敗して小言を受け続けるかと思ったけれど、彼のポケットにしまってある端末が無駄にかっこいい音楽を鳴らして振動する。

 

「私です。…………分かりました、すぐに戻ります」

 

 何かの報告を聞いたようで、渋い顔をしながら耳に当てていた端末を下ろした。

 

「何か問題でも起こったの?」

 

「ええ、情報を持ち出そうと画策している愚か者が居るようなので」

 

 情報漏洩をあっさり言い切った。

 

 これには情報を持ち出そうとした人間と、スネイルに同情する。

 

 スネイルは始めから裏切り、不利益に対しては過激だ。まあ、私たちが扱うものはどれも危険物ばかりで扱いを間違えたら大惨事になるものも多い。

 

 特にスネイルが研究しているものはMTと呼ばれる重機のようなものだ。

 

 私もどのようなものか少しだけ見せてもらったが、従来の重機よりも何倍、いや何十倍も作業効率を上げる可能性がある物だったのを覚えている。

 

 それを他社に漏らすと莫大な利権を奪われるだろう。

 

 それなのに上層部はMTを認めず未だに試作段階でしか取り扱おうとしない。

 

 イラつきを隠しもしない彼はそのまま私の横を通り過ぎて研究所に戻ろうとしている。

 

「そう、頑張ってね」

 

 私のささやかな応援に反応せず彼は立ち去っていった。

 

「ネチネチした所と過激すぎるところがなければいい男なのになぁ」

 

 それ以外は割と誠実な男の苦労を考えると笑えそうだ。

 

 しれっと白式が第三者の手で魔改造された事を彼に隠すことに成功した私は笑うのだった。

 




そらMTパクったら単純に戦力になるよねって。

でもスネイル閣下は金の卵を産む鶏だから殺すことも難しい。

その鶏が何を隠してるかを知らずに盗む不法者には指導が必要だ!
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