何故か目の前で喧嘩が起きているのを眺めざるを得ないスネイルです。
私からするとどうでも良い痴話喧嘩なのでさっさとアリーナの設備内容を見たいのですが。
腕時計をチラチラと見て探すふりをするが、山田教員(先程名前を知った)はオロオロとしていて役に立たない。
かと言って織斑千冬もその様子を腕組みして眺めているだけだ。
男性操縦者、織斑一夏はハーレムでも築くつもりなのか?経済的に余裕は…………と言いたいところでしたが聞く話によると彼女達1人を除いて代表候補生とのこと。
3人集まっているうち、日本人が篠ノ之束博士の妹であるそうです。
ふむ、利用価値はあるのか?ですが、話題にあがらないということは能力自体は大したことはないと予想します。
確か、篠ノ之束博士の家族は国が考えたプログラムにより離散したと聞いています。
恐らく、その妹がここにいるのもIS学園に名目上は干渉してはいけないという国際規約を盾に安全を確保させたとみていいでしょう。
やはりというか、繋がりは強いもので姉同士の繋がりで男性操縦者と幼馴染という関係に落ち着いているようです。
だが、それでも何か思う所があるようで女に囲まれている彼に突っかかっていますね。
「そろそろアリーナのセキュリティを見直したいのですが」
「あ、は、はい!」
私から解放されたいと言わんばかりに山田教員は私の案内を再開した。
全く、こんなのが代表候補生とはたかが知れている。
メーテルリンクのように扱う力を正しく判断できるか、せめて更識簪のようにおとなしくしておけばいいものを。
織斑千冬から拳骨を貰っている姿を最後に私はその場を去りました。
しかし、篠ノ之束博士を跳ねのけるようなものを私は作ることが出来るのだろうか…………?
「あ、あのー、スネイルさん?もう遅い時間になってるんですけど…………?」
「少々お待ちを、今セキュリティを突破している最中なので」
「パスワードがあれば弄れるはずなんですけど…………?」
「どこかのだれかさんの置き土産でしょう。全く余計なことをしてくれる」
余裕そうに言ってはいますが、かなり切羽詰まった状況となっています。
捨ててもいい持ち出し用のパソコンに、今回の案件にのみ使うセキュリティデータを組み込もうとしたところ、あらかじめ仕込まれあったプログラムに妨害されているところです。
こんな仕込みをして嫌がらせかと思いましたが、私が気づかなければ放置されていたものだったということを知ってもらいたい。
恐らく、このプログラムは別のセキュリティに変えても新たな通り道を作るものです。
それを消されまいとして抵抗されているのですが、これが手ごわい。
むしろこちらのパソコンが攻撃されて面倒極まりない。こんな事するのは篠ノ之束博士くらいでしょう。
確かにこの場所には機密は多いでしょうが、天災がそこまでして入手したいものは無いはず。
では、やはり干渉か?妹や男性操縦者のデータは確かに貴重だ。
だからと言って大勢を巻き込むような自分勝手の行動ばかりをとるとは。
最初から天才というのは扱いの困るものと知っていましたが、これは独自の行動というよりも子供っぽいような…………?
いえ、よくある話です。自分が賢すぎて周りが付いていけず、そのため社会性が著しく欠けてしまうパターンが見られる。
フロイトがそうでした。頭脳はともかく身体能力は他者を大きく超える彼も今よりもはるかに自由でしたから。
「この、従いなさい!プログラム風情が、この私に刃向かうんじゃない…………!」
消去寸前で最後の抵抗と言わんばかりに、攻勢プログラムとしてこちらのデータを消そうとしてきたのを手動で暗記していたプログラムを打ち込み全てを終わらす。
このパソコンに他のデータを持ち込み、仕事のついでに更識簪の補助となるデータを持ってこなくて正解でした。
さて、これで今日のところはいいでしょう。
「明日はアリーナを使わないように注意しておきなさい。また朝に来ます、その時に仮段階のプログラムの起動テストを行い、それをもって終了とします」
流石に疲れましたね。時計を見ると4時間もぶっ通しでこのプログラムと戦っていたわけですか。
道理で空腹になるし喉も乾く訳です。
ふと横を見ると机に冷めた紅茶が置いてありました。
元は来客用に使用する茶葉を使い、それを私に出していたが夢中になりすぎていて気付かなかったということです。
私もまだまだです、他人に気を使わせるのはともかく、その気遣いに気づけなかったとは。
「では、私はこれで」
「あ、ありがとうございました!」
座りっぱなしで足腰が固まっていましたが、一つ身体を伸ばす前に退室し、誰にも見られないところで身体を動かす。
もうすぐ完成するACに乗るのですから、体を壊す事には注意してますので。
さて、もうIS学園から出ましょう。もうやる事は…………
「おや、スネイルさん。ようやくお帰りで?」
空も薄暗くなっている中、私に声をかけてくる男性が一人。
そちらの方へ顔を向けると作業着姿の老人と言って差し支えない人物がいた。
どこにでもいそうな雰囲気を出しているが、この人物は信用ならないと即座に理解できた。
何故か?こんな女しかいない環境で男性操縦者以外の人間が簡単にいるはずがない。
「何でしょうか轡木理事長。私は忙しいのですが」
「理事長は妻だよ。なに、苦労している若者にお節介を掛けたかったが余計だったかな?」
「ええ、私は出来る事を出来る範疇でしますので」
「そうかい、ならいいんだ」
にこやかに話しかけているが…………狸め、身分を偽りこの学園を事実上運営している人間です。
最近、私がここに来るようになったため牽制の一環として私に声をかけてきたのでしょう。
私という重役がこうして足を運ぶのは珍しい事、上層部の無茶振りでこのようなことをしているのですが貴重なことには変わりない。
「君も相当無理しているんじゃないかな?昔ならともかく、今は男に対して当たりが強いからねぇ」
「この程度で折れるくらいならそこまでという話です。この学園唯一の人物も、意外と折れていないと聞きますが」
「ははは、確かにそうだ。まあ、あれはどこか鈍感といった感じだけどね」
笑いごとですか?セキュリティを見ても、最初に見た惨状の発端は専用機によるシールドエネルギーの一時的全損が原因でしたからね。
白式の単一仕様は侮れませんね。いくら燃費が悪いとはいえ、最強の兵器と呼ばれたISの重要な要素を一撃で全損させる力はどこに行っても要求されそうです。
逆に言えば、取り柄はそれしかなく重装甲相手にはやや効果が薄い。
とはいえ最先端の武装なので戦車程度は容易くやられるでしょう。
だがACは簡単に堕とさせるものか。
「おや、考え事ですか?」
「…………私の悪癖です。思考がたまにズレてしまう」
「疲れている証拠さ。たまには開発の前線から離れて後進を育てるとかどうだい?」
「私が抱えている案件が終われば一考しましょう」
私にはACと『アレ』を開発するという重大案件が残っている。それ以外は些事だが数ばかりは残っているため終わらせるのもまだまだ先になる。
そう考えると頭は痛くなるが…………上層部の始末もそろそろつけなければならないだろう。
流石にここまで無能と来ると役員会議にかけたら一発退場という可能性だってある。
それでも開発が残っている以上は私もまだ前線に居たいという願望もあったり…………
ままならないものです。もう30代になったというのに頑張りたいと思ってしまうのは。
「では、私はこれで失礼します」
「おー、頑張っていくんだぞ」
これ以上の会話を続けていくと相手のペースに呑まれて長くなりそうなので強制的に話を切り上げて私はその場を去ることにしました。
あの手の物はやりづらい。経験が物を言う舌戦は、海千山千の相手だと対抗するのは難しい。
まだまだだ、私も。
そういった練習もした方が良いのだろうか?今度上層部に呼び出された際にどうでもいい話が続くようなら考えてみることにしましょう。
後ろの轡木老人の視線を感じ取りながら、今日のところはIS学園を去るのであった。
〜ちょっと小話〜
スネイルがヴェスパー部隊を拾ってきた経緯
・フロイト→スネイルより後に技研に入社した。理由は最新の装備で遊べる…………のではなく試運転に興味あったから。最初から問題児。
・オキーフ→除隊してカフェイン漬けになっていたところ、人材探しをしていたスネイルからのスカウト。金は生きる為に必要なので仕方なく入社。
・ラスティ→『様々な支援』を条件に入社。故郷は日本ではない。
・ホーキンス→時代の波に飲まれて窓際になっていた所を事務仕事の才能を知ったスネイルからスカウト、部署移動となる。
・メーテルリンク→IS学園からの推薦により入社。今ではスネイルの部下が板についた。
・スウィンバーン→普通に入社してた。汚職しそうなところを釘さして手駒にした。
・ペイター→普通に入社。出世が早いが失言も多くホーキンスに見てもらっている頃にシミュレーターで好成績を叩き出したのでスカウト。
特別な能力を個人が持ってるわけでもないのに女尊男卑はマジ害悪って書いてて分かるよ、何やこいつら再教育センター行き妥当やん。