『体が灰になった気分だ。』
吹き荒ぶ風にタバコの吸い殻が宙を舞った時、メジロラモーヌのトレーナーは思う。
自分はそこまで依存体質では無いので、と軽い気持ちで手を出したタバコは、激務に晒される自分の体と心を繋ぐ架け橋になっていた。吐いた煙が霧散する様はいずれ自分の姿と重なるだろう。
「随分...つまらないことをしているのね。」
心臓が止まるかと思った。一体そのオーラを、気配をどこに隠したのか、屋内へ戻る唯一の扉に彼女、メジロラモーヌは立っていた。
「ラモーヌ、申し訳ない。すぐに火を消すよ。」
まだ吸い始めたばかりだが、担当に、ましてや未成年に副流煙を吸わせる訳には行かないので、灰皿に押し付けようとしたが、
「良くってよ。勿体ないのでしょう?吸い続けなさい。」
彼女はこちらに歩みを寄せていた。
「!!...それはいけない、ラモーヌ、僕は今これを手放すので、煙が消えるまで、待っていてはくれないだろうか。」
「一時くらいわけないわ。私に余計な時間を使わせないでちょうだい。」
こうまで行ったら梃子でも動かない。なるべく彼女に煙が行かない場所へ移動した。
「...律儀ね...でも野暮でもあるわ。言い方を変えるわね。あなたの吐く煙、私に向けなさい。」
.......どういう意図か。その行為には意味があるので、僕としては了承し兼ねる
「...頼む。もう業務は終わりなんだ。これ以上困らせないでくれ。」
「つまらないわね。」
それはつまらないものに向ける表情なのか。微笑む彼女は暗い空に溶け込んで尚、その輪郭まで感じさせる。
「最近、隈が酷いわ。たまにはあなたからのわがままも聞いてみたいものね。」
「僕は好んでこの仕事をしているので、キミは余計なことは気にせず、今まで通りふんぞり返っているように。」
「あら、今のは少し面白かったわ。怒ったの?」
「......嗚呼、すまない。少し疲れているようなので、部屋に戻る。君も冷えては困るので、中に入るといい。」
タバコは灰皿に押し付けた。
「少し...ね...それは強がりか、或いはプライド。どちらなのかしらね。」
「どちらもだよ。満足した?」
「まだよ?トレーナー室に戻りませんこと?」
なんの意図があるのか。まだ帰りたくない。なんてロマンチックなことを言うには場所が悪い。ポケットにはまだ鍵がある。─────────────────────
「こちらに頭を預けなさい」
ソファに腰を降ろす様はあまりに可憐なので、疲れた脳はすっかり絆され彼女の元へ。
「あら?あらあら、随分あっさりとゆうこと聞くのね。余程疲れてるわ。あなた」
「無駄な時間使いたくないんだろう?僕も同じ気持ちさ。」
「ふふ、良くってよ?」
優しく撫でられた頭はほんのり暖かみを覚え、脳は活動限界に誘導されていく。
「ごめんなさいね。いつもわがままであなたを振り回して。最初の頃と違って、今はあなたを信用しているので、いわば意地悪のようなものだけど。嗚呼、それでもここまで疲れているのなら、私には癒す義務がある。そのまま瞳は閉じているように...」
ちゅ...
確かなリップ音と頬の湿り気に覚醒しそうになるが。
「瞳は閉じて...このまま撫でててあげる。」
母にも似た優しい温もりはその声を皮切りに僕を闇へと誘った。
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「爺や?車を出してちょうだい。」
「かしこまりました。」
これが最後のわがまま。受け止めて頂戴ね?
燻る私は風を受けても火照りが増すだけ。それを受け止めれるのはあなただけなの。
灰は私で灰皿なあなた。
素敵でしょう?