魔理沙ちゃんを曇らせたいだけ   作:愉悦部出身

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敗北

 素早く飛んできた赤い針が魔理沙の横顔を通り過ぎていく。針をやり過ごしてすぐに、霊札が魔理沙を囲むように包囲していく。瞬時に抜け道を把握し箒を巧みに操り抜けようとする。

 

 弾幕を抜ける直前に霊札が曲がり、抜け道を塞ぐよう魔理沙めがけて飛んでいく。相手に向かって自動追尾するその術は、直線的な針による弾幕よりも厄介だった。

 

 魔理沙はスピードを上げて、作られた弾幕の道をより速く泳ごうと力を籠める。先ほどよりも速く通り過ぎる様は、まるで流星のようだ。自動追尾するその霊札は魔理沙の速さにはついていけなかった。

 

 札によって作られた檻を抜けた魔理沙は、懐から3つのビンを取り出した。ビンには赤緑青の三色の液体で満たされている。それを対峙している少女に投げつける。ビンは光り輝き、軌跡には星の小さな弾幕が配置されていく。投げつけられた少女は眼を細めそれを見張る。

 

 そう。ただ眺めるだけだった。初見であるのは間違いないはずなのに少女に焦りの色は微塵もなかった。無色にして絶対――――それが彼女、博麗霊夢だった。

 

 ビンは少女の近くまで行くと爆発し、レーザー、星の大きな弾幕、氷弾が飛び出してくる。同時に、軌跡を描いていた星の弾幕も動き出す。

 

 霊夢は眉をひそめた。

 

 霊夢の次の行動は的確で、最短であった。ただ左に少し移動しただけだった。

 

 レーザー、星の弾幕、氷弾が霊夢を次々と掠めていくものの、一切当たることはなかった。一体、誰がこのような対応をできるのか。心を読める地霊殿の引きこもりでもできなかったであろう。

 

 霊夢の絶技を目の当たりにした魔理沙は目を剥いて、硬直してしまった。

 

 その決定的な隙を見逃さず、霊夢は針を投げた。先ほどは避けられたそれは的中し、魔理沙はそのまま墜ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 墜ちていった魔理沙の下まで来た霊夢は普段と全く変わらない様子で喋りかけた。

 

「私の勝ちね」

 

 魔理沙はぐっと歯を食いしばった。今すぐ霊夢から離れたい一心であったが、矜持が邪魔をして動けない。ちょうどやられた振りをすれば少しだけ時間がある。何とか気持ちを落ちつかせた魔理沙は笑顔を作って起き上がり答えた。

 

「あーやられたぜ。通用すると思ったんだがなあ」

 

 霊夢は口元を少しだけ上げ、こう答える。

 

「綺麗だったわよ。あんたらしいセンスじゃない」

 

「綺麗なだけであれを終わらせるのはお前くらいだよ。一体何を食ったらあんな真似ができるんだ?霞か?」

 

「霞だけで生きていけるなら本当にそうしたいわね。ああ、誰か素敵な楽園の巫女に恵んでくださる親切な人はいないのかしら」

 

 分かってるわよね、と言い含める意味も込められた霊夢の笑顔は、それはそれは清々しかった。

 

「はあ。まあ負けたし仕方ないな。またいくらか持ってきてやるぜ」

 

 内心穏やかではない魔理沙は、そう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっっっ!!!」

 

 と魔理沙は机に拳を叩きつけた。初見殺しのつもりで構築したその弾幕は、相当な自信があった。ただ霊夢には通用しない可能性も当然考慮していた。しかし、こちらの弾幕の欠陥を突くかのような、あんな避け方は全くの想定外であった。

 

 またかなりの時間も費やしていた。ここ最近、魔理沙はビンに詰める魔法の多様性についてを研究していたのだ。ビンを炸裂させる弾幕を、より豪華に、機能的にするためだ。結果、色とりどりの、魔理沙が得意な魔法を詰められるようになった。

 

 だが全ては無駄だった。壁は遥か高く、どこまで飛んでも届きそうにはなかった。

 

 霊夢に対して、魔理沙は全戦全敗だった。家を出たその日から魔法使いとして修行をし、最初のころは負けるのは当然だと思っていた。自身が未熟だからだ。しかし年月が経つにつれ、自身の実力は上がっているはずなのに全く手すら届かないこの感覚を、魔理沙はもどかしく感じていた。

 

 それに加えて、霊夢からの期待を感じるのも魔理沙にとってプレッシャーとなっていた。霊夢は魔理沙との弾幕ごっこを喜んでいる節があった。博麗神社に来る魑魅魍魎たちとの対決は、あまり楽しそうではなかった。淡々と「詰めていく」その戦いは、まるで作業だった。相手も「ま、博麗の巫女だから当然ね」と言わんばかりに気にもしないのも嫌だった。これではまるで霊夢がただの機械かのようではないか。

 

 霊夢は自身との対決ではアドバイスのようなものをくれたり、微笑みかけてくれたり、全く反応が異なる。特に魔理沙の成長を楽しんでいるように感じられた。魔理沙はその期待に答えたかった。

 

 怒りに身を任せながら敗戦を振り返っては見たものの、何も改善点が見当たらない。いや逆だ。改善点しかない。

 

 瞬時に最適解を選び取るその頭脳。弾幕を見極めるその眼。何メートル離れようと標的から寸分も狂わせないその手腕。緩急自在で蝶のように舞うその翼。それらの何よりにも勝る、大きな空のような全てを超越したかの心。

 

 全て魔理沙にないものであり、つまりは地力が足りな過ぎた。そんなことはとっくの昔から気付いていた。

 

 衝動に駆られたまま、部屋の中央に歩いて行った魔理沙は、結界の基盤となっているお札に手を伸ばし、お札を真っ二つに引き裂いた。魔理沙はまず、霊夢に頼り切っている現状を打破しようとしたのだ。これは魔理沙の決意だった。やってしまったと後悔する一方、必要なことだという気持ちもあった。

 

 家を囲んでいた霊夢による結界は力を失い消滅してしまったため、魔理沙は一冊の魔導書を手にしたあと家の外に行き、家をぐるっと覆うように円を描いていく。

 

 結界とは閉じられた図形で領域と領域を分け、境界の出入りにルールを設けることである。円を使った結界は最も基礎的であった。

 

 魔理沙は円を描き終わると、魔導書を読みながら魔力を籠めた。一度読んだことはあったものの、自身で結界を張るのははじめてだった。一度、二度、結界を起動しようとするもうまくいかず、今まで霊夢に頼り切りであったことを再認識し歯噛みする。三度目にしてようやく、結界を張ることに成功する。ぐるっと家を周り、ちゃんと機能していることを確認した魔理沙は息を吐き、そのまま家に戻った。

 

 魔理沙は、研究机に座った。今日の敗因を改めて考察していく。全部が足りていないが小手先すら怪しかった。自動で相手を狙う弾、ランダム性を取り入れた弾、その比率を調整する必要がある。特にあんな最小限の動きで避けれるようになる構造はまずかった。初見でできるものは限られるのだろうが、他の連中も何度か見ればできるだろう。角度や速度を計算し直しだ。軽食を挟みつつ、夜二時まで掛かって何とか調整し終えた魔理沙はベッドに飛び込んだ。

 

 そのとき、何か違和感を感じた。弾幕の調整に集中しすぎていたため、全く気付かなかったが、自身が張った結界が機能していない。すでに深夜で妖怪が跋扈する時間だ。慌てて外に出て、結界の様子を確認しに行く。

 

 夜の森は朝とは一変する。光なき暗黒。その闇の中から微かに虫の音が聞こえる。家から漏れ出た微かな光により影が強調され黒が目立っている。

 

 魔法の森に居付いて長い魔理沙も、冷や汗を書きながら円の結界に目を落とす。どうやら結界が破壊されているわけではなさそうだった。再起動を試み成功し、結界が家を囲うのを見て一息つく。ではなぜ機能しなくなったのか。改めて一から解読していった。最後のあたり、式の継続性に関しておかしいことに魔理沙は気付いた。この間違いのため、一時間で結界が終了してしまうようになっている。更には結界が破られた際の、自身への連絡回路も働いていなかった。

 

 全ての修正には時間がかかることが明白だったため、応急処置として結界が一日は持つようにだけ施した。

 

 疲弊した魔理沙は、ベッドに入りなおした。疲れているはずなのに、眠気は全て吹き飛んでしまっていた。悶々としながら、一時間を過ぎたころにようやく意識を手放すことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠りの浅さからか、魔理沙の目覚めは最悪なものだった。しかし結界のことでが気になったため起き上がり、憂鬱そうに改めて結界のチェックをし直す。不出来な結界に歯がゆく思いながらも、式を訂正していく。

 

 しかし、それは訂正と言えるものだったかどうか。未熟ゆえ複雑化しすぎている。靴紐を出鱈目に結んで、締まりさえすればよいと考えているかのようだった。

 

 だが出鱈目でも上手くいくものだ。雑な訂正は功を結び、魔理沙は何とか結界の修正に成功する。

 

 目下の課題を終わらせることができた魔理沙は町に寄ろうと家を出た。だが、家を出てすぐ強い不安に襲われた。「結界は本当に機能するのか?」という疑念だ。自分自身でもよく分からない理屈で何とか動かせたが、今すぐ破れてしまうのではないか。魔理沙は内心バカバカしいと分かっており、そのまま町へ行こうと思うも離れれば離れるほど不安感は増していく。

 

 結局引き返して、結界の点検を改めてし直した。読みにくいその式に苛立ちながらも、やはり問題ないことを確認した。

 

 この日から魔理沙は家を出た後、不安に駆られてつい引き返して結界の点検をしばしばしてしまうようになってしまった。全ては安心感を得るために。

 

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