呪いの王"両面宿儺"は千年ぶりの緊張を感じていた。
現代最強の術師"五条悟"の手によって。
"あの術師はこんな戦い方はしないと思ったのだがな"
やはり人間の味はなかなかどうして、などと考えながら領域内で五条悟と
宿儺は五条悟が領域を展開する直前に、伏黒恵の肉体に完全に受肉することによって、脳の術式の焼き切れを回復し、掌印を結んだのだった。
四つの腕を持つ故の、異形の特権。
その代わりに、十種影法術は失ってしまったのだが。
御厨子を拡張させるのが先か、あの術師の限界が先か。
自らの敗北という考えは浮かばない。
領域展延を四本の腕で同時に使い、ゴリゴリゴリッ、という音とともに、無下限を中和する。
そして、感触や伏黒恵の知識から、自分の術式をどう拡張すれば突破できるかを考える。
しかし、あまり、進展はない。
やはり、十種影法術を捨てたのは惜しかったな。
さて、どう捌くか。
十種影法術こそ失ったが、完全受肉によって変化した脳の影響で御厨子の威力は上がっている。
この術師の小細工を込みしても、1分かそこらが限界だろう。
ならば、
下手に逃げられても面倒だ。領域がある以上、この術師も逃げることはできん。ここで確実に切り刻んでおくか。
四腕を使えば、一分くらい稼げるだろう、そう考え、宿儺は切り札を温存することを選んだ。
しかしそれは...
あの術師が術式によって、肉弾戦から高速で離脱する。
やはり厄介だな。
引き寄せる力に、それを応用した高速移動。
「術式順転"蒼"」
違和感。
俺を吸い寄せていない?
周りの空気だけを吸い寄せているのか、とそういえばあの術師は
恐らく、それの応用だろう。
自然と頬が緩むのを感じた。
"あの構えは、小僧の兄を名乗る...."
吸い込む力によって空気が手のひらで包めるくらいまで圧縮され、それを包み込むように、あの術師が"穿血"の構えをとる。
そして、あの術師が術式反転で圧縮された空気を弾いて、不可視の"穿血"を放つ。
腕を使い、咄嗟に致命傷になる場所を守る。
こういうとき、腕が四本あると便利だ。
やはり、あの術師は俺の急所を狙っていたようだ。
"穿血"を受けた腕がジクジクと痛む。
不可視に音より早い攻撃、遠距離は愚策だろう。
反転術式を使いながら、あの術師に全速力で接近する。
自分の足だからだろうか、使いやすい。
そして、領域展延を付与した、四腕を振るう。
しかし、中和した無下限の下に人体とは違う固い感触を感じる。
引き寄せる力によって、集めた空気を鎧のように纏っているのか。
領域展延の出力では、順転は中和できない。
相手の反撃を空いている手を使い防ぐが、それでも、文字通り、手痛いダメージを負う。
その二重の防御を突破するのは、俺でも困難だろう。
しかし、それだけでは、俺の有利は覆らない。
領域を破壊するまで、あのレーザービーム擬きを放てず、あの術師の打撃が届かない中距離を維持する。
中距離に移動した直後、あの術師のが話しかけてくる。
「宿儺、これから30秒以内に、お前に致命傷を与える」
いきなりの宣言に少し驚く。
が、一瞬で縛りだろう、と理解する。
恐らく、今の、この術師は戦いが始まってからあのレーザービーム擬きや、吸い込む力を応用した空気の鎧を使わない縛り*1によって強化されている。
それを今、使って来たということは、ここですべてを出し切るつもりなのだろう。
「...ケヒッ、クックックッ」
口が歪む。
しかし、あの術師は、そんなことは、お構いなしに攻撃を始める。
30秒しかないから当然ではあるのだが。
「術式順転"蒼"」
あの術師を起点に吸い込む力が生まれる。
だが、本来の肉体になったことで強化されたのか、踏ん張ることができた。
「"位相""波羅蜜""光の柱"術式反転“赫”」
息をつく間もなく、あの術師が赫い力を放つ。
俺は呪力の起こりから、事前にそれを察知して、回避する。
が、避けたはずの赫い力が、ぐるりと回って背後から迫ってくる。
これが秘策だろうか?また避ければ─────
避けようとする直前に、あの術師の目的の気づき、咄嗟に自分の体を壁に使う。
慣れてきたおかげか、完全に受肉した影響か、領域展延の出力も最初に比べて格段に上がっている。
致命傷にはならないだろう。
今日はやけに自分の体を壁にするな、などと考えながら背中への衝撃を待つ。
だが、衝撃をいつまでたっても感じない。
「"位相""黄昏""智慧の瞳"術式順転"蒼"」
その代わりに体を赫い光が
術式対象の自動選別─────
赫い光は、無下限すら、すり抜けて、あの術師を起点とした。吸い込む力に混じりあう。
そして、茈色の光が生まれる。
「"九網""偏光""烏と声明""表裏の狭間"」
「虚式"茈"」
茈色の光が視界を覆う。
そして─────