何度も訪れる桜の季節に、人々は飽きもせず毎年ここで空を見上げる。
項垂れる子にも気づいてもらおうと足元まで滑り落ちる様はさながら親に構ってもらおうとする子供のようだった。
トレ「ついに彼女と見れる最後の桜だ。」
普段ならば無造作な黒髪を今日ばかりは整え、着慣れないスーツに身を包む、ボクはアドマイヤベガのトレーナー。
念願叶ってトレーナーになり、初めての担当は彼女だった。
隣を歩くアドマイヤベガ、耳に乗った桜の花びらを擽ったそうにプルプル震わせ払っていく。
アヤべ「...いくつものレースに出て、色んな人達から注目を集めてきたわ。でも、嗚呼、それでも、ふふ、貴方に見つめられるとまだ少し気恥しいの。」
まだギリギリ学生とは思えない妖艶さの流し目に思わずクラりと来た。
もちろん彼も聖職者なので、体裁のため間違いを起こすつもりはない。ないのだが
トレ『 ...いつからだろうか、君が、きっと星に愛されて一層魅力的になった君が、石ころにも満たないような僕にその心情を隠さなくなったのは...』
伊達に長い間苦楽を共にしていない。悲しみを孕み星を見るその大きな瞳に、ボクは一目惚れをした。
「勝手について行く」そう宣言した時の君の顔は、アルバムの中の写真よりも鮮明に焼き付けられていた。
いつまでも色褪せない思い出には涙もあったのだろう。そうして気づきあげてきたボク達の絆は、目の前の桜の木より力強く今日咲いた。
アヤべ「...なにか言って欲しいのだけれど。」
大きな耳は力なくヘタレ、彼女は少し頬を膨らませる。
トレ「嗚呼、ごめんね。...君との、ボク達の歩んだ道のり、その轍を見つめていたんだ。」
アヤべ「...寂しいの?」
トレ「うん。すごく寂しい。けれどこの轍を、多くの星達が空から祝福しているんだ。」
ボク達がプラネタリウムで見たあの姿は、今も空に漂っている。
アヤべ「きっと、あの子がお友達を連れてきてくれたのね。私たちの門出を祝うために...」
トレ「...いや、門出を迎えるのは君だよ、アドマイヤベガ。君はきっと立派な大人になるんだろうね。改めて卒業おめでとう。」
アヤべ「......?」
アヤべは少し引っかかるのか、小さな頭を少し傾げる。いつの間にか彼女の頭の上に集まっていた桜はまた楽しそうに空を舞った。
アヤべ「あなたがオトナにしてくれるんでしょう?」
彼女の発言に少し脳の処理が遅れた。近づく彼女に意識を向けた頃には
トレ「ん....!」
柔らかい感触はボクの唇を少し湿らせる。
アヤべ「あなたにはなるべく正直に接するようにしてきたのだけれど、伝わっていなかったのかしら。」
いたずらに笑う彼女はまだ子供だった。