魔理沙ちゃんを曇らせたいだけ   作:愉悦部出身

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妖精

 魔理沙はうなされながら、朝を迎えた。全く眠った気がしなかった。惰性で起き上がっただけでベッドから出るのも嫌だった。ただ眠たいからだけではなく、ベッド以外の周囲が穢れていると思うからだ。天井、壁、衣服、そのすべてが汚染されているのではないか。魔理沙の認知は歪みきっていた。

 

 朝、何とか博麗神社に出ようとするも、また儀式がはじまった。結界の点検だけでどれだけ時間をかけたのだろうか。昨日からの疲れも相まって、魔理沙はもはや限界だった。

 

 そのため、これは当然の帰着であろう。

 

 魔理沙は博麗神社へ向かう途中、箒のコントロールを誤り、そのままバシャンという音とともに墜落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごほっ!ごほっ!!」

 

 魔理沙は水を吐いた。

 

「魔理沙!?起きて!?起きて!?」

 

 とチルノは涙ぐみながら必死そうな形相で叫びながら魔理沙の頬を叩く。

 

 霧の湖、その湖畔に魔理沙はいた。霧の湖に落ちたのをたまたまチルノが見ていた。すぐ飛んでいき、魔理沙を何とか湖岸まで引き上げたのだ。

 

 水を吐いた魔理沙が自発呼吸しはじめたのを見て、チルノは少し落ち着いたのか、頬を叩くのを止めた。チルノは周りを見渡すも、誰もいなかった。魔理沙の身体をしばらく揺さぶるも起きる様子はない。魔理沙の身体を抱き上げようと膝と背に手を回して持ち上げようとするも、チルノの力では持ち上げることが出来なかった。それでもこのままの魔理沙を放っておけなかったのか、チルノは魔理沙の手を握り、起き上がるまで待った。

 

 かなりの時間が経ち、魔理沙がようやく目覚めた。

 

「ぅぅ……」

 

 うなりながら魔理沙は薄らと目を開ける。

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

 魔理沙の手をぎゅっと強く握り、チルノは話しかける。

 

「……あれ、……私は?」

 

 魔理沙は全く状況を理解していなかった。墜落時のショックか、まだ目覚め切っていないのか。

 

「あんた、霧の湖に落ちたのよ!?どこか痛いところはない!?大丈夫!?」

 

 魔理沙ははっと気づいたかのように身体を起こした。そうだ。箒の制御を誤り湖に突っ込んでしまったんだ。魔理沙はようやく全身軋みをあげていることに気付いた。特にひざとふとももの裏が痛かった。

 

 これはチルノが湖岸まで引きずったときの傷だった。チルノの力では持ち上げられず、両肩だけを持ち上げて引きずることしかできなかったのだ。他に目立った怪我はなかった。元々昔、箒に乗る練習の際、墜落することにはそれなりに慣れていた。魔理沙は、とっさに軟着陸できていた。

 

「ああ……まあ何とか大丈夫だ」

 

 魔理沙がそう答えると

 

「ホント!?ホントに!?よ、よかった……」

 

 とチルノは涙ぐみながら魔理沙の濡れてぐしゃぐしゃになった服に抱きついた。

 

「心配したんだから……バカ……」

 

 魔理沙はチルノの頭を撫でつけた。人に接触されるのも嫌だったのに、チルノは全く穢れていると思わなかった。

 

「ごめんな……」

 

 しばらくの間、魔理沙とチルノは抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧の湖からすぐ近く、チルノの家、切り立った崖の下にあり、緑に覆われた先にある洞窟に案内され、魔理沙は休むことにした。箒はどこに行ったかもわからなかったし、今の体調で飛ぶ気にもなれなかった。歩く際つい「いたっ」と言ってしまったときの、チルノの心配する声がうるさかったが、自身を心配する思いがとてもありがたかいとも感じた。

 

 チルノの家は無機質だった。棚、テーブル、いす、ベッドと住む上で必要最低限のものは置かれていたが、それだけだった。そのあまりの殺風景さからか、魔理沙は汚染されているとは感じなかった。

 

「こんなのしかないけど、ごめん」

 

 と魔理沙にタオルと自身が使っている服を渡したチルノは、普段の様子とは違って理性的だった。遊ぶ余裕がないからだろうか。本当は暖かいものを用意したいんだけど火をおこせないからぬるいものしかない、とまた謝りながら伝えるチルノをなぜか魔理沙が慰めてる始末だ。

 

 ベッドに横たわりながら一息ついた魔理沙は、今後どうすればいいのか考えた。

 

「悪いが、霊夢を呼んできてくれないか」

 

 とチルノにお願いした。チルノは了承した。

 

「わかったけど、絶対ここで休んでてよね!どっかいっちゃだめよ!?」

 

 普段の私はどれだけ信用がないのか、魔理沙は苦笑いした。チルノが出て行ったあと、あっという間に睡魔が襲ってきた魔理沙は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔理沙は5,6時間ほどで目が覚めた。傍らにはすでにチルノがいた。

 

「おはよう!調子はどう?」

 

 チルノはいつもの調子に戻ったようで、はきはきした声で魔理沙に尋ねた。

 

「ああ。眠ったから大分いいよ」

 

 ぐっすり眠れたからか、魔理沙の調子は前よりはよかった。――――そういえば、チルノには霊夢を呼んでくるよう頼んでたはずだが、どうなったんだ?

 

魔理沙は疑問を口にした。

 

「おいおい。お前一人か?」

 

 チルノはすぐに答えた。

 

「何よ。私じゃ不満っていうの?イヤになっちゃうわね」

 

 チルノはぷいっと首を振って意思表示した。

 

「いやいや、ふざけてるわけじゃなくてな。真面目な話だよ」

 

 魔理沙がそう語り掛けると、チルノも真面目そうな表情になり魔理沙に話す。

 

「博麗神社には言ったわ。霊夢に今日あったことを話したら『私がいってもよくならない気がする』と言って来てくれなかったのよ。……私、何度もちゃんとそんなこと言わないで来てって言ったわよ」

 

 チルノはテーブルに置かれていた薬袋を手に、魔理沙に見せる。

 

「代わりに『永琳のところに行って』と言われたわ。永琳からは薬と、どうすればいいか大体聞いてきたの……魔理沙、ここ最近しんどかったんだよね?」

 

 チルノは心配そうに魔理沙を覗き込んだ。虚勢を張っても意味がないと悟った魔理沙は正直に答えた。

 

「ああ……。正直とんでもなく辛かったぜ」

 

 魔理沙は視線を落とし、うつむく。

 

「魔理沙……」

 

 チルノは寝ている魔理沙の身体を引き寄せ、抱きしめた。魔理沙はチルノのされるがままだった。チルノの身体はほんの少しだけ冷たかった。私を気づかって、できるだけ温度を上げているのだろうと魔理沙は思った。

 

 チルノは満足したのか話の続きをはじめる。

 

「しばらく、私の家に住みましょう?永琳からも、そのほうがいいって言われてるわ」

 

 魔理沙は少し考えたが、同意した。魔法の森は、今の魔理沙にとっては地獄と同等だったからだ。

 

 ほかにも色々とチルノから話を聞いた。チルノの話をまとめると、治療法についてある程度永琳が指針を出してくれているから、ルール通りにやっていこうということだった。

 

 ようやく、魔理沙の本格的な治療がはじまった。

 




 本来でしたら今日完結する予定でしたがプロットから外れてしまい一話増えてしまいました。次話で完結致します。あと一話、よろしければお付き合いください。

 物語を書くきっかけを与えてくれた「陰鬱曇らせ杯」の主催者、TE勢残党様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
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